トレーダム為替ソリューション 【AI為替リスク管理システム】

  • Weekly Report(3/10)「ドル円は米物価指標や米政府機関閉鎖を警戒、戻りは一時的で下方向か」
    安田 佐和子
    この記事の著者
    トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

    世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

    マーケット分析
    トレーダムソリューション会員限定コンテンツです。

    ―Executive Summary―

    • ドル円の変動幅は2月24日週に2.43円、3月3日週は4.36円となった。週足では、3月3日週で反落。トランプ関税に振り回されつつ、米指標に弱含みを確認し、ドル円は下落。米2月雇用統計が失業率上昇など弱含むと、一時146.94円と2024年10月上旬以来の水準まで下落した。ただし、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が利下げに急がない立場を強調し、148円付近で3月3日週を終えた。
    • 米2月雇用統計は、米労働市場が変曲点に接近している様子を映し出した。非農業部門就労者数(NFP)は前月比15.1万人増と市場予想の16万人増に近い水準となり、前月の12.5万人増(14.3万人増から下方修正)を超えたものの、それ以外は弱い内容が目立つ。特に、労働参加率が低下したにもかかわらず、失業率が上昇。失業者の内訳をみても、失職者や労働市場への再参入者が押し上げており、企業のコスト削減や採用手控えの姿勢が見て取れた。
    • ベッセント財務長官は3月7日、トランプ政権が政府部門の機能を民間部門へ移行させるにあたり、経済の調整リスクを警告した。バイデン前政権下での成長は政府支出に依存したもので、米経済は「デトックス期間」に入るという。加えて、3月14日に期限切れを迎えるつなぎ予算が米上下院で合意に到達しなければ、15日に米連邦政府機関が閉鎖となりかねない。米株安の地合いのなか、政府機関の閉鎖はリスクオフ要因として、ドル円を押し下げうる。
    • 今週は12日に米2月消費者物価指数(CPI)、13日に生産者物価指数(PPI)を控える。クリーブランド連銀のナウキャストによれば、CPIはコアとそろって前年比で鈍化する見通しだ。PPIをみても、米株安の状況を踏まえれば、ポートフォリオ管理など金融部門のサービスが再び軟化する公算が大きい。一方で、ISMの製造業と非製造業は仕入れ価格が上振れした。トランプ関税の影響で財部門が上向く可能性があるか、見極めが必要となるだろう。
    • 連合が2025年春季労使交渉(春闘)で要求する平均賃上げ率につき6.09%と32年ぶりの高水準となったことを明らかにした。3月12日には春闘の回答集中日を控え、かつ2月国内企業物価指数も予定し、追加利上げ期待が高まりうる。ただ、3月18-19日の日銀の金融政策決定会合では、据え置きとなる公算が大きい。
    • 3月10日週は、10日に日本1月毎月勤労統計調査(実質賃金)、日本1月国際収支、11日に米1月雇用動態調査(JOLTS、求人件数など)、12日に日本Q1法人企業景気予測調査、日本2月国内企業物価指数、米2月CPI、13日に米2月PPIと米新規失業保険申請件数、14日に米3月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値を予定する。
    • その他、中央銀行の予定では3月12日にラガルドECB総裁の発言とカナダ銀行の金融政策決定会合を予定する。なお、Fed高官は3月18-19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控えブラックアウト期間に入り、発言を予定しない。
    • ドル円のテクニカルは、弱い地合いが継続。21日移動平均線が200日移動平均線を割り込みデッドクロスが形成されただけでなく、50日移動平均線が90日移動平均線を割り込みつつある。また、直近でドル円は21日移動平均線が抵抗線として機能するほか、3月4日から一目均衡表の転換線がレジスタンスと化しつつある。また、日足のチャートはダブルトップのネックラインがある24年12月の安値148.64円を割り込み、同水準を下抜けて週を終えており、下方向を示唆する。
    • ただし、RSIは3月7日に33.69と割安の節目である30が接近した。下方向への圧力が強い半面、引き続き同水準で買い戻される場合も想定される。とはいえ、テクニカル的な弱さから上値は限定的となりそうだ。
    • CFTCが発表した投機筋による円のネット・ポジション動向は、3月4日週時点で13万3,651枚と、前週の9万5,980枚に続き5週連続でロング。過去最高のロングを記録した。
    • 以上を踏まえ、今週の上値は21日移動平均線が近い150.50円、下値は心理的節目の145.50 円と見込む。


    ドル円の変動幅は2月24日週に2.43円、その前の3.46円から縮小した。週足では、反発。前週比では0.89円の上昇となった。

    24日は、日本が天皇誕生日で祝日のなか、前週末の売りの流れからドル円は買い戻しに転じた。ただ上値も重く、NY時間入りに一時149.88円まで本日高値を更新する程度にとどまった。

    25日は、東京時間に日本1月企業向けサービス価格指数が発表されたが、市場予想通りで反応薄となり、むしろ一時150.30円まで本日高値を更新した。もっとも買いの流れは続かず、NY時間にドル売りが再燃。米2月消費者信頼感指数が予想以上に下振れしたほか、ベッセント財務長官が「民間セクターは景気後退に陥っている」との発言が伝わった結果、ドル円は24年12月3日の安値148.64円を割り込み、一時148.56円まで下落した。

    26日は、前日のNY時間の流れを引き継ぎ東京時間から売りが先行、一時148.62円まで本日安値を更新しつつ、下値の堅さも意識される展開。米1月新築住宅販売件数が市場予想以下となり売りが入るも限定的で、むしろNY時間に149.89円まで本日高値を更新した。

    27日は、トランプ大統領が現地時間26日引け前に欧州連合(EU)に25%の関税を課す意向を表明したが、影響は限定的。ただし、三村淳財務官が20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる南アフリカのケープタウンで記者団に対し、日銀の今後の金融政策に関する市場と三村財務官自身の認識には齟齬(そご)はない、と述べるなか、148.75円まで本日安値を更新したものの、下値の動きも限られた。むしろロンドン時間からは、月末のドル買い需要を反映したのか買い戻しの勢いが増す展開。NY時間では、米新規失業保険申請件数が市場予想より弱かったものの、米24年Q4実質GDP改定値のうち、PCEコアが上方修正されたほか、トランプ大統領が3月4日にもカナダ、メキシコに25%の追加関税を課す方針と言及した結果、ドルが対主要通貨で上昇。クロス円の下落を誘ったものの、ドル円は対ドルストレートでの買いに押され、一時150.16円まで本日高値を更新した。植田総裁が、G20財務相・中央銀行総裁会議であらためて市場の急変時に国債買い入れ増額に言及したことも、ドルを買い支えた。

    28日、ドル円は2月東京都区部消費者物価指数(CPI)が電気・ガスの補助支給再開を背景に市場予想以下となったため、買いが先行した。内田副総裁が、植田総裁の会見の火消しにまわり「長期金利の方向など言うべきではない、市場が決めていく」などと発言すると、一時149.10円まで本日安値を更新も、月末のドル買い需要に支えられた。NY時間には、米1月PCE価格指数が市場予想と一致するなか、一時150.99円まで週高値を更新。ただし、米1月個人消費支出が減少に転じたほか、米1月スーパ―コアが再加速を示さず、上げ幅を縮小した。トランプ大統領とゼレンスキ―大統領の会談では、予想されていた鉱物資源に至るどころか会談決裂に終わり、ドルが対ユーロなどで上昇した動きにつれ、ドル円は150円後半を保った。

    ドル円の変動幅は3月3日週に4.36円、その前の4.36円、その前の2.43円から拡大した。週足では、反落。前週比では2.59円の下落となった。

    3日は、東京時間に米債券の時間外取引で米長期金利が上昇したため買いが先行、トランプ政権は4日からカナダやメキシコに対する関税や中国への追加関税を課す構えを示すこともあり、インフレ警戒からドル円の買いにつながった。NY時間入りには、一時151.31円まで週高値をつけた。しかし、米2月ISM製造業景況指数が市場予想以下でサブ項目の雇用も50割れとなったほか、トランプ大統領が「日本と中国が通貨安政策を取るなら米国は不当に不利な立場に立たされる」と発言したため、一転して下落し150円割れでNY時間を終えた。

     4日は、トランプ大統領のドル高・円安のけん制やカナダ、メキシコ、中国への関税発動懸念からリスクオフの流れが続き、ドル円は売りが優勢だった。NY時間には、一時148.09円まで本日安値を更新。ただし、ラトニック米商務長官が「トランプ大統領がカナダとメキシコと関税を巡り妥協案をまとめる見通しで、詳細は5日に発表される予定」と述べたため、買い戻された。トランプ政権とウクライナが、ウクライナの鉱物資源の権益に関する協定に署名する見通しと報じられたことで、リスクオフの展開も一部巻き戻された。

     5日は、内田副総裁の講演やトランプ大統領も施政方針演説を受けても、目新しい発言はなく相場への影響は限定的だった。しかし、NY時間に米2月ADP全国雇用者数が市場予想以下となり、売りが再燃。ドル円は一時148.39円まで本日安値を更新した。もっとも、米2月ISM非製造業景況指数やサブ項目の雇用が堅調で、買い戻し。トランプ政権がカナダとメキシコに対する25%の追加関税について、北米の自動車産業向けに1カ月の猶予期間を設けると発言したことも意識された。

     6日は、連合が2025年春季労使交渉(春闘)で要求する平均賃上げ率につき6.09%と32年ぶりの高水準となったことを明らかにし、日銀の追加利上げ観測が強まったことからドル円は引き続き売りが優勢に。NY時間入りに米2月チャレンジャー人員削減予定数が2020年7月以来の水準へ急増したため、約5カ月ぶりに148円割れ。ドイツの与野党が国防費の増強に向けた厳格な債務抑制策の緩和に合意したことを受け、ドイツの長期金利が上昇したことを手掛かりにユーロが対ドルで買い戻されたことも、対円でのドル売りを後押しした。

     7日、東京時間は米2月雇用統計前で動意薄だった。NY時間に発表された米2月雇用統計は市場予想を下回る内容が目立った結果、ドル円は24年10月上旬以来の147円割れを迎え、一時146.94円まで下落。しかし、パウエルFRB議長が米経済は堅調と評価、利下げに急がない姿勢を示したため安心感を誘い、ドル円は148円を回復して週を終えた。

    チャート:ドル円の2024年12月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)

    関連記事

    ようこそ、トレーダムコミュニティへ!