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  • Weekly Report(2/25)「ドル円、米指標や内田副総裁発言次第で24年12月の安値割れも」
    安田 佐和子
    この記事の著者
    トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

    世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

    マーケット分析
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    ―Executive Summary―

    • ドル円の変動幅は2月17日週に3.46円と、その前の3.57円から小幅に縮小した。週足では、反落。前週比では3.02円の下落となり、年初来で2番目の大きさとなる。高田審議委員の発言は市場の期待ほどではなかったものの、追加利上げ方向を示すなか、ドル円は下落。米1月住宅着工件数など弱い米指標が相次いだほか、1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨で、量的引き締めペースの減速または一時停止の議論を確認したことも、米金利低下観測からドル売り要因に。ベッセント財務長官が米国債の長期債の割合を増やす可能性を否定したこともドル売り要因となり、植田総裁が長期金利上昇局面で国債買い入れ増額に言及したものの、反応は限定的だった。
    • 今後2週間は、米1月PCE価格指数や米2月雇用統計など、米重要指標が目白押しだ。米1月PCE価格指数については、前年比で鈍化が見込まれる。仮に市場予想通りとなればコアPCEは7カ月ぶりの低い伸びとなり、ドル円を押し下げよう。米2月雇用統計は、米新規失業保険申請件数や全米リアルタイム求人広告動向指数を踏まえれば、前月と概ね横ばいとなる見通し。米連邦政府職員の退職勧奨やリストラについては、失業率上昇には2023年以降、月平均20万人の失業者の増加が必要となるため、現時点で米連邦政府職員のみでの失業率押し上げは想定しづらい。ただし、民間数万人単位でも失業者の増加となり、民間での失業者が増えれば結果的に失業率の押し上げ要因となる。 
    • 足元、1985年9月のドル高是正を狙った「プラザ合意」ならぬ、「マールアラーゴ合意」の観測が浮上している。トランプ政権が「全面的な関税策と強いドルからの転換により、世界の貿易並びに国際金融のシステムを根本的に再構築」するとともに、「通商政策と安全保障を一段と密接に絡め、準備資産の供給と安全保障の傘を連動させる」という見方だ。米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長に指名されたスティーブン・ミラン氏のレポートで提唱し、脚光を浴びつつある。ただ、米国債を保有する各国に100年物のゼロクーポン債へ転換させる内容で、現実味に乏しい側面は否めない。
    • 日銀の高田審議委員の発言は、ドル円の反応を踏まえれば、市場の期待ほどタカ派的ではないと判断された。しかし、高田氏が1970年以降、過去5回の局面を踏まえ、米国が利下げに転じれば、日銀が利下げで追随すると自らが展開してきた説に反論しており、注目に値する。内田副総裁は2024年5月、日銀の利上げ路線をめぐり「今回こそは違う」と発言したが、それを正当化する内容と言えよう。
    • 今後2週間は、前述したような米指標に加え、欧州中央銀行(ECB)の定例理事会、2月東京都区部消費者物価指数などのほか、3月5日に内田副総裁のほか、数多くのFed高官の発言も予定し、イベントが相次ぐ。
    • ドル円のテクニカルは、弱い地合いに転じた。一目均衡表の雲の下限を完全に下抜けしただけでなく、200日移動平均線や2024年12月安値と1月高値の61.8%押しが抵抗線と化した。移動平均線は90日線以外、下向きに転じている。下値の目途として24年12月3日につけた148.64円が意識される一方、ここを割り込めば、チャートはダブルトップを形成し下値圧力が強まりかねない。ただし、RSIは2月21日に32.26と割安の節目である30が接近した。下方向への圧力が強い半面、買い戻しが入るならば、前週の高値152.30円付近が目途となりそうだ。
    • CFTCが発表した投機筋による円のネット・ポジション動向は、2月18日週時点で6万569枚と、前週の5万4,615枚に続き3週連続でロングとなったほか、24年9月下旬以来の高水準に。植田総裁が長期金利上昇で機動的に国債買い入れ増額と発言も、米経済指標の弱含み受けドル円が一時149円割れを迎えロング傾向続く公算が大きい。
    • 以上を踏まえ、今後2週間の上値は200日移動平均線と24年12月安値と1月高値の61.8%押しが重なる152.60円、下値は心理的節目の145 円ちょうどと見込む。


    ドル円の変動幅は2月17日週に3.46円と、その前の3.57円から小幅に縮小した。週足では、反落。前週比では3.02円の下落となり、年初来で2番目の大きさとなる。

    17日は、日本24年Q4実質GDP成長率が市場予想を上回ったため、日銀の追加利上げ観測が高まり、ドル円は売り優勢に。米国がプレジデンツ・デーで休場のなか、NY時間に一時151.34円まで本日安値を更新した。

    18日は、日本株が買い戻しを迎えドル円もつれて上昇、東京時間に一時152.23円まで本日高値を更新した。もっとも、翌日の高田審議員の発言を控え、買い戻しの動きも限られた。

    19日は、トランプ大統領が現地時間18日夜に自動車に25%の関税を課す方針に言及したが、影響は限定的だった。注目の高田審議委員が前向きな企業行動の持続性が確認されれば、「一段のギアシフトを進める局面」と述べ、追加利上げに対する警戒感が強まったものの、市場予想ほどタカ派ではなくドル円は上昇で反応し一時152.32円まで上値を切り上げた。しかし、NY時間に入ると米1月住宅着工件数が予想外に弱い結果となり、ドル円は一時151.24円まで本日安値を更新。151円後半へ戻りを試したが、1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨ではバランスシート縮小の減速または一時停止の議論が確認され米金利が低下したため、押し返された。

    20日は、石破首相と植田日銀総裁が会談したが、植田総裁が長期金利について議論しなかったと述べたため、ドル円は売りの流れが続いた。米新規失業保険申請件数や米2月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が弱かったことも、売り材料。ベッセント財務長官が米国債の長期債の割合を増やす可能性を否定すると、米金利が低下しドル円は一時149.40円まで下値を広げた。

    21日、ドル円は売りが先行したが、1月全国消費者物価指数(CPI)が市場予想と一致したため、むしろ買い戻された。植田総裁が衆院予算委員会で、長期金利の上昇局面で国債の買い入れを増額する意思を表明すると、一時150.74円まで買い戻された。石破首相も、衆院予算委員会で金利の上昇で利払い費が増加する結果として政策経費が圧迫されることに「強い懸念」を表明し、ドル円の買いを後押しした。しかし、買いの流れは長続きせず。NY時間では、米2月サービス業と総合のPMI速報値を始め、米2月ミシガン大学消費者信頼感指数・改定値、米1月中古住宅販売件数が軒並み市場予想を下回った結果、一時148.93円と週の安値を更新した。

    チャート:ドル円の2024年12月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)

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