Weekly Report (08/31) 「押し目買い」と「戻り売り」は依然拮抗もUSD指数の上昇が円安をサポート
吉岡 豪麿
この記事の著者
トレーダム 取締役CAO

国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

マーケット分析

<テクニカル分析判断>

●短・中期:USD指数の上昇で円安モメンタムが根強い戻り売り圧力をやや上回る展開に

weeklyreport 20260831 01

□8/24週:「寄付158.97:158.46~160.20終値160.09、前週比+1.12円の円安)」

◎8/24週は前週比+1.12円と前週の(小幅な)陰線から一転して大幅反発。週初こそ158円台半ばへの下値模索が先行したものの、強い地合いを反映した押し目買い圧力は強力で週を通じて「上値模索が優勢」の展開

〇引き続き、8/3週の「当面の底打ち」状態は明確で「上値/下値の切り上がり」は4週連続を維持。日足でも「上値/下値の切り上がり」を伴う陽線が5日連続で出来しており「地合いの強さ」を確認

◎この結果、前週「上抜け失敗⇒反落」を余儀なくされていた21週MA(159.75@8/28)を難なく突破し、終値でも節目とみられた160円台を回復(160円台を記録したのは協調介入が行われた7/31以来4週間ぶり)

●ただし、160円台での更なる上値追いには加速がつかず「協調介入」懸念を背景とした『強力な戻り売り圧力』も改めて確認された格好

◇なお、「週間変動幅は1.74円」と戻り売り圧力が目立っていた前8/17週の同1.74円と全くの同水準となり「上下両圧力は依然として拮抗」を示唆

<上掲チャートのポイント(週足):中期時間軸>

●前週までは、21週MAでの反落を余儀なくされていたため「協調介入」懸念を背景とした強力な戻り売り圧力も観測<先週のコメント>

⇒RSIに底打ちの兆候あるものの「4週連続で『21週MA』未満」の状態が継続

⇒この状態は「下落サイクル➊,➋に類似」の懸念あり

◎しかし、典型的な上昇サイクルパターンである「上値/下値の切り上がり」は4週連続となり、約1か月ぶりに『21週MAの上抜け』を示現。終値でも(5週ぶりに)160円超の水準を回復

◇ただし、『21週MAの上抜け』が定着するかどうかは未確認。我々は「終値で複数回連続」が達成された時に「確認」としている

週足チャート

(図は上掲を約4.5年分に拡大したもの)

⇒上図が示す通り、上昇トレンドが本格化していた2022年以降で『ひと月以上続いた下落サイクル』は➊~➍の4回(冒頭の➊,➋ → ❸,➍)。ざっくりしたパターンは『下落が始まった水準と底打ちした水準は21週MAを挟んで上下ほぼ同じ乖離幅』・『大きく下げた場合でも底打ちするのは“21週MA▲7.41%”が多い』

⇒今回の場合は(既述の通り)反落に向かった(ピークアウトした)水準が『21週MA+2.16%』とさほど高い水準ではないため、最大でも『21週MA▲2.16%~同▲4.32%(152.85@8/3)』が底打ちの水準だとみていた

◎実際、既述の通り8/3週に終値で『21週MA▲2.16%(156.25)』・『52週MA(156.00)』超の水準を維持した

◎先週まで<状況的には「下落サイクル入り」の可能性を完全には排除できない>としていたが、定着を未確認ではあるが<約1か月ぶりに『21週MAの上抜け』を示現。終値でも(5週ぶりに)160円超の水準を回復>したことで「下落サイクル入り」の可能性はほぼ無くなったと認識

週足チャート

<チャートのポイント(日足):短期時間軸:既述週足コメントもご参照>

◎底打ち/反発の流れは(急落時の)想定より強く<RSI・ストキャスティクスなどオシレーター系は既に「当面の(短期的な)底打ち/自律反発」が明確>となっており先週5日連騰で上抜けた「21日MA」は再び下値支持線に転化か?

それでも(週足でも指摘した通り)「戻り売り圧力も依然根強い」ため、高止まり気味の「52日MA」を一気に突破してゆくのは相当な困難が伴うと考えられる

◇短期時間軸では「当面、『200日MA(≒158.50)』 ~ 『52週MA(≒160.80)』での保合い」となる可能性が高いと見ている

以上より<今週のテクニカル分析の結論>は以下の通り

〇短期時間軸主導で底打ち/反発の流れは想定より強く、RSI・ストキャスティクスなどオシレーター系は既に「当面の底打ち/自律反発」が明確

〇週足でも「21週MA水準の回復」「底打ちパターン」形成の展開となり「ボトムアウト」の蓋然性は非常に高い

●ただし、現在は復活の途上にあるとはいえ(7/27週の急落により)「中短期の上昇モメンタムは、一旦大きく棄損(収束)」したため、「底打ち/反発/上昇に転じている」としても今後の上昇ペースは緩慢となる見込み

◇イメージとしては「当面、158.50~161円での保合いの展開」を想定

◇なお、超長期時間軸(後述:月足)では「USD円相場の地合いは依然として堅固」であるため、中短期での調整局面を(時間・価格の両面で)比較的軽微に凌ぐことができれば、徐々に「全ての時間軸での強調地合い」復活を展望することもできよう

◎短期的な自律調整を交えつつも「長期的な円安/USD高トレンドは依然維持されている」との大局観を引き続き堅持したい

□以上を踏まえ、引き続き「過度に予断を持つことなく」変化の兆しを見落とさぬ姿勢を維持した上で、終値が以下の水準を「突破or維持」できるかどうかに注目

1 162.75円=21日MA+2.46%

2 161.75円=21週MA+1.23%

3 ☆ 160.80円=52日MA ☆

4 159.75円=21週MA

5 ☆ 158.95円=21日MA ☆

6 158.50円=200日MA

7 157.80円=21日MA▲1.23%

>>>上記3(上方)5(下方)「抜けると加速する」と思われる水準

~以下では『短期・中期・長期の方向性』についての分析ポイント及び各時間軸での想定レンジをご案内します。(今号の分析は2026/8/28のNY市場終値をベースに実施) ~

<以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数>

➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド、52MA & 200MA」、RSI等 

短期(1週間~1か月)の方向性:上昇モメンタムは回復も、戻り売り圧力も依然強力

日足チャート

上図は既掲(直近12ヶ月分)を16か月分に拡大したもの。解説コメントは既掲をご参照下さい

>>> 想定レンジ=今後1週間:158.50~161.75、今後1ヶ月:15156.30~163.20=

➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSI等

中期(1か月~半年程度)の方向性:「押し目買い圧力」≧「戻り売り圧力」

週足チャート

上図は冒頭2枚目(4.5年)と同じ。解説コメントについては既掲をご参照下さい

□復活途上の「上昇モメンタム」と「下落サイクル入りの可能性」が拮抗。やや前者優勢か

>>>今後6か月間の想定レンジ = 153.60~164.70⇒ 153.90~166.80=

➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記

長期(半年超~1年程度)の方向性:ややペースダウンも超長期上昇トレンドは着実に進展

月足チャート

◇かつて「RSIやストキャスティクスが警戒すべき高水準を長期間維持し続けることを可能にした2022年の“強固な地合い”」が徐々に復活しつつある

=>『秩序ある上昇の体』は依然維持されており、最終的に『上昇サイクルは依然として存続(上方向)』を確認する蓋然性が高いと認識

□中短期にはやや翳りあるも、超長期時間軸では『着実な上昇トレンド』を堅持

>>> 今後1年間の想定レンジ = 147.75~167.40 ⇒ 147.75~168.90 =

<ファンダメンタルズ分析判断>

□先週の日米金融市場の変化(下表右端):米利上げ観測再燃⇒短期主導で米金利上昇

◇米国:米利上げ観測再燃と米財政赤字拡大懸念から米金利上昇⇒株価は軟調に転化

◇日本:「円安是正には利上げ継続」が意識され市場金利は上昇も、株価は比較的堅調

◇USD指数:米利上げ観測再燃から短期主導での米金利上昇を受け「USD指数は急反発」

◇USD円:上記の通り「USD指数が急反発」したことで、USD円も上昇モメンタムが回復

<スペース>

weeklyreport 20260831 07

先週末、ウォーシュFRB議長は議長として初めて出席した経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で演説しました。LIVEで視聴しながら印象に残ったのは、結論があいまいな物言いではなく「インフレ抑制を優先するタカ派の姿勢」をこれまでで最も明確に示唆されたことです。

個人的に認識した主要ポイントと考察は以下の通りです。

米国経済:失業率の低さなど雇用が総じて安定しており「経済は良好」と評価

インフレ:

〇「インフレ期待は中期的に見て概ね安定」しているものの

●過去2年間のインフレについては「改善ペースがかなり緩やか」との認識(不満)

●足元のデータからは「基調的なトレンドが大きく改善」したとは思えない

■金融環境:足元の環境を「引き締め的」と表現するのは難しい

■今後の金融政策:「基調的なインフレ率が、十分な速度で明確に目標へ向かっているという確信を持てないなら、まだやるべき仕事がある」と指摘

⇒「物価上昇率が高止まりを続けるなら、利上げも辞さないとの姿勢」を強く示唆

◆金融市場の反応:9月FOMCでの利上げ織り込みが再燃

⇒FF金利先物市場:ウォーシュ議長の発言を受け、9/15-16のFOMCで少なくとも0.25%の利上げが決定される確率は57.5%(一時60%超)と、講演前の約35%から大きく上昇

◎為替:USD指数が急反発。全ての主要通貨に対してUSDが上昇。USD円は協調介入以来の160円台

●債券:FRBの金利見通しと連動して動く2年債利回​りは、0.12%上昇して4.36%。7/24以来の高水準となり、1日の上昇幅としては3月以来最大を記録

●株式:主要3指数が反落。ウォーシュ議長がインフレ抑制を重視する姿勢を改めて示し、利上げ観測が再燃したことを受け、株式市場では慎重姿勢が強まった

<今回のタカ派発言は「フォワードガイダンス」か?>

ウォーシュFRB議長は金融政策の先行き指針に当たるフォワードガイダンスに対して否定的な見解を示してきました。この8/28も「平時のフォワードガイダンスは限定的かつ制限されたものであるべき」と発言しています。それでも(明らかに)利上げに含みを持たせた背景には、市場で高まった金融政策への不確実性を和らげたいとの思惑があったものと考えられます。

ウォーシュ議長は7月末の前回FOMC後に開いた記者会見でも、インフレ抑制への意欲を見せましたが、「必要かつ適切な場合にはためらわずに行動を起こす」と語った一方で「利上げが唯一の手段だとは言えない」と曖昧な発言をしていました。

しかし、この時は30年債の利回りが急上昇しました。インフレ対応が後手に回り将来的に急ピッチな利上げに追い込まれる「ビハインド・ザ・カーブ」のリスクが意識されたようです。はっきりと語らないウォーシュ氏への警告という側面もあったのかもしれません。

8月に入ると夏場の薄商いも手伝い、米長期金利はさらに上昇しました。政府の利払い費増加を警戒する米財務省(ベッセント財務長官)は国債買い入れのバイバックを拡充するなどの対応に追われました。金融市場では、ウォーシュ議長がこのジャクソンホール講演でも「先行きへの言及を避ければ、長期や超長期の国債利回りが跳ね上がる恐れがある」との指摘もありました。個人的には、この頃からウォーシュ議長が「市場とのコミュニケーションの改善を模索し始めた」のではないかと考えています。

ウォーシュ議長は講演で現在の金融環境が「全体としてみれば引き締め的と説明するのは難しい」と発言しました。これは、インフレ率の高止まりという問題を強調するだけでなく、足元の米国経済が金融引き締めを受け入れられる余地があるとの認識まで示唆したものと考えられ、インフレ対応を優先するというメッセージをより明確にした発言だと受け止めています。

<ウォーシュ議長が金融市場に求めたもの>

以前から似たようなニュアンスの発言はありましたが、ウォーシュ議長は改めて、マクロ経済や金融資本市場の状況(評価)について、次のように訴えたかったのではないかと感じました。

◎金融市場は「中央銀行による評価」に過度に頼らず「市場自身が主体的に評価すべき」

⇒2021年の「インフレへの対処・対応が大幅に遅れたこと」を例にとり「将来は誰にもわからない」にもかかわらず、「中央銀行がフォワードガイダンスという介入やコミットメント」を市場に与えることは結局のところ「市場を困惑させ、ひいては中銀自身の行動を拘束する恐れがある」と主張

⇒つまり <<ウォーシュFRB体制の許では「市場が自律的に“評価/判断”を下して先に動き」、その後「中央銀行(FRBなど)が自らの判断に照らして金融市場を追認し必要に応じて補正する」形になる>>ということを示唆したかったのではないかと思料

これまで、度々パウエルFRBのフォワードガイダンスに疑問を抱きつつも「Do not fight the FED 」のスタンスの許で自分をごまかすこともままあったような気がします。ただ、今回のウォーシュ議長の講演を聴いて「これまでFRBを始めとする中央銀行のフォワードガイダンスに依存し過ぎていた(浸りきっていた)自分」を改めて見つめ直す良い機会となりました。

さて、この「ウォーシュFRB議長による初の基調講演@ジャクソン・ホール会議」については本稿でもよくご紹介している「TRADOM為替アンバサダー安田佐和子氏の8/31付weekly report」に非常に興味深い考察が紹介されていましたのでご案内したいと思います。

以下、<< TRADOM為替アンバサダー安田佐和子氏の8/31付weekly reportより一部抜粋 >>

―コミュニケーション失敗から軌道修正、「決定」ではなく「規律」を選んだウォーシュ議長

ウォーシュFRB議長は、就任後10週間で早くも市場とのコミュニケーションの軌道修正を迫られたようだ。英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙はウォーシュ氏に近い関係者の話として、本人が就任後10週間の市場とのコミュニケーションに問題があったと認識していると報じた。7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見では、米長短金利差の拡大を容認する姿勢が市場で意識され、イールド・カーブのスティープ化が進んだ。今回のジャクソン・ホール講演は、その反省を踏まえた発信だったとも考えられる。

実際、今回の講演では物価への警戒をかなり明確に打ち出した。「FRBが現在、最も重視すべきなのは物価だ」と明言し、基調インフレが2%目標へ「明確かつ十分な速さ」で向かっていると確信できなければ「まだやるべき仕事がある」と述べた。米7月PCE価格指数は前年比3.7%、6カ月年率では4.1%と高く、講演後には9月利上げ確率が前日の35%から62%へ急上昇。米2年債利回りも一時11bp上昇した。英FT記事も、これを「インフレが早期に低下しなければ利上げする用意がある」と受け止めている。

チャート:米7月PCE価格指数、前年比ではコアなどそろって6月と変わらず

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チャート:FF先物市場、ウォーシュ氏講演後に利上げ織り込み度が再逆転

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ただし、ここで重要なのは、ウォーシュ氏が9月利上げそのものを約束していないことである。講演冒頭では、内容をジャクソン・ホールという風光明媚な観光地である点を活かして「アウトライン」、「トレイルマップ」と呼んでも構わないが、「フォワード・ガイダンスとは呼ばないでほしい」とわざわざ断った。平時のフォワード・ガイダンスは限定すべきであり、将来の政策金利について明確な示唆を与えれば、政策当局自身の判断の自由を損なうという考え方である。結びでは「私は今日ここで、特定の決定ではなく、規律にコミットする」と強調した。

この「規律」と「決定」の切り分けこそ、今回の軌道修正を理解する鍵である。ウォーシュ氏は2%のPCE物価目標を「揺るぎない目標」と位置付け、短期金利を金融政策の主要手段とすると明確にした。その一方で、9月会合で何をするかまでは約束していない。タカ派的な方向性は示しながら、個別会合の政策判断については自由度を確保する構えだ。

アダム・ポーゼン元英MPC委員が、講演について「内容の充実度や具体性では期待を上回った」と評価しながら、ウォーシュ氏が「自分の裁量を最大限に確保し、説明責任を最小限にしようとしているように見える」と批判したのは、このためであろう。ポーゼン氏は、2%のPCE目標や、賃金上昇率をインフレ予測の決定的な指標とはみなさない点については評価した。一方で、示された「原則」は当たり障りのない一般論が目立つとし、金融政策に不可欠な「ルール対裁量」の問題については、明確な線引きには踏み込まなかったと批判した。

実際、ウォーシュ氏は賃金という分かりやすい政策判断の物差しの重要度を下げた。講演では、PCE価格指数を構成する199の個別項目を分解してみることは「非常に示唆に富む」と述べ、賃金上昇率は将来のインフレを予測する信頼できる指標ではないとの認識を示した。つまり「賃金上昇→インフレ」と機械的に考えるのではなく、総需要と総供給のバランスが、どの程度広範な価格上昇につながっているかを見る姿勢である。

問題は、その代わりとなるリアクション・ファンクションがまだ明確でないことである。どの程度までインフレの「広がり」が残れば利上げするのか、どこまで縮小すれば据え置くのかという閾値は示さなかった。FRBは現在、コミュニケーション、バランスシート、データ、生産性・雇用、インフレの5つのタスクフォースを設置して政策運営を検証している。ウォーシュ氏は、従来の物差しを一部取り外しながら、新しい政策判断ルールをまだ完成させていないとも言える。

市場の反応は、7月とは逆だった。今回は物価への警戒を前面に出したことで、政策金利を反映しやすい短期金利の上昇幅が長期金利を上回り、イールド・カーブはフラット化した。7月の「長期金利上昇を容認している」と受け取られかねない発信から、今回は物価安定へのコミットメントを前面に出す方向へ修正したと考えることができる。

この点は、米財務省の国債買い戻し政策とも無関係ではない。米財務省は8月19日、10~20年、20~30年の国債について、1回当たり最大20億ドルだった買い戻し額を9月9日から少なくとも40億ドルへ倍増すると発表した。7月FOMC以降の長期金利上昇が直接この判断を引き起こしたと断定することはできないが、長期ゾーンの需給悪化への警戒と、FRBのコミュニケーションが同時に問題化した点は重要である。

さらにCNBCはその後、米財務省が長期債買い戻しの資金源として、1兆ドル近い残高を抱える財務省一般勘定(TGA)の活用を検討していると報じた。TGAを使えば、買い戻しのたびに短期債を追加発行する必要がなく、財務省は手元資金を直接投入して長期債の需給改善を図ることができる。買い戻し拡大の発表後も市場では「十分な資金力があるのか」との疑念が残っていただけに、TGA活用は財務省がより大きな実弾を投入できることを示す意味を持つ。

チャート:米財務省のTGA

weeklyreport 20260831 10

ただし、この手法にも限界がある。TGAは政府の日々の支払いに使う現金残高であり、長期債買い戻しのために無制限に取り崩すことはできない。いずれ残高を回復させる必要があり、その際に国債を発行すれば、法定債務上限41.1兆ドルに対し既に40兆ドルを超える連邦債務との関係が再び制約となる。かといって、買い戻し資金を最初から短期債の増発で賄えば、長期債を減らす一方で短期債を増やすことになり、政府債務の満期構成を短期化するにすぎない

しかも短期債への依存度が高まるほど、ウォーシュ氏率いるFRBが政策金利を引き上げれば、米財務省の利払い負担はより速いペースで増加する。長期金利を抑えるための債務管理と、インフレを抑えるための金融引き締めが、短期金利を介して正面からぶつかる可能性がある。9月FOMCでは、ウォーシュ氏の利上げ姿勢だけでなく、FRBの金融政策と財務省の長期債買い戻しをどう切り分けるのかも焦点となりそうだ。

―ウォーシュFRB議長、政策予告を控えジャクソン・ホールの「形骸化」を図る?

ウォーシュFRB議長が平時のフォワード・ガイダンスを限定すべきとの立場を示したことは、ジャクソン・ホール会議そのものの位置付けに影響を与えそうだ。過去を振り返ると、ジャクソン・ホールが政策転換を明確に示したケースは限られる。2010年のバーナンキFRB議長(当時)は講演で量的緩和(QE)第2弾を示唆し、同年11月のFOMCで正式決定した。2020年は、パウエル議長が平均インフレ目標など新たな政策枠組みを発表2022年には、インフレ抑制のためには景気や雇用への「痛み」を伴っても金融引き締めを続ける姿勢を明確にし、2024年には「政策を調整する時が来た」と利下げ局面への転換を事実上予告した。2025年には政策枠組みを再び見直し、2020年に導入した平均インフレ目標などを撤回した。

一方、グリーンスパン時代には、資産価格、リスク管理、金融市場の構造変化といった中長期的な政策思想を論じる講演が多く、次回FOMCの政策判断を予告する場ではなかった。したがって、ウォーシュ氏が狙っているのは、パウエル時代に強まった「政策シグナルの場」としてのジャクソン・ホール講演の形骸化ではないか。フォワード・ガイダンスを限定し、個別会合の政策判断ではなく、政策思想や判断原則を示す場へ戻そうとしているとも読める。

チャート:ジャクソン・ホール会議での政策(枠組み)転換点

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今回、植田日銀総裁がジャクソン・ホールに出席しなかったことも興味深い。ロイターによると、日銀は日程上の理由を挙げ、代わりにタカ派とされる田村審議委員を派遣した。ウォーシュ氏の講演でドル円が8月3日7月31日以来の160円台を回復し、日米協調介入の効果と日銀の利上げ姿勢が問われるなかで、結果的に植田氏は記者から質問を受ける機会を回避できたためだ。

その日米協調介入を巡っては、ベッセント氏がウォーレン上院議員(民主党)への書簡で、今回の円買いは「日本への融資」や「スワップ」ではなく、米為替安定基金(ESF)が保有する外貨資産を円に交換したものだと舌鋒鋭く反論した。日本への信用供与ではなく、新たな議会歳出も伴わないと強調したうえで、円市場の混乱は世界市場を不安定化させ、米国の家計や企業の借り入れコスト上昇にもつながりうると指摘。日本が米国債の主要保有国であり、重要な貿易相手国・同盟国である点も挙げ、介入を米国自身の利益にもかなう措置と位置付けた。ウォーレン氏とスタッフに「国際金融の入門講座」を受けるよう勧め、自ら為替の基礎を教えてもいいと皮肉を放つほどだ。

今後1週間の焦点は3つある。1つ目はノースカロライナ州アッシュビルで開かれるG20財務相・中央銀行総裁会議である。ベッセント氏は8月30日付ロイターとのインタビューで、会議の合間に植田氏と会談する予定と明らかにした。足元の円相場については「かなりうまく抑えられている」と述べ、7月末の日米協調介入を招いたような「無秩序な動き」とはみていないとの認識を示した。一方、日銀の金融政策については植田氏が「正しいことをする」と期待を表明し、「アベノミクス、つまりリフレ政策はそろそろ終わった」とも発言した。

2つ目は、FIMAレポ・ファシリティの1カ国当たり600億ドルの上限を引き上げるかどうかだ。過去のレポートで指摘したように、上限変更の権限はベッセント氏ではなく、FOMCの外国為替小委員会にある。上限が引き上げられれば、日本が米国債を市場で売却せずに介入用のドル資金を調達できる余地が広がり、追加の円買い介入を支えるインフラの強化と受け止められよう。

ただし、FIMAレポは本来、為替相場を動かすための制度ではなく、ドル流動性と米国債市場の安定を目的としたバックストップである。日本は既に巨額の外貨準備を持つため、600億ドルの上限引き上げが不可欠とは言い難い。ベッセント氏自身も30日、足元の円相場は「かなりうまく抑えられている」とし、7月末の協調介入を招いたような無秩序な動きとはみていないとの認識を示した。さらに、直近の日米協調介入の効果が限定的だったことから、日銀の金融政策に加え、8月末の概算要求締め切りを前に、一般会計の要求総額が140兆円前後と過去最大を更新するとの観測もあるなど、財政運営や国債需給への懸念も円の重しとなりうる。こうしたファンダメンタルズが変わらないまま介入余力だけを拡大しても、持続的な円高につながらないとの見方もある。

3つ目は、米8月雇用統計だ。ウォーシュ氏は物価を重視する姿勢を明確にしたとはいえ、今回再燃した9月利上げ期待は雇用統計次第で大きく変化しうる。全米リアルタイム求人動向指数は8月21日までの平均が101.8と、7月平均の101.6を上回ったが、前月は同指数の改善に反し、非農業部門就労者数(NFP)は弱い結果となった。シカゴ連銀の失業率ナウキャストは8月27日時点で、低下確率が上昇確率をわずかに上回るにとどまり、方向感はほぼ中立で、4.1%近辺での横ばいを示唆する。7月は低下確率が上昇確率を上回り、実際に4.1%へ低下した。

チャート:全米リアルタイム求人動向指数は8月21日までの平均値で7月を上回る

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チャート:シカゴ連銀の失業率ナウキャスト、横ばいとなる可能性を示唆

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その他、利上げを見極めるうえでは9月11日発表の米8月CPI、そして中間選挙前という政治日程も意識される。後者については、トランプ大統領が利下げを強く求めてきただけに9月利上げには政治的な重さが伴う。トランプ政権1期目では2018年に当時のパウエルFRBが9月26日に25bpの利上げを実施した。翌2019年には7月から3回の利下げへ転じた前例もある。今回も、利上げ後に景気・物価情勢次第で再び政策調整に転じる可能性は排除できない。もっとも、足元では米財務省が米長期債の買い戻し増額を決定しており、利上げによる短期金利の上昇は短期債の借り換えコストを押し上げるだけに、政策判断は一段と複雑になる。

結局、ウォーシュ氏は今回のジャクソン・ホール講演で、9月利上げを明確に示唆したとは判断しづらい。むしろ、2%の物価目標を守る「規律」にはコミットしつつも、個別会合の「決定」にはコミットしない姿勢を示したとみるのが妥当だろう。フォワード・ガイダンスを遠ざけ、単純なリアクション・ファンクションにも縛られない一方で、インフレ抑制への強い意志は明確にした。7月のコミュニケーション失敗は修正したものの、市場がウォーシュ氏自身の判断を読み解かなければならない構図は残った。9月FOMCまでの経済指標や日米当局の動きを考えれば、「9月利上げで決まり」と判断するのは早計と言えそうだ。

<<< 以上 ~ TRADOM為替アンバサダー安田佐和子氏の8/31付weekly reportより抜粋 ~ >>>

先週も指摘しましたが、一頃に比べれば「構造的な円安要因」ばかりが目立つ状況ではなくなってきたように感じます。相対的堅調を維持していると思われる米景気についても昨今「静かに(徐々に・緩慢に)鈍化」の兆候も増えてきています。更には、米国の財政赤字拡大懸念によってタームプレミアムの上昇が主導する「悪い金利上昇」も金融市場の看過できないリスク要因として顕在化しつつあります。その点では、全ての金融市場の現在のトレンドをもう一度ゼロベースで検証し直して「トレンド反転の兆候をより注意深く探求してゆく必要」があるのかもしれません。

結局、こんな状況だからこそ (いつも申し上げているとおり)今後も「過度に予断を持たず変化の兆しを見落とさぬ姿勢」を貫き、金融資本市場全体を引き続き注視してゆかねばならないと考えています。

お知らせ➀:今週もご紹介しましたが、米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに短期を中心としたUSD円相場見通しについては、トレーダム為替アンバサダーでもある安田佐和子氏のレポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。

TRADOMユーザーの方々はサイト内で是非ご参照下さい。

お知らせ②:トレーダムでは「5月22日、ステーブルコインを活用したクロスボーダー決済サービス『トレーダム ペイメント』の提供を開始」しました。日経新聞を始め多様なメディアに取り上げられておりますので、是非ご一読ください。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB251ET0V20C26A5000000/?n_cid=dsapp_share_ios

2026/8/31

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