目次米雇用統計で年内利下げ観測が後退投機筋の円売りポジション、今後の動向に注目ドル円の一目均衡表チャート 米雇用統計で年内利下げ観測が後退 […]
<テクニカル分析判断>
サマリー:
●短期:根強い上昇圧力の残存で上値模索は継続も、自律的調整圧力が着実に増幅
●中期:根強い上昇圧力は残存も、自律調整を契機とするピークアウトは着実に接近
先週は「寄付149.49:148.72~149.99:終値149.85(前週比+0.30円の円安)」となり
週足(後掲➋参照)では2週連続の陽線を形成した。また、3週前の2.88円から2週前に
1.65円と再縮小に転じていた週間レンジは、先週も1.27円と更に縮小。「そろそろ…」
と想定していた変動率の高まりはまたしても見られなかった。
なお、3週前に「前週比での高値更新は10週連続で終息」していたが、本年3月から続く
中期上昇トレンドに著変は認められず「依然として根強い上昇圧力が継続中」であること
は否定できない。また、10月入りから指摘し続けているように、月足(後掲➌参照)では
「9月の終値(149.34)」が「昨年10月の終値(148.75:終値ベースで32年ぶり高値)」を更新しているため高値(151.95円@ザラ場)の更新も充分に視野に入りうる状況も継続。
一方で、上昇/下落の過熱を示唆するRSIやストキャスティクスはかなり警戒すべき水準
へと上昇(週足RSIは70超継続)しており、日足や週足では徐々に調整的な動きの兆候が
観測され始めている。(週末には瞬間的に150.00近辺まで上昇も即座に149円台へ下落)
もちろん、数多のテクニカル指標の大半が示すように「上昇圧力の根強さは依然として
強力」であり今週も「上値トライ継続」の可能性は否定できない。ただし、既述の通り
徐々にではあるものの「上昇圧力の翳り・調整圧力の高まり」も顕現化しつつあるためピークアウトが接近している可能性は常に念頭に置いておく必要があるのではないか。
以下では『短期・中期・長期の方向性』について各時間軸チャートによるテクニカルな
視点を中心にご案内。(今号の分析は2023/10/20のNY市場終値をベースに実施)
<以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数>
➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド」、「52MA & 200MA」、RSIを付記
短期(1週間~1か月弱)の方向性:上昇圧力は残存の一方、自律調整圧力も着実に増幅中
〇3月下旬から52MAとほぼ同じ傾きで続いている上昇トレンドは崩れる気配は無く依然と
して根強い上昇圧力が継続中であることは間違いない
●但し、直近2ヶ月間終値で一度も下回れずに強力な支持線となっている21MA(赤い太線)
は今週149.30円超に上昇するため現在値との差は一段と縮小する。仮にこの水準を終値で
下回るような局面となれば、中期的なピークアウトに繋がる可能性が高まることになろう
>>チャートの半ば金色の太い〇部分参照。21MAを終値で明確に抜けると勢いは加速する
>>8月末から9月にかけ、ザラ場で21MAを下回る局面があった(緑の枠)が、数日後には
その日の高値を更新。しかし、直近の事例では10/3の高値は今に至るも更新されていない
●ここ数週の小動きでRSIは60台で安定しているものの、ストキャスティクスは『高水準
で緑線が赤線を下抜け(=下落サイン点灯)』し始めていると判断できる
□上値模索継続可能性は高いものの「ピークアウト(転換点)にも着実に接近中」と認識
>>>想定レンジ=今週:147.60~150.45 、今後1ヶ月:141.60~151.50 =
➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSIを付記
中期(1か月~半年程度)の方向性:仮に、急伸⇒反落がなくても自律調整的下落局面は接近
●ここ4週70超に張り付いていたRSIと共に、ストキャスティクスは『高水準で
緑線が赤線を下抜け(直近の太い黒枠部分=下落サイン点灯)』したとの認識
>>少なくとも(短期的にも)自律的な調整が接近している可能性は高いと判断
□上値模索の継続は否定出来ないが「ピークアウト(転換点)に着実に接近」と認識
>>> 今後6か月間の想定レンジ = 137.70~151.50 ⇒ 138.00~151.50 =
➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記
長期(半年超~1年程度)の方向性:超長期上昇トレンド再開前に中期的下落を想定
◎上記➊➋と同様にチャートには『ストキャスティクス』を追加した仕様。明確な
サインはまだないが、インジケーターの水準は警戒的高位に接近している最中
〇昨年10月の水準を超えた9月の終値を確認し、当面の上値余地拡大は否定できず。
但し、超長期上昇トレンドが本格化する前に、一旦「緩やかな中期的下落の可能性
は依然残存している」を中期のメインシナリオとして維持
●繰り返しとなるが、その根拠は主に以下の3点(チャートは2012年10月からの推移)
<=2022年10月は「20MA+18%と60MA+30%を同時に上回る」という過去35年以上
経験したことのない「異常な(上昇の)過熱状態」にあった(金の太い枠部分)
<=一時85超まで過熱したRSIは中立領域に位置(69.0)も圧倒的に低下余地が大きい
=>超異常状態からの反落だけに「少なくとも20MA突破」に向けた軟化漸進を見込む
<現在137.80近辺の[20MA]は仮にUSD円が横ばいでも来月も約1.4円上昇の予定>
=>「20MA突破」に向けた下落の場合、そのターゲット自体も今後接近してくる見込み
◎ただ、その動きも1年以内には底打ちし(超長期トレンドである)「USD高円安」方向
へと徐々に反転してゆく可能性が高いと想定している
>>> 今後1年間の想定レンジ = 135.30~154.50 ⇒ 135.30~153.75 =
<ファンダメンタルズ分析判断>
◇先週の米経済指標は、住宅関連データの一部や景況感に関するデータ等に弱い部分が
散見されたものの、9月小売売上高など注目された経済指標は事前予想値を上回るものが
目立った。この他、国債供給量の増加に伴う財政赤字拡大懸念なども手伝い、債券利回り
には上昇圧力がかかりやすい状況が継続。10/19には「10年債利回りが2007年7月以来
となる5.0%超を記録」するなど、10年債利回りは週ベースで0.3%超の上昇となった。
◆一方、市場参加者は「イスラエル軍とガザ自治区を実効支配するイスラム組織ハマスの
衝突がエスカレートし『今後の地政学的リスク(更なる事態悪化)の高まりに繋がる』」と
の見方によって、リスク回避的な『質への逃避』の動きを活発化させている。
◆このリスク回避行動が一段と強まったことで、VIX指数(いわゆる恐怖指数)は21.7と
シリコンバレー銀行の破綻で市場が不安定化した今年3月後半以来の高水準に上昇した。
また、既述の通り米10年国債利回りが16年ぶりに5%台に上昇したことから、金利敏感の
成長株や不動産株の下げが目立った。これを受け、ナスダック総合指数は週間で▲3.2%と
今年6月初以来の水準まで下落。S&P500指数も同▲2.4%となり、今年3月後半以来初めて
200日移動平均線を下回った。
◆なお、上記を全て織込んだUSDインデックスは、週間で0.5%下落し対円での動きに跛行。
USDインデックスの動向を最も如実に表したのが、対スイスフランの動き。今や世界唯一の安全
資産(通貨)とされるスイスフランは一時、対USDで約6週間ぶり高値を付けた。さらに、
スイスフランは対ユーロでも一時、フランの対ユーロ上限を撤廃した2015年以来の高値を
更新しており、今次の中東情勢緊迫化に対するグローバルな懸念の拡大を象徴している。
◆他方、政策金利動向を反映しやすい2年債利回りは10/18に一時5.25%まで上昇した
ものの先週末終値は5.07%と、2006年7月以来最高値の9/21の同5.20%を下回っている。
これは「政策金利の高止まりは長期化するものの、更なる引上げ余地には限界がある」
ことを示唆。更に中東情勢の緊迫化という新たなリスク要因が加わり先行きの不確実性が大幅に増幅したことで、米景気やインフレの先行きの予測が一段と困難になりつつある。
◆また、別途要注目としていたパウエル議長の講演では「政策決定は慎重に進める」と
来週のFOMC(10/31-11/1)での利上げ見送りが示唆された一方、「トレンドを上回る経済
成長が続き、労働市場の引き締まりが緩和せず、インフレ鈍化がリスクに晒される場合は
一段の利上げが正当化される」とも述べ、利上げ終結観測を牽制した。また、足元の長期
金利上昇については、金融環境のタイト化の一因になっているとしつつも長期金利の上昇
自体に対する警戒感は特に示さなかった。
>>>政策金利動向を反映し易い2年債と10年債の逆イールド急速に縮小(後述)
9月上旬までは<米国経済は「ゴルディロックス(適温経済)」にある>をはやして
『リスク選好』ムードが優勢であったが、ここもとの金利上昇に加え中東情勢の緊迫化と
いう重大なリスク要因が加わったことで『リスク回避』ムード加速の可能性高まる。
>>>2023年1月からこれまで「USD高円安」をサポートしてきた要因の一つである
『リスク選好』の動きにも明らかに暗雲がたちこめていると判断。
□【短期~中期的視座】「USD/円相場の上昇」に対する根強いサポート要因
◎当初想定よりはるかに強い米国経済指標 ⇒「インフレ高止まり」観測の拡大
〇「Higher & Longer」=米金利がより長期間高水準にとどまるという観測
>>『タカ派なFRB、ハト派な日銀の明白なコントラスト』の再強調
⇔ 今後は「欧米のタカ派色希薄化の一方、日銀はハト派色後退」が漸進へ
〇昨今注目度が高まる日米実質金利差ならびに日米短期金利差の更なる拡大と
それに伴う円キャリートレード復活/活発化に対する期待
⇔「欧米の利上げ打ち止め」並びに「日銀の金融政策正常化への漸進」という
かつての「逆行する(金融政策の)方向性」に対する反転が視野に入りつつある中
(食傷気味となった)このロジックは一旦賞味期限切れになると認識
>>中長期的には、折に触れて注目される要因(特に、市場の変動率が低い場合)
■【中期~長期的視座】先行きの「USD/円相場の下落」を示唆する要因
●米銀行セクター不安から顕現化した“信用逼迫”への懸念は燻り続ける公算大
>>>過去1年半にわたる利上げの累積効果による景気鈍化は今後本格化へ
⇒米銀の貸出態度は現在加速的に厳格化しており、実際の貸出も昨年11月に
つけたピーク(前年比13.5%増)から、足許では伸びが大幅に低下中。
⇒おそらく今年末には前年比ゼロもしくはマイナス圏に陥るとみられている。
⇒家計の過剰貯蓄も現在のペースで取り崩していけば、年末までには底を突き、
家計の消費ペースはその後大幅にスローダウンする可能性が高い。
>>>2023年通年での米企業倒産件数はリーマンショック後で最高に達するとの予想
●予算成立を巡る米議会運営が困難な状況を増幅
>>>先般の下院議長解任以降、下院は混迷。「11/17に迫るつなぎ予算の期限
切れ⇒政府機関のシャットダウン」のリスクが高まる
●現ペースでの財政赤字拡大はかつての『(貿易/財政n)双子の赤字』を彷彿
●米債券市場での『逆イールド』が示唆した景気後退リスクは完全には消えず
>>>米債券市場での将来の景気後退を示唆する『逆イールド』は依然継続
>>>『逆イールド』幅は今年3月の最大値(▲1.08%)を7月に僅かに更新
>>>その後、一旦縮小のトレンドに入ったと思われたが、拡大と縮小を交互
に繰り返す展開が続き、解消に向かう明確な気配は未確認だった。
⇒既述の「Higher & Longer」認識の浸透に伴い、9月下旬以降縮小が加速
⇒3月には「年後半には利下げ」観測から『2年急低下⇔10年緩やかな低下』の
解消経路(パス)だったが、ここもとは『2年横ばい⇔10年急上昇』のパスが機能
⇒この長短金利の跛行的な動きが加速したことにより逆イールドは急速に縮小し
その幅は3月の縮小時を更新
⇒ただし、中東情勢が急激に緊迫化していることによって、2週前は既述の新たな
パスにもややネガティヴな要素が加わりつつあった
⇒しかし、現在の米国のファンダメンタルズとFRBの政策変更余地を考慮すれば
この「縮小のパス」に著変は無いと考えられこの加速によって現在の逆イールド
は「解消→正常化」へ向かうこととなろう
⇒もしくは、国際情勢の悪化から米景気後退が視野に入り、再び3月のパスに
回帰するというルートも完全には排除できない
●【日本】現在の『異次元の金融緩和』に追加的(深堀りの)余地は皆無
>>>今後の日銀の金融政策の選択肢は「現状維持」or「正常化」しか残されていない
>>>いずれにせよ低下余地はほぼ無く金利の変化としては「上昇」するしかない
(生保など機関投資家が長期投資対象として充分魅力的な水準になるまで)
>>>欧米の利上げが終了すれば、内外金利差は縮小へ向かう(=「円の買戻し」へ)
●【日本】(更なる円安進行には)通貨当局による『円買い介入』の蓋然性が残存
>>>高進するインフレに対し、金融政策面で抜本的な対抗措置(利上げ)を実施できな
かった日本の金融当局にとっては更なる円安の進行は看過し難い事態
>>>但し、当局が定義する「為替相場はファンダメンタルズを反映して安定的に推移
することが重要」、「“過度な”為替変動は好ましくなく、そのような動きには
あらゆる手段を排除せずに対応」といった状況に現在を当てはめるのは不適切。
「“漸進する”円安」に対して「けん制」以上の対応をとるのは現状では難しい
>⇔>昨秋3回にわたり実施された過去最大規模の円買い介入は、既述の定義に基づき
「断続的かつ徹底して水準を押下げる強い意志を伴って実施」された (前掲➌参照)
□【数年単位の超長期的視座】超長期的に「USD/円相場の上昇」をサポートする要因
①日本の貿易(国際)収支構造の反転(≒貿易赤字の常態化)
>>>TRADOM内コンテンツ「為替の歴史」&「月足チャート」もご参照ください
②2005~2007年当時の円キャリートレードが復活する可能性(環境)の高まり
>>>潤沢で安定した内外金利差(日銀の「金融政策正常化」VS「米国の金融緩和」が
今後仮に進んだとしても日本の潜在成長率の低さを考慮すれば政策金利差は必ず存続)
>>>今後増加が見込まれる対外直接投資や個人による海外証券投資、更には上記①で
明らかになった本邦の「外貨不足」という需給動向
ここ2週に続き、今週も中東情勢と米長期金利の動向を睨んだ展開となりそうだ。
足許で進行するリスク回避(質への逃避)の動きは、各金融市場で以下の現象が中心。
□債券市場:『長期債から短期債へのシフト』(≒イールドカーブの正常化)
■株式市場:『景気敏感セクターからディフェンシブセクターへのシフト』
>>> 仮に、現下のリスク回避モードがさらに加速するとすれば、今後の焦点は
(緊迫化の度合いを高める中東情勢を睨みながら)『株式市場から債券市場への資金
シフト』がいつ本格化するのかということになろう。
米景気動向を見極める指標としては、今週発表予定のサービス業PMIや来週発表予定
の雇用関連指標、高利回り債の信用スプレッド(≒信用リスク)動向などが注目される。
他方、日本では10/31に発表予定の展望レポートで、「日銀が2024年度の物価見通しを
2.0%超に上方修正する」との見方が広がりつつある。仮に上方修正された場合、市場では
「早期政策修正のシグナル」と受け止められるとみている。
来週10/31-11/1に開催予定の米FOMCと共に来週初の日銀政策決定会合には要注目。
ファンダメンタルズでは「足許で円安を支持する要因が多い」とする市場参加者が主流
であるにも拘らず、未だに150円台定着を実現できない展開に違和感を禁じ得ない。
また、足許の(膠着的な)展開が大きく変化しない限り、今後は益々USD/円の上値追いが
困難になってくるのではないかと考えている。
我々の分析では、予算を巡り米議会運営の難局は増幅している他、中東情勢不安の高まり
や米国内でのストライキ拡大もあって、FRBの追加利上げへの慎重姿勢は崩れないはず。
また、10月から学費ローンの返済が再開するに伴い、消費の勢いが失速してゆくようなら米経済が減速懸念を強めることで、USD/円の重しも増える可能性が高まる。
その他、米商品先物取引委員会(CFTC)が発表する投機筋のネット・ポジション状況では
円ショート(売り持ち)が10月17日週時点で10.2万枚超の高水準へ再度積みあがった。
これは、昨年10月の151.95円でUSD/円がピークアウトした時を上回っており、その他
の事例でも自律調整を引き起こしやすい水準だといえる。
高値保合いが長期間継続する中「円買戻しのマグマ」は着実に蓄積されていると認識。
いや、仮に『上値トライが大きく先行』する場合においても、その(ピークアウト)後の
反落には加速がつきやすくなるのではないだろうか。
その意味合いにおいては「大変動へのマグマ」は着実に蓄積されていると言い換えた方が適切なのかもしれない。
いずれにせよ今後2週間はその爆発に要注目だろう。
お知らせ:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに
短期を中心とした見通しについては、GFIT為替アンバサダーでもある安田佐和子氏の
レポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。
TRADOMサイト内で、是非ご参照下さい。
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