Weekly Report(3/9)「中東情勢悪化で『有事のドル買い』、原油急伸でドル円もつれ高か」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

ストリート・インサイツ代表取締役、経済アナリスト 世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの上級主任/研究員を経て、株式会社ストリート・インサイツを設立。その他、トレーダムにて為替アンバサダー、計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員、日本貴金属マーケット協会のフェローを務める。

マーケット分析
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  • ドル円の変動幅は2月23日週に2.83円と、その前の週の3.01円から縮小した。3月2日週の変動幅は、1.97円と、その前の週の2.83円を下回った。年初来では、0.7%高と、4週ぶりにプラスに反転。2月28日に米国とイスラエルがイランへの軍事作戦を開始させた後、WTI原油先物が急騰するなか、ドル独歩高を迎えた。その間、米1月生産者物価指数(PPI)が上振れし、インフレ懸念を高めたことも、イランによるドローン攻撃などによる事実上のホルムズ海峡封鎖も、ドル高を後押し。米2月雇用統計・非農業部門就労者数が予想外に減少したが、ドル売りは限定的だった。カタールのエネルギー相は、湾岸地域の全てのエネルギー‌輸出国が数週間以内に輸出停止に追い込まれる可能性に言及したこともあり、WTI原油先物が2023年10月以来の90ドルを突破したことで、エネルギー純輸入国の通貨が売られる反面、「有事のドル買い」の流れが続いた。
  • 米国とイスラエルはイラン本土への大規模空爆を開始し、軍事・指導部に深刻な打撃を与えた。イランは弾道ミサイルとドローンで報復したが、発射能力は米・イスラエル軍の攻撃で大幅に低下している。国内では大統領と革命防衛隊の方針が乖離し、意思決定の不確実性が拡大。原油供給への懸念も高まる。今後の展開は、①数週間で高強度から低強度へ移行する基本シナリオ、②軍事能力の決定的低下により停戦へ向かう楽観シナリオ、③IRGC主導の長期戦や内戦、ホルムズ海峡危機に至る悲観シナリオの3つが想定される。
  • ホルムズ海峡情勢の緊迫で原油価格が急騰し、エネルギー輸入国はドル調達負担が増大、「有事のドル買い」が進んでいる。エネルギー自給率が低く、中東依存度の高い日本は、影響を受けやすい。足元、「有事のドル買い」に加え、投機筋の円先物のネット・ショートも低水準とあって、介入に踏み切っても押し目を拾われ、逆にドル高を招くリスクがある。円売りの抑制弁として、日銀の利上げが最も有力視される状況下、植田総裁や氷見野副総裁は3月でなくとも、4月利上げの選択肢確保に動く。
  • 米1月生産者物価指数(PPI)や米2月ISM製造業景況指数の仕入れ価格の上振れを受け、インフレ懸念が強まった一方、米2月雇用統計は大幅減速した。結果、12月FOMCの利下げ予想は1回が逆転する場面もあったが、再び2回が切り返しつつある。さらに、急拡大してきたプライベート・クレジット市場の問題が顕在化し、影の銀行システムの中核プレイヤーにも損失が拡大中。信用不安が強まれば、FRBには利下げ圧力が高まり、地政学リスク後退局面ではドル高の持続性にも陰りが生じるシナリオに留意すべきだろう。
  • ドル円のテクニカルは、非常に強い地合いに転じた。一目均衡表の雲の上限を突破し、三役好転も成立。加えて、1月23日以降に形成したダブルボトムのネックラインである157.66円を抜け、1月23日の高値159.23円が視野に入る。また、RSI(14日)が61.53と、割高の節目となる70を割り込んだままだ。
  • 3月9日週の主な経済指標をみると、9日は日本1月実質賃金と国際収支、中国2月消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数、10日は中国2月貿易収支、日本Q4実質GDP成長率・改定値などが控える。11日は日本2月企業物価指数、米2月CPI,12日は日本Q1法人企業景気予測調査、米新規失業保険申請件数、米1月住宅着工件数、13日は米Q4実質GDP成長率改定値、米1月PCE価格指数、米1月耐久財受注、米3月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値、米1月求人件数などを予定する。
  • その他、政府・中銀関連では、10月に米3年債入札、12日に米30年債入札などを予定する。ボウマンFRB副議長が11日と12日に発言の機会があるものの、ブラックアウト期間中のため、金融政策などについて発言しない。なお、米国は夏時間入りする。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の160.50円、下値は一目均衡表の雲の下限が近い155.80円と見込む。


【 2月23日~ 3月6日のドル円レンジ:154.00~158.10円】

ドル円の変動幅は2月23日週に2.83円と、その前の週の3.01円から縮小した。3月2日週の変動幅は、1.97円と、その前の週の2.83円を下回った。年初来では、0.7%高と、4週ぶりにプラスに反転。2月28日に米国とイスラエルがイランへの軍事作戦を開始させた後、WTI原油先物が急騰するなか、ドル独歩高を迎えた。その間、米1月生産者物価指数(PPI)が上振れし、インフレ懸念を高めたことも、イランによるドローン攻撃などによる事実上のホルムズ海峡封鎖も、ドル高を後押し。米2月雇用統計・非農業部門就労者数が予想外に減少したが、ドル売りは限定的だった。カタールのエネルギー相は、​湾岸地域の全てのエネルギー‌輸出国が数週間以内に輸出停止に追い込まれる可能性に言及したこともあり、WTI原油先物が2023年10月以来の90ドルを突破したことで、エネルギー純輸入国の通貨が売られる反面、「有事のドル買い」の流れが続いた。

23日のドル円は、概ねいってこい。日本が休場のなか、ドル円は2月20日の米連邦最高裁のIEEPA関税違憲判決を受けて売りが先行、一時154.00円と週の安値をつけた。しかし、その後買い戻されロンドン時間には一時155.05円まで本日高値を更新。逆にNY時間は売りが再燃し154円前半まで押し返された。

24日のドル円は、上昇。ドル円は日経新聞が1月のレートチェックについて、ベッセント財務長官が主導しただけでなく、協調介入も一時視野に入ったと報じたが、影響は限定的で買いが優勢だった。むしろ、155円台を回復するなか、高市首相が植田総裁との会見で追加利上げに難色を示したと毎日新聞が報じ、一気に156円台に乗せ一時156.28円まで本日高値を更新。大台では利食いが入る場面もみられ、翌日予定の日銀審議委員の後任人事を見極めたい向きもあり、NY時間では上げ幅を縮小した。米2月消費者信頼感指数が市場予想を上回っても影響は限定的で、引け後に予定するトランプ大統領の一般教書演説もあって、上げ渋りとなった。

25日のドル円は、続伸。東京時間の序盤は現地時間の夜に行われたトランプ大統領の一般教書演説の反応は薄かったところ、東京時間の正午頃に政府が日銀審議委員の後任にリフレ派が2人を当てる人事案を提示し、155円半ばから156円台へ上昇した。政策委員9人のうち2人がリフレ派になるだけで利上げ路線に変わらずとの思惑から一旦は上げ幅を縮小したが、ロンドン勢参入に合わせ買いが再開し、一時156.83円まで週の高値を更新。NY時間では上げ幅を縮小し156円前半で終えた。

26日、ドル円は下落。日銀審議委員の後任人事の衝撃から一夜明けるなか、東京時間入り前、読売新聞のインタビューで植田総裁は、追加利上げについて「4月までに情報を点検し、意思決定する」と述べた。また、「4月1日発表の日銀短観を待たなければ情報が得られないわけではない」とも語り、3月または4月の利上げに向けた道筋を示唆。これを受け、ドル円は売りが先行、155円後半へ押し下げられた。加えて、高田審議員が引き続き追加利上げの方向性を強調し、一時155.70円まで本日安値を更新。NY時間では米新規失業保険申請件数が市場予想より強くドルが買い戻され、一時156.44円まで本日高値を付けた。

27日、ドル円は売り先行後にもみ合い。東京時間は、2月東京都区部CPIで総合とコアコア(生鮮食品とエネルギーを除く)が再加速し、売りで反応した。一時は、155.54円まで本日安値を更新。ロンドン時間に買い戻されたが上値は重く156.23円までにとどまり、NY時間で米1月生産者物価指数(PPI)が加速したものの影響は限定的だった。トランプ政権によるイラン攻撃が警戒されたことも、買い意欲を抑えたとみられる。

2日のドル円は急伸。2月28日に米国とイスラエルがイランに攻撃を開始したため、WTI原油先物が4ドルも大きく窓を開けて時間外取引をスタートさせるなか、ドル独歩高の展開となり、ドル円も序盤に156円台を回復した。氷見野副総裁が講演で利上げの方向性を示したため一旦ゆるむも、東京午後からはロンドン時間は右肩上がりとなって、157円台を回復。NY時間に米2月ISM製造業景況指数が市場予想を上回ると、2月9日高値157.66円を超え、一時157.75円まで切り上げた。その後も、ドル円は高止まりを継続。イラン革命防衛隊司令官がホルムズ海峡を通行する船舶は攻撃すると発言し、事実上の封鎖を表明したこともあって、WTI原油先物が高値圏で推移するに合わせたドル独歩高の流れがドル円を後押した。

3日のドル円は、もみ合いを経て上昇。ドル円は、片山財務相が閣議後に「為替注視し必要な対応を取る」、「日米財務相共同声明に介入は盛り込まれている」と発言するなか、157円前半での推移を続け、一時157.15円まで本日安値を更新した。しかし、ロンドン時間から買いが再燃し、一時157.97円と1月23日以来の158円乗せに迫った。NY時間にトランプ大統領が米軍を投入してホルムズ海峡を通る石油・ガスタンカーを護衛する方針に加え、米国際開発金融公社(DFC)に対し、ペルシャ湾を航行する海上貿‌易に政治リスク保険と金融保証を提供するよう指示したことが報じられると、WTI原油先物が下落した動きにつれ、ドル円は上げ幅を縮小した。ただし、下値は堅く157円半ば程度にとどまった。

4日のドル円は、乱高下。ドル円は序盤に一時157.87円まで本日高値を更新したが、正午過ぎに片山財務相が前日に続き口先介入を行うなか、157.10円台へ下落した。植田総裁は衆院での答弁で利上げ継続姿勢を示しつつ、同水準から切り返したが、今度はニューヨーク・タイムズ紙が停戦を条件にイラン情報省がCIAに秘密裏に連絡し停戦を模索したとの報道が飛び出すと、一時156.87円まで本日安値を更新。もっとも、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続くなか、イランがNYT紙報道を否定したこともあり、下値は引き続き限定的となった。NY時間には米2月ADP全国雇用者数や米2月ISM非製造業景況指数が市場予想を上回ったが、NY連銀総裁がインフレ減速次第で利下げの可能性を示したため、上値も重くなった。

5日のドル円は、乱高下を経て上昇。東京時間の序盤は、一時156.45円まで本日安値をつけた。ただし、以降は買いが優勢。ブルームバーグが日銀は4月の利上げを排除せずと報道も、反応は限定的だった。ロンドン時間には、イランの副外相が米国の満足のいく代替案を提示することを条件に、核計画を放棄する用意があるとの発言が伝わり、再び157円割れ。もっとも、NY時間には米新規失業保険申請件数が前週比で増加せず、米Q4単位労働コストが市場予想より強かったこともあり、米利下げ観測が後退し一時157.78円まで本日高値を更新した。米中央軍(CENTCOM)、イランへの軍事作戦は9月まで続くと見込むとの報道もあって、ドル円は高値圏での推移を続けた。

6日、ドル円は買い継続。東京時間は、片山財務相が衆院予算委員会で日本はデフレ脱却に至っていないとの見解を示す一方、氷見野副総裁がインフレ状態と発言するなど、温度差がみられたものの、為替への影響は限定的で、157円半ばを上下する動きが続いた。ロンドン時間には、カタールのエネルギー相による「湾岸の全エネルギー輸出国が 数日以内に生産停止の恐れ」、「原油は 150ドル、ガスは 4倍の価格へ」との発言が飛び出すと、WTI原油先物の急騰を誘い、ドル円を押し上げ。NY時間に米2月雇用統計が発表され、予想外の弱さを受けドル円は下落したが、一時157.38円まで本日安値を更新するにとどまった。むしろ、その後はWTI原油先物が90ドルを目指す過程で、一時158.10円と1月23日以来の高値を更新し、157円後半でNY時間を終えた。

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