高市演説に見る「市場との対話」を知らずにやってはいけない?
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み
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FXトレーダーとして日夜市場に張り付いている身からすると、高市早苗首相の所信表明演説は、政局のニュースというより「超特大のボラティリティ・イベント」として画面越しに身構える瞬間ともいえます。

「責任ある積極財政」を掲げる高市政権。

これまでは「財政出動で経済を回す」という主張が前面に出るばかりで、正直なところ「金利上昇や円安といったマーケットのリアクション」をどこまで本気で気にしているのか疑問でした。

その結果、市場は「高市トレード」を強烈に織り込みに行き、ドル円は一気に円安方向へ跳ね上がってしまったのです。

しかし、今回ばかりはそうも言っていられなくなりました。

急激な円安と日本の金利急騰に対して、最大の同盟国である米国から冷ややかな視線と強力な圧力がかかったからです。

「無制限な財政出動で為替や金利を乱すのは勘弁してくれ」と言わんばかりの米国のあきれ顔と国際市場の圧力に、高市政権もついに「市場の動きを無視できない」と姿勢を改めざるを得なくなったのが今回の背景にあります。

こうした「外圧」と「市場の逆襲」を経て行われた所信表明演説で聞こえてきたのは、かつての勢いとは一転して、拍子抜けするほど連発される「市場(マーケット)の信認」というフレーズでした。

「通年の国債発行額を適切にコントロールする」「市場が想定と異なる動きを示せば機動的に対応する」。

トレーダーに向かって、まるで「暴走はしないから売り浴びせないでくれ」と直接語りかけているかのような、冷や汗混じりの牽制球に見えました。

トレーダーの目線から言えば、今回の演説は「政治が市場を舐めて痛い目を見た結果」の裏返しにも思えます。

かつてイギリスでトラス内閣が無計画な財政拡張をぶち上げ、ポンドと国債が暴落して政権崩壊に追い込まれた「トラスショック」の教訓が、ようやく日本の政権にも突きつけられた格好です。

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しかし、トレーダーは言葉の綺麗さだけでは動きません。いくら演説で「市場の信認」とアピールしたところで、次に市場が突きつけるのは「で、減税や投資の財源はどうするのですか?」という現実的な数字です。

アメリカの顔色を窺いつつ、国債発行のコントロールが甘いと判断されれば、市場は再び容赦なく「円売り・国債売り」のボタンを叩くはずです。

画面の前の私たちは、引き続き指をトレードボタンにかけながら、政治とマーケットの緊迫した化かし合いを凝視することになりそうです。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2026年10月12日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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