トレーダム為替ソリューション 【AI為替リスク管理システム】

  • Weekly Report(6/10):長期的には堅調地合いにあるものの、中短期では大きく振れにくい展開が継続
    吉岡 豪麿
    この記事の著者
    トレーダム 取締役CAO

    国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

    マーケット分析

    <テクニカル分析判断>   

    ●短期:52MAで見事に底打ち/反発。大ブレしづらい展開の中「21MA超の水準維持」が注目点

    ●中期:想定以上の下押し/調整も過熱状態は一段と緩和/解消が進展。強含み地合いを再構築中

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    6/3週は「寄付157.23:154.53~157.47:終値156.72(前週比▲0.54円の円高)」と、先週の想定よりも一時的な下ブレ幅が広がったため、週足では5/13週と同様の長い下ヒゲを伴った陰線を形成した。なお、所謂「上昇トレンド」の特徴である「下値の切上り」(4週連続)・「上値の切上り」(3週連続)は先週で潰えた。また、週間レンジも2.94円と前週の1.33円から大幅に拡大しており、この点においても『強含み保合い』という我々の想定とは異なる展開となった。(上図:直近1.5年の週足)

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    一方、「週足での長い下ヒゲ」・「(上図:直近3ヶ月)日足での“52MAからの急速な切り返し”や“21MA超の早期回復”」など依然として『根強い押し目買い圧力』の継続も明白だといえる。先週は、確かに想定以上の下押し/調整がみられたものの、その分だけ(ここひと月指摘してきたように)“上昇の過熱”状態は一段と緩和/解消が進展している。このため、仮に「上値模索の局面」が訪れた場合の「上値余地」も徐々に拡大しているとみられる。ただし、既述の通り数週続いた「上昇トレンド」の特徴が潰えた上に157円台での伸び悩みも3週連続で観測されるなど、ここで一気に「上値模索の局面」へ移行する展開も想定しづらいところ。

    以上の要因を全て勘案すると(ここ数週とほぼ同じになるが)テクニカル分析の結論としては<上下に大きく振れにくい地合いが強まりつつある中で、21MAの着実な上昇の影響から『強含み保合い』の継続>との予想としたい。

    以下ではいつも通り『短期・中期・長期の方向性』について各時間軸チャートによるテクニカルな視点を中心にご案内。(今号の分析は2024/06/07のNY市場終値をベースに実施)

    以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数

    ➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド」、「52MA & 200MA」、RSIを付記  

    短期(1週間~1か月弱)の方向性:52MAでの底打ち/反発後は「21MA超の水準維持」が注目点

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    □想定以上の下押し/調整は見られたものの、極めて強力な下値支持線である“52MA”での明確な底打ち/反発が示現(上図参照)

    ◇引き続き上昇トレンドは維持されているが、(157円台での伸び悩みに象徴される)上昇抑制的な圧力も依然残存している模様。緩やかに上昇する21MAの傾きに沿った強含みの地合いが続こう

    >>> 想定レンジ=今週:155.40~158.25 、今後1ヶ月:153.60~160.20 =

    ➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSIを付記 

    中期(1か月~半年程度)の方向性:過熱状態は緩和/解消が着実に進展。強含み地合いを再構築へ

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    ●2022年に迫る「上昇の過熱」は4月末に急反落をもたらし、今後の上昇ペースの阻害要因となった

    ⇒もっとも2022年の事例に比べれば(過熱度合いはかなり抑制されており)、今後の「更なる上昇」を否定は出来ない。 また、ピークアウト後も(21MAの上昇に伴う)「過熱の緩和/解消」は着実に進展中

    ◇なお、USD円相場が仮に横ばい推移を続けたとしても今後ひと月程度は「21MA(152.64@6/10早朝)、同+4.32%バンド(同159.21:上値抵抗線)は毎週約0.5円のペースで上昇」

    ◎こうした「実際のUSD円レートと21MAの乖離縮小」に伴い上昇余地も徐々に拡大する見込み

    >>> 今後6か月間の想定レンジ 153.30~162.60 ⇒ 152.55~162.15 =

    ➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記  

    長期(半年超~1年程度)の方向性:20MAの上昇に支えられ、長期上昇トレンドが本格化へ

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    ◇2014年7-12月の6ヶ月連続以来(上図➊を含む上昇)となった4カ月連続の陽線はさすがに5月で途切れたものの、長大な下ヒゲを持つ線は「高まった下落の勢いが引けにかけて急速に弱まりつつある」ことを示唆

    ◇上図【A】および【B】との位置を考慮すれば、現在は図中の➊類似。➊では上昇の過熱状態にあったものの「上昇のペースを落としつつも、更に9カ月にわたり過熱状態が継続」

    >>>現在は「20ヶ月MAが7月以降に毎月約1.0円上昇する」など「過熱状態が緩和/解消に向かいつつある」上、➊以来となる連続陽線が示現していたことからも➊に準ずる可能性が高いと判断

    >>> 今後1年間の想定レンジ = 153.30~165.60 ⇒ 152.55~164.55 =

    <ファンダメンタルズ分析判断>

    □先週の日米金融市場の変化(下表右端)

    ◇米国:「経済指標は強弱混合も長期金利はやや低下」⇒「株式市場では最高値更新多数」

    ◇日本:利上げ期待の一巡で「10年金利は急反落」⇒株価は保合い推移の中マチマチ

    ◇USD円:米金利に沿って乱高下⇒大きく下落先行も週末にかけ「強含みの地合い」を回復

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    ◇米経済指標:週前半は予想比弱目なるも、後半は一転して強目が際立つ

    ●米5月ISM製造業景況指数:結果48.7(市場予想49.5比 弱い)

    ●米5月ISM支払価格:結果57.0(市場予想59.0比 弱い)

    ●米4月JOLTS雇用動態調査:結果805.9万件(市場予想835.5万件比 非常に弱い)

    〇米5月総合PMI:結果54.5(市場予想54.2比 強い)

    〇米5月ISM非製造業景況指数:結果53.8(市場予想51.0比 非常に強い)

    〇米5月非農業部門雇用者数:結果+27.2万人(市場予想+18.0万人比 非常に強い)

    ●米5月失業率:結果+4.0%(市場予想+3.9%比 弱い)

    〇米5月平均時給:結果+4.1%(市場予想+3.9%比 強い)

    ◇米債利回り:上記の経済指標を受け乱高下。前週比では長短でマチマチ

    > 2年債利回り:5/31  4.877% ⇒ 6/7  4.890%(前週比 +0.013%上昇

    >10年債利回り:5/31  4.503% ⇒ 6/7  4.434%(前週比▲0.069%低下

    =>10年-2年の逆イールドは「▲0.456%へ前週比で再拡大」(下図)

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    既述の米金利(経済指標)の動向に連動する格好で、USD円相場は一時3週ぶりに154円台をつけるなど(我々が想定していたよりも)一旦下方向に大きく振れました。しかし、週末にかけてはISM非製造業景況指数や雇用統計などが市場予想を大幅に上回ったため、概ね“行って来い”の展開(前週比では約0.5円のUSD安円高)での越週となっています。

    ここ数週指摘してきたように「テクニカル的な『USDじり高』の結論」と相反する「景気減速を示唆する米国経済指標の増加」が我々の見通し(予測シナリオ)を非常に悩ましいものとしてきました。既述の通りその流れは先週も続きUSD円相場は前半に大きく下落したものの、逆に週末にかけては予想外に良好な経済指標がUSD円相場の失地回復に大きく貢献した恰好です。

    思い返せば、昨年秋以降は「FRBの利下げ(幅や回数)の織込み」度合いの振幅が大きく、経済指標の予想対比の振れに伴って我々の中長期見通しも再検討を何度か行ったことがあり、その度に『データ次第』を反芻したものでした。因みに、5/20付のWeekly Reportではこう結んでいました。

    <<< テクニカル分析では、先週の結論とほぼ変わらずの「上昇vs下落、双方の圧力は共に減退を続けていると思われ、結果として(超長期トレンドを反映した)『強含み保合い』の推移が当面継続する可能性が高まっている」とした一方、ファンダメンタルズ分析でも「PPI⬄CPI/小売売上高」の重要指標の評価によって「利下げの開始時期や引き下げ幅が大きくブレる」展開が見られ、今後の予測シナリオ構築のカギは正に「データ次第」>というこれまでと同様の結論に到ります>>>

     ~ 中略 ~

    <<<「データ次第」とされる今後の米金融政策は「USD円の方向性とほぼ一致する“USD指数”」の行方にも大きな影響を及ぼします。その意味でも、来週の米4月PCE価格指数など重要データの発表に対しては過度に予断を持つことなく、冷静な分析を心掛けたいと考えています。 >>>

    現在もこうしたスタンスは変わりませんが、特に年明け以降は『データ次第』に加えて『データ自体を“点”(ある時点の切出し)ではなく“線”(連続した流れ)で分析する』ことに腐心しています。米国の金融政策を決めるFRBにおいても当然このスタンスを堅持していると思われ、だからこそ(単月の数値だけでなく数か月連続での“トレンド”を示す)「インフレの鈍化に確信を持てるだけの数多くのデータを求めている」との発言が多く見られるのだと考えられます。

    さて、その意味では、今週は注目の経済指標発表を含め日米で重要イベント目白押しとなっています。

    「6/12には日本5月企業物価指数・米5月消費者物価指数(CPI)とFOMC政策発表」、「6/13には米5月生産者物価指数(PPI)」、「6/14には日銀金融政策決定会合の政策発表・米6月ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)」などが予定されています。

    これらの中で我々が特に重要視しているのは、ブレの大きな経済指標ではなく、市場の関心が集まっている上に、ある程度流れを把握している米FOMCや日銀政策決定会合です。以下、それぞれについて簡単に見解を述べたいと思います。

    6/11~12:米FOMC

    FOMCでは、政策金利見通し(いわゆる、ドット・チャート)が前回3月からどう変化するかが焦点です。FF金利先物市場では先週末時点で年内1.5回程度の利下げを織り込んでいました。従って、ドット・チャートの中央値が『1回の利下げ見通しであれば“債券売り(金利上昇)”』となるでしょうし、同様に『2回の利下げ見通しであれば“債券買い(金利低下)”』での市場の反応が予想されます

    ただし、最近発表されている米景気指標が強弱混在であることから、FOMCメンバーの「予測の確信度もそれほど高くない」のではないかと考えられます。よって、今後(年内)の利下げペースがどうなるかは(既述したように)今後数か月にわたって発表される「景気・物価指標(データ)次第」とみておくべきだと考えています。

    6/13~14:日銀政策決定会合

    日銀決定会合については、かつて当欄でも指摘したように「国債買い入れ額の減額が決定される可能性」があります。市場参加者を対象としたクイック社による直近の調査結果では『65%の回答者が今回6月の会合で減額が決定される』と予想しており「国債市場では、既にその織り込みが相当進んでいる」とみられます。これについては、2週前の金利急上昇を受けて先週の当欄でもこう指摘しました。

    <<<『12ヵ月先の政策金利水準は0.46%まで上昇』しており、向こう1年間で2回の利上げをほぼ織り込んだ形となっています。ただ、現状の日本のファンダメンタルズに照らせば、個人的に、この上昇速度にはやや拙速の観が否めず『日銀の追加利上げ観測の高まりによる金利上昇は(一旦は)概ね一巡』したと考えられます >>>実際、先週の10年債利回りは前週の1.07%から0.97%に急低下しました)

    話を元に戻します。市場では依然として「毎月6兆円規模から同5兆円に減額される」との見方がありますが、それでは先々に不透明感が残存しやすいと思われます。このため個人的には「より長い期間にわたって“緩やかなペースで減額を進めていく方針”を示す」など、不透明感払拭に配慮した内容になるのではないかと推測しています。

    以上が「過度に予断を持つことなく、冷静な分析を心掛けた」我々の見解ですが、最後にUSD円相場の展開にも触れておきたいと思います。

    既述の通り、今週は「日米の金融政策の決定会合が行われる極めて注目度の高い週」ですが、繰り返し指摘しているように『足許で米国の利下げが直ちに織り込まれ始めるような展開』を想定することはほとんど困難な状況です。そうなると『日米の短期金利差は当面高水準のまま維持される』との見通しによって、円キャリートレードなども引き続き活発に行われやすいと考えられます。このため、結局は(テクニカル分析での結論と同様に)『USD円じり高の基調が続く』ものと予想しています。

    お知らせ:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに短期を中心としたUSD円相場見通しについては、ジーフィット為替アンバサダーでもある安田佐和子氏のレポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。TRADOM会員の方々はサイト内で是非ご参照下さい。

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