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  • 【言葉からひも解くマーケット】「次期日銀総裁」どう転んでも黒田総裁よりタカ派
    関口 宗己
    この記事の著者
    DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

    1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。
    市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。

    マーケット分析
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    1月日銀会合では金利上昇・円高は進まず

    1月18日の日銀金融政策決定会合は金利上昇・円高を一層加速させるような結果にはなりませんでした。しかし「次期日銀総裁」人事が、金利上昇・円高を再燃させる材料になる可能性があります。

    1月の日銀会合では、注目のYCC(イールドカーブコントロール)における10年債利回り許容変動幅が0.50%に据え置かれました。さらなる変動幅拡大の思惑で動いていた向きのポジション巻き戻しが余儀なくされました。

    10年債金利は、前回の昨年12月会合で許容変動幅が0.25%から0.5%に拡大された後、追加的な変動幅拡大を催促するように0.5%を上回って推移する場面が目立ちました(図表1)。しかし、変動幅の据え置きが発表されると、0.3%台へ押し戻されています。黒田日銀総裁は「(12月の運用修正の)効果は少し時間が経ってみないと分からない」として、影響を注視する局面とみているようです。

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    ドル円相場は一時127円台まで円高となり、128円付近で今回の1月会合を迎えました。会合後に金利が低下すると、131円半ばまで急速に円安・ドル高となりました。いったん押し返されましたが再び131円台へ戻し、会合直後の上振れ水準131円半ばの上抜けや132円回復をうかがうムードも高まりました(図表2)。

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    18日、会合後の会見で、黒田日銀総裁は12月会合の変動幅拡大後に「出口の一歩ではない」として、緩和路線の転換を否定したのと同様に、緩和継続の意思を示しました。「賃金上昇率が十分でなく、物価2%目標を安定・持続的に達成できる状況になっていない」として、物価動向にともなう賃金上昇が確認できるまで緩和政策を維持するとの考えを述べています。緩和後退・解除を見越した投機的な動きに釘を刺すような結果となりました。

    「次期日銀総裁」人事が金利上昇・円高再燃につながる可能性

    しかし、緩和後退を見越した金利や円相場の先高観が反転したと考える投資家は皆無でしょう。まだ日銀金融政策の見通しを材料にした仕掛け的な売買が強まる場面はありそうです。岸田首相からも任期切れにともなう交代が言明されている黒田総裁に代わる「次期日銀総裁」人事は、そのきっかけにされやすいでしょう。

    有力候補とされているのは、雨宮副総裁と中曽前副総裁です。財務相出身の黒田総裁が2期10年の長きにわたり総裁を務めた後を受け、日銀出身の両者の名前があがりやすい面もあります。

    雨宮副総裁は「日銀のプリンス」「ミスター日銀」とも呼ばれ、金融政策の立案を担当する企画局の局長から理事となり、副総裁の座に就きました。黒田総裁が73歳の高齢で2期目続投となった局面で、雨宮氏が副総裁になったことに対して、「万が一の際でも、10歳若い雨宮副総裁が切り札となりうる人事」と評する声もあった有力候補です。

    企画局出身の辣腕を活かして、異次元緩和実施の裏表を熟知した雨宮氏は、同政策が出口へ向かう流れのなかでも力を発揮するとの期待が高いようです。ただ、本人が就任を固辞しているとの報道もありました。

    雨宮副総裁が国際会議参加などの実績面でやや難があるとの見方から、国内向けだけでなく、海外投資家や各国中央銀行との日銀のコミュニケーションをうまく取り仕切る能力を期待して、中曽前副総裁を推す声もあります。同氏は2008年のリーマンショック時に、金融市場局長として各国中銀とコンタクトを取り対応したことで名高い人物です。コミュニケーション能力だけでなく、危機的な局面における現場対応のプロともいえます。

    黒田日銀の市場との対話不足が指摘されるなか、安倍政権下で経済再生相としてアベノミクスを主導する役割でもあった甘利・自民党前幹事長も先日の通信社インタビューで、日銀人事に携わる立場ではないとしつつも「市場との対話を重視して適切に金融政策を運営できる人物が望ましい」との見解を述べていました。

    しかし、黒田日銀の流れを汲むような両氏では、政策変更・改善を進める力が乏しいイメージとの指摘もあるようです。そこで対抗馬として、白川前総裁の下で副総裁を務めた山口廣秀氏も候補に浮上してきました。思ったような結果につながっていない異次元緩和で生じた副作用への批判が強い黒田総裁路線とやや筋を変えることを意図した人事と受け止めることもできます。

    ただ、甘利氏は先ほどのインタビュー内で、新味を出すことが「方向転換というメッセージにならないことが大事」との見解を示しています。アベノミクス修正と受け止められ、日銀人事において安倍派や安倍政権下で関連した要職に就いていた人々からの反発を買うことも考えられます。10年以上前に、日銀審議委員の人選で野党時代の自民党が不同意として、委員の空席をなかなか埋められなかったことなども思い出されます。政治との関係も重要なポイントです。

    人事は最後に思わぬ方向へ転ぶことも多く、有力候補として名前が挙がっている人以外になることも想定できます。1ついえるのは、誰が「次期日銀総裁」に就いても「異次元緩和を主導した黒田総裁と比べればタカ派と受け止められる」(ヘッジファンド・ストラテジスト)という点です。金利上昇・円高を後押しする材料にされやすいでしょう。

    そのなかでも、雨宮副総裁や中曽前副総裁なら黒田路線を踏襲しつつ、段階を踏んで緩和解除へ向かうことがイメージしやすい人選となりそうです。黒田・アベノミクス路線から距離を置くとの思惑が高まりやすい山口元副総裁の「次期日銀総裁」就任となれば、よりボラティリティの大きな荒っぽい相場展開になりやすいでしょう。

    本記事は2023年1月25日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

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