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  • Weekly Report(7/31):「ドル円、YCC修正を消化し上値試すも介入警戒が再燃か」
    安田 佐和子
    この記事の著者
    トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

    世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

    マーケット分析
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    ―Executive Summary―

    • ドル円の変動幅は7月24日週に3.75円となり、その前の週の4円71銭から縮小しつつ、週ベースでは反落した。7月24日の月曜日に141.82円をつけた後は、米連邦公開市場委員会(FOMC)を7月25~26日に、日銀金融政策決定会合を27~28日に控え、イールド・カーブ・コントロール(YCC)修正の警戒感もあり、月曜以降は上値が重くなった。FOMCを無難に消化した後、27日のNY時間には日経新聞がオンライン版でYCC修正を議論すると報じたため、一時137.24円まで急落した。翌日の日銀金融政策決定会合後に長期金利の許容変動幅を±0.5%で維持しつつ、上限については1%まで容認するYCCの運用柔軟化が発表された後、ドル円は139円台から下落に転じ、138.06円へ下落。ただ、一部の海外メディアで「大規模緩和を維持」と報じたほか、YCC修正と大規模緩和の修正は別物と受け止められたため、一時141.18円まで切り返した。
    • 日銀がYCCを修正するなか、植田日銀総裁は為替をターゲットとしていないと断りつつ「金融市場のボラティリティ抑制に為替を含めた」と発言した。日銀金融政策決定会合前に政府高官が物価上昇を背景に、日銀に必要な措置を講じるよう要請していた事情を踏まえれば、政府としては円安回避と物価抑制を望んでいると解釈され、日銀もYCC修正で応じたと捉えられよう。将来的なYCC撤廃に向けた初めの一歩とも読み取れる。物価高と円安による一段の家計が圧迫は、支持率低迷する岸田政権にとって悪材料とされ、上昇過程では介入警戒も再燃しそうだ。
    • とはいえ、YCC修正は大規模緩和の終了を意味せず、今後は日米の金融政策の方向性が再び注目されよう。ドル円は今後2週間、米7月雇用統計など米指標と米債利回りをにらんだ展開が見込まれる。米新規失業保険申請件数が足元で増加を免れるなか、米7月雇用統計が堅調となれば、米債利回りの上昇を促し、ドル円を押し上げよう。また、8月10日発表の米7月消費者物価指数(CPI)も、足元でクリーブランド連銀のナウキャストは6月を上回る数字を予測しており、ドル円は米指標次第で上値を試しかねない。
    • テクニカル的にも、これまで抵抗線として機能した20日移動平均線、50日移動平均線、一目均衡表の基準線、一目均衡表の雲の上限がサポートとなっており、上昇に追い風が吹いている。しかし、前述したようにドル円の上昇過程では、介入警戒が再燃されそうだ。6月30日の高値145.07円をつけた後に内田日銀副総裁がYCC修正を示唆したことが思い出され、短期的にはここが天井として意識されるのではないか。今後2週間のドル円は、6月30日の高値と7月14日の安値の78.6%戻しがある143.50円、下値は200日移動平均線がある136.70円と予想する。

    1.先週の為替相場の振り返り=ドル円、日銀金融政策決定会合を挟み乱高下

    【7/24-7/28のドル円レンジ:138.06~141.81円】

    (先週の総括)ドル円の変動幅は7月24日週に3.75円となり、その前の週の4円71銭から縮小しつつ、週ベースでは反落した。7月24日の月曜日に141.82円をつけた後は、米連邦公開市場委員会(FOMC)を7月25~26日に、日銀金融政策決定会合を27~28日に控え、イールド・カーブ・コントロール(YCC)修正の警戒感もあり、月曜以降は上値が重くなった。FOMCを無難に消化した後、27日のNY時間には日経新聞がオンライン版でYCC修正を議論すると報じたため、一時137.24円まで急落。翌日の日銀金融政策決定会合後に長期金利の許容変動幅を±0.5%で維持しつつ、上限については1%まで容認するYCCの運用柔軟化が発表された後、ドル円は139円台から下落に転じ、138.06円へ下落。ただ、一部の海外メディアで「大規模緩和を維持」と報じたほか、YCC修正と大規模緩和の修正は別物と受け止められたため、一時141.18円まで切り返した。

    ・7月24日、磯崎官房副長官が日銀金融政策決定会合前に「政府と連携の下、必要な措置講じることを期待」と発言したほか、神田財務官が「物価・賃金予想より上振れし、企業の賃金など変化しているとの共通認識がある」などと述べたが、ドル円は反応薄で東京時間は141円半ばで推移した。しかし、ロンドン時間に入ると、独7月製造業PMI速報値が38.8と20年5月以来の水準に落ち込み、ユーロ圏7月総合PMI速報値も48.9と8カ月ぶりの低水準となったため、米10年債利回りが低下し、ドル円もつれて141円割れ。NY時間には、米7月サービス業PMIと総合PMIの低下を受け、一時140.74円まで下落したが、50日移動平均線のサポートが機能し、141円台へ戻してNY時間を終えた。

    チャート:米国とユーロ圏の総合PMIはそろって低下

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    ・7月25日、ドル円はFOMCの結果発表を翌日(日本時間では7月27日未明)に控え小動き。ロンドン時間に一時141.74円まで上昇したものの、20日移動平均線で引き続き頭打ちとなった。米7月消費者信頼感指数が117.0に上昇し、2021年7月以来の高水準となったものの、反応薄。同指数では、今後1年間の景気後退の可能性が「幾分ある」または「非常に高い」と答えた消費者の割合は70.6%と上昇したこともあって、140円後半でNY時間を終えた。

    ・7月26日、ドル円は前日の流れをもみ合いながら、時間外取引での米10年債利回値の低下につれて140円前半へ下落した。NY時間に140円後半へ切り返しつつ、FOMCを控え小動きを経て市場予想通り0.25%の利上げ後、パウエルFRB議長の記者会見を受けて140円を割り込み139.92円まで本日安値を更新。インフレ抑制継続の姿勢を示しつつ、物価上昇率の鈍化に言及したため十分にタカ派と受け止められず、ドル売りにつながった。

    ・7月27日、ドル円は急落。松野官房長官が「日銀には引き続き物価安定に向け適切な金融政策を行うこと期待」と発言したが反応は限定的で、ロンドン時間までは140円を挟んで上下する展開が続いた。NY時間に入ると、米4~6月期実質GDP成長率・速報値を始め、米新規失業保険申請件数、米6月耐久財受注が軒並み市場予想を大きく上回り、米10年債利回りと共にドルが上昇、ドル円は一時141.32円まで本日高値をつけた。しかし、日経新聞オンライン版がNY時間の午後に日銀がイールド・カーブ・コントロール(YCC)を柔軟に運用し、上限0.5%超え容認する案を議論する見通しと報じた結果、ドル円は急落。一時138.76円まで本日安値を更新した。

    チャート:米Q2実質GDP成長率・速報値は前期を上回り2.4%増

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    チャート:米新規失業保険申請件数、約2カ月ぶりの水準に減少

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    チャート:米6月耐久財受注は前月比4.7%増、市場予想の1.0%増と前月の2.0%増を大幅に上回る

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    ・7月28日、ドル円は乱高下。日銀が前日の日経新聞オンライン版通り、10年債利回りにつき1%までの上昇を容認すると発表した結果、ドル円は一時138.06円と約1週間半ぶりの安値を付けた。しかし、植田日銀総裁が「YCCの修正は政策正常化に踏み出す動きではない」と発言、また「基調的な物価2%へ距離があるとの判断は変えていない」と発言したため、まもなく140円台を回復した。NY時間に入ってからは、米6月PCE価格指数が2021年3月以来の低い伸びにとどまったものの、米6月個人消費支出が市場予想を上回り米7月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値が約2年ぶりの高水準した結果、ドル円は上昇を継続。一部の海外メディアで「大規模緩和を維持」と報じ、YCC修正について詳細に説明しなかったこともあって、引けにかけては一時141.18円まで本日高値を更新した。

    チャート:米6月PCE価格指数、前年同月比は3.0%と2021年3月以来、コアも同4.1%と2021年9月以来の低い伸びで、CPIと共に鈍化傾向を示す

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    チャート:個人消費支出は伸び加速も、貯蓄率は低下

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    チャート:米7月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値は速報値から下方修正されたとはいえ、2021年10月以来の高水準

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    チャート:ドル円の5月以降の日足、7月24日週は50日移動平均線(緑線)、20日移動平均線(黄色)、一目均衡表の基準線(薄緑線)、一目均衡表の雲の上限を終値でそろって超える展開

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    (出所:TradingView)

    2.主な要人発言

    ・7月24日週は、FOMCやECB理事会、日銀金融政策決定会合を挟み、会合後の記者会見で今後の金融政策運営などへの言及が目立った。パウエルFRB議長は、「インフレ率2%達成のプロセスには長い道のりがある」と述べつつ、今後の政策決定は「会合毎」、「経済指標次第で、利上げも据え置きもありうる」と強調。ラガルドECB総裁も、パウエル議長と同様に経済指標次第の姿勢を打ち出した。

    ・ECB理事会後のブラックアウト期間明け、ECB高官から次々に発言が飛び出したが、タカ派からは6月時点と異なり明確な利上げ支持の言及は少なくなっている。

    ・日銀金融政策決定会合前、磯崎官房副長官や松野官房長官など、物価上昇を受けた日銀の対応を求める発言が飛び出した。実際、日銀は金融政策決定会合でYCCの修正を行ったことは、報道の通りである。日銀の植田総裁は、YCC修正でも「粘り強く金融緩和を継続する必要がある」と発言し、YCC修正が即マイナス金利脱却を意味しないと強調した。ただし、YCC修正について金融市場のボラティリティを抑制するとの観点につき、質疑応答で為替のボラティリティ抑制も含まれると述べ、為替市場への配慮を示した格好だ。

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    3.主な経済指標結果

    〇米国の経済指標⇒FOMCが開催され、市場予想通り0.25%の利上げを行った。ただし、今後については「経済指標次第」との姿勢を強調した。米7月総合PMI速報値は5カ月ぶりの低水準だったものの、全体的に堅調な米景気を示す結果が優勢だった。米4~6月期実質GDP成長率・速報値は前期比年率2.4%増と、市場予想の1.8%増と前期の2.0%増から拡大。米6月耐久財受注も大幅増となり、米6月個人消費支出も市場予想を上回った。一方で、インフレ指標はまちまち。米6月PCE価格指数が2021年3月以来の低い伸びだったほか、米Q2雇用コスト指数も約2年ぶりの低水準だった一方、米7月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値の1年先インフレ期待は前月を上回った。

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    〇欧州の経済指標⇒ECB理事会が行われ、市場予想通り0.25%の利上げを行った。ただし、今後については「経済指標次第」との立場を打ち出した。ユーロ圏7月総合PMI速報値は8カ月ぶりの低水準だったほか、独7月製造業PMI速報値は2020年5月以来の水準に沈んだ。ただし、独Q2実質GDP成長率は前期比で横ばいとなり、2022年Q4からマイナス成長を2四半期で止め、リセッションから脱却した。

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    〇日本と中国の経済指標⇒日本は、日銀金融政策決定会合でYCCの修正に踏み切った。同日に発表された東京都区部CPIは市場予想を上回り、物価の高止まりを確認した格好だ。

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    〇オセアニアの経済指標⇒豪6月CPIは市場予想と一致し、豪Q2CPIは市場予想を下回ったものの、一部では8月1日の金融政策決定会合で利上げ再開を見込む。

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