Weekly Report (08/03) 想定外の日米協調介入により急落。短期時間軸では上昇モメンタムがほぼ終息
吉岡 豪麿
この記事の著者
トレーダム 取締役CAO

国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

マーケット分析

<テクニカル分析判断>

●短・中期:ただし、急落による『短期的な過熱』状態が出来。一定の自律反発はあり得る

weeklyreport 20260803 01

■7/27週:「寄付163.56:157.47~163.95終値157.65、前週比▲6.18円の円高)」

●7/27週は「前週末の高値が163.98円」と約40年ぶりの水準を回復し、根強い押し目買い圧力に支えられた中長期的な「堅固な地合い」を改めて確認したのも束の間、週末2日間の日米協調市場介入によって暴落に近い下落に見舞われた

●特に、7/31のNY市場では「急落後に(押し目買いによる)自律反発的動きが活発化すると、その都度すかさず新たな売りが浴びせられ」まさに「波状追撃による効果的な介入」が行われた。なお、米国の円買い介入は1998年のアジア通貨危機以来となる

●これにより、少なくとも短期的には「戻り売り圧力が増幅」するとみられる

◇既述の通り<<介入による急落⇒ストップロス(売り)の加速>>によって「週間変動幅は6.48円」と前7/20週の同1.79円から大幅に拡大(ほぼ3.6倍)し、2024年9月以来の週間変動幅に

<上掲チャートのポイント(週足):中期時間軸:前週からの変化点のみ>

■想定外の「日米協調実弾介入」により急落。非常に強い下値支持線と認識していた『21週MA』や『昨年4月下旬から15か月続く緩やかな上昇TL』を終値でことごとく下抜けた

●今週もこれらの水準を終値で下回るようなら、図中➊➋のように3か月程度の下落サイクルに陥る」可能性が高まる。しかし、反落に向かった(ピークアウトした)水準が『21週MA+2.16%』とさほど高い水準ではないことから底打ちに至る水準もさほど深くならない可能性も排除できない

●仮に、下落サイクルに突入した場合の下値支持のポイントは『21週MA▲2.16%(156.25)』・『52週MA(156.00)』・『21週MA▲4.32%(152.85)』と続くが、さすがに最後の水準まで来た時点ではRSIが「強烈な売られ過ぎ」の警告を発しているとみられる

週足チャート

(上図は上掲を約4.3年分に拡大したもの)

⇒上図が示す通り、上昇トレンドが本格化していた2022年以降で『ひと月以上続いた下落サイクル』は➊~➍の4回。ざっくりしたパターンは『下落が始まった水準と底打ちした水準は21週MAを挟んで上下ほぼ同じ乖離幅』・『大きく下げた場合でも底打ちするのは“21週MA▲7.41%”が多い』

⇒今回の場合は(既述の通り)反落に向かった(ピークアウトした)水準が『21週MA+2.16%』とさほど高い水準ではないため、最大でも『21週MA▲4.32%(152.85@8/3)』が底打ちの水準だとみている

●RSI・ストキャスティクスは、現在、共に中立をやや下回った水準にあるが現在の下落圧力の下では低下が加速する可能性あり。そうなれば、自律的に底打ち/反発のフェーズに移行する可能性も排除できない

●ただし、既述の通り(今回の急反落で)「特に中短期の上昇モメンタムは大きく棄損(終息)」したと見られ、仮に底打ち/反発/上昇に転じたとしてもその速度は緩慢にならざるを得ない

週足チャート

<チャートのポイント(日足):短期時間軸:既述週足コメントもご参照>

■短期時間軸の日足では、上昇モメンタムの終息がより鮮明。強い下値支持線と認識していた『21日/52日のMA』はあっさりと、また『昨年4月下旬から15か月続く緩やかな上昇TL』だけでなく、約1年のトレンドを示唆する『200日MA』をも終値でことごとく下抜けた

●今後もこれらの水準を連続して終値で下回るようなら、図中➊➋のような短い急落に止まらず短期的な下落トレンド入りが鮮明となる(①②で非常に強いサポートであった上昇TL&200日MAを既に下抜けているため。逆にこれらは当面上値抵抗として機能しよう)

●次なる下値支持のポイントは『21週MA▲4.32%(155.05@8/3)』となるが、さすがにこの水準まで一気に下落すれば、RSIが「20を下回る過度な売られ過ぎの状態」に達しているとみられる

⇒既掲の週足とは異なり「RSIは23」を付けるなどオシレーター系は既にいつ反転してもおかしくない警戒水準に突入しており「自律反発」を警戒すべきステージに至っている

以上より<今週のテクニカル分析の結論>は以下の通り

■想定外の「日米協調実弾介入」により急落。非常に強い下値支持線と認識していた『21週MA』や『昨年4月下旬から15か月続く緩やかな上昇TL』を終値でことごとく下抜けた

■短期時間軸の日足でも、上昇モメンタムの終息がより鮮明。強い下値支持線と認識していた『21日/52日のMA』はあっさりと、また『昨年4月下旬から15か月続く緩やかな上昇TL』だけでなく、約1年のトレンドを示唆する『200日MA』をも終値でことごとく下抜けた

●中短期時間軸共に今後もこれらの水準を連続して終値で下回るようなら「下落トレンド入りが鮮明」となる

●日足での次なる下値支持のポイントは『21週MA▲4.32%(155.05@8/3)』となるが、さすがにこの水準まで一気に下落すれば、RSIが「20を下回る過度な売られ過ぎの状態」に達する見込み

⇒週足とは異なり「日足RSIは23」を付けるなどオシレーター系は既にいつ反転してもおかしくない警戒水準に突入しており「自律反発」を警戒すべきステージに至っている

●週足でも同様に今週も軟弱な地合いが続くようなら3か月程度の下落サイクルに陥る」可能性が高まる。しかし、反落に向かった(ピークアウトした)水準が『21週MA+2.16%』とさほど高い水準ではないことから底打ちに至る水準もさほど深くならない可能性もある

◇なお、超長期時間軸(後述月足)では「USD円相場の地合いは依然として堅固」であるため、中短期での調整局面を比較的軽微に凌ぐことができれば、徐々に「全ての時間軸での強調地合い」復活を展望することもできよう

◎短期的な自律調整を交えつつも「長期的な円安/USD高トレンドは依然維持されている」との大局観を引き続き堅持したい

□以上を踏まえ、引き続き「過度に予断を持つことなく」変化の兆しを見落とさぬ姿勢を維持した上で、終値が以下の水準を「突破or維持」できるかどうかに注目

1 159.75円=21週MA

2 159.10円=21日MA▲1.23%

3 ☆158.70円=上昇TL☆

4 157.95円=200日MA

5 ☆157.10円=21日MA▲3.09%☆

6 156.30円=21週MA▲2.16%

7 155.10円=21日MA▲4.32%

8 153.90円=21週MA▲3.69%

>>>上記3(上方)5(下方)「抜けると加速する」と思われる水準

~以下では『短期・中期・長期の方向性』についての分析ポイント及び各時間軸での想定レンジをご案内します。(今号の分析は2026/7/31のNY市場終値をベースに実施) ~

<以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数>

➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド、52MA & 200MA」、RSI等 

短期(1週間~1か月)の方向性:僅か2日間の急落により上昇モメンタムはほぼ終息

日足チャート

上図は既掲(直近10ヶ月分)を16か月分に拡大したもの。解説コメントは既掲をご参照下さい

>>> 想定レンジ=今後1週間:153.90~159.75、今後1ヶ月:152.85~161.70=

➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSI等

中期(1か月~半年程度)の方向性:下値模索先行から比較的早期の底打ちなるか

週足チャート

上図は冒頭2枚目(4年強)と同じ。解説コメントについては既掲をご参照下さい

>>>今後6か月間の想定レンジ = 156.30~168.90⇒ 150.90~162.75=

➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記

長期(半年超~1年程度)の方向性:超長期上昇トレンドは極めて着実に進展中

月足チャート

◇かつて「RSIやストキャスティクスが警戒すべき高水準を長期間維持し続けることを可能にした2022年の“強固な地合い”」が徐々に復活しつつある

=>『秩序ある上昇の体』は依然維持されており、最終的に『上昇サイクルは依然として存続(上方向)』を確認する可能性が高いと認識

□超長期時間軸では『着実な上昇トレンド』が堅持されている

>>> 今後1年間の想定レンジ = 147.30~170.40 ⇒ 147.75~167.40 =

<ファンダメンタルズ分析判断>

□先週の日米金融市場の変化(下表右端):米景気指標やや鈍化⇒利上げ観測もやや後退

◇米国:米景気指標やや鈍化で金利の急上昇が一服。半導体関連中心に株価もやや持ち直し

◇日本:日米協調介入による円安是正を好感し悪い金利上昇が一服。株価はやや持ち直し

◇USD円:米利上げ観測が後退⇒金利低下でUSD指数軟化。USD円は日米協調介入で急落

<スペース>

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毎回、締めの一言で<<「過度に予断を持たず変化の兆しを見落とさぬ姿勢」を貫き、金融資本市場全体を引き続き注視>>とさせて頂いていますが、先週末にかけての「円安是正を企図した日米協調介入」は、個人的に完全に想定外でした。

これは常々指摘している以下の諸点を、予測に際して「過度な予断」として組み入れていたものであり、個人的に大きな反省点とせねばならないものです。

<◎認識に著変なしの主な事項◎>

◎介入は本質的に「スムージングオペレーション」であり、市場の過度な変動を抑制するもの

◎上記の通りあくまでも行き過ぎた(?)相場状況への「対症療法」に過ぎず、介入自体で主体的に相場の方向性変えることは難しい

◎相場の方向性に最もインパクトを持つのは「基軸通貨USDの方向性」。介入の方向がこれに合致している場合には企図する方向性への流れを作ることは可能

◎「円安是正」の根本的な対応は、時の経済状況に応じた「適切な金融・財政政策」がとられること

(円の最大の弱点である「マイナスの実質金利」解消に向けた金融政策や真に責任ある積極財政政策が展開され、構造的な外貨不足の緩和・解消に向けた対応が進展すること)

<●認識が誤っていた(過度に予断を持っていた)主な事項●>

●1月にも見られた「レートチェック」等の協調はあっても、米債市場にも影響を与えうるUSD売り/円買いの実弾介入にまで米国は踏み込まない

●日銀政策決定会合に際して介入が行われるとすれば、そのタイミングは会合後の総裁会見を受けた市場の反応を確認してから

こうした●の予断を前提としていたため、先週末にかけての実際の市場展開には、個人的にかなり面くらったことは言うまでもありません。

実際、FOMCを控え「サプライズ利上げ観測」(想定通りのUSD高材料)もあったため、7/28には一時163.95円まで週の高値をつけましたが、据え置きを決定したほかウォーシュFRB議長が会見で9月利上げを明確に示唆せず、市場は売りに反転(想定内のネガティブ材料)しました。

加えて、政策決定会合初日の7/30には「本邦当局の介入によって、一時158円割れ」となりました(タイミングが全くの想定外)。ただ、日銀金融政策決定会合では市場予想通り据え置きとなり、植田総裁が「非常に慎重に利上げペースの拡大」を示唆したところ、影響は限定的でした(想定内)。

しかし、その後は全くの想定外(サプライズ) の連続でした。

・「米財務省が円相場に介入する可能性を告知した」と報じられたほか、

・ベッセント財務長官の「やることリスト、円買い、50億-100億ドル」というメモの存在、

・米財務省による「ユーロを介した円買い介入」(ユーロ売り/USD買い⇒USD売り/円買いでUSDはニュートラル)が伝えられました(なるほど、●を回避するためにその手があったか❢)

・こうした措置を受け、USD円は一時157.28円と5/14以来の安値を記録

・テクニカル分析でも触れたように、昨年4月下旬以降維持し続けてきた緩やかな上昇トレンドラインだけでなく200日MAを終値で下抜けています(両方とも強いサポートと認識しており、終値での下方突破は想定外)

<特に、7/31のNY市場夕刻には「急落後に(押し目買いによる)自律反発的動きが活発化すると、その都度すかさず新たな売りが浴びせられ」まさに「波状追撃による効果的な介入」が行われていました。因みに、米国による円買い介入は1998年のアジア通貨危機以来の事象となりました>

これらの諸点については、本稿でもよくご紹介している「TRADOM為替アンバサダー安田佐和子氏の8/3付weekly report」に非常に詳細な解説が紹介されていました。

以下、<< TRADOM為替アンバサダー安田佐和子氏の8/3付weekly reportより一部抜粋 >>

―米国が円安是正へ日本と協調、その背景と対価

日米協調介入、48時間の内幕

高市政権は7月21日、骨太の方針を閣議決定した。片山財務相は7月30日、「強く豊かな日本投資枠」の創設に合わせ、8月末に各府省庁が提出する概算要求基準について「もはやシーリングと呼ぶべきものはない」と発言。総務省が消費者物価指数の基準改定を予定し、2025年分に上方バイアスがかかった品目が逆に全体を下押しするシナリオも想定されるなか、利上げ期待が後退するリスクを含め、一段安となる「緊張の夏」が警戒されていた。

その緊張は、7月30〜31日の48時間で、別の意味で現実のものとなった。7月30日、米Q2実質GDP速報値や米6月PCE価格指数の鈍化でドル全面高に陰りが差した直後、日本政府・日本銀行が円買い・ドル売り介入に踏み切り、韓国当局も同時に動いたと報道され、同日にはNY連銀もレートチェックで動いた。ベッセント財務長官は、FOXビジネスとのインタビューで「円は非常に過小評価されている」、日本経済は好調で「いずれファンダメンタルズが反映されてくることになるだろう」と発言。この日、ドル円は当日高値の163.74円から157.95円と、5.79円も急落した。日銀が発表した当座預金増減要因と金融調節の「財政要因」の予想と短資会社2社の数字に基づけば、本邦当局は6.4兆~7.25兆円の介入を実施したとみられる。1日としては、2022年以降で最大規模となる見通しだ。

チャート:2022年以降、日本による介入実績(※7月31日はデータを確認できていないため含まず)

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7月31日には日銀が政策金利を1%に据え置く一方、植田総裁が「利上げのペースを速める可能性がある」と述べ、半年に1回という従来の利上げペースからの前押しを示唆した。この間、三村財務官は「米当局からは単なる精神的支援を超える支援を得ている」と言及。市場関係者の間では、レートチェックだけでなく「米国による実弾介入」が警戒されるなか、NY時間には米財務省が市中銀行に対し、円買いで介入する可能性を告知したとの報道が駆け巡った。8月1日未明には、ベッセント財務長官の「やることリスト:円買い、50-100億ドル」と明記された閣議中のメモが拡散される。続いて、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙が、米財務省がニューヨーク連銀を通じてユーロを売り円を買う形で介入に加わったと伝えた。

米国自身が円買いに動くのは1998年6月以来、28年ぶりとなる。2011年にも協調介入を行ったが、G7としてであり、東日本大震災後の円急伸に伴う円売り介入だった。

米国介入を支える資金の仕組みと、ユーロ売り・円買い介入の理由

今回の日米協調介入で、米国がドルではなくユーロを売却するという手法は、変動相場制移行後、前例がない。とはいえ、米国の為替介入の原資に焦点を当てれば、ユーロ売却は十分にあり得る選択肢だった。米国の為替介入の原資は、米財務省が所管する為替安定化基金(Exchange Stabilization Fund、ESF)である。1934年の金再評価益を原資に設立され、毎年の議会歳出承認を経ずに、米財務長官の裁量で運用できる自己完結型の基金だ。6月末時点で、総資産は約2,170億ドルに達する。内訳は、IMF特別引出権(SDR)関連が約1,721億ドルと過半を占め、米国債(非市場性)が約245億ドル、外貨建て資産(ユーロ・円)が短期・長期合わせて約188億ドルとなっている。通貨別では、ユーロ建て資産が約129.5億ドル、円建て資産が約57.9億ドルで、ユーロの保有規模が円のおよそ2.2倍に達する。今回、ドルではなくユーロを取り崩して円を買った背景には、この資産構成上の事情も指摘できよう。

もう一つの手がかりが、ラガルドECB総裁の6月22日の発言にある。ラガルド氏はIMFの試算を引用し、人民元が15~16%過小評価されていると指摘、G7を中心とした国際的な為替協議の必要性を訴えた。同時に、1985年のプラザ合意のような枠組みを人民元に適用することには否定的な考えも示している。欧州が対中貿易赤字に苦しむ中、通貨の不均衡はドル・円だけでなく、ユーロ・人民元の問題でもあるとの認識が広がっており、米国がユーロを取り崩して円を支えたことは、ドルそのものの信認を損なわずに済むという実務的な利点に加え、通貨の不均衡是正という文脈で欧州との足並みを意識した可能性もある。

ベッセント氏によるメモ「円買い、50億―100億ドル」が取り沙汰されたが、過去の介入実績は2011年3月の10億ドルが最大だ。ESFのうち外貨資産が約188億ドルである事実を踏まえても、その保有分だけで賄うのは現実的とは言い難い。ベッセント氏は、5月末にも「resilience(強靭性)」と書かれたメモが撮影された際、記者団に理由を問われた際に笑いながら「みんなが肩越しに覗き込んで写真を撮り、スクープを得たと思ってくれる」と回答。当時は、イラン戦争による原油高発のインフレと、経済への打撃が懸念されていたため、カメラに撮られることを見越して市場・世論に発信したと考えられる。今回のメモも、円安是正への意図的な市場向けシグナルだったと読むのが自然だろう。

チャート:ESFの外貨建て資産内訳

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チャート:過去の米国による介入実績

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ただし、ESFは2025年10月、200億ドルの為替安定化協定(通貨スワップ)をアルゼンチン中央銀行と新規締結した前例があり(実際に使われたのは25億ドルで、同年12月に全額返済済み)、同様の枠組みを日本と結べば規模が膨らむシナリオも意識される。加えて、FRBと日銀の間には2013年以降常設化された通貨スワップ網(C6)も存在するが、これは本来、金融市場の資金繰り逼迫時のドル・円流動性供給を目的とした仕組みであり、為替介入の原資として転用された前例は確認できていない。

なお、ESFの資産が米国の外貨準備の全てというわけではない。米財務省の説明によれば、公式準備資産のうちESFの資産となるのは外貨準備とSDRの部分のみで、外貨準備はさらにESFとFRBのシステム公開市場勘定(SOMA)で分割保有されている。SOMAの外貨資産は米国政府資産ではなく、いかなる政府財務諸表にも計上されない。IMFリザーブポジションと金は、ESFの資産ではなく財務省一般勘定の資産である。米財務省が介入を実施する直前の7月24日時点で、外貨準備の合計は約375億ドルで、うちESFの開示分(6月末時点で約188億ドル)を差し引くと、SOMA分はおよそ186億ドルと推計され、歴史的な50対50の折半慣行にほぼ合致する。米国の公式準備資産総額は、この外貨準備にSDR(約1712億ドル)、IMFリザーブポジション(約311億ドル)、金(約110億ドル)を加えた約2,509億ドルである。

ベッセント氏、協調介入に張り巡らされた計算

ベッセント氏が重い腰を上げて、日本と協調して本格的な円安是正に取り組んだ理由は、3つ考えられる。その1つが、米国債最大保有国である日本による米国債売却を抑えたいという米側の思惑だ。日本が単独で介入すれば、原資確保のために米国債を売却し、米債利回りを押し上げる可能性がある。こうした市場への負荷を避けるため、米国自身が介入に参加し、今後日本が米国債売却による介入を控えるよう、お膳立てしたとみられる。その意味で、米国が協調介入を実施した7月31日、日本の財務省が米国債を直接売却しなくても、2020年に導入されたFRBの常設ドル資金供給制度「FIMAレポファシリティ」――保有する米国債を担保にドル資金を借り入れる仕組み――を使えばドルを調達できる、とXで説明していた事実は興味深い。

2つ目は、高市政権への援護射撃が考えられる。足元、高市政権の支持率は皇室典範改正に加え、円安によるインフレ加速もあり、支持率は軒並み低下中だ。時事通信の世論調査では49%と政権発足以来で最低を更新し、直近のJNN世論調査でも前回から6.7ポイント下落し、59.2%となった。高市政権は、対米投資5,500億ドルの実現に積極的だ。さらには、レアアースなど重要鉱物など供給網の再構築、日本版CFIUSと呼ばれる対日外国投資委員会の設立を含め、対中戦略で重要な同盟国だ。仮に高市氏が辞職に追い込まれ、一連の方針が撤回されれば、トランプ政権には大きな痛手となる。

3つ目に、財政面の計算も透けて見える。外国為替資金特別会計(外為特会)は、円買い・ドル売り介入を実施すれば、円高時代に取得した外貨資産を現在の円安水準で売却する形になり、差益が生じる。この差益は現行ルールで3割が外為資金に留保され、7割が一般会計に繰り入れられる。2025年度は剰余金5兆565億円のうち3兆1300億円が26年度一般会計に繰り入れられ、7,520億円が防衛財源に充当済みだ。片山氏自身も2月に、7割ルールを外して剰余金を全額一般会計に繰り入れるべきだとの意見について「(今後の)議論で出てきたら検討するのだろう」と含みを持たせている。ベッセント氏が円安是正に動くことは、結果的にこうした日本国内の財源論議を後押しする面もある。財源を確保できれば、赤字国債による財政悪化と日本の長期金利急伸を避けられるだけでなく、その波及が米国など世界に及ぶリスクも防げる。

ベッセント財務長官、片山財務相は「さらなる協調介入躊躇せず」

日米両財務相は日本時間の8月3日、今回の協調介入について公式に発信した。ベッセント氏はXにて、7月31日の協調行動を「無秩序な円の動きに対抗するもの」と位置づけたうえで、「さらなる協調介入への参加を躊躇しない」表明。「円の大幅な過小評価を是正するための、日本の断固たる市場および金融政策上の措置を強く支持する」とし、日銀の利上げ継続を強調した。そのうえで「およそ15年にわたる強力な景気刺激策が、持続的で強靭な基調的経済ダイナミズムを生み出したことにより、高市政権は期待高まる新たなアベノミクスの段階を迎えつつある」と締め括った。

片山氏も、「今後、更なる協調介入を実施することも躊躇しない」とベッセント氏と歩調を揃え、今回の介入が2025年9月の日米財務大臣共同声明に基づくものだと説明。米国と歩調を合わせ、日本も将来的にFIMAレポファシリティの活用を予定していると明らかにした。この後、ドル円は157.80円付近から一気に156円割れまで急落。日米の協調介入だとすれば、「さらなる協調介入を躊躇しない」との姿勢を、有言実行で示した格好と言える。

一見すると、両者の発言は友好的な協調姿勢で足並みをそろえたように映る。ただし、ベッセント氏によるXでの「アベノミクス」の言及は、2025年10月の訪日以来、2回目だ。当時は「アベノミクスが単なるリフレーション政策から、国民の成長とインフレへの懸念のバランスを取るプログラムへと進化したことに対する彼女の深い理解に勇気づけられている」と投稿していた。こうした事情もあり、米国による協調介入を受け、高市政権は「対価」を支払う可能性に留意したい。

まず、ベッセント氏が就任以来、一貫して訴えてきた日銀の利上げをめぐり今回も言及しただけに、高市政権の消極的姿勢の修正シナリオが想定される。ベッセント氏は協調介入に踏み切ったその日、Xにて8月末にノースカロライナ州アッシュビルで開催されるG20財務相・中央銀行総裁会議で植田和男日銀総裁と会えるのを楽しみにしていると投稿した。2025年10月や今年5月など、同氏の訪日や植田氏との会談の後に日銀が利上げに動く傾向があり、今回もその一環と捉えられよう。

チャート:ベッセント氏と日銀のアクション

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日銀にとっても、この催促に応じる誘因はある。9月は欧州中央銀行(ECB)やニュージーランド準備銀行(RBNZ)など複数の中銀の利上げが意識される時期で、日銀だけが動かなければクロス円で円が一段安となるリスクが警戒されるためだ。

チャート:ベッセント財務長官の発言、米財務省からの主な発信

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もっとも、対価が利上げだけにとどまるなら、効果は一時的となりかねない。高市政権が円安を容認するブレーンを重用し続け、財政拡張路線を維持するなら、根本的な方向性は変わらないためだ。さらに踏み込んで、政府と日銀のアコード見直しにまで至るかが焦点となりうる。特にデフレ時代に結ばれたこのアコードは、機動的な金融政策の妨げになっているとの見方もあり、修正圧力にさらされてもおかしくない。それでもアコードが温存されるなら、トランプ政権後に同様なスタンスを持つ政権が続いた場合、円安の構造そのものが表面化する恐れがある。今回の協調介入は、あくまで急激な変動を抑える対症療法であり、少なくとも日本が金融・財政政策の枠組みそのものに手を付けない限り、円安の病巣は根絶されそうもない。

<<< 以上 ~ TRADOM為替アンバサダー安田佐和子氏の8/3付weekly reportより抜粋 ~ >>>

今週から8月、いよいよ猛暑の夏本番を迎えました。また、11月の米中間選挙はあと3か月に迫ってきています。低迷が続く支持率の回復に躍起となっている米トランプ政権。しかし、年明け以降の「力による安定」をアピールしたい政権の(目に余るほどの“唯我独尊”的な)政策に対する透明性や評価はますます悪化しているように思われます。これに伴って、金融市場全体のボラティリティは一段と高まりこそすれ、落ち着き・低下することは想定しづらい状況です。

こんな状況だからこそ、 (いつも申し上げているとおり)今後も「過度に予断を持たず変化の兆しを見落とさぬ姿勢」を貫き、金融資本市場全体を引き続き注視してゆかねばならないと考えています。

お知らせ➀:今週もご紹介しましたが、米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに短期を中心としたUSD円相場見通しについては、トレーダム為替アンバサダーでもある安田佐和子氏のレポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。

TRADOMユーザーの方々はサイト内で是非ご参照下さい。

お知らせ②:トレーダムでは「5月22日、ステーブルコインを活用したクロスボーダー決済サービス『トレーダム ペイメント』の提供を開始」しました。日経新聞を始め多様なメディアに取り上げられておりますので、是非ご一読ください。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB251ET0V20C26A5000000/?n_cid=dsapp_share_ios

2026/8/3

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