Weekly Report(6/15)「米・イラン覚書合意、日銀、FOMC…ドル円のピークアウトをもたらすか  」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

ストリート・インサイツ代表取締役、経済アナリスト 世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの上級主任/研究員を経て、株式会社ストリート・インサイツを設立。その他、トレーダムにて為替アンバサダー、計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員、日本貴金属マーケット協会のフェローを務める。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は6月8日週に1.06円と、その前の週の1.04円から小幅拡大した。前週比では▲0.09円となり、週足でわずかに5週ぶり反落。年初来では2.26%高と、5週ぶりに上げ幅を縮小した。イランが米軍ヘリ“アパッチ”を撃墜した結果、米国がイランを再攻撃し両者の間で再び緊張が高まり、ドル円は一時160.60円と年初来高値をつけた4月30日の160.70円に接近。しかし、トランプ大統領がイランとの覚書で最終合意が近いと発言したため、一時160円割れを迎えた。
  • 6月15-16日の日銀金融政策決定会合では0.25%の利上げと国債買い入れ減額停止が有力視され、内田副総裁の会見での追加利上げへの言及が最大の焦点となる。ドル円は160円台にあり、米イラン和平合意による「有事のドル買い」の巻き戻しと、6月FOMCが市場の想定ほどタカ派とならない場合には、足元のドル円上昇の流れが一旦ピークアウトする可能性がありそうだ。投機筋の円売りポジションが2024年7月以来の高水準に積み上がるなか、ベッセント財務長官が発言したように日米が緊密に連携するのであれば、2024年7月のような介入による「2匹目のどじょう」も視野に入る。
  • 6月16-17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、声明文からの緩和バイアス削除、経済・金利見通し(SEP)での年内1回利下げ予想の撤回が見込まれ、タカ派的な変更と受け取られそうだ。ただし米5月消費者物価指数(CPI)は概ね市場予想となったほか、米5月生産者物価指数(PPI)のコアは鈍化し、米イラン和平による原油価格の落ち着きもインフレ加速回避への追い風となりうる。ウォーシュ新米連邦準備制度理事会(FRB)議長の会見がタカ派的な印象を和らげるならば、ドル売りで反応するシナリオが見込まれる。
  • 米国とイランは6月14日、覚書の合意に達し、ホルムズ海峡の無料通航と米海軍封鎖解除で認識が一致した。しかし核開発プログラムの処置(「米国による破壊・撤去」対「イランが主張する同国内での希釈」など)、凍結資産の解放規模・タイミング、制裁解除の範囲などで根本的な食い違いが残る。オバマ政権下のイラン核合意(JCPOA)にはなかった経済的抑止構造や即時検証可能なホルムズ再開という強みがある一方、査察メカニズムの不在や代理勢力の統制が懸念材料だ。歴史的にはベトナム戦争時のパリ和平協定でみられた「時間稼ぎ」の構図とも重なる。6月19日のスイス署名式後、60日間の最終交渉の帰趨が真の平和か壮大な時間稼ぎかを決める。
  • ドル円のテクニカルは一目均衡表のローソク足が遅行線を抜き、雲の上限を突破しており、転換線が基準線を抜ければ「三役好転」が成立する状況で変わらない。6月11日に米国とイランの覚書で最終合意が近いとトランプ氏が発言したタイミングで下落した場面では、21日移動平均線がサポートとなり、下値の堅さを確認。2週連続で160円乗せを維持して週を終えたことも、強気地合いを維持する流れと言えよう。RSI(14日)も59.34で引け、割高の節目となる70が遠ざかっており、上値余地がありそうだ。とはいえ、今週は日銀金融政策決定会合とFOMCを控える。特に6月FOMCは、年内利上げ観測が強まる状況で、市場の想定よりタカ派でなければ、政府・日銀による介入と重なり、ドル円が一旦ピークアウトとなる可能性にも留意すべきだ。中銀ウィークに加えG7首脳会議も15日から開催されるため、乱高下も意識される。
  • 6月15日週の主な経済指標をみると、15日に米6月NY連銀製造業景況指数、16日に中国5月小売売上高・鉱工業生産、米5月輸入物価指数、17日に日本5月貿易統計や4月機械受注、英5月消費者物価指数、米5月小売売上高が控える。18日にNZQ1GDP、英5月失業率、米新規失業保険申請件数、米6月フィラデルフィア連銀製造業景況指数、19日は米国がジューンティーンスの祝日で休場のなか、日本5月全国CPI、英5月小売売上高を予定する。
  • その他、政治・中銀関連では15日にG7首脳会議(17日まで)、ラガルドECB総裁発言、16日に豪準備銀行(RBA)の政策金利発表、日銀金融政策決定会合と内田副総裁の会見(植田総裁入院により代行)、米20年債入札、17日にFOMCとウォーシュ新FRB議長の会見、18日にスイス国立銀行とイングランド銀行の政策金利発表、19日に4月の日銀金融政策決定会合・議事要旨の公表を予定する。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の161.50円、下値は50日移動平均線が近い159円ちょうどを見込む。


【6月8日週のドル円レンジ:159.54~160.60円】

ドル円の変動幅は6月8日週に1.06円と、その前の週の1.04円から小幅拡大した。前週比では▲0.09円となり、週足でわずかに5週ぶり反落。年初来では2.26%高と、5週ぶりに上げ幅を縮小した。イランが米軍ヘリ“アパッチ”を撃墜した結果、米国がイランを再攻撃し両者の間で再び緊張が高まり、ドル円は一時160.60円と年初来高値をつけた4月30日の160.70円に接近。しかし、トランプ大統領がイランとの覚書で最終合意が近いと発言したため、一時160円割れを迎えた。

8日のドル円は、売り優勢。東京時間早々に、トランプ大統領がイスラエルとイランが停戦を望むと発言、その後にイラン外務省が対イスラエルの作戦終了を表明し、「有事のドル買い」が失速、ドル円は売りが先行した。ロンドン時間には、一時159.84円まで本日安値を更新。もっとも、イラン側は再攻撃なら報復を辞さない構えを残すだけに、160円割れは押し目を拾われた。NY時間にイスラエル首相が攻撃中止を発表したものの、こちらも攻撃再開なら軍事作戦に出ると強調したため、買い戻された160円前半で終えた。

9日のドル円は、上昇。東京時間の序盤に片山さつき財務相が断固たる措置取る用意「常に変らない」と強調したものの、市場は反応せず、ドル円は160円前半での推移を保った。日経新聞が6月利上げと国債買入減額停止を報じると、160.05円まで本日安値を更新も大台は抜けられず。ロンドン時間では買い戻され、NY時間にトランプ大統領がイランによる米軍ヘリ撃墜に反応しイランへの報復を警告すると急伸し、一時160.39円まで切り上げた。

10日のドル円は、続伸。東京時間の序盤に一時160.24円まで本日安値を付ける場面があったものの、買いの流れが続いた。植田日銀総裁が入院し6月会合を欠席するとの報道が飛び出すと、利上げ見送り観測から急伸し、一時160.50円をトライする展開。一旦上げ渋り、NY時間には米5月CPIが市場予想と一致したため伸び悩むかにみえたが、トランプ大統領がイランの発電所や橋を標的とするよう命じる可能性を示唆すると、160円半ばを超えていった。米株安を受けたリスクオフも重なりジリ高が続き、一時160.54円まで本日高値をつけた。

11日のドル円は、急落。ドル円は東京時間に買い先行、トランプ政権とイランの攻撃を受け覚書へ向けた協議が腰折れする懸念から、ジリ高の流れが続いた。NY時間の入り米5月生産者物価指数(PPI)の総合が市場予想を上回った瞬間に一時160.60円と4月30日の高値160.73円に接近。しかし、その後にトランプ氏がイランへの攻撃中止を発表しただけでなく、イランとの協議が最終段階に入ったと明かしたため、WTI原油先物につれ「有事のドル買い」が巻き戻されドル円は急落し160円割れを試す展開。下値では押し目を拾われつつ、ダメ押しとしてトランプ氏が記者団にイランとの和平合意は「数日以内」に行われる予定と述べたため、再び売りに圧され3日ぶりに160円を割り込み一時159.54円まで週の安値をつけた。21日移動平均線がサポートとなり下げ止まると、160円台へ戻してNY時間を終えた。

12日のドル円は、買い戻し。東京時間はイランが覚書の合意が近いとのトランプ発言を否定したとの報道が見直され、粛々と買い戻されていった。ロンドン時間には、一時160.38円まで本日高値を更新。しかし、イランの準国営のメフル通信が米国とイランの覚書、30日以内にホルムズ海峡再開と規定など内容を報じると、合意への期待感から有事のドル買いの巻き戻しが再び入り、一時159.95円まで本日安値をつけた。160円割れでは再び買い戻され、イランのアラグチ外相が最終合意が近いとの投稿もあって上値は限られた。

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