Weekly Report(6/29)「ドル円は162円目前、高市政権の骨太方針と米6月雇用統計のせめぎ合い」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

ストリート・インサイツ代表取締役、経済アナリスト 世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの上級主任/研究員を経て、株式会社ストリート・インサイツを設立。その他、トレーダムにて為替アンバサダー、計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員、日本貴金属マーケット協会のフェローを務める。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は6月22日週に0.88円と、その前の週の2.07円から縮小した。前週比では0.44円上昇し、週足で続伸。年初来では3.2%高と、最大の上昇率を更新した。米国の9月利上げ期待が高まるなかで、ドル円は上昇トレンドを維持。片山財務相とベッセント財務相がオンライン会談を行ったが下落は一時的で、日銀6月会合の主な意見や田村審議委員のタカ派的な内容にも反応薄だった。米5月PCE価格指数の発表前には、一時161.95円と2024年7月高値に並んだ。ただ、同指数の結果が市場予想と一致すると、上げ幅を縮小した。(次葉より抜粋/引用)
  • 高市首相は就任後、日銀金融政策決定会合に城内経財相をたびたび送り込み、利上げに慎重な姿勢を示してきた。6月会合では、内閣府から説明責任の徹底や景気変動への主体的対応を求める意見が示され、城内氏はこれを踏襲した見解を表明済みである。日銀側はこれを受け、内田・氷見野両副総裁が利上げと政府の成長戦略との整合性を強調し、説明責任を尽くしている。しかし7月の「骨太の方針」には金融政策運営への言及が明記される見通しで、政権と日銀の隙間風は強まりそうだ。ドル高・円安が進むなか、両者の政策のねじれは円売りリスクとして意識される。
  • ベッセント財務長官は6月、主権・経済安全保障の回復を掲げる5原則を提示し、基軸通貨ドルを国家戦略の中心と位置づけた。これは、ドル高を望むというより、ベネズエラ・イランのペトロダラー体制復帰や凍結資産解除を通じ、為替レートより基軸通貨の構造的地位強化を重視する姿勢と捉えられる。一連の発言は、日銀の利上げ・財政規律を促してきた同氏の立場とも整合し、利上げをけん制する高市政権との方向性の違いが浮かぶ。まもなく公表の為替報告書が、その本音を見極める試金石となりそうだ。
  • 米6月雇用統計の非農業部門就労者数(NFP)は、ワールドカップの特需を見込んだ採用活動が落ち着き、前月の17.2万人増から11.5万人増に鈍化する見通しだ。失業率は、4カ月連続で4.3%と予想されている。シカゴ連銀のナウキャストや全米リアルタイム求人広告動向指数をみると、サプライズが見込まれない。ただ、米6月製造業PMI速報値では雇用が2020年5月以来の水準へ低下しており、米国の雇用は静かに、ゆるやかに鈍化しつつあるようだ。
  • ドル円のテクニカルは強気方向を維持し、週足ベースでダブルボトム形成前の高値161.95円を達成した。この先、心理的節目の162円、さらに1986年12月の高値付近の163.50円をトライする地合いが固まったようにみえる。一方で、RSI(14日)が割高の節目である70を超えるなかで上値が重い。今週は米指標が9月利上げ期待を確認する時間帯に入ってきたといえよう。
  • 6月22日週の主な経済指標をみると、30日に日本5月失業率や有効求人倍率、独6月CPI速報値、米6月消費者信頼感指数、米5月雇用動態調査(JOLTS、求人件数含む)、7月1日は日銀短観発表、ユーロ圏や独米の製造業PMI改定値、ユーロ圏6月消費者物価指数の速報値、米6月ADP全国雇用者数、米6月ISM製造業景況指数、2日には米6月雇用統計、3日はユーロ圏と独の総合PMI改定値を予定する。
  • その他、政治・中銀関連では29日にラガルドECB総裁の発言、米国とイランの実務者協議再開、30日に豪準備銀行(RBA)の金融政策会合議事要旨公表、7月1日にウォーシュFRB議長を始め先進国中銀総裁によるパネルディスカッション、USMCAの延長期限、3日にラガルドECB総裁の発言が控える。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の162.50円、下値は21日移動平均線が近い160.70円を見込む。


【6月22日週のドル円レンジ:161.07~161.95円】

ドル円の変動幅は6月22日週に0.88円と、その前の週の2.07円から縮小した。前週比では0.44円上昇し、週足で続伸。年初来では3.2%高と、最大の上昇率を更新した。米国の9月利上げ期待が高まるなかで、ドル円は上昇トレンドを維持。片山財務相とベッセント財務相がオンライン会談を行ったが下落は一時的で、日銀6月会合の主な意見や田村審議委員のタカ派的な内容にも反応薄だった。米5月PCE価格指数の発表前には、一時161.95円と2024年7月高値に並んだ。ただ、同指数の結果が市場予想と一致すると、上げ幅を縮小した。

22日のドル円は、買い優勢後に上げ幅縮小。ドル円はスイスでの米国・イラン協議において、トランプ大統領がイランに対し代理勢力を止められなければイランを再攻撃すると発言した流れを受け、イラン交渉団がスイスを去ったとの報道もあり、有事のドル買いが再燃した。片山財務相が「必要に応じて行動する」と発言したほか、高市首相が日銀に2%目標の持続的・安定的実現へ適切な政策運営を期待と述べても、反応薄。氷見野副総裁が衆院予算委員会で答弁したものの新味に乏しく、買いの流れが続いた。スイスでの米国・イラン協議を経て、パキスタンとカタールが共同声明を発表してもドル上昇は止まらず、ロンドン時間にスターマー英首相が辞意を表明しても、ポンド円が上昇するなど、円の弱さを確認した。しかし、NY時間に入り一時161.93円と2024年7月高値161.95円に迫った直後、161.20円台へ急落。その後、161.70円台へ戻したが、今度はJNNがベッセント財務長官と片山財務相が介入をめぐりオンライン会合を行ったと報じた。続いて、共同通信も両者のオンライン会談について伝え、ドル円は一時161.07円まで週の安値を更新。しかし、共同通信が為替だけでなくアンソロピックの「ミュトス」など高性能AIについて議論したと報じていたため切り返し、161円半ば付近まで切り返した。

23日のドル円は、小幅反落。東京時間は、片山財務相が22日のオンラインでのベッセント財務長官との会談について、日米合意「全く揺るがず」と発言もAI関連について協議したと発言したこともあって、161円前半でもみ合いが継続した。ロンドン時間入りにかけ一時161.74円まで本日高値を更新。NY時間に米6月総合PMI速報値が市場予想を上回ったほか、ベッセント財務長官が「強いドルの概念は為替相場そのものではない」と発言するなか、影響は限定的だった。そのほか、トランプ大統領がイランによる大規模兵器査察受け入れの必要性を強調し、バンス副大統領はイランが凍結資産解除を受けて米農産品を購入すると発言していた。

24日のドル円は、反発。東京時間に日本5月企業物価指数や、利上げ姿勢が協調された日銀の6月会合「主な意見」が公表され特に材料視されず、161円後半での推移を続けた。ロンドン時間に入ると、植田総裁の代読で挨拶した氷見野副総裁の発言には目新しさがなく、さらに日銀金融政策決定会合に出席した城内経財相が利上げに対する説明責任を求めた点が取り沙汰される場面も。また、政府の成長戦略に外為特会の「運用改善」検討が明記されたとロイターが報じたことで、為替介入による財源確保を通じた積極財政への思惑が広がり、ドル円が買い戻される要因としても意識された。NY時間には、WTI原油先物の下落に合わせドルストレートでユーロなどが買い戻され、クロス円が上昇し、ドル円もつれ高に。ベッセント財務長官がイラン情勢が物価やインフレに与える影響について、柔軟な姿勢を持つ必要があると発言したため、一部ではFedの利上げを容認と受け止められ、買いを後押し一時161.84円まで本日高値をつけた。

25日のドル円は、反落。東京時間に田村審議委員が数カ月に1回程度の利上げペースへ引き上げるべきなどタカ派的なコメントを寄せたため、一時161.56円まで本日安値を更新した。ただし、その後は米5月PCE価格指数の発表を控え買い戻され、NY時間の同指標発表直前に一時161.95円と2024年7月高値に並んだ。もっとも、米5月PCE価格指数が市場予想と一致するにとどまったため、161.50円台へ下落し本日安値に迫り、その後は161円後半でもみ合いが続いた。

26日のドル円は、小幅続落。東京時間は、6月東京都区部CPIが市場予想を前月から加速したが反応薄で、むしろ一時161.85円まで本日高値を更新した。しかし、ロンドン時間では売りが優勢となり、一時161.53円と本日安値を更新した。NY時間はイランがホルムズ海峡の貨物船に対しドローン攻撃した動きを受け、トランプ氏が停戦違反を主張し米中央軍がイランへの攻撃を再開したが、ドル円への影響は限定的だった。

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