Weekly Report(6/1)「植田総裁の講演と米5月雇用統計、ドル円の動意招くか  」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

ストリート・インサイツ代表取締役、経済アナリスト 世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの上級主任/研究員を経て、株式会社ストリート・インサイツを設立。その他、トレーダムにて為替アンバサダー、計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員、日本貴金属マーケット協会のフェローを務める。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は5月25日週に0.89円と、その前の週の0.76円から拡大した。前週比では0.06円と極めてわずかな上昇となりつつ、週足で3週続伸。年初来では1.7%高と、3週連続で上げ幅を広げた。米国とイランの交渉担当が停戦延長めぐる覚書で合意したとの報道が流れた直後、米軍がイラン船舶を攻撃し、イランもクウェートの米軍基地を報復するなど緊張が走り、ドル円は買い優勢となった。5月28日には一時159.65円と4月30日以来の高値を付けたが、上値では介入が意識された。
  • 6月の日銀金融政策決定会合での利上げ観測が強まり、5月29日時点では73%織り込む。複数の審議委員が利上げに前向きな発言を展開したほか、植田総裁との会談後のベッセント財務長官が日銀の利上げを後押ししただけに、利上げ期待が高まる。一方で、植田総裁を始め執行部は、2025年のような利上げシグナルを発していない。高市政権が補正予算編成や飲食料品の消費税1%への引き下げを検討するなか、財政拡張路線とインフレ加速への懸念から、長期金利には上昇圧力が強まる状況。6月で仮に利上げを行うなら、国債買い入れ減額を一時停止し、政権の財政拡張路線と足並みをそろえる場合もあり得よう。そうなれば、2024年7月のように介入と利上げがセットで実施されたとしても、円買い戻しが限定的となってもおかしくない。
  • 米5月雇用統計では、非農業部門就労者数(NFP)が前月の11.5万人増から9.2万人増へ伸び鈍化する見通しだが、失業率は4.3%で横ばいが予想される。全米リアルタイム求人動向指数や新規失業保険申請件数も大きな悪化は示していない。シカゴ連銀の失業率予測でも4.3%が最頻値だ。もっとも、雇用統計は民間データと乖離することもあり、弱い結果となれば、年末年始に織り込まれつつある利上げ期待が後退する可能性もありうる。
  • ドル円のテクニカルは前週に続き、強気方向を保つ。50日移動平均線のほか、一目均衡表の雲の上限を突破した。RSIも5月29日に55.86と中立水準の50に近く、上値余地がありそうにみえる。ただし、5月28日から2日連続で下値が切り下がってきた。160円手前では介入が警戒される水準とみられ、気迷い感も禁じ得ない。
  • 6月1日週の主な経済指標をみると、26日に日本Q1法人企業統計、中国5月RatingDog製造業PMI、ユーロ圏、独、米5月製造業PMI改定値、米5月ISM製造業景気指数、2日にユーロ圏5月消費者物価指数(HICP)速報値、米4月雇用動態調査(JOLTS)、6月3日に豪Q1GDP、中国5月RatingDogサービス業PMI、ユーロ圏、独、米5月総合PMI速報値(サービス業含む)、米5月ISM非製造業景気指数を予定する。4日は米新規失業保険申請件数、5日に日本4月実質賃金と消費支出、日本5月外貨準備高、米5月雇用統計が控える。
  • その他、政治・中銀関連では6月2日にミネアポリス連銀総裁とクリーブランド連銀総裁の発言、イスラエルとレバノンの協議再開(予定)、3日に植田総裁の講演、米地区連銀報告(ベージュブック)、ベッセント財務長官やバーFRB理事、ダラス連銀総裁の発言、4日はSF連銀総裁の発言を予定する。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の160.50円、下値は21日移動平均線が近い158.30円と見込む。


【5月25日週のドル円レンジ:158.76~159.65円】

ドル円の変動幅は5月25日週に0.89円と、その前の週の0.76円から拡大した。前週比では0.06円と極めてわずかな上昇となりつつ、週足で3週続伸。年初来では1.7%高と、3週連続で上げ幅を広げた。米国とイランの交渉担当が停戦延長めぐる覚書で合意したとの報道が流れた直後、米軍がイラン船舶を攻撃し、イランもクウェートの米軍基地を報復するなど緊張が走り、ドル円は買い優勢となった。5月28日には一時159.65円と4月30日以来の高値を付けたが、上値では介入が意識された。

25日のドル円は、買い戻し。ドル円は23日にアクシオスが「米・イランが覚書で署名間近」と報じ、トランプ氏も湾岸諸国や仲介諸国のトップらなどと発言し同様の見解を示したため、窓を開けて下落して始まった。東京時間の序盤に、一時158.76円まで本日安値を更新。しかし、まもなく159円台を回復し一時159.04円まで本日高値をつけた。高市政権が補正予算の編成を表明と伝わるなか、米英が休場とあって、その後の値動きは限られた。トランプ大統領がイランとの合意関与をめぐりサウジやカタールなど関係諸国にアブラハム合意署名を要請したが、値動きは限定的だった。

26日のドル円は、上昇。米国とイスラエルがイラン船を攻撃した結果、イランとの覚書署名が空中分解するリスクを警戒し、東京時間の序盤から買いが優勢となった。日銀が4月のコアCPI拡充版を発表したところ、特殊要因を除いたコアは加速も、コアコアと欧米型コアが鈍化し、材料視されず。ロンドン時間に入ってもゆるやかに上値を広げ、NY時間には一時159.38円まで本日高値を更新。トランプ大統領は、翌日27日にキャンプ・デービッドで異例の閣僚会議を招集すると報じられても159円前半での推移を保った。

27日のドル円は、続伸。東京時間の序盤に、トランプ大統領がキャンプ・デービッドでの閣僚会議を取りやめホワイトハウスで開催すると発表したが、特に反応せず売りで先行した。植田総裁が日銀の国際コンファランスの挨拶で発言したが、金融政策に示唆を与えなかったものの、一時159.18円まで本日安値を更新。その後はみずほFG社長が日銀利上げ幅0.5%なら「債券市場に好ましい」と発言も材料視されず上昇に転じ、NY時間にクウェート軍がイランによる米軍基地への報復攻撃を発表すると、ドル円は一時159.58円まで本日高値を更新し、高値圏で取引を終えた。

28日のドル円は、買い優勢を経て失速。東京時間はイランによる報復攻撃を受けた後の協議停滞の懸念を受けて窓を開けて上昇してスタートし、一時159.65円と4月30日以来の高値をつけた。もっとも、若田部元日銀副総裁が経済財政諮問会議で「日銀が利上げしても大丈夫な経済かが重要」と述べたことが伝わったものの反応薄で、介入警戒感からか下落に反転。NY時間には米Q1実質GDP成長率・改定値が下方修正されたほか、米4月PCE価格指数とコアが前月比で市場予想以下になった結果を受け、売りが入った。米政治ニュース大手アクシオスが「トランプ政権、イランと停戦延長で合意ー残すはトランプ大統領の最終承認のみ」と報じると、一時159.11円まで本日安値を付けた。

29日のドル円は、続落。東京時間の序盤に発表された東京都区部5月CPIは失速したため買いが入ったものの、一時159.38円まで本日高値を更新するにとどまった。前日のアクシオス報道が効き、米国とイランの覚書署名への期待感が、上値を抑えたもよう。4月28日から5月27日までの介入規模が約11.7兆円と発表されたが反応薄で、NY時間にトランプ氏がイランとの覚書をめぐる停戦合意についてシチュエーションルームで「最終判断」すると投稿すると、一時159.10円まで本日安値をつけた。

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