―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は5月11日週に2.29円と、その前の週の2.91円から縮小した。前週比では2.09円の上昇と、3週ぶりに反発。年初来では1.3%高と、概ね横ばいとなった前週から再びプラス幅を広げた。ベッセント財務長官が訪日に際し事実上の介入容認姿勢を表明した一方、日銀の金融政策について「植田総裁が適切な金融政策運営へ導くと全面的に信頼している」と発言する程度にとどまり、為替への影響は限定的だった。むしろ、米国とイランとの間の戦争終結へ向けた協議とホルムズ海峡通行正常化への期待後退に伴う世界的なインフレ加速懸念、米物価指標の上振れと米債利回り上昇を受け、ドル円は再び買いが優勢。5営業日連続で続伸した結果、4月30日に開始した介入からの61.8%戻しとなる158.55円を超えて週を終えた。
- 日銀は4月会合を据え置いたものの、「主な意見」では原油高やインフレ予想の上振れを踏まえ、6月利上げを視野に入れたタカ派姿勢が鮮明となった。「早期利上げの必要性」や「中立金利までの継続的な引き上げ」などが確認され、「主な意見」公表後で初めてとなった増審議委員の講演でも、景気下振れなければ早期利上げを支持する方針を表明。ホルムズ海峡の実質封鎖で物価圧力は強まり、4月の企業物価指数は前年比4.9%と市場予想を大幅に上回り、円ベースの輸入物価も上振れする状況だ。インフレ加速への懸念が高まるなか、6月会合で利上げ票が増える可能性が視野に入る。
- ベッセント財務長官の訪日で、日米は「過度な為替変動は望ましくない」との認識を再確認し、4月15日の会談後と同様に緊密な連絡継続を強調した。一方で、日本の介入に伴いNY連銀保管の各国中銀の米国債残高は約480億ドル減少し、日本が米国債を売却した可能性が高い。米インフレ再加速で米金利が上昇するなか、米側が介入を容認できる余地は限られ、日銀は利上げによる物価抑制を迫られるとの見方が強まっている。
- 米4月消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)はいずれも市場予想を上回り、インフレ再加速が鮮明となった。CPIは帰属家賃が政府機関閉鎖に伴うデータ欠測の影響の反動やエネルギー高で総合・コアともに伸びが強まり、航空運賃や宿泊も急騰。PPIは前月比1.4%と大幅上昇し、特にトレードサービスの利幅拡大が顕著で、ホルムズ海峡の封鎖によるコスト転嫁が進んだ。米4月小売売上高は名目で堅調なところ、実質は減少し消費の強さはインフレ要因が中心。こうした指標を受け、FF先物市場では年内据え置き後、2027年1月からの利上げ開始観測が台頭。ウォーシュFRB新議長の最初の課題はインフレ抑制となり、6月FOMCでの政策方針が焦点となる。
- ドル円の週足は強気方向へ転換した。4月30日の高値と5月6日の安値の61.8%戻しを達成して引けただけでなく、一目均衡表の基準線、21日及び50日移動平均線など複数のレジスタンスを突破しており、一目均衡表の雲の上限158.92円を抜ければ、再び160円乗せが視野に入る。今週は18~19日にG7財務相・中央銀行総裁会議を予定するなか、この間に介入が手控えられると判断されれば、週初から上値を狙う余地もありそうだ。
- 5月17日週の主な経済指標をみると、18日に中国4月小売売上高と鉱工業生産、3月対米証券投資、物価指数(PPI)、19日に日本Q1実質GDP速報値、英4月失業率、20日に英4月CPI、ユーロ圏4月HICP改定値を予定する。21日に日本4月貿易統計と3月機械受注、豪4月失業率、ユーロ圏や独、米など総合PMI速報値(製造業、サービス業含む)、米新規失業保険申請件数、米5月フィラデルフィア連銀製造業景気指数、22日には日本4月全国CPI、米5月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値が控える。
- その他、政治・中銀関連では5月18日から前述したようにG7財務相・中央銀行総裁会議(19日まで)のほか、19日は豪準備銀行の金融政策会合議事要旨公表、ウォラーFRB理事の発言、20日にプーチン露大統領の訪中、フィラデルフィア連銀総裁発言、米20年債入札、4月FOMC議事要旨の公表、エヌビディア決算を予定する。21日には小枝審議委員の発言、22日には日銀債券市場参加者会合(バイサイド)、ウォラーFRB理事の発言が控える。
- 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の160円、下値は100日EMAが走る157.20円と見込む。
1.ドル円振り返り=米物価指標などの上振れで、ドル円は4月30日以降の下げの61.8%戻し達成
【5月11日週のドル円レンジ:156.56~158.85円】
ドル円の変動幅は5月11日週に2.29円と、その前の週の2.91円から縮小した。前週比では2.09円の上昇と、3週ぶりに反発。年初来では1.3%高と、概ね横ばいとなった前週から再びプラス幅を広げた。ベッセント財務長官が訪日に際し事実上の介入容認姿勢を表明した一方、日銀の金融政策について「植田総裁が適切な金融政策運営へ導くと全面的に信頼している」と発言する程度にとどまり、為替への影響は限定的だった。むしろ、米国とイランとの間の戦争終結へ向けた協議とホルムズ海峡通行正常化への期待後退に伴う世界的なインフレ加速懸念、米物価指標の上振れと米債利回り上昇を受け、ドル円は再び買いが優勢。5営業日連続で続伸した結果、4月30日に開始した介入からの61.8%戻しとなる158.55円を超えて週を終えた。
11日のドル円は、買い戻し。トランプ大統領が現地時間10日、戦闘終結へ向けた米国の覚書に対するイランの回答に核開発放棄が含まれなかったため、受け入れない姿勢を示した結果、「有事のドル買い」が再燃した。ベッセント財務長官の訪日前ながら、ドル円は東京序盤から157円台を回復。NY時間にトランプ氏が再びイランへの回答を批判したため、一時157.27円まで本日高値を付けた。
12日のドル円は、続伸。東京時間の午前中に行われた片山財務相とベッセント財務長官の会談を無難に消化するなか、上方向を試す展開となった。157.70円を超えた後、一時的に156.73円まで1円も急落し本日安値をつけたものの、下値は限定的。ベッセント財務長官が高市首相と会談した後に会談で「過度な変動は望ましくないとの認識で一致している」、植田総裁が「日銀を成功へ導く金融政策を進めることに大きな信頼を寄せている」と発言した程度で、明確に利上げを促すことはなく、買い戻し基調につながった。NY時間には米4月消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回ったが、直後はそれほど反応しなかったものの、NY終盤にかけ一時157.77円まで本日高値をつけた。
13日のドル円は、3日続伸。ドル円は157円後半でもみ合いつつ、158円の大台を狙う展開となった。NY時間には米4月生産者物価指数(PPI)が市場予想を大幅に上回り、157.90円台に上昇。その後は上げ渋りつつ、バランスシートの縮小を唱えるウォーシュ氏のFRB議長就任が承認されたこともあって、NY時間終盤に一時157.93円まで本日高値をつけた。
14日のドル円は、4日続伸。米中首脳会談を控え、ドル円は窓を開けて下落してスタートしたが、間もなく買い戻された。東京時間の正午過ぎには、再び158円台に接近。その後、増審議委員が景気下振れの兆し表れなければ、「できる限り早い段階での利上げが望ましい」と述べたことで、一時157.31円の本日安値へ急落する場面がみられたが、買いトレンドは継続。NY時間には、米4月輸入物価や小売売上高が市場予想を上回ると、158円台を突破すると、直後に157.30円台へ急落する場面がみられたがすぐに切り返し、NY時間終盤には一時158.42円まで本日高値をつけた。
15日のドル円は、5日続伸。東京時間の序盤は米中首脳会談で中国が米国産原油購入に前向きと報じられ、ホルムズ海峡正常化へ向けた協調などが確認されないなか、ドル円は買いの流れが続いた。日本4月企業物価指数が上振れしたものの、ドル高の勢いを相殺できず。イランのアラグチ外相の停戦維持やホルムズ海峡の航行について言及する局面でWTI原油先物が103ドル割れへ急落する場面がみられたが、ドル円への反応は限定的で、NY引けにかけては一時158.85円と4月30日以来の高値をつけた。
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