―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は3月9日週に2.48円と、その前の週の1.97円から拡大した。前週比では1.91円上昇し、4週続伸。年初来では、1.9%高と、2週連続でプラスとなった。週初から原油相場と地政学リスクに翻弄される展開。イラン情勢の緊迫化でWTI原油先物が一時119ドル台へ急伸するなか、ドル高・円安が加速した。一方、トランプ大統領の「軍事作戦終結が近い」発言や石油備蓄放出観測が上値を抑える場面も見られたが、限定的。むしろ、週末にかけては米1月PCE価格指数や求人件数の上振れが追い風となり、159.76円と年初来高値を更新した。
- 米・イスラエルのイラン攻撃が長期化の様相を呈する中、ホルムズ海峡の事実上の封鎖という近代史上初の事態が世界のエネルギー供給を直撃している。1970年代の石油危機では利上げと需要抑制の「総合パッケージ」が奏功したが、財政ドミナンスの制約を抱える現代日本にその再現は難しい。高市政権の「責任ある積極財政」路線の下、原油高とインフレ加速観測が円売り圧力を高めるリスクもある。今週予定の日銀金融政策決定会合では、4月の利上げの選択肢を確保する見通しだが、利上げだけでは円安に歯止めをかけられるかは、不透明と言わざるを得ない。介入も、原油高の状況では効果が限定的とみられる。やはり、停戦合意による原油価格の正常化が円安回避の鍵を握ることだろう。
- 今週は主要中銀の政策発表が集中する「中銀ウィーク」だ。豪準備銀行(RBA)は原油高を受け利上げの見通しで、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(BOE)も、今回は据え置きながら年内利上げが織り込まれつつある。FOMCは据え置きが確実視されるが、焦点は経済・金利見通し(SEP)だ。米2月雇用統計・非農業部門就労者数が減少した一方、米1月コアPCEとスーパーコアが約2年ぶりの加速を示した。原油高も重なるスタグフレーション懸念が強まる状況下、今年の成長率の下方修正、インフレと失業率の上方修正が見込まれる。FF金利見通しは、年内1回の利下げ予想が僅差で維持されるのではないか。
- ドル円の日足は、三役好転を維持するだけでなく、ダブルボトムのネックライン(157.66円)がサポートと化している。加えて、1月23日の高値159.23円だけでなく、1月15日の高値159.45円も超えて、3月13日の週末に159.73円と高値引けすると共に年初来高値を更新した。WTI原油先物が100ドルを突破する流れで、160円超えが視野に入る。一方で、RSIは69.72と過熱圏手前まで上昇しており、買いの勢いは維持されているものの、短期的な達成感から利食い売りが上値を抑える場面も想定される。原油高・米金利上昇というファンダメンタルズの追い風が続く限り、上値余地も意識したい。
- 3月16日週の主な経済指標をみると、16日は中国2月小売売上高と鉱工業生産、米3月NY連銀製造業景気指数、米2月鉱工業生産、17日は米2月景気先行指標総合指数、18日は日本2月貿易統計、米2月生産者物価指数(PPI)などが予定される。19日は日本1月機械受注、豪Q4GDP、豪2月失業率、米前週分新規失業保険申請件数、米3月フィラデルフィア連銀製造業景気指数、20日は日本が春分の日で休場のところ、目立った指標の発表はない。
- その他、政府・中銀関連では、17日に豪準備銀行(RBA)が政策金利発表(予想4.10%、前回3.85%)、日本20年利付国債入札、米20年債入札、18日は米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策金利発表(予想据え置き3.50~3.75%)とパウエルFRB議長の定例記者会見が予定される。19日は日銀金融政策決定会合の結果発表(予想据え置き0.75%)と植田総裁の定例記者会見が控える。また19日にはスイス国立銀行(SNB)の政策金利発表(予想0.00%)、英中央銀行(BOE)の金利発表(予想据え置き3.75%)とMPC議事要旨の公表、ECB政策金利発表(予想2.15%)とラガルド総裁会見も予定されており、主要中銀のイベントが木曜日に集中する週となる。加えて、19日は日米首脳会談が行われる。
- 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の161.50円、下値は2月9日の高値が近い157.50円と見込む。
1.ドル円振り返り=イラン情勢混迷が続き「有事のドル買い」に勢い、ドル円は年初来高値を更新
【3月9日週のドル円レンジ:157.28~159.76円】
ドル円の変動幅は3月9日週に2.48円と、その前の週の1.97円から拡大した。変動幅は1.91円と、前週の1.76円を上回った。年初来では、1.9%高と、2週連続でプラスとなった。週初から原油相場と地政学リスクに翻弄される展開。イラン情勢の緊迫化でWTI原油先物が一時119ドル台へ急伸するなか、ドル高・円安が加速した。一方、トランプ大統領の「軍事作戦終結が近い」発言や石油備蓄放出観測が上値を抑える場面も見られたが、限定的。むしろ、週末にかけては米1月PCE価格指数や求人件数の上振れが追い風となり、159.76円と年初来高値を更新した。
9日のドル円は、買い先行後に失速。イランの最高指導者を選出する権限を持つ「専門家会議」が、米国とイスラエルに殺害されたハメネイ師の後継として次男のモジタバ師に白羽の矢を立てた。反米強硬派とみられるだけでなく、トランプ大統領が事前に「受け入れられない」と発言していた人物だったため、イランとの軍事衝突長期化懸念が浮上。WTI原油先物が一時119ドル台へ急伸につれ、ドル円も上値を切り上げ一時158.90円まで本日高値を更新した。もっとも、その後はG7諸国が石油備蓄を放出する可能性が報じられ、ドル独歩高がゆるみドル円も伸び悩み。NY時間引け前には、トランプ氏が軍事作戦の終結が近いと発言したため、一時157.63円まで本日安値を更新した。トランプ政権が原油高抑制策として、輸出制限や市場介入などを検討と報じられたこともWTI原油先物の下落を誘った。
10日、ドル円は売り先行後に買い戻し。東京時間は、トランプ氏の発言を受けてWTI原油先物が81ドル台へ急降下するなか、ドル円もつれて157.28円まで週の安値をつけた。もっとも、イラン革命防衛隊がミサイル攻撃強化する方針を示し、イラン外相が「必要な限りミサイル攻撃を続ける」と述べたことで、WTI原油につれドル円も買い戻された。NY時間入りに一時158.13円まで本日高値をつけたところ、石油備蓄放出への思惑もあり、上値は限られた。しかも、ライト・エネルギー長官、「米海軍がホルムズ海峡で石油タンカーを護衛した」とするXの投稿したため、WTI原油先物が80ドル割れを迎えたことも、上値を重くした。もっとも、エネルギー長官は投稿を削除したため、思惑を残すこととなった。トランプ氏が昨日のNY引け前にイランの機雷船「完全に破壊」と投稿も、反応は限定的だった。
11日のドル円は上昇。米海軍が民間からの護衛要請を拒否したとの報道もあって、WTI原油先物が買い戻されるにつれ、ドル円も上値を試しにかかった。IEAが過去最大の石油備蓄放出を加盟国に提案と報じられたが、ドル円は反応薄。むしろ、JPモルガンがプライベート・クレジット関連のローン・ポートフォリオ評価切り下げたとの報道で一時157.86円まで本日安値を更新した。その後は商船三井所有のコンテナ船、ペルシャ湾で攻撃被害かとの報道が出てもドル円は上昇を続け、NY時間に発表された米2月消費者物価指数(CPI)が市場予想通りでも影響を受けず。IEAが4億バレルの石油備蓄放出を決定後は、むしろWTI原油先物の上昇につれ買いが強まり、一時158.98円まで上値を広げた。トランプ氏が「イランとの戦争はまもなく終わる。攻撃すべき標的はほとんど残っていない」と発言したが、ドル円は反応せず。同時にイラン革命防衛隊系のタスニム通信が米国大手IT企業でイスラエルと関係のある企業が新たに標的になると報じたほか、イランがホルムズ海峡に機雷を敷設したとの報道もあって、159円手前で取引を終えた。
12日のドル円は、一段高を経て小緩む展開。東京市場スタートからWTI原油先物が95ドルを回復するにつれ、ドル円も買いが入り、序盤に1月23日の高値159.22円を超えて一時159.24円と年初来高値の159.45円に接近した。トランプ政権が前日引け後、日本や中国、欧州連合(EU)など16カ国・地域を対象に、通商法301条に基づく調査を開始すると発表したことも、インフレ懸念を強めた。1月23日の日米共同レートチェックがあったとされる水準超えからは利益確定の売りが入ったものの、買い意欲は根強い。日銀植田総裁が円安は「過去より物価に影響しやすい」と発言も、ドル円の影響は限定的だったところ、ロンドン時間に一時158.57円まで本日安値を付けた後は買い戻された。モジタバ師がホルムズ海峡の事実上の封鎖につき「敵に圧力をかけるための手段として継続すべき」と発言したことが報じられたほか、トランプ大統領が原油高よりイランの核兵器武装阻止が重要と強調したためドル高が進んだ。ベッセント財務長官が米海軍による船舶護衛は「可能な限り」早期に実施すると述べるも、ドル円は一時159.43円と1月15日の高値159.45円に接近した。トランプ大統領が来週17-18日にFOMCを控え緊急利下げを要請したが、影響は限定的だった。
13日のドル円は続伸。東京時間の序盤にベッセント財務長官が各国によるロシア産原油・石油製品の購入を30日間容認すると表明したため、ドル円は一時159.10円へゆるんだが、以降は買いが優勢となった。片山さつき財務相は閣議後の記者会見で、円安が進んでいることに対して「いかなる時、いかなる場合も万全の対応を取る方針で臨んでいる」と述べたが、影響は限定的。NY時間に一時159.01円と本日安値を更新したが、米1月PCE価格指数や求人件数が市場予想を上回り、ドル円を押し上げ引けまで買いの流れが続き、159.76円で高値引けした。なお、NY引け後にトランプ氏はイランの石油輸出基地が集まるカーグ島の攻撃を発表した。
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