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トランプ氏がスーパーチューズデーの15戦のうち14勝し共和党指名が確実になった2日後、バイデン大統領が行った一般教書演説は偉大な米国人ボクサーのように例えられました。
そのボクサーとは、ジョー・ルイス。ルイスは10年以上にわたってボクシングの世界ヘビー級チャンピオンに君臨し、世界王座連続防衛回数は25回と、その記録は現在でも破られていません。第2次世界大戦を控えた1938年に、ドイツ人チャンピオンのマックス・シュメリングに勝利した試合は、史上最も有名な試合のひとつとして歴史に刻まれています。
一般教書演説後にジョー・バイデン氏をジョー・ルイスになぞらえ、称賛したのは黒人で元牧師のラファエル・ワーノック下院議員(ジョージア州)で、トランプ氏との2020年リマッチを控えてこう表現したのは想像に難くありません。
トランプ氏の名前を口にせずとも、民主主義を守ると強力なメッセージを放ち、高齢問題について米国は全ての人々に平等の権利を与えていると毅然とかわし、時折ジョークを挟んだバイデン氏の一般教書演説は、確かにベテラン政治家の余裕を感じさせました。
しかし、問題は不法移民問題に言及した際に発生します。MAGA派のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州)が、「Say her name!」と野次を飛ばし、2月にジョージア州で不法移民のベネズエラ人に暴行・殺害された22歳の女性看護学生の事件について意見を求められ、「不法移民による(by an illegal)」と言及したのです。なお、「Say her name」とは、警官に暴力を受けてきた黒人女性に対し意識向上と人種差別反対を求めたスローガンとして知られます。
これに対し、民主党支持者は「不法移民」と呼ぶのは何事かと、猛反発。民主党の移民擁護派を中心に長い間「不法移民」との言葉は非人間的とされ、「undocumented=米国で生活 and or勤務を法的に認めた書類を保有していない者」と言い換えてきたためです。後日、バイデン氏は一連の抗議を受け、MSNBCのインタビューで「後悔している」とコメント、後始末に追われることとなりました。
画像:ホワイトハウスの一般教書演説資料、当該部分
(出所:The White House)
一方で共和党陣営は、同問題について別の観点でバイデン氏を糾弾しています。被害者のファーストネームが「Laken(レイクン)」のところ、バイデン氏は「Lanken(ランケン)」と言い間違え、批判を買ったのです。ちなみに、ホワイトハウスの書き起こしでは「Lanken」と表記されていますが、実際にはリベラル寄りのNBCなどが報じる通り「Lincoln」と発音したように聞こえます。
22歳の白人女性が不法移民に無残にも命を奪われた事件について、バイデン大統領が公に言及したのは、これが実質初めてでした。一方で、共和党陣営は未曽有の移民流入を受けてこれを大きく取り上げ、バイデン政権による黒人が被害者となった事件との対応の違いを強く非難しています。
そのほか、一般教書演説でグリーン下院議員以外に「“アビーゲート”を忘れるな!」とバイデン氏の一般教書演説を中断する人物が現れていたのは、日本のメディアであまり紹介されていないのではないでしょうか。その人物とは、スティーブン・ニクイ氏で、カブール陥落後の2021年8月26日、空港の主要な出入り口“アビーゲート”で発生した“カブール国際空港自爆テロ事件”で死亡した米兵13人の1人、カリーム・ニクイ氏の父親です。バイデン氏は米兵13人が無言の帰還を迎えた追悼式典で、腕時計をチェックしていた姿がカメラに捉えられるなど、国のために命を捧げた米兵への敬意が不十分と非難されており、ここで遺族が怒りを吐き出した格好です。
父親のニクイ氏は、共和党のブライアン・マスト下院議員(フロリダ州)の招待を受けて一般教書演説に出席していました。マスト下院議員は、議場に招いた理由として「バイデン氏が国家安全保障と遺族に与えた打撃を示すためだった」と説明します。
民主党支持者は「不法移民」の言葉に怒り、共和党支持者は犠牲者を生んだバイデン政策に非難の矛先を向けるなか、無党派層は今回の一般教書演説を受けて何を思うのでしょうか。
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