Weekly Report(9/7)「ベッセント発言でドル円155円攻防へ、米8月CPIが次の焦点」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

ストリート・インサイツ代表取締役、経済アナリスト 世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの上級主任/研究員を経て、株式会社ストリート・インサイツを設立。その他、トレーダムにて為替アンバサダー、計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員、日本貴金属マーケット協会のフェローを務める。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は8月31日週に5.10円と、その前の週の1.65円から拡大した。前週比では3.85円の下落となる。年初来では前週の2.2%高→0.3%安と、マイナスに転じた。ドル円はG20財務相・中央銀行総裁会議開催中にベッセント財務長官が日銀は利上げが必要との見解を表明するなか、高田審議委員が機動的な利上げの必要性を唱え、利上げ幅やペースが従来よりタカ派的になる期待が強まり、ドル円の下落を後押しした。ウィリアムズNY連銀総裁やウォラーFRB理事の利上げ慎重姿勢、米8月ADP全国雇用者数など市場予想以下の一部米指標も、ドル売り材料に。加えて、GPIFが異例の会合を開催したことで資産配分見直し観測もあり、ドル円は一時155.29円と8月3日以来の安値をつけた。米8月雇用統計が市場予想を上回ったが、ドル円の上昇は限られた。
  • ベッセント米財務長官は、日銀に金融正常化の継続を促すだけでなく、高市政権の積極財政を含むリフレ政策そのものに見直しを迫っている。2025年以降、米財務省は一貫して「健全な金融政策」や成長とインフレのバランスを求めてきたが、今回は「リフレをやめるべき」と表現を一段と強めた。背景には、低金利維持、円安容認、歳出拡大を組み合わせる政策への不満がある。今後は日銀の利上げだけでなく、消費税減税や成長投資、補助金を含む高市政権の財政運営がどこまで修正されるかが焦点となる。
  • G20財務相・中央銀行総裁会議の前後、日銀では氷見野副総裁や高田審議委員から利上げを柔軟に進める姿勢が示される一方、米国ではウォラーFRB理事らが追加利上げに慎重な見方を示した。市場がこれを日米金利差縮小と受け止めれば、円ショートや円キャリートレードの巻き戻しが進む可能性がある。J.P.モルガンは、円ショートが全面解消されればドル円が142~146円まで下落する可能性を試算。ただし、実際の円相場は日銀とFedの政策、高市政権の財政運営、機関投資家やGPIFの資金配分にも左右される。足元では155円を明確に割り込めるかが一つの焦点となる。
  • 米8月雇用統計はNFPが16.2万人増と予想を大きく上回り、労働市場の急失速懸念を後退させた。一方、平均時給は前年比3.1%と2021年5月以来の低い伸びとなり、賃金インフレ再加速の兆しは乏しい。ウォーシュFRB議長が「現在の焦点は物価」と強調するなか、FOMC内では利上げに慎重姿勢を示すウィリアムズNY連銀総裁とウォラーFRB理事と、追加利上げに前向きな地区連銀総裁の見方が分かれる状況。9月15-16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)行方は、最終的に米8月CPIにかかっている。
  • ドル円のテクニカルは、強気地合いから弱気地合いへ急旋回した。一目均衡表では三役逆転が成立したほか、200日移動平均線を含む主要な移動平均線を下抜けて週を終えた。さらに、7月高値163.99円から8月安値155.23円までの下落に対する23.6%戻しの157.30円も割り込んでおり、短期的な下方向への圧力は強い。ただ、5月6日(155.03円)、8月3日(155.23円)、9月4日(155.29円)と、いずれも155円を割り込めず、むしろ下値をわずかながら切り上げている。したがって、円高トレンドへ転換したと判断するのは早計と言えそうだ。RSI(14日)も33程度と売られ過ぎの目安となる30に接近しており、米8月CPIの結果次第では、9月利上げ観測の再燃に伴う買い戻しが強まる余地もありそうだ。
  • 9月7日週の主な経済指標をみると、7日に日本8月外貨準備高、8日に日本7月毎月勤労統計、4-6月期実質GDP成長率・改定値、10日に米8月生産者物価指数(PPI)と米新規失業保険申請件数、11日に日本8月国内企業物価指数、米8月CPI、米9月ミシガン大学消費者態度指数・速報値を予定する。
  • その他、政治・中銀関連では、8日に米3年債入札、9日に米財務省による米長期債買い戻し拡大開始(11月4日まで)、共和党大会、10日に増審議委員の講演、ECBの政策金利発表、米30年債入札、トランプ大統領とバンス副大統領による共和党大会での演説が控える。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の160.50円、下値は5月6日の安値付近の155.00円と見込む。


【8月31日週のドル円レンジ:155.29~160.39円】

ドル円の変動幅は8月31日週に5.10円と、その前の週の1.65円から拡大した。前週比では3.85円の下落となる。年初来では前週の2.2%高→0.3%安と、マイナスに転じた。ドル円はG20財務相・中央銀行総裁会議開催中にベッセント財務長官が日銀は利上げが必要との見解を表明するなか、高田審議委員が機動的な利上げの必要性を唱え、利上げ幅やペースが従来よりタカ派的になる期待が強まり、ドル円の下落を後押しした。ウィリアムズNY連銀総裁やウォラーFRB理事の利上げ慎重姿勢、米8月ADP全国雇用者数など市場予想以下の一部米指標も、ドル売り材料に。加えて、GPIFが異例の会合を開催したことで資産配分見直し観測もあり、ドル円は一時155.29円と8月3日以来の安値をつけた。米8月雇用統計が市場予想を上回ったが、ドル円の上昇は限られた。

31日のドル円は、下落。G20財務相・中央銀行総裁会議を控え、ベッセント財務長官が民主党の上院議員による日米協調介入に批判した書簡につき、8月29日に「円市場の混乱は世界市場を不安定化させ、米国の家計・企業の借入コスト上昇につながり得る」と説明した。さらに、8月30日にロイターとのインタビューで円相場は「かなり抑制されている」、日銀が「正しい行動を取る」、リフレ策だった「アベノミクスは恐らく終わりを迎えた」などとの発言に加え、植田総裁と会談する予定を明かした結果、ドル円は売りが先行し159.80円台へ下落した。米国がイランへ1カ月ぶりに攻撃しWTI原油先物は時間外取引で一時85ドル台へ急伸するなかでもドル円の影響は限定的で、ロンドン時間には一時159.47円まで本日安値を更新。高市政権で概算要求が過去最大の143兆円前後になると報じられた後は、ジリ高が継続した。NY時間に入ってからも、ベッセント氏がG20財務相・中央銀行総裁会議の席で「債務圧縮にあたり「成長によって乗り越える」と主張したほか、ウォーシュFRB議長の「長期成長(secular growth)」発言が話題になったが、ドル円は160円手前での推移を続けた。

1日のドル円は、反発。東京時間に片山財務相や植田総裁がベッセント氏と会談し、日銀が利上げするよう要請したと伝えられ、ドル円は一時159.63円まで本日安値を更新した。しかし、その後下値は堅く、10年債利回りが1996年以来の3%に乗せても、影響は限定的。10年債入札がやや不調に終わっても動意に乏しかったが、ロンドン時間にはホルムズ海峡で大型原油タンカー2隻が攻撃受けたとの報道でWTI原油先物が時間外で88ドル台へ上昇する過程で、ドル円も160円台を回復した。NY時間には、米8月ISM製造業景気指数や米7月求人件数が市場予想以下で上げ渋り。米財務省がベッセント氏と植田氏との会見後に声明で「インフレ期待を安定させ、過度な為替変動を回避するため、健全な金融政策の策定とコミュニケーションが重要」と強調したほか、ベッセント氏もXにて同様のコメント展開したことも、意識された。しかし、NY終盤に買いが再燃、一時160.28円まで上値を広げた。

2日のドル円は、反落。東京時間の序盤に一時160.39円と7月31日以来の高値を付けたものの、高田審議委員の機動的に利上げなどとタカ派的な内容が尾を引いたほか、会見で0.5%以上の利上げに言及したこともあって、日本の10年債利回りが3%の節目を超えたこともあって、ロンドン時間入りに160円を割り込んだ。大台割れでは下げ渋ったが、NY時間に発表された米8月ADP全国雇用者数が市場予想以下に終わり、上値が重くなったところで、159.60円付近から急落。159円も割り込み、一時158.21円まで本日安値をつけた。NY連銀総裁が利上げに急がない姿勢を示したことも、ドル売りにつながったとみられる。なお、ニューヨーク・タイムズ紙はこの日、ベッセント氏が高市政権の日銀や財政政策への姿勢を巡り、片山財務相に2時間も説教したと報道し、話題を呼んだ。

3日のドル円は、大幅続落。東京時間序盤に一時158.97円まで本日高値を更新したが、トランプ政権がイラン戦争終結宣言を模索との報道を受け売りが優勢となった。ロンドン入りには、ブルームバーグが日銀は9月会合で0.25ポイント利上げを行う見通しだが、今後のペースは柔軟になるとの観測報道を伝え、GPIFが異例の8月会合を開催したと発表した結果、資産構成見直し観測強まり、157円割れ。三村財務官が足元の為替水準に対し「満足も安心もせず」と述べたことも、当局の介入警戒を再燃させた。NY時間には、ウォラーFRB理事がディスインフレ環境の兆しについて述べたうえで、据え置き支持に傾くと発言した結果、一時155.30円まで下落。戻りも限定的で、155円後半にとどまった。

4日のドル円は、買い戻しを経て乱高下。東京時間の序盤にドル円は一時155.29円と8月3日以来の安値を付けたが、以降は買い戻しが優勢となった。三村氏が引き続き為替対応につき「臨戦態勢」と昨日に続き口先介入を行ったが、156円半ばへ上昇。NY時間に入り、米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が市場予想を上回る結果になると、一時156.76円まで本日高値を更新した。しかし、平均時給の前年比の伸びが鈍化トレンドを維持していたほか、ウォラーFRB理事が前日に雇用ではなくインフレを重視する姿勢を打ち出していたこともあって、その後はむしろ155.30円台へ下落するなど乱高下する展開。トランプ大統領が米8月雇用統計の結果を好感しつつも利下げを要請するなか、156円台を回復して取引を終えた。

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