Weekly Report(11/2)「米中間選挙や米10月雇用統計などイベント目白押し、ドル円レンジ脱却なるか」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

ストリート・インサイツ代表取締役、経済アナリスト 世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの上級主任/研究員を経て、株式会社ストリート・インサイツを設立。その他、トレーダムにて為替アンバサダー、計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員、日本貴金属マーケット協会のフェローを務める。

マーケット分析

―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は、10月26日週に1.70円と、その前の週の2.53円から縮小した。前週比で0.74円の上昇と3週ぶりに反発。年初来では前週の0.1%高→0.6%高となった。ドル円はAIモデル大手アンソロピックが新規株式公開(IPO)を控え目論見書を公表した結果、AI関連需要への不安が後退し、リスクオフから脱却して買いが先行した。ただ、FOMCと日銀会合を前にレンジ内での上下を継続。FOMC発表直後は一時158.35円と約1週間ぶりの高値をつけたが、その後はFOMCで金融政策を決定する会合が2027年は7回、2028年は6回に減少するとの発表を受けドル円は下落。日銀金融政策決定会合後、植田総裁が適宜利上げを行う方針を発表した結果、ドル円は157円を割り込みつつ、逆に下値も限られた。
  • 米連邦公開市場委員会(FOMC)は市場予想通り据え置きを決定したが、クック米連邦準備制度理事会(FRB)理事とハマック・クリーブランド連銀総裁の2人が利上げを主張して反対票を投じた。声明文は景気判断を「強いペースで拡大」へ上方修正した。ウォーシュFRB議長はフォワード・ガイダンスを「平時には支持しない」と否定し、2027年から金融政策を決める会合を減らす方針を表明するなど、「フォワード・サイレンス」を明確化した。FF金利先物市場が織り込む12月の追加利上げ確率は70.1%とやや後退し、2027年末までの利上げ見通しも3回から2回へ修正された。市場が議長発言より指標に左右されやすくなるなか、今週の米中間選挙と米10月雇用統計が12月利上げの行方を占う。エネルギー高を一時的な供給ショックとみるベッセント財務長官は慎重な判断を促しており、FRBと政権の綱引きも続きそうだ。
  • 11月3日の米中間選挙は、民主党が上下院で過半数を奪回するシナリオが優勢で、焦点は上院だ。民主党が議会を制すれば、トランプ政権は大統領令や外交での「得点」を狙うとみられ、イラン停戦や関税撤廃が進めばリスクオン材料となり得る。AIインフラ投資には、データセンター建設の上位10州のうち7州が対象となる州知事選の結果も影響しそうだ。ドル円は中間選挙の年に下落しやすいが、選挙後の方向性は結局FRB次第となる。
  • 日銀は政策金利を1.25%程度で据え置く一方、展望レポートで基調物価が2%目標と「概ね整合的な水準」に達したと判断し、2013年の目標導入から約14年で初めて到達を認めた。高田創審議委員が1.5%への利上げを提案し、9月に利上げに反対した浅田、佐藤両審議委員を含む全員一致で2%到達を判断したのも注目点だ。ETFの売却ペースは年8,600億円程度へ拡大し、売却益は来年度以降の国庫納付金の「財源」ともなり得る。植田総裁は株安でも利上げ路線を維持する姿勢を示しつつ、12月利上げは明示せず柔軟性を確保した。ただ、城内経財相が会合を欠席し、木原官房長官も日銀の判断に異を唱えなかったことで、12月利上げのハードルは一段と下がったと言えよう。
  • ドル円のテクニカルは、引き続き弱気寄り。ドル円は再び、200日移動平均線と7月23日高値と9月8日の安値の半値戻し、そして一目均衡表の雲の上限が重なる158円半ばで上値の重さを確認した。しかも、直近では21日移動平均線が上値抵抗線と化しつつある。ただし下値も限定的で、7月23日高値と9月8日の安値の38.2%戻しがある157.16円、50日移動平均線もローソク足の実体部で支えられる状況だ。これらの下にあった一目均衡表の雲の下限も、切り上がりつつある。
  • 11月2日週の主な経済指標をみると、2日にユーロ圏独米10月製造業PMI改定値、米10月ISM製造業景気指数、3日に米9月雇用動態調査(求人件数など)、4日にNZ7-9月失業率、ユーロ圏独米総合PMI改定値(サービス業含む)、米10月ADP全国雇用者数、米10月ISM非製造業景気指数、5日に米7-9月期非農業部門労働生産性・速報値、6日に米10月雇用統計、米11月ミシガン大学消費者態度指数・速報値を控える。
  • その他、政治・中銀関連では、3日にRBAの政策金利発表、米中間選挙、4日に米財務省四半期定例入札計画発表(米長期債買い戻し継続か否かも発表へ)、5日に日銀・金融政策決定会合議事要旨の公表、イングランド銀行の政策金利発表、クリーブランド連銀総裁やリッチモンド連銀総裁の発言、6日は植田総裁をはじめボウマンFRB副議長、NY連銀総裁、ダラス連銀総裁、セントルイス連銀総裁の発言を予定する。なお、米国は11月1日から、冬時間に移行した。
  • 以上を踏まえ、今週のドル円の上値は200日移動平均線が近い158.60円、下値は心理的節目の155円ちょうどと見込む。


【10月26日週のドル円レンジ:156.65~158.35円】

ドル円の変動幅は、10月26日週に1.70円と、その前の週の2.53円から縮小した。前週比で0.74円の上昇と3週ぶりに反発。年初来では前週の0.1%高→0.6%高となった。ドル円はAIモデル大手アンソロピックが新規株式公開(IPO)を控え目論見書を公表した結果、AI関連需要への不安が後退し、リスクオフから脱却して買いが先行した。ただ、FOMCと日銀会合を前にレンジ内での上下を継続。FOMC発表直後は一時158.35円と約1週間ぶりの高値をつけたが、その後はFOMCで金融政策を決定する会合が2027年は7回、2028年は6回に減少するとの発表を受けドル円は下落。日銀金融政策決定会合後、植田総裁が適宜利上げを行う方針を発表した結果、ドル円は157円を割り込みつつ、逆に下値も限られた。

26日のドル円は、買い優勢。東京時間のドル円は窓を開け、157円台を回復してスタートした。仲値にかけ上昇後は一時156.65円まで週の安値を更新したが、ロンドン時間入りから戻りを試す展開。米10年債利回りにつれ買い戻され、NY時間では米10年債利回り5%回復とナスダックの3営業日ぶり反発も手伝い、上昇を続けた。一目均衡表の転換線や50日移動平均線を超え、一時157.64円まで上値を拡大。アンソロピックがIPO申請を行うとともに目論見書を公表するなか需要の強さを確認し、AI関連銘柄の買い戻しを誘った。

27日のドル円は、続伸。東京時間から前日の米株の流れを受けドル円は買いが優勢となり、材料不足のなかでロンドン時間、NY時間もほぼ一貫して上昇。NY時間引けにかけては、一時157.98円まで本日高値をつけたが、21日移動平均線に上値を抑えられた。

28日のドル円は、3営業日ぶりに反落。東京時間のドル円は買いの流れが続き、158円台を回復した。RBNZが予想外に金利据え置きを決定し、NZドル円は急落もドル円への影響は限定的。ロンドン時間では一旦利益確定の売りに圧されるも、NY時間にはFOMCを前に買い戻され再び158円台に乗せた。FOMCが金利据え置きを発表した後は小緩んだが、一時158.35円と約1週間ぶりの水準へ上昇。もっとも、100日指数平滑移動平均線に抑えられたほか、ウォーシュFRB議長が会見でFOMCでの政策金利決定の機会を2027年に1回減らし、2028年に2回減らすと発表すると、ドル円は売りへ反転し、158円台を割り込んだ。引け後にマイクロソフトやアルファベットが決算を発表すると、フリーキャッシュフローの赤字幅が拡大していたため、再びリスクオフへ傾く兆しも見て取れた。

29日のドル円は、続落。東京時間は売り先行後に仲値にかけ買い戻され158円台回復をトライしたが届かず、157.61円まで本日安値を更新した。NY時間に発表された米Q3実質GDP成長率・速報値が市場予想を上回り、米9月PCE価格指数が市場予想通り前月を上回ると再び158円台に戻し、一時158.13円まで本日高値を更新。しかし、買いは長続きせず、引け後にインテルの決算や業績見通しが市場予想に届かず再びリスクオフを迎え、158円を割り込んでNY時間を終えた。

30日のドル円は、3日続落。ドル円は朝方に一時157.90円まで本日高値を付けたが21日移動平均線が重石となった。加えて、インテル決算を受けて韓国株が3%超の下落、日経平均も売りへ傾くなどリスクオフが再燃した結果、157.30円台へ下落した。日銀が金利据え置きと共に予想外となるETF売却拡大を発表した直後は一時157円後半まで買い戻されたが、高田審議委員の利上げ票や全員一致での基調物価2%到達の判断を受けて、売りへ反転。植田総裁の会見では適宜利上げしていく姿勢が明確化され、ロンドン時間からは売りが広がり157円を割り込んで一時156.97円まで本日安値を更新。ただ、下値は7月23日高値と9月8日の安値の38.2%戻しで支えられ、157円台を回復して引けを迎えた。

チャート:ドル円、4 月以降の日足

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(出所:TradingView)



【今週のドル円予想レンジ:155.00~158.60円】

10月FOMC、「フォワード・サイレンス」を明確化

「100年に一度の危機」と言われた金融危機を経て、2008年12月、当時のFRB議長だったベン・バーナンキ氏は「フォワード・ガイダンス」を通じた市場とのコミュニケーションで、政策決定を市場に織り込ませてきた。ケビン・ウォーシュFRB議長は、危機からの脱却と「正常化」を受けて、ブルームバーグがいうところの「フォワード・サイレンス」、つまり事前に政策をコミットしない方針へまた一歩踏み出した。

10月27-28日に開いたFOMCでは、市場予想通りFF金利誘導目標を3.75-4.0%で据え置いた。反対票を投じたのはリサ・クックFRB理事と、クリーブランド連銀のベス・ハマック総裁の2人で、いずれも0.25%ポイントの利上げを主張した。ハマック氏は、4月FOMCで据え置きには賛成しつつ、利下げバイアスを示す文言の維持に反対したほか、7月FOMCでは利上げを求めて据え置きに反対しており、今年3回目の反対票となる。クック氏の場合は、10月7日の大統領覚書で調査委員会が設置され、11月5日の聴聞が決まった直後の会合だったため、トランプ政権への「抗議票」だった可能性もある。利下げを求めるトランプ氏に対し、あえて利上げを主張することで、政権の意向と真逆の意思を示したとも捉えられよう。一方、インフレは高止まりしており、純粋な政策判断との解釈もできるため、クック氏本人からの説明が待たれる。

声明文では、景況判断のうち米経済について、前回の「経済は堅調なペースで拡大」から「経済は強いペースで拡大」に上方修正した。これは、翌29日に発表された米Q3実質GDP成長率・速報値が市場予想の前期比年率3.2%増を上回り、同3.4%増となった結果を先取りしたと言えよう。

チャート:米Q3実質GDP成長率・速報値は加速

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一方、「インフレ率は高止まりしている」、「委員会は物価安定を実現する」との文言は据え置き、インフレ抑制への姿勢を維持した。金融政策決定の段落では、据え置き決定を反映し、従来の「本日の政策措置は、委員会の目標である2%への、より早期の回帰を後押しする」から、「委員会は、さらなる情報の蓄積を踏まえ、インフレ率を適時に委員会の目標である2%へ回帰させるために適切な政策スタンスを判断する」に修正された。

画像:10月FOMC声明文と、前回からの変更点

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(出所:Nick Timiraos/X)

ウォーシュ議長は会見で、FOMCの日程を見直し、2027年は1回、2028年は2回の会合を金融戦略の協議に充てる方針を表明した。会合自体は年8回を「適切な回数」として維持しつつ、利上げや利下げを判断する会合は減ることになる。その理由について議長は「正しい政策を行うには、足元の動向を、適時に、定期的に、そして情報が豊富な間隔で評価する必要がある」と説明したが、戦略に充てる会合の具体的な形式や、議事内容を公表するかどうかについては明言を避けた。

フォワード・ガイダンスについては、2008年の金融危機の最も厳しい時期には「実際にかなり役立った」と認めつつ、「平時、とりわけ足元の実体経済がこれほど強い時には、有効だとは考えていないし、支持もしない」と否定した。12月の利上げについても示唆を避けたものの、据え置きはFRBが緩いインフレ目標を持っているサインかとの質問に対し、「緩いインフレ目標(soft inflation target)は存在しない。暗黙のインフレ目標もない」と述べ、インフレ抑制への姿勢を強調した。これまでの利上げについては「一定程度効き始めているというのが圧倒的な共通認識だ」とし、AI投資にも「金利は効果を及ぼしてきた」と言及した。ただ、金融環境については「全体として以前より引き締まっているが、引き締まった状態だと言うつもりはないし、そう言うこともできない」と述べ、追加利上げの余地を残した。

米経済の強さがAIブームに支えられているとの見方に対しては、AIを設備投資と言い換えたうえで、「設備投資は堅調で力強いだけでなく、すそ野が広がっている」と反論した。「経済の強さがすべてこの新たな技術の波によるものだと言うのは都合がいい」が、「一部の分野に限った強さだという話は、今やかなり難しい」とし、AI一本足打法の米経済との認識を一蹴した格好だ。その際、記者に対し「AIと発音するか、SIと発音するかはあなた次第だ」と付け加えた。トランプ大統領が9月29日の大統領令で、政府機関に「AI」の代わりに「SI(スーパー・インテリジェンス)」の呼称を使うよう指示したことを踏まえ、政権に配慮したともとれる。中間選挙を控えた据え置きについては、「今回の決定に政治は無関係」と強調した。

FOMC後の12月の利上げ織り込み度はやや後退し、FF金利先物市場での追加利上げの予想確率は10月30日時点で70.1%と、1週間前の76.2%(0.5%利上げ予想を含む)を下回った。FOMCで金融政策決定の回数が2027年から減少する方針が表明された影響か、2027年末までの利上げ見通しに至っては、これまでの3回から2回へ修正された。米債市場ではウォーシュ議長のインフレ抑制への姿勢を疑問視する動きが見られ、会見中に米2年債利回りが低下する一方、米10年債と米30年債の利回りは上昇し、いわゆる「ツイスト・スティープ化」を確認した。ドル円はFOMCの政策金利発表後に一時158.35円まで本日高値を更新したものの、その後は158円割れへ下落した。少なくとも為替相場は、ウォーシュ議長の会見を含め、タカ派的と判断しなかったと言えそうだ。

チャート:FF金利先物市場、2027年末までの利上げ予想は3回から2回へ後退

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12月FOMCまでには、10月・11月の雇用統計やCPIなど、ウォーシュ議長のいう「情報が豊富な間隔」が控えている。ウォーシュ氏はフォワード・ガイダンスを否定し、事前に政策をコミットしない姿勢を鮮明にした。このため市場は、議長の発言よりも指標の結果に一段と左右されやすくなりそうだ。加えて、11月3日の中間選挙の結果と、11月5日に予定されるクック理事の聴聞の行方も、FRBの独立性をめぐる論点として注視される。エネルギー高を一時的な供給ショックとみる政権側からは慎重な判断を求める声も上がるなか、「フォワード・サイレンス」の下、FRBが12月に利上げに踏み切るか、市場は指標をにらみながら見極めることになりそうだ。

なお、米10月雇用統計を前に、シカゴ連銀の失業率見通しは10月29日時点で前月と変わらず4.2%となる確率が29.5%、低下する確率が37.5%と上昇する確率の32.5%を上回った。9月は上昇の確率が45.6%だったところ失業率が4.2%に上昇した通り、過去数カ月は的中させてきた。オンライン求人広告大手インディードが発表する全米リアルタイム求人広告動向指数をみると下げ止まりをみせ、10月23日までの平均値は103.9と9月平均103.2を上回った。ただし、足元で同指数と雇用統計との相関はそれほど高いとは言い難い。9月は8月の101.9から大きく改善したが、米9月雇用統計・非農業部門就労者数は前月比2.9万人増とわずかな増加にとどまった。

チャート:シカゴ連銀の失業率予想、低下する確率が最大に

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チャート:全米リアルタイム求人広告動向指数、10月平均は9月平均を小幅に上回る

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FOMC直後、スコット・ベッセント米財務長官はCNBCのインタビューで「ウォーシュ議長は素晴らしいスタートを切った」と評価した。利上げは政策の誤りかとの問いには「必ずしもそうではない」と答え、今後の利上げを否定しなかった。声明文の景気判断の上方修正についても「経済が加速しているとの認識を示唆したようだ」と受け止めた。実際、翌29日発表のQ3実質GDP成長率が上振れしたのは、前述の通りである。

一方で、ベッセント氏はエネルギー高について「供給ショックが起きている」と指摘し、「中央銀行の歴史で最大の失敗の一つは、2008年夏、ECBが同様のエネルギー価格ショックの中で利上げしたことだ」と述べた。そのうえで「FRBは、供給ショックが一時的であるという点について、柔軟に考えるべきだ」と、「伝統的に、供給ショックの中で利上げはしない」と述べた8月末に続き、FRBにあらためて慎重な判断を促した。米長期金利についても、ウォーシュ氏が7月に述べたように「米債市場が我々の代わりにかなりの引き締めを行ってきた」として、追加利上げの必要性に疑問を投げかけた格好だ。会見でウォーシュ氏が金融環境を「引き締まった状態だと言うつもりはない」と述べたのとは対照的と言える。

AI関連の信用不安については、「まったく問題ないと思う。ネオクラウドは全体の中では小さな構成要素にすぎない」と一蹴した。イランについては、経済封鎖によって「紛争が始まった3月から1年間で、経済は最大25%縮小する可能性がある」とし、紛争を乗り越えれば原油市場への供給は改善すると強調。エネルギー高は一時的で、金融不安の芽もないとして、追加利上げを急ぐ必要はないとの立場を示した。利上げに含みを残すFRBと、慎重な判断を求める政権との綱引きは、12月FOMCまで続く公算が大きい。

米中間選挙、民主党の上下院奪回が優勢、AIインフラは州知事選も焦点

11月3日の米中間選挙では、民主党が上下院で過半数を奪回するシナリオが優勢だ。予測市場のポリマーケットでは11月1日時点で上下院奪回の確率が72%、米選挙データ会社ディシジョンデスクHQの予測でも61%と最も高いシナリオとなっている。焦点は上院だが、民主党の奪回確率も7割強に上昇しており、下院のみ民主党が制する「ねじれ」の確率は2割程度にとどまる。中間選挙は与党が敗北しやすく、1938年以降の22回で与党は下院で平均約29議席、上院で約4議席を失った。共和党が下院で30議席以上を失った過去4回は、いずれも次の大統領選で敗北しており、議席減の規模は2028年の大統領選を占う試金石ともなる。

チャート:中間選挙、民主党の上下院奪回確率は72%に上昇

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(出所:ポリマーケット)

民主党が議会を制すれば、トランプ政権は議会を通さない大統領令や外交での「得点」を狙うとみられる。10月23日に一部のカナダ製品への関税撤廃を発表したのは、その布石とも言えよう。イランとの停戦で原油価格が下がればインフレ懸念は和らぎ、関税撤廃や対中通商合意が進めば企業のコスト負担も軽くなるため、リスクオン材料となり得る。一方、上院はFRB人事の承認権を握るだけに、11月5日のクック理事の聴聞と合わせ、FRBの独立性をめぐる議論にも影響しそうだ。

AIインフラ投資にとっては、連邦議会より州知事選の結果が効きやすい。データセンターの立地を左右する電力や許認可は州の権限で、今回は36州で知事選が行われ、データセンター建設の上位10州のうち7州が対象となる。キニピアック大の調査では地元へのデータセンター建設に73%が反対し、共和党支持層でも55%が反対した。地方での建設モラトリアムは6月の92件から夏の終わりには374件と約4倍に急増している。22Vリサーチは、テキサス州知事選で民主党が勝利すれば、データセンターに友好的な州が27州から15州程度に減ると予想する。民主党が上院を奪回すれば、データセンター課税を提唱するロン・ワイデン議員が上院財政委員長に就き、課税案が議論される可能性がありそうだ。ただし、仮に法案が議会を通過しても、トランプ大統領が拒否権を発動するとみられ、実現する公算は小さい。

チャート:地元へのデータセンター建設、7割超が反対

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ドル円は中間選挙の年に下落しやすく、1974年以降の13回中8回で下落し、平均で約4%の円高・ドル安となった。選挙後12カ月も平均-1.3%、中央値-3.2%とやや円高寄りだが、上昇も13回中6回と方向感はまちまちだ。アラン・グリーンスパン議長以降の9回では、利上げ局面や利上げを控えた局面でドル高、利下げ・緩和局面で円高となっており、選挙結果以上にFRBの金融政策がカギを握る。「フォワード・サイレンス」の下、12月利上げの自由度を残したFRBの判断が、選挙後のドル円の方向性を左右することになりそうだ。

チャート:ドル円、中間選挙の年は下落傾向

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日銀、基調物価2%到達と判断、12月利上げへ布石も柔軟性を確保

日銀は10月29~30日の金融政策決定会合で、基調的な物価上昇率が2%の「物価安定の目標」と概ね整合的な水準に達したとの判断を示した。2013年1月に政府との共同声明(アコード)で2%目標を掲げてから約14年、日銀が初めて目標への到達を認めた格好だ。一方、無担保コール翌日物金利の誘導目標は、市場予想通り1.25%程度で据え置いた。票決は8対1に。高田創審議委員は、基調物価が「物価安定の目標」に達したなか、機動的な対応が可能となる中立金利に近づけるペースを速める新たな局面に入ったとして、1.5%への利上げを提案し、反対多数で否決された。

同時に公表された展望レポートの文言を比べると、判断の変化は鮮明だ。7月の展望レポートでは「消費者物価の基調的な上昇率は、徐々に高まっていくと予想され、2026年度後半から2027年度にかけて『物価安定の目標』と概ね整合的な水準となり」と、将来の到達を見込む表現にとどめていた。これに対し今回は「消費者物価の基調的な上昇率は2%の『物価安定の目標』と概ね整合的な水準となっており、先行きも同程度で推移すると考えられる」と、すでに到達したとの判断に改めた。中長期的な予想物価上昇率についても、7月の「上昇していくと見込まれる」から「2%程度となっている」へ変更。基調物価と予想物価の双方で、「これから達する」が「達している」に修正された。

政策委員の大勢見通し(中央値)をみると、事前報道通り2027年度の物価見通しが上方修正され、生鮮食品を除くコアCPIは2.6%、生鮮食品及びエネルギーを除くコアコアCPIは2.7%に引き上げられた。夏場以降の原油価格上昇の影響などが背景だ。実質GDP成長率の修正は小幅にとどまり、成長率は「概ね不変」との評価となった。物価見通しのリスクバランスは引き続き「上振れリスクの方が大きい」とし、基調物価が2%を超えて上振れていくリスクにも言及した。

チャート:10月分の展望レポート

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もう一つの焦点は、ETFの売却ペースの見直しだ。日銀は年間売却額を従来の3,300億円程度から8,600億円程度(簿価ベース)へ引き上げることを全員一致で決め、2027年1月から実施する。時価換算では年間約2兆4,600億円程度となり、日銀の試算で売却完了までの期間は約112年から約43年へ短縮される。日銀は理由として、1月の売却開始以降、市場に大きな影響を与えることなく円滑に進んだこと、株式市場全体の売買代金も拡大したことを挙げる。

ただ、市場では別の狙いを指摘する声もある。簿価と時価の差から、見直し後は年間1.6兆円規模の売却益が実現する計算となる。利上げが続けば超過準備への利払いが膨らみ、日銀の収益が圧迫される。売却益は来年度以降の国庫納付金を確保する「財源」になるとの見方だ。実際、片山さつき財務相は国庫納付される剰余金が増加することは「自明の理」とし、「具体的に(額を)どの程度見込むのか、増加分の取り扱いについては今後の予算編成の過程でいろいろ検討していくことになる」と述べた。こうした見方を裏付けるような発言といえる。

植田和男総裁の会見では、12月利上げについて柔軟性を確保する姿勢がにじんだ。植田氏は基調物価の2%到達について、目標を持続的・安定的に実現したとは判断しておらず、2%の定着度合いを確認していくことが重要として、全ての委員が認識を共有したと説明した。据え置きは経済・物価のリスクをもう少し見極めるためで、調整ペースは中東情勢、AI関連需要、為替を踏まえ、12月会合を含め毎回点検するという。一方で、「何かを見ながらじっと待っているのではなく、基調物価が定着していくように適宜金融政策を調整していく」とも強調した。AIや中東情勢によるインフレ圧力が欧米中銀の利上げを招き、世界的な金利上昇を通じて金融環境を変化させている点にも注意が必要だとした。

会合当日の日経平均株価は前日比1,369円安と、AI関連銘柄の下落による株安局面にあった。しかし植田氏は、AI関連株の下落は時々起こりうることだとし、利上げの方向性を変える考えは示さなかった。むしろ、政策金利は中立金利を下回っており、そのギャップを埋める余地は残っているとして、利上げ路線を維持する姿勢を鮮明にした。ただし、「前もって何カ月に1回とは言えない」として12月利上げを明示せず、データ次第で判断する深謀遠慮ものぞかせた。

政府との関係では、植田氏はデフレ脱却宣言について政府が判断する事柄とし、アコードへのコメントは控えた。これに対し木原稔官房長官は同日の会見で、デフレ脱却宣言には「慎重に判断する必要がある」としつつも、アコードについて「策定時点とは経済物価の状況に大きな変化があったと認識している」と発言。日銀が物価安定目標の持続的な実現に向け、適切に金融政策を運営するとの認識を示した。今回の会合には城内実経財相も出席しておらず、9月会合で利上げに反対した浅田統一郎、佐藤綾野両審議委員を含め、全員一致で基調物価2%到達の判断を示したことも踏まえれば、利上げに慎重とみられてきた高市政権の姿勢に変化が生じた可能性がある。この判断を政権も事実上容認したとすれば、12月利上げに向けたハードルは一段と下がったと言えよう。

もっとも、政府の物価高対策が物価を押し下げるなか、植田氏は今年の物価上昇率が暦年ベースで「2%を少し下回る可能性がある」とし、春闘の結果への影響を注視していかなければならないと述べた。前年の物価上昇率は春闘の賃上げ要求の目安となるだけに、特殊要因で見かけの物価上昇率が鈍れば、賃上げの勢いがそがれ、2%の定着に影を落としかねない。

チャート:全国CPIの推移、9月はようやく総合やコアなどそろって2%台を回復

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12月利上げが有力視されるが、最終判断は、賃上げの動向をはじめ、米欧の利上げ、AI関連需要、中東情勢を受けた世界的な金利上昇、為替、そして市場の変動がどう推移するかにかかっている。

ドル円のテクニカルは引き続き弱気寄り、中間選挙と米雇用統計がカギに

ドル円のテクニカルは、引き続き弱気寄り。ドル円は再び、200日移動平均線と7月23日高値と9月8日の安値の半値戻し、そして一目均衡表の雲の上限が重なる158円半ばで上値の重さを確認した。しかも、直近では21日移動平均線が上値抵抗線と化しつつある。ただし下値も限定的で、7月23日高値と9月8日の安値の38.2%戻しがある157.16円、50日移動平均線もローソク足の実体部で支えられる状況だ。これらの下にあった一目均衡表の雲の下限も、切り上がりつつある。

11月2日週の主な経済指標をみると、2日にユーロ圏独米10月製造業PMI改定値、米10月ISM製造業景気指数、3日に米9月雇用動態調査(求人件数など)、4日にNZ7-9月失業率、ユーロ圏独米総合PMI改定値(サービス業含む)、米10月ADP全国雇用者数、米10月ISM非製造業景気指数、5日に米7-9月期非農業部門労働生産性・速報値、6日に米10月雇用統計、米11月ミシガン大学消費者態度指数・速報値を控える。

その他、政治・中銀関連では、3日にRBAの政策金利発表、米中間選挙、4日に米財務省四半期定例入札計画発表(米長期債買い戻し継続か否かも発表へ)、5日に日銀・金融政策決定会合議事要旨の公表、イングランド銀行の政策金利発表、クリーブランド連銀総裁やリッチモンド連銀総裁の発言、6日は植田総裁をはじめボウマンFRB副議長、NY連銀総裁、ダラス連銀総裁、セントルイス連銀総裁の発言を予定する。なお、米国は11月1日から、冬時間に移行した。

米商品先物取引委員会(CFTC)が発表した投機筋による円先物のネット・ポジション動向は、10月27日週時点で10万1,591枚のネット・ロング、2週連続で拡大した。当該週10月半ばにコアウィーブの社債利回り15%超えが話題となりAI関連を中心に信用不安が広がるなか、メタの決算でフリーキャッシュフローが赤字に転落し、懸念を強めドル円は一時156.08円まで下落した。主な投機筋の内訳は以下の通り。

・アセットマネージャーは9万1,191枚のネット・ロング、ネット・ロングが2週連続で拡大

・レバレッジ系は1万4,630枚のネット・ショート、2週連続でネット・ショートが縮小

チャート:投機筋はネット・ロングが拡大

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チャート:レバレッジ系は2週連続でネット・ショートが縮小、アセットマネージャーは2週連続でネット・ロング拡大

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以上を踏まえ、今週のドル円の上値は200日移動平均線が近い158.60円、下値は心理的節目の155円ちょうどと見込む。

チャート:4月以降の日足チャート、21日移動平均線は黄色線、50日移動平均線は薄青線、一目均衡表の転換線は赤線、基準線は青線、200日指数平滑移動平均線は白の点線、200日移動平均線はオレンジ線、下図はRSI。

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(出所:TradingView)



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〇米国の経済指標

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〇欧州の経済指標

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〇日本と中国の経済指標

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〇オセアニア

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・赤字が最重要、青字がある程度重要な経済指標 orイベントとなる。

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