中国自動車業界(その2):EVで狙う北米・日本市場
村山 広介
この記事の著者
中国株情報部

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。

2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

為替の仕組み


この連載の1月のコラムで、「輸出市場で長年トップを走る」中国自動車メーカーだとご紹介した奇瑞汽車(09973)」が、日本で電気自動車(EV)を売り出すと11日に伝わりました。日本経済新聞の記事によれば、奇瑞汽車や車用品大手のオートバックスセブン、国軒高科(002074)などが共同出資会社をシンガポールに設立しており、その日本子会社を通じて27年からの納車を目指すそうです。

オートバックスセブンは同日付プレスリリースで、「記事に記載されている整備や販売等、オートバックスの店舗網を活用した具体的な内容について、現時点で決定していることはなく、可能性について検討を進めている段階」と述べました。実際に奇瑞EVが日本で発売されるかは、今後の発表によってはっきりするでしょう。ただ、中国株投資の観点からすると、中国の自動車業界が海外展開に活路を求めざるを得ない状況に追い込まれていることが、改めて裏付けられたという印象です。



この連載の第81回でご紹介した通り、中国の自動車メーカーは「国内市場は過当競争、海外に活路」という課題に直面しています。中国の乗用車メーカー団体、乗用車市場信息聯席会(CPCA)が11日発表した市場レポートによると、狭義での乗用車(セダン、多目的車=MPV、スポーツ多目的車=SUV)の2026年1-4月の小売台数は、前年同期比18.5%減の560万4000台にとどまりました。「国内のガソリン・ディーゼル車需要は燃料価格の上昇と内需低迷という二重の逆風を受けており、自動車メーカーは国内圧力を相殺するため、海外市場の深耕を加速している」とCPCAは指摘しました。

問題は、前年までの成長をけん引していた新エネルギー車(EV、プラグインハイブリッド、レンジエクステンダー)ですら、販売台数が縮小していることです。CPCAのレポートによれば、新エネルギー乗用車の1-4月小売台数は275万8000台で、前年同期と比べ17.2%減っています。



しかし、海外市場に目を向けると様相が一変します。CPCAリポートに掲載された統計によれば、2026年1-3月期の乗用車(狭義)輸出台数(完成車およびコンプリートノックダウン)は、66.2%増の259万1000台。うち新エネルギー車は118.7%増の130万6000台と急成長が続いています。CPCAの見解も「規模の優位性が明らかになり、市場の需要が拡大するなか、中国製の新エネルギー車ブランドはますます多く海外へ進出しており、海外での認知度も継続的に向上している」と楽観的です。

しかし、中国自動車メーカーによる海外展開の分布をみると、課題も浮き彫りになります。現状では、新エネルギー車の輸出先が欧州とブラジルに偏っています(表1)。今後も海外での成長を続けるには北米と日本での市場開拓は必須でしょう。なお、新エネルギー車に限定しない完成車の輸出先を見ると、首位にロシア、6位にメキシコが入っています。ところが新エネルギー車ランキングにはこの2国が見当たりません。中国メーカーに限った話ではありませんが、海外事業ではロシアによるウクライナ侵攻、トランプ米政権の関税政策が制約要因になります。

特に米国への輸出については、中国自動車メーカーが乗り越えねばならないハードルは相当に高そうです。また、日本の消費者はEVに対する関心が欧州と比べて薄く、中国メーカーは難路を承知で乗り入れる覚悟が必要でしょう。



もっとも、打開策はあります。中国の自動車業界は輸出障壁が高いとみられる海外市場に進出するには、現地生産が有効だとみています。完成車を輸出するのではなく、部品の状態で相手国に運び入れて現地で組み立てるコンプリートノックダウン(CKD)であれば、進出先の当局から雇用の創出につながるとして歓迎される、という期待があるからです。

CPCAによれば、中国自動車メーカーの一部はすでに自社ブランドのCKD輸出比率を高めています。特に目立つのはCKD輸出比率56%の長城汽車(02333/601633)。次いで上海汽車集団(600104)傘下の上汽通用五菱(同27%)、上汽乗用車(同12%)などです。この3社は2026年4月総合輸出台数ランキング(表2)では奇瑞汽車やBYD(01211/002594)、吉利汽車(00175)にリードされていますが、海外市場での「現地化」で先行すれば上位浮上もありそうです。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2026年5月15日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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