<テクニカル分析判断> ●短期:52MAで見事に底打ち/反発。大ブレしづらい展開の中「21MA超の水準維持」が注目点 ●中期:想定以上 […]
為替相場、例えばドル円の価格は常に変動しています。朝8時に1ドルが148.50円だったものが、12時に147.85円になり、夕方18時には1ドル149.10円になるなど、為替相場はずっと動いています。この例では、ドル円の価格が上は149.10円、下は147.85円と時間により1.25円の差がありますが、2022年1月以降を見ると平均して1日に1.16円の変動があります。
為替相場の変動を理解するには、為替市場の仕組みや参加者について理解する必要があります。ここでは、①為替市場(マーケット)の仕組み、②為替市場の参加者、について簡単に説明したうえで、③為替相場の変動要因について解説します。
為替市場の仕組み
為替市場は株式市場とは異なり、取引の中心となる市場(取引所)がありません。例えばNTT(日本電信電話)の株式は、基本的に証券会社を通して東京証券取引所で取引されます。一方で、為替は直接取引相手と取引を行う相対取引であることが多く、どこでも誰とでも取引をすることができます。為替市場は株式市場や商品市場のように一か所に留めることができないため、東京、ロンドン、ニューヨークといった都市空間が実質的な市場となっています。
例えば、以下は全て為替取引になります。
- 銀行で両替(個人と銀行が為替取引)
- FXでスポット取引(個人とFX業者が為替取引)
- A銀行とB銀行がスポット取引(銀行間の為替取引)
- 空港で両替(個人と両替業者が為替取引)
- ホテルで両替(個人とホテルが為替取引)
2021年の東京外為市場のドル円の取引(銀行取引を集計)は、1日あたり平均で約450憶ドル注1(約6.5兆円、1ドル145円で換算)(日本銀行金融市場局調査)と活発に取引が行われています。近年は個人によるFX取引が拡大しており、2022年9月には1カ月で1,398兆円注2(1日あたり平均63.5兆円)の取引があり、FX取引が銀行取引を大きく上回る状況です。
注1)日本銀行、外国為替市況データより(https://www.boj.or.jp/statistics/market/forex/fxdaily/ex2021.pdf)
注2)金融先物取引業協会、店頭FX月次速報より(https://www.ffaj.or.jp/library/performance/fx_flash/)
為替市場の参加者
為替市場のおもな(取引高の多い)参加者は以下になります。
- 銀行:銀行以外の市場参加者に、為替取引サービスを提供する。銀行が為替取引を行うことや、銀行間の取引を行うこともある。2021年の1日あたりのドル円取引は約450億ドル。
- 機関投資家:年金、保険事業者など。巨額の資金を外貨運用しているため、為替取引が多い。
- 貿易企業:海外取引を行う輸出入企業。2021年の取引額は日本の輸出が約83兆円、輸入が約84兆円。おもに貿易に由来する実需の為替取引を行う。
- FX業者:個人、企業に対して為替取引サービスを提供する。2022年9月の取引額は1,398兆円。
- 個人投資家:おもに銀行での外貨預金、証券会社での外貨有価証券取引、FX業者での投機的な為替取引を行う。
これらの市場参加者が、為替取引を行うことで相場が変動します。それぞれの参加者が、どのような理由で為替取引を行い、その結果相場がどのように変動するかを以下で考えてみます。
為替相場の変動要因
為替相場も他の商品と同じ様に、買う人が多ければ値段は上がり、買う人が少なければ値段は下がります。ドル円相場ついては、ドルを買う人が多ければドルの価格は上がり(ドル高円安)、円を買う人が多ければ円の価格が上がり(ドル安円高)ます。
為替市場のそれぞれの参加者が、どのような理由で取引を行うか考えてみます。
貿易企業
貿易企業は、おもに取引代金決済のために為替取引を行います。輸入企業であれば決済代金(外貨)の支払いのために外貨(ドルなど)を買い(円売り)、輸出企業であれば決済代金(外貨)の受取りのために外貨(ドルなど)を売り(円買い)ます。輸入企業の取引が多くなると、円を売る取引が増えるため円安になりやすく、輸出企業の取引が多くなると、円を買う取引が増えるため円高になりやすくなります。
2022年上半期(1月~6月)の貿易統計では、輸出が45兆9,378億円、輸入が53兆8,619億円と、差引で7兆9,241億円の輸入超過となっています。輸入が多いことから円を売る取引が多く、貿易の観点からは円安になりやすい状況です。
機関投資家
多くの機関投資家(年金基金、生命保険会社など)は、中長期的な視点で資金の運用を行います。機関投資家は資金の運用金額が大きく、取引が為替市場に影響を与えることからその動向が注目されます。機関投資家の例として、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は192兆968億円の資金を運用しています(2022年6月末現在)。GPIFは、資金の約50%を外国債券、外国株式で運用しているため、資金配分の変更により大きな為替に影響が出ると考えられます。
中期的な視点で取引を行うため、景気の動向や金融政策の動向の変化に対応して取引を行います。例えばFRBがインフレに対応するために金利の引き上げを行ったタイミングでは、金融政策の変更に対応する取引を行うものと考えられます。
個人投資家
個人投資家(投機家)は、短期的な視点で投資を行う割合が高く、例えばデイトレーダーは1日の間に何度もFX取引を行います。個人投資家のFX取引は、最近のドル高の進行により急激に増加しており、2022年9月の取引高は1,398兆円でした。個人投資家の預かり証拠金は9月末時点で約1.8兆円なので、預かり証拠金の776倍の取引が行われたことになります。中長期的なニュースや経済指標の発表などに機動的に対応して取引を行います。
為替相場は需給(売り買いのバランス)により価格が変動します。為替相場を予想するということは、為替市場の主要な参加者がどのように取引を行うかを予想することになります。特定の事象が発生した場合に、それが短期的に、また中期的に経済にどのような影響を与えるのか、またその結果為替がどのように動くのかを予測することは簡単ではありませんが、市場の参加者がどのように反応するかを考察することで、為替の変動を予想する(シナリオを作る)ことができます。
相場変動の要因となるイベントに以下のものがあります。
- 経済指標:経済見通しの変化の兆候となり得る
- 政治、災害、紛争などのニュース:社会や経済に大きなインパクトを与える可能性がある
- 企業情報、企業統計など:経済状況の変化の兆候となり得る
現時点で入手可能な情報や、将来発生すると思われる重要なイベントについて分析・考察を行うことで、為替相場の変動を予測することができます。
中期的な為替相場の変動を予想する例として、ウクライナとロシアが停戦に合意した場合に為替相場がどのように動くかを考えます。
- 自由主義経済圏が拡大し、米国中心の経済が安定(ドル高要因)
- ヨーロッパの地政学リスクが減少し、ユーロに資金が流入する(ドル安要因)
- ウクライナ、ロシアの資源輸出が再開、また輸送網が回復することで資源コストが低下し、インフレが鎮静化する。インフレの鎮静化により、主要国の政策金利が低下する(ドル安要因)
- ウクライナの復興需要で、米国企業の収益が大幅に増加(ドル高要因)
- ウクライナの復興資金で、日本政府が巨額の資金提供を求められる(円安要因)
ここで、市場の参加者がどのように反応するかを考えます。
- 貿易企業(輸入企業)は、資源コストの低下により輸入金額が減少する。輸入金額の減少により、日本の貿易赤字が減少する。(円高要因)
- 機関投資家は、地政学リスクの低下により、よりリスクを取る資金運用を開始する。債券市場から株式市場への資金シフトや、新興国への投資が活発になる。(円安要因)
上記のシナリオを想定すれば、例えばウクライナとロシアの停戦のが見込めると思うタイミングで、資源コストの低下から日本の貿易赤字の解消、その結果としての円高を想定して、円が買われることが考えられます。
もちろん全ての出来事を事前に予測することはできませんし、また出来事に対する経済の動きや投資家の反応を網羅的に予測することはできませんが、社会や経済に大きな影響があると思われる出来事についてシナリオを立て、シナリオを根拠に取引戦略を立てることは、為替相場の変動を予想するために有用です。
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