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生命保険会社の外国為替取引
銀行でもない生命保険会社が、外国為替取引を行っているとは思い浮かばない方も多いのではないでしょうか。実際には、生命保険会社は外国為替取引市場において、目立たないながらも有力プレイヤーの一員です。本稿では、生命保険会社がなぜ外国為替取引を行うか、生命保険会社と外国為替取引の係りをご紹介したい。
資産運用会社としての生命保険会社
生命保険会社は言うまでもなく生命保険や年金を販売する保険販売会社であるが、それと同時に顧客から拠出された保険料とその集積である準備金(責任準備金)を運用するという資産運用会社としての側面を持つ。すなわち生命保険会社の経営にとって保険営業と資産運用は車の両輪にたとえられる。
継続的に拠出される保険料が累積した結果、国内生命保険会社全42社の総資産残高は2022年3月末で419兆7000億円の巨額に達している。
保険料は一定の利率(予定利率)で割り引かれて算出されているので、生命保険会社はこの予定利率を確保すべく、累積した責任準備金を運用する必要が生じる。生命保険会社は運用機関として内外債券・株式、貸付金、不動産等に投資しているが、日本の低金利情勢が続く中で確たるウエイトを占めているのが外国証券であり、生命保険全社の2022年3月末時点の外国証券保有残高は111兆5300億円と総資産の26.6%を占める主要投資対象となっている。
なお、外国証券の内訳では、生命保険全社の統計は見当たらないが、いささか古いものの明治安田生命のディスクロージャー資料によると2020年3月末時点で、公社債が79%、株式が15%であり公社債が高いウエイトを占めていることがわかる。合わせて外貨建て資産の通貨別割合をみると明治安田生命では米ドルが88%、ユーロと豪ドルが各5%となっている。明治安田生命以外の生命保険会社の場合も同一とまではいかないまでもおよそ同じような状態であると推察される。以上をまとめると、国内生命保険会社の外国証券投資は米ドル建ての公社債が主力対象であることがうかがわれる。
外国為替取引の発生
生命保険会社の資金の源泉は、最近では外貨建て生命保険契約もあるものの、圧倒的部分が円で拠出される保険料であるため、例えば米国国債に投資しようとすれば、そこに円を米ドルに換えるという外国為替取引が生じる。
生命保険会社の東京外国為替市場における存在感であるが、そのウエイトを数字としてはっきり把握するのは困難なものの、無理を承知で比較すると、日銀の統計によればドル・円の一日当たりのスポット出来高が最近(9月1日から9日までの平均)では4339百万ドル(1ドル140円換算で6074億円)であり、一方の生命保険会社の外国証券投資残高が2022年3月末で111兆円であることを鑑みると、生命保険会社が大規模に外国証券投資やのちに述べるヘッジ取引を行った場合、東京外国為替市場に少なからぬ影響を与えることも十分想定されるだろう。
ちなみに、生命保険会社が米ドル建て債券への投資を積極化すると米ドルへの需要が高まるため、マーケットにおいてドル高・円安要因となることは折に触れ新聞紙上でも報じられているとおりである。
為替オープン型とヘッジ付き外債
生命保険会社の外国証券投資の大半を占める外国公社債への投資の方法をみると、為替ヘッジを付さない為替オープン型と、為替ヘッジをほぼ同時に付けるヘッジ付き外債に大別される。
為替オープン型の場合、生命保険会社は円で外債に投資しそのまま保有するか、金利情勢はじめ為替変動予測に基づき途中で外貨の売り予約(売りヘッジ)を付すかといった為替変動への対応行動をとることになる。円高局面で外債を購入し、その後円安に振れれば為替の含み益が生じるので生命保険会社にとって居心地の良い状況となる。その点貿易企業の場合でみれば輸出企業と立場が似ているともいえよう。
もう一つの方法がヘッジ付き外債と呼ばれる手法である。これは外債を購入するとほぼ同時に、いわばセットで同額の為替売り予約をつけ、為替変動リスクを当初から排除する手法である。主に国内と外国の短期金利差から生じるヘッジコストを勘案すると、理論的にはヘッジ付き外債の利回りは国内債券の利回りにまとめられるが、時々の金融・経済情勢によってはヘッジコストを支払っても国内債券よりも高い利回りを享受できる局面が生じるので、そのような状態の時に、ヘッジ付き外債投資が積極化されることとなる。
外国証券投資を行うかどうか、行う場合に為替オープン型とするかヘッジ付き外債とするか、そのミックスとするか、またその量的規模はどのくらいにするか等は各生命保険会社の為替や金利の見通し、財務状況(リスクバッファーの状態等)などにより各社各様である。保険契約者と約束した将来の保険金・年金支払いを確実なものとするため、生命保険会社は投資に当たって安全性の原則を最優先するが、外国証券投資に当たっては、各社の実情に応じて、オープン型の場合、円安局面では途中で為替ヘッジをつけて益を確定する、また円高局面の場合には耐えられる水準を越えて円高が進むと予想される場合には売りヘッジを行い損を確定しそれ以上の損の発生を防ぐといった為替オペレーションが展開される。
過去の教訓
さて、ここで、生命保険会社の破綻の一因が外国為替取引であったケースを参考までに紹介したい。
四半世紀前にさかのぼるが1997年にA生保会社が破綻した。A生保会社は1980年代後半以降高利回り(高い予定利率を付与)を約束した個人年金保険を大量に販売したが、90年代に入り低金利情勢が浸透する中、運用利回りが予定利率を下回るいわゆる逆ざやの発生に見舞われた。この逆ざやを何とか解消すべく、高利回りの外債を為替 オープン型で取得。為替オープンが当たり高い利回りをそっくり享受できた期もあったが、予想が外れ円安から一転して円高が進行する中でヘッジをつけないオープン型投資から損失が発生し、他の要因もあったにせよ、ついには経営破綻に追い込まれる一因となってしまった。
現在では為替リスクのコントロール手法が多様化・高度化しているので、当時のようなケースは発生しがたいと思われるものの、せっぱ詰まった局面でいちかばちかの投資を行うことは悲惨な結果につながりかねないことを、他山の石として肝に銘じておきたい。
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