トレーダム為替ソリューション 【AI為替リスク管理システム】

  • Weekly Report(4/30):「上昇の過熱」が広範かつ急激に進展したため、反落を含めた自律調整は不可避
    吉岡 豪麿
    この記事の著者
    トレーダム 取締役CAO

    国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

    マーケット分析

    <テクニカル分析判断>   

    ●短期・中期・長期・超長期の全ての時間軸で「上昇トレンドの本格化が大きく進展」を確認

    ●一方、全時間軸で「上昇の過熱」も急加速したため、反落も含めた相当な自律調整は不可避

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    <<<「上昇の過熱」が最も顕著だったため、今週は「直近2年間の日足チャート」で総括 >>>

    4/22週は「寄付154.56154.41~158.43:終値158.19(前週比+3.57円の大幅な円安)となり、週足では4週連続の陽線を形成(後掲➋ご参照)。日足でも、先週金曜日に一気に3円ほど急騰し「超長期的USD高円安トレンドの本格化」が加速していることを改めて強く市場に印象付けた。

    しかし、先週も指摘の通り<日足ではRSIが一時90を超え2022年10月を超える「異常な買われ過ぎ状態」(上図ご参照)>を呈するなど上昇の過熱が際立ち、<更なる上昇のためには「過熱感の緩和(≒少なくとも短期的な速度調整)」が必要に見えるとした先週の想定を大きく上回る急騰となった

    この展開に伴い、先週の週間レンジは4.02円と本年初の急反発相場以来の変動(上昇)率を記録した。先週も指摘した<「152円の壁」を突破してもなお大幅な変動に結び付かなかったのは、市場が自己実現的に自律的速度調整を行っている証左>であり、<当面は(市場介入など強制的な圧力が加わらなければ)『強含み保合い』という比較的落ち着いた推移が中心となる可能性が高まりつつある>との見通しは大幅な修正を余儀なくされている。

    このように先週の変動(上昇)率が急激に高まったことにより「テクニカルな上昇の過熱状態も急加速」したため、その速度だけでなく“反落”も含めた「自律調整」の顕現化は不可避だと考えられる。

    従って、当面は上下に大きく振幅(変動率が急上昇)する可能性が高いとの想定に修正する。

    以下ではいつも通り『短期・中期・長期の方向性』について各時間軸チャートによるテクニカルな視点を中心にご案内。(今号の分析は2024/04/26のNY市場終値をベースに実施)

    以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数

    ➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド」、「52MA & 200MA」、RSIを付記  

    短期(1週間~1か月弱)の方向性:過熱が急進展。反落も含めた相当な自律調整は不可避

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    □2週前に見込んだ<上昇第3波の「中期(3ヶ月程度)目標値=157.12円超」に向けた上昇>は先週末にあっさり達成。一気に158円台への上昇となった。今後は「長期目標値165円超」を見据えた新たな上昇経路の模索がはじまることになる

    ただし、RSIが一時90超と2022年10月を超える「異常な買われ過ぎ状態」を呈するなど上昇の過熱が際立ち、短期的にはその速度だけでなく“反落”も含めた「自律調整」の顕現化は不可避

    >>> 想定レンジ=今週:155.10~160.35 、今後1ヶ月:153.90~162.30 =

    ➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSIを付記 

    中期(1か月~半年程度)の方向性:上昇の過熱が更に加速。目先、反落も含む自律調整は不可避

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    □想定を上回る加速度で上昇。今後も「長期的USD高円安トレンド(目標値=165円超)」の本格化を見据えた上昇経路の模索が見込まれる

    ただし、先週の急伸で「21MA+4.32%の水準」を大幅に上回り「21MA+7.41%の水準」に接近。このままの上昇ペースが続けば「21MA+7.41%の水準」を超えて「ピークアウト⇒反落」の可能性も相応に高まる。当面は、速度だけでなく“(価格の)反落”も含めた「自律調整」が避けられまい

    一方、短期ほどの異常な過熱ではないため、以下のルートで過熱感の緩和もあるか

    =>仮に保合い(横ばい)が続いたとしても、しばらくは約0.5円/週のペースで21MAが上昇継続

    =>「21MAとの乖離が着実に縮小」して行くことで「過熱感も逓減」すると想定される

    >>> 今後6か月間の想定レンジ 148.80~159.00 ⇒ 151.50~165.00 =

    ➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記  

    長期(半年超~1年程度)の方向性:長期上昇トレンドが本格化する一方、自律調整の可能性も台頭

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    ◇<2021年以降は「3連続陽線の後には例外なく陰線が出来」しており今回もそのパターンが見られる可能性>があったが、先週までの急伸により「4月も陽線」はほぼ確実

    >>>4カ月連続の陽線は2014年7-12月の6ヶ月連続以来(上図➊を含む部分)

    >>>「(数年単位の)超長期上昇トレンドが本格化」してゆく可能性高まる

    >>> 今後1年間の想定レンジ = 149.70~168.00 ⇒ 151.50~168.00 =

    <ファンダメンタルズ分析判断>

    □先週の日米金融市場は「日米共に金利上昇・株価反発・USD円34年ぶり高値更新」(下表右端)

    ◆米国:「債券利回りは小幅に上昇」ながら「大型成長株主導で株式市場は4週ぶりの反発」

    ◇日本:「市場金利は上昇」も米国株の4週ぶりの反発を受け「株価は反発」

    ◇日銀の追加利上げ見送りに甚大な日米実質金利差は縮小せず「USD円は34年ぶり高値を連日更新」

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    【米国】週間の変化

    □経済指標:主要なインフレ関連指標は事前予想比やや強含みながら「概ね予想通り」の評価

    ◇米3月個人消費支出(PCE)価格指数(デフレーター):以下の通り事前の市場予想を若干上回る

    〇総合: 結果 +2.7% ( 市場予想 +2.6%)

    〇コア: 結果 +2.8% ( 市場予想 +2.7%)

    >>>引き続き「FRBが利下げを急ぐ必要はない」との認識がより強く市場に浸透

    >>>実際、市場が見込む「9月利下げの確率は58%(前週は69%)に低下」

    >>>利下げ開始時期は後ズレが次第に加速しているが、「12月利下げの確率は80%超」を維持しており「年内利下げ開始」の見通しに著変は無い

    ◇債券利回り:更に原油価格上昇も加わったインフレを巡る状況から、長短金利は上昇

    > 2年債利回り:4/19  4.986% ⇒ 4/26  4.998%(前週比+0.012%上昇

    >10年債利回り:4/19  4.621% ⇒ 4/26  4.671%(前週比+0.050%上昇

    =>10年-2年の逆イールドは「▲0.327%へ前週比でやや縮小」(下図)

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    ◎株式市場:主要なインフレ関連指標が事前予想比やや強含みながら「概ね予想通り」であったことやマイクロソフト・アルファベットなどの大型成長株を中心に上昇

    >>>週間ベースでは、S&P500が4週ぶり・ナスダック総合は5週ぶりに上昇し、共に昨年11月以来の大幅な上昇率を記録

    ◎USD指数:中東情勢緊迫化によるリスク回避圧力の高まりが影響し指数は週間で若干軟化したものの、対円では34年ぶりの高値更新を継続。以下が主な要因とされている

    1)今週の米インフレ関連指標は概ね予想と一致し「FRBが利下げ開始を遅らせる」という観測が一段と強まったこと

    2)一方、日銀は金融政策決定会合で「現状の(緩和的)金融政策を維持」を決定

    >>>昨今の円安進行を受け(対抗措置としての)「追加利上げ」なども予想されていたが完全に期待外れ>>>植田総裁は記者会見で円安に対して踏み込んだ発言をせず、円売り地合いが一段と強まった

    ●ただし、市場では引き続き日本の通貨当局による介入を警戒している模様

    >>>先週末、USD円は一時156円台後半から155円割れに急落し「円買い介入」もしくは(介入を前提に金融機関にレートの提示を求める)「レートチェック」が入ったのではないかとの思惑も広がった

    >>>市場では「投機筋を中心とした強い介入警戒感によって、一時的に円買いUSD売りが集中して発生」したとみられている

    <⇔>

    〇イエレン米財務長官:「為替介入は非常にまれで例外的な状況でのみ許容される」と発言

    >>>日本の為替介入姿勢を牽制 

    → かねて指摘の通り「現在の米国は高止まりするインフレの抑制に寄与するドル高を容認」の構え

    → 一方、植田日銀総裁は政策決定会合後の記者会見の中で「基調的な物価に対して、円安は今のところ大きな影響を与えていない」と円安容認とも受け止められるコメントを発信

    【日本】週間の変化

    □注目された週末にかけての日銀政策決定会合

    ◇主要なポイント

    〇(緩和的な)現行金融政策の現状維持を決定

    >>>無担保コール翌日物誘導目標を0.0%~0.1%に据え置くことを全会一致で決定

    >>>長期国債の買い入れ方針についても前回会合にて決定された内容を踏襲

    => 市場では昨今の円安進行を受け(対抗措置としての)「追加利上げ」など政策修正の思惑が広がっていたため完全に期待外れとなり、現状維持決定を嫌気する形で「円売りUSD買い」が一段と進行

    〇日銀展望リポートの慎重な数値設定

    >>>新たに示された2026年分のコアCPI見通しが1.9%に設定され、物価目標の2.0%に届かなかった

    =>金融緩和政策の長期的継続の思惑が再燃し、円安進展の一因に

    〇植田日銀総裁のハト派的発言:「当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」・「国債買い入れを6兆円で継続することに対して今会合で反対はなかった」・「基調的な物価に対して、円安は今のところさほど大きな影響を与えていない」

    <⇔>

    ・神田財務官:「日米韓で円安・ウォン安への深刻な懸念を共有」、「必要であれば適切な行動をとることに変わりはない」、「手の内を晒すことになるため、具体的措置には言及しない。投機による行き過ぎた動きに対してはあらゆる手段を排除しないということに尽きる」

    ・鈴木財務相:「円安の行き過ぎた動きは常に注視している。あらゆる手段を排除せず断固たる措置をとる」

    >>>こうした全く変化のない財務省筋の姿勢とはギャップが顕現化

    ◇債券利回り:上記の状況にもかかわらず、追加利上げ観測が残存。長短共に金利は上昇

    > 2年債利回り:4/19  0.268% ⇒ 4/26  0.291%(前週比+0.023%上昇)>10年債利回り:4/19  0.845% ⇒ 4/26  0.893%(前週比+0.048%上昇)

    ◇主要株価指数:4週ぶりの米株反発などを好感し「反発」

    >TOPIX:前週末比  +2.3%高 

    >日経平均株価:前週末比  +2.3%高

    〇米国の「底堅い雇用・消費に裏付けされた堅調な景気と株価」や「根強く高止まるインフレ圧力」を反映し再び4.7%台に迫る10年債利回り(次の一手は「利下げ」開始時期は後ズレ

    <⇔>

    ●「マイナス金利政策やYCCは撤廃」したものの、「追加利上げには踏み切れず“金融政策正常化”への道筋が遠い」ことを露呈した日銀(次の一手は「利上げ」実施時期は後ズレ

    かねてより指摘してきましたが、この日米の鮮明なファンダメンタルズ格差が(両国間の)“甚大な実質金利差”をもたらし、ひいては(実質実効円レートでも)歴史的な円安水準を顕現化させています。

    >>>直近3週間でUSD円は“高い壁”とされていた152円・155円を突破し、4/26の海外市場では一気に158円台にまで急騰して160円の大台すら展望可能になってきました。

    2月の当レポートで「152円を終値で抜けたら長期目標“165円超”のUSD高円安」というシナリオを初めて披露した時には大笑していた友人も、この週末には「本当に行きそうだねぇ!」と苦笑に転じています。

    当レポートの連載開始から一貫していますが、このシナリオの要諦は以下の通りです。

    <<<「数年単位の超長期的視座に立ったファンダメンタルズ分析の結論は“トレンドはUSD高/円安”」との認識に著変はありません。(以下がその主たる要因)

    ①日本の国際収支構造の激変(≒貿易赤字の常態化、加速するデジタル赤字の拡大など)

    >>>TRADOM内コンテンツ「為替の歴史」(この中の超長期月足チャート)もご参照ください

    ②2005~2007年当時盛んだった円キャリートレードが復活する可能性(環境)の高まり

    >>>潤沢で安定した内外政策金利差(日銀の「金融政策正常化」VS「米国の金融緩和」が今後、仮に進んだとしても日本の潜在成長率の低さを考慮すれば大幅な実質金利差は必ず存続)

    >>>今後増加が見込まれる対外直接投資や「個人や機関投資家による海外証券投資」

    ⇒「(超)低成長・低金利環境にある日本」から「圧倒的な比較優位を持つ海外」へと本邦の企業や(個人・機関)投資家の資金がシフトするのは自明の理(≒必定)

    ←特に今後国策として『“貯蓄”から“投資”へ』を本格化させるのならなおのこと

    ◇上記①・②から明らかになるのは「本邦の『外貨不足』という需給動向」>>>

    前出の友人もようやくこのロジックに賛同し始めてくれたようです。

    さて、個人的にはやや失望感のあった先週の日銀金融政策決定会合に続き、今週は4/30~5/1の米FOMCが最大の注目点となりそうです。今回の米FOMCは6会合連続での政策金利据え置きがほぼ確実視されているため、市場参加者の関心はFOMC後の記者会見におけるパウエルFRB議長の発言に移っているようです。

    USD強気派の一部には「最近の労働市場の強さやインフレ指標の粘着さを踏まえれば、パウエルFRB議長の発言は極めてタカ派的となる」、「状況次第ではNY連銀のウィリアムズ総裁やアトランタ連銀のボスティック総裁と同様に『追加利上げの可能性』に言及も」との意見もあるとのこと。

    ただ、先週のレポートの当欄でもご案内した通り「(開始時期は後ズレ)FRBの次の一手は“利下げ”」で揺るがないと考えていますし、『早期利下げ期待の修正』は相当程度進んだと分析しています。

    おさらいになりますが、先週この点に言及した部分を以下に再掲します。

    <<<パウエル議長の「2%の目標までインフレ低下の確信を得るには予想以上に時間がかかる」との発言によって(年内早期・多数回の)利下げ期待が一段と後退>>>

    <<<日米の金融市場が最終的に落ち着きを取り戻すためには、米長期金利のピークアウトが焦点となることに疑問の余地はありません。更には、当然ながら『FRBによる利下げ期待が復活すること』が前提となります。

    既にここ数週間だけでも利下げ期待の巻き戻しは大きく進展しており、4/19時点で先物市場が織り込む年内の利下げ回数は1.5回程度まで後退していました。既述の通り、FOMCメンバーの中でインフレ見通しに対して最も楽観的とみられていたパウエル議長が、先週「利下げに慎重な見方に転じた」ことで市場への影響が大きかったのだと思われます。

    しかしながら、FRBで最もハト派だったパウエル議長が変節したことで「金融市場並びにFRBによる見通しの修正は一巡した可能性が高まった」とも考えられるのではないでしょうか。また、経験則上「米国景気は金融市場の動向に極めて敏感」であることから、「足元の金利上昇・ドル高・株価調整は、この先の景気抑制とインフレの低下につながる可能性も高まる」と予想されます。

    インフレ指標の落ち着きが確認されるためには相応の時間を要すると想定されます。ただその間においても、米長期金利に(低下の)影響を与え得る材料として、(かねてより指摘してきた)「FRBによる資産圧縮(QT)ペースの鈍化」が注目されることになるのではないかと考えています

    FRBは、現状、財務省証券を毎月600億USD・住宅担保証券を350億USD(円換算で合計14兆円規模/毎月)のペースで保有額を減らしていますが、「金融市場の流動性確保」のためにそのペースを鈍化させてゆこうという政策がこれです。実現すれば、少なくとも米国債の需給にはプラス要因となると考えられます。

    因みに、前回3月FOMC後の記者会見でパウエル議長は『かなり早い時期にバランスシートの縮小ペースを鈍化させることが適切』と発言していました。早ければ次回4/30~5/1のFOMCで決定される可能性もあるため、個人的にはかなり注目しています。>>>

    なお、USD円についていえば「日米の実質金利差が最大の決定要因であり、USD指数に沿ってトレンドは決まる」との認識にも変化はありません。従って、仮に市場介入(円買い)があったとしても、USD指数が下落トレンドに変わらない限り円安トレンドの反転は望めないでしょう。

    当然のことですが、USD指数が反落に転じるとすれば、上述の米金利低下が顕現化し始めてからということになると考えています。

    お知らせ①:<Weekly Reportの掲載予定について> 日本ではいよいよゴールデンウィークに突入しました。先週のレポートでもお伝えしましたが、「4/29週および5/6週のWeekly Report(文責:吉岡)」につきましては『テクニカル分析を中心とした<簡略版>を4/30(火)および5/7(火)にアップロード』を予定致しております。ご理解・ご了承のほど何卒宜しくお願い申し上げます。

    お知らせ②:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに短期を中心とした見通しについては、ジーフィット為替アンバサダーでもある安田佐和子氏のレポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。TRADOM会員の方々はサイト内で是非ご参照下さい。(但し、今週は残念ながら休載となっております。)

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