目次Executive Summary1.先週の為替相場の振り返り=ドル円、140.93円まで年初来高値を更新2.主な要人発言3.主な経済指 […]
<テクニカル分析判断>
●短期:下落トレンドが本格化も、短期的過熱から速度調整的反発が先行しやすい
●中期:『中期的天井 & 長期的Wトップ』の確認から下落トレンドは本格化が進展
先週は「寄付146.76:141.60~147.50:終値144.96(前週比▲1.86円の円高)」となり、
週足(後掲➋参照)では4週連続での陰線を形成。因みに、4週連続陰線となるのは本年
2/27週~3/20週の4週連続以来9カ月ぶりだが、過去10年ほど遡ってみてもほとんど
見られない事象だ。また、<12/1の終値は2020年6月以降「終値ベースでのトレンド
判断の重要な分岐点」となってきた「21週MAとほぼ面合わせ」の恰好(正確には僅かに
下回った)となり ~中略~ 『21週MAは強力な上値抵抗線に転化する』と見られる>
との先週のレポートでの指摘が充分に機能していることも含めて「中期下落トレンドが
いよいよ本格化し始めた」という我々の認識は少なくとも誤ってはいないと思われる。
また、4週前2.72円⇒3週前2.85円⇒2週前3.02円と再び拡大基調へと転じていた
週間レンジは、先週5.90円(週間では本年最大)と急激に拡大し「当面は比較的高めの
市場変動幅を想定」とした見通しをも上回る格好となっている。
ただし、この6円弱の週間レンジに対して先週の陰線の実体(▲1.86円の円高)以外の
部分は、週間レンジの約6割に相当する3.36円が「非常に長い下ヒゲ」となっており
「目先の下落圧力の減退」を示唆。確かに「今後1カ月程度の下値メド」としていた
「日足の200MA(142.09@12/1)を12/7には一時的に下回る」など、先週の下落スピード
は速過ぎた印象が強い。このため、先週の速過ぎた下落速度を調整する意味で「今週は
反発が先行」する展開が想定される。
しかし、ここ数週指摘してきた通り日足(後掲➊参照)で<21MAや52MAを終値で明確に
下回ったことにより、下落が加速し中期的下落トレンド開始の可能性が高まる>状況が
確認され、「中長期的な下降トレンドへの転換」は明確に示唆されたといえる。
このトレンド転換からの経過期間の短さを考慮すれば、この「中期下落トレンド」は
まだまだ継続することとなろう。
以下では『短期・中期・長期の方向性』について各時間軸チャートによるテクニカルな
視点を中心にご案内。(今号の分析は2023/12/8のNY市場終値をベースに実施)
<以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数>
➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド」、「52MA & 200MA」、RSIを付記
短期(1週間~1か月弱)の方向性:下落トレンドへの転換確認も、速度調整的反発に要警戒
◆我々は「上昇トレンドの終息・下落トレンドへの転換」は確認されたものと認識
⇒週央まで下値支持線として機能していた本年3月下旬からの上昇トレンドラインを12/7
に明確に下回った(21MAや52MAと同様に今後は上値抵抗線へ転化する見込み)
⇒更に、先週21MAと52MAのデッドクロスが完成(図上部右端のグレーの〇部分:上記も)
●<本年1/16(127.22)から11/13(151.92)までの上昇相場は5波動で形成・終了>と捉え、
先週は「200MAが持つ意味合い」と今後1カ月程度は「少なくとも200MAに向け下落」する
する可能性を指摘したが、これは先週12/7にあっさり突破し一時141.60円まで下落
◇ただし、足許の下落ペースは急速(過ぎる)との捉え方が妥当、RSIやストキャスティクス
の状況にも反発の兆候が見て取れる(下段2つの図右端のエンジの〇部分参照)
◇[200MA]や[21MA-4.32%]がメドとなり一旦急落は収束(チャート上部右端の茶色の〇部分)
=>速度調整的な一時的反発が先行しようが、始まったばかりの中期下落トレンドは継続
>>>想定レンジ=今週:142.50~147.30 、今後1ヶ月:139.60~147.30 =
➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSIを付記
中期(1か月~半年程度)の方向性:速度調整的反発を交えつつも下落トレンドは本格化
●チャートからは『2022/10/17週と2023/11/13週で長期的Wトップ形成』が明確に窺え
『(中期的)下落トレンドは既に開始していた』ことを確認
>>>➊と同様に注目すべきは『①1/16週から11/13週までの上昇相場は[5波動で形成]』
・『②[週足21MA]が[日足200MA]と同様に重要な役割を担っている』という点
⇒①エリオット波動理論に則れば、既述の長期的Wトップ形成により上昇相場は既に終了
=>『1/16(127.22)~11/13(151.92):上昇幅24.70円』と捉えた下値メド設定が妥当
=>『 31.8%下落:142.48、 50%下落:139.57、 61.8%下落:136.65 』など
⇒②最初の調整局面では[21MAが上値を抑え]、次では[21MAが下値をしっかりと支持]
⇒②先週以降、21MAより低水準での推移となり『21MAは強力な上値抵抗線に転化』した
>>>➊とは異なり現在48.0程度の中立的水準を維持する『RSIには依然低下余地が残存』
>>> 今後6か月間の想定レンジ = 136.65~149.10 ⇒ 136.65~147.30 =
➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記
長期(半年超~1年程度)の方向性:超長期上昇トレンドの再開は中期的下落の終了後
◎今回も期間を過去5年半程度に通常よりも短縮し、重要なポイントを拡大表示。
過去1年超のWトップ形成やRSI・ストキャスティクスの水準、強調点などを拡大して表示
◆想定通り11月は本年3月以来の大幅な陰線を形成し、既述のWトップ形成を確認。
現状では今月も下落基調にあり、このまま陰線となれば『2022年11月~2023年1月』
を除き、2021年1月以降で初めての2カ月連続陰線(下落)を形成することとなる
>>>これまでも主張してきた通り、我々は「超長期上昇トレンドが本格化する前に
『中期的下落トレンドに入る』可能性が依然残存」をメインシナリオとして維持
●繰り返しとなるが、その根拠は主に以下の3点(チャートは2018年7月からの推移)
<=2022年10月は「20MA+18%と60MA+30%を同時に上回る」という過去35年以上
経験したことのない「異常な(上昇の)過熱状態」にあった(金色の太枠部分)
<=一時85超まで過熱したRSIは70.1まで再上昇したが直近61程度まで低下中
=>超異常状態からの反落だけに(少なくとも)20MA突破に向けた軟化/下落を見込む
<現在140.02近辺の[20MA]は仮にUSD円が横ばいでも来月も0.8円超上昇の予定>
=>今後数カ月の間に[20MA]を一気に突破する可能性も高まりつつある
◎ただ、その動きも2024年中には底打ちし(超長期トレンドである)「USD高円安」方向
へと反転してゆく可能性が高いのではないかと想定している
>>> 今後1年間の想定レンジ = 132.60~153.00 ⇒ 132.75~151.50 =
<ファンダメンタルズ分析判断>
◇週末の11月雇用統計・非農業部門就労者数や失業率が市場予想を上回る内容となるなど
先週の米国経済指標は全体的に市場の事前予想より強い傾向にあり、前週急激に高まった
「景気減速⇒早期利下げ期待」が修正を余儀なくされ米債利回りも前週比で上昇した。
これを受けて主要6通貨に対するUSDインデックスは週末にかけて上昇したものの、USD円だけは
一時本年8月上旬以来となる141円台半ばへ急落するなど4週連続の下落となった。
◆『USD円だけが下落』した主たる要因は12/7の植田日銀総裁の発言(我々の見解は後述)。
植田日銀総裁は参院財政金融委員会にて、足元の金融政策をめぐり「年末から来年にかけて
一段とチャレンジングになる」と発言。加えて、IMFのコザック報道官が景気回復の継続を
予想した上で、日銀は短期金利引き上げを準備すべきと述べたため、12/18~19開催予定の
日銀金融政策決定会合におけるマイナス金利解除期待が急速に高まったためと考えられる。
かねてより『日米金融政策の方向性(の相違は秋口から)は逆転』と指摘していたが、それが
次第に顕現化しつつあると言えよう。
□一方、速度調整的な米債利回りの上昇によって「リスク選好」機運も一旦シュリンクする
と思われた株式市場は引き続き堅調を維持し、現地通貨ベースでは僅かながらも上昇した。
これについては、先月来指摘し続けている以下の要因の変化によるものと認識している
共存を継続できないため「このロジックの歪みは早晩修正される」としていた2つの要因
- 『FRBのタカ派的な金融政策の継続観測』のベースになっていた堅調な米国経済と
根強いインフレの継続(⇒米金利/USDインデックスの高止まり)
=>これについては、完全に鈍化/低下の方向へトレンドが変化したと判断
- FRBが比較的早期に利下げに転換するとの期待(米国債利回りのピークアウト観測)を背景
とした『リスク選好機運』(11月だけで米S&P500は8.9%上昇)
=>先週の経済指標と金利上昇により「早期に」がやや後ろ倒しになった観はあるも、利下げ
観測そのものは強く残存しており、この期待が『リスク選好機運』を永らえさせている
<大幅な利下げが必要となる実体経済(≒景気後退)を目の当たりにしそうになった時に、この
機運を変わらずに継続できるのかどうかには疑問が残る>
◆【短期~中期的視座】「USD/円相場の上昇」に対するサポート要因(⇒影響はほぼ終息)
◇当初想定よりはるかに強い米国の「インフレ高止まり」観測(⇒この観測もかなり衰退)
⇒「Higher & Longer」=米金利がより長期間かつ高水準にとどまるという観測
>>『タカ派なFRB VSハト派な日銀の明白なコントラスト』の再強調
⇔ 今後は「欧米のタカ派色希薄化の一方、日銀はハト派色後退」が漸進してゆくはず
>>先週の日銀関連のニュースとここひと月ほどの金融市場の展開がそれを強調
〇依然として高水準を維持する「日米実質金利差ならびに日米短期金利差」の更なる?
拡大観測とそれに伴う円キャリートレード復活/活発化に対する期待
⇔「欧米の利上げ打ち止め」並びに「日銀の金融政策正常化への漸進」というかつての
「逆行する(金融政策の)方向性」の反転が視野に入り、このロジックもそろそろ終息
>>但し、長期的には折に触れて注目される要因(特に、市場の変動率が低い場合は)
■【中期~長期的視座】先行きの「USD/円相場の下落」を示唆する要因
●米銀行セクター不安から顕現化した“信用逼迫”への懸念は燻り続ける公算大
>>>過去1年半超にわたる利上げの累積効果による景気鈍化は今後本格化へ
⇒米銀の貸出態度は現在加速的に厳格化しており、実際の貸出も昨年11月に
つけたピーク(前年比13.5%増)から、足許では伸びが大幅に低下中
⇒おそらく本年末には前年比ゼロもしくはマイナス圏に陥るとみられている
>>>2023年通年での米企業倒産件数はリーマンショック後で最高に達するとの予想もある
●コロナ禍の期間中に発生した家計の過剰貯蓄(銀行預金)が現在急減している問題
>>>個人の消費性向が高いとされる米国でも、足元における大幅な預金減少は極めて稀
⇒現在のペースで取り崩されていけば、年末には底をつき、家計の消費ペースはその後
大幅にスローダウンする可能性が高い(=その急減・枯渇は来年に向けた一大リスク要因)
●米債券市場において『逆イールド』が示唆する景気後退リスクは依然として払拭されず
>>>米債券市場での将来の景気後退を示唆する『逆イールド』は依然として残存
>>>『逆イールド』幅は今年3月の最大値(▲1.08%)を7月に僅かに更新(=▲1.09%)
>>>その後、一旦縮小のトレンドに入ったと思われたが、拡大と縮小を交互
に繰り返す展開が続き、解消に向かう明確な気配は未確認だった。
⇒既述の「Higher & Longer」認識の浸透に伴い、9月下旬以降縮小が加速
⇒3月には「年後半には利下げ」観測から『2年急低下⇔10年緩やかな低下』の
解消経路(パス)だったが、9月下旬以降は『2年横ばい⇔10年急上昇』のパスが機能
⇒この長短金利の跛行的な動きが加速したことによって逆イールドは急速に縮小し、
10月第4週にはその幅を▲0.27%と3月下旬の縮小時(▲0.39%)を更新した
⇒ただし、11月以降は「10年債利回りの急低下(⇔2年債利回りの高止まり)」から
「逆イールドは再度拡大傾向」へ状況が悪化する局面も見られた
⇒足許は我々の想定に近い形で米国のファンダメンタルズが進展し始めており、昨今の
国際情勢の悪化も加わり米景気後退が視野に入るため、再び今年3月のパスに回帰する
というルートが復活する可能性も高まってきている
●【日本】現在の『異次元の金融緩和』に追加的(=深堀りの)余地は皆無
>>>今後の日本の金利の変化としては「長期的に上昇」の可能性が非常に高い
(生保など機関投資家が長期投資対象として充分魅力的な水準に上昇するまで)
>>>欧米の利上げ(既に?)終了 ⇒ 自ずと内外金利差は縮小へ向かう (円の買戻しへ)
□【数年単位の超長期的視座】超長期的に「USD/円相場の上昇」をサポートする要因
①日本の貿易(国際)収支構造の反転(≒貿易赤字の常態化)
>>>TRADOM内コンテンツ「為替の歴史」&「月足チャート」もご参照ください
②2005~2007年当時の円キャリートレードが復活する可能性(環境)の高まり
>>>潤沢で安定した内外金利差(日銀の「金融政策正常化」VS「米国の金融緩和」が
今後仮に進んだとしても日本の潜在成長率の低さを考慮すれば政策金利差は必ず存続)
>>>今後増加が見込まれる対外直接投資や「個人や機関投資家による海外証券投資」
⇒「(超)低成長・低金利環境にある日本」から「圧倒的な比較優位を持つ海外」へと
本邦の企業や(個人・機関)投資家の資金がシフトするのは自明の理(≒必定)
←特に今後国策として『“貯蓄”から“投資”へ』を本格化させるのならなおのこと
◇上記①・②から明らかになるのは「本邦の『外貨不足』という需給動向」
さて、先週は「米FF(政策金利)先物市場における(急ピッチ過ぎる)利下げの織込み度合い」
に言及しましたが、今週は先週同様『(急激な)円高要因』と市場に受け止められた「日銀の
金融政策変更に関する市場観測」に触れたいと思います。
人により受け止め方は様々ですが、我々は「12月に入って、金融政策の正常化に向けた日銀
の地均し的な作業が加速している」との認識を強めています。
<12/1、「債券市場サーベイ・特別調査」を発表、異次元緩和による機能度低下を強調>、
<12/4、「金融政策の多角的レビュー」に関する第1回ワークショップである「非伝統的
金融政策の効果と副作用」を開催(12/6に日銀資料公開)>、
<12/6、氷見野副総裁が講演で「“賃金・物価の好循環”に関する前向きな評価をした上で
出口を迎えた際のメリット(家計の収支改善等)」を説明>、
そして<12/7、植田総裁が国会答弁で「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況
になる」と発言>。
これらは全て金融政策正常化(=異次元金融緩和の出口)に向けた環境整備の一環でしょう。
それでは「2%物価目標達成が持続的・安定的に見通せる状況が足元で固まってきたのか?」
と問われれば、我々は「むしろ真逆の状況ではないか」と考えています。
それは、ここ数か月指摘し続けてきた通り『内外経済・金融市場を巡る見通しの不確実性が
漸進的に高まり続けている』との認識を強めているからに他なりません。
●米国では金融引き締めの累積効果によって、これまで堅調を続けてきた雇用・個人消費に
陰りが見え始めている(欧州でもほぼ同様の状況)
●中国でも不動産不況・雇用不安でデフレの芽が一段と強まりつつある
=>日本では「7-9月期GDP改訂値が▲2.9%と3年ぶりの大幅なマイナス成長」となった
など、『海外主要国の景気減速に対して極めて脆弱な状態にある』ことは明らかです。
更に、足元では政治の不透明要因も加わってきています。
こうした状況だからこそ、日銀が正常化を急ぎ始めたのは『マイナス金利のような非伝統的
金融政策から脱却するチャンスへの扉が閉ざされるリスク』を意識し始めたからではないか
と考えるのは我々だけでしょうか。
今週は、12/12に米11月消費者物価指数(CPI)、12/12~13に米連邦公開市場委員会(FOMC)、
12/14には欧州中央銀行(ECB)理事会と米11月小売売上高、そして週末12/15には米11月
鉱工業生産の発表が予定されています。また、先週俄かに市場の注目度が高まった日銀の
金融政策決定会合は来週12/18~19の予定と、しばらく重要なイベントが続きます。
テクニカル分析でも触れた通り、我々は「中期的下落トレンドが漸く本格化してきた」との
認識を強くしていますが、一方で『直近の下落ペースは急激(過ぎる)との捉え方が妥当だ』
とも考えています。(RSIやストキャスティクスなどの状況にもその兆候が明らか)
下落トレンドが本格化する中においても、速度調整的かつ一時的な反発は充分ありえます。
その点にも注意しながら、クリスマス・ホリデーを翌週に控える来週までの2週間は、高い
市場変動率が予想される円相場に対峙する必要がありそうです。
お知らせ:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに
短期を中心とした見通しについては、GFIT為替アンバサダーでもある安田佐和子氏の
レポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。
TRADOMサイト内で、是非ご参照下さい。
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