<テクニカル分析判断> ●短期・中期・長期・超長期の全ての時間軸で「上昇トレンドの本格化が大きく進展」を確認 ●一方、全時間軸で「上昇 […]
―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は2023年末に米利下げ期待の高まりを受け、一時140.25円と約5カ月ぶりの安値をつけた。しかし、一転して年明け、ドル円は上昇。2023年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けた3月利下げ期待の修正が入り、米10年債利回りが約2カ月ぶりの4%台を回復する過程で、ドル円を押し上げた。また、元旦に発生した能登半島地震を受け、日銀のマイナス金利解除が後ろ倒しとなる可能性も、意識。1月5日には、米12月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が市場予想を上回る結果に反応、一時145.98円と約3週間半ぶりの146円乗せに接近。しかし、米雇用統計はフルタイムの雇用が2020年4月以来の大幅減となるなど、詳細を見ると労働市場の減速を示したほか、米12月ISM非製造業景況指数の雇用が2020年7月以来の水準へ急低下したため、144円割れへの急落を経て144.60円で週を終えた。
- 米12月雇用統計では、NFPの力強さに反し、①フルタイムの2020年4月以来の雇用減、②家計調査での就業者の減少幅が2020年4月以降で最大、③週当たり労働時間の短縮(需要低迷を示唆)――など、労働市場の減速を確認した。軟調な米12月ISM非製造業景況指数の結果もあって、米12月消費者物価指数(CPI)をにらみつつ、ドル円の上値の重さが意識されそうだ。
- 今週は11日に米12月CPI、12日に米12月生産者物価指数を予定する。ドル円は1月2日週に前週比3.61円も上昇したとはいえ、テクニカル的な地合いは引き続き軟調だ。前週末に2023年11月高値と同年12月安値の半値戻しにあたる146.08円をブレークできなかった。また、21日移動平均線が200日移動平均線を割り込むなど、複数のデッドクロスを形成。三役逆転も維持している。
- 投機筋による円のネット・ショートも、1月2日週に5万7,195枚と、前週の5万5,568枚から小幅増にとどまったが、以降に146円台に接近した過程でさらにショートを増やした可能性がある。Fedの利下げ期待が燻るなか、これ以上の円ショートを積み増すとは考えづらい。今週は、米12月CPIを始め、米指標をにらみながら、1月30日~2月1日のFOMCを控え、レンジ相場を続けるのではないか。
- 以上の観点から、ドル円の上値は前週高値手前の146.00円、下値は21日移動平均線が控える143.10円を見込む。
目次
1.前週の為替相場の振り返り=ドル円、140円割れを回避した後は146円手前まで買い戻し
【2023/12/25-2024/1/5のドル円レンジ:140.25~145.98円】
(前週の総括)
ドル円の変動幅は2023年12月18日週に3.09円、同年12月26日週は2.60円、2024年1月2日週は5.00円だった。2023年12月18日週は、日銀の金融政策決定会合で植田日銀総総裁が1月会合でのマイナス金利解除に慎重な見解を表明したため一時144.95円まで上昇。しかし、12月26日週は米新規失業保険申請件数の増加や、米11月中古住宅販売成約指数も予想を下回った結果を受け、一時140.25円と約5カ月ぶりの安値をつけた。週間ベースでは2023年12月18日週の上昇を経て、翌週は下落した。
一転して年明け、ドル円は上昇。2023年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けた3月利下げ期待の修正が入り、米10年債利回りが約2カ月ぶりの4%台を回復する過程で、ドル円を押し上げた。また、元旦に発生した能登半島地震を受け、日銀のマイナス金利解除が後ろ倒しとなる可能性も、意識された。米12月ADP全国雇用者数や米新規失業保険申請件数など堅調な労働市場を表す結果も、ドル円の上昇に寄与した。
米12月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が市場予想の17万人増を超え21.6万人増となり、失業率が前月と変わらず、平均時給が前月比・前年同月比で上回ると、一時145.98円と約3週間半ぶりの146円乗せに迫った。しかし、フルタイムの雇用がコロナ禍の直撃を受け経済活動が停止した2020年4月以来の落ち込みを記録したほか、米12月ISM非製造業景況指数の雇用が43.3と2020年7月以来の水準へ急低下した結果を受け、一時144円を割り込み143.81円へ急落するなど乱高下を迎えた。結局144.60円で取引を終え、週ベースでは3.61円と大幅反発した。
チャート:ドル円の2023年11月以降の日足、米10年債利回りはオレンジ線・左軸
(出所:TradingView)
2.為替見通し=ドル円、米12月CPIをにらみつつレンジ相場継続か
【1月8~12日の為替予想レンジ:143.30~145.80円】
―米12月雇用統計のヘッドラインに騙されるべからず、労働市場の減速を確認
米12月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、市場予想を大幅に上回った。労働参加率が低下するなか、失業率は3.7%と前月と変わらず。平均時給は全米自動車労働組合(UAW)のスト終結に伴う賃上げの影響か、前月比と前年比そろって市場予想を上回り、賃上げ圧力の再燃を示唆したようにみえる。
しかし、米12月雇用統計の詳細を振り返ると、労働市場の減速が確認できる。今回の雇用統計のポイントは以下の通りで、ヘッドラインの結果以外は労働市場にネガティブな内容が目立つ。
(労働市場にポジティブ)
・NFPが前月を上回る
・失業率が前月と変わらず、低水準を維持
・平均時給の伸び、前月比と前年同月比ともに市場予想超え(インフレ抑制の観点ではネガティブ、購買力の観点でポジティブ)
(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・過去2カ月分は下方修正
・労働市場の先行指標とされる、専門サービスに含まれる派遣が11カ月連続で減少
・週当たり労働時間、財が押し下げ2020年4月以来の低水準
・労働参加率が2020年2月以来の高水準から低下
・就業率が2022年12月以来の低水準
・不完全雇用率は2022年2月以来の高水準近くへ戻す
・フルタイムの減少幅、2020年4月以来で最大
・家計調査の就業者数、2020年4月以来の落ち込み
・人種別では全て労働参加率が低下も、失業率は黒人男性のみ低下、黒人女性は横ばい、白人とヒスパニック系の男女は上昇
・学歴別、大卒以上の労働参加率は大幅に3カ月連続で低下も失業率は横ばい
以下は、今回の雇用統計の詳細。
〇非農業部門就労者数
米12月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比21.6万人増となり、市場予想の17万人増を上回った。前月の17.3万人増(19.9万人増)も超え、3カ月ぶりに20万人の伸びへ戻した。
NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比16.4万人増と市場予想の13万人増を上回った。前月の13.6万人増(15万人増から下方修正)も超えた。民間サービス業は14.2万人増と、前月の10.6万人増(12.1万人増から下方修正)を上回った。
チャート:NFPの伸びは3カ月ぶりの20万台回復、失業率は横ばい
2023年10月分の4.5万人の下方修正(15万人増→10.5万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で7.1万人の下方修正となった。以前から筆者が指摘し2023年7月に入ってウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も記事で取り上げたように、NFPは労働市場を過大評価している可能性が再び意識されよう。
チャート:年初来のNFPと、修正幅(グレー枠は2023年での修正幅)
サービス部門のセクター別動向は、11業種中8業種で増加し、過去2カ月の7業種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は3カ月連続で教育・健康、次いで4カ月連続で政府が入り、NFPに寄与。娯楽・宿泊は3カ月連続で3位だった。一方で、3業種は減少。公益がわずかながら減少に転じたほか、その他サービスが減少に反転。また、年末商戦終了の反動を受け輸送・倉庫が4カ月連続で減少し過去7カ月間で6回目のマイナスとなった、小売も2カ月連続で減少した。何より、専門サービスに含まれ、労働市場の選考指標とされる派遣が11カ月連続で減少。2000年以降、派遣が減少トレンドに入った場合、景気後退入りする傾向が見て取れる。
(サービスの主な内訳)
チャート:派遣の就業者の増減、景気後退前から減少トレンドに入る傾向、今回は?
財生産業は前月比2.2万人増と、2カ月連続で増加。業種別をみると、建設が9カ月連続で増加したほか、製造業が2カ月連続で増加した。一方で、鉱業・伐採は3カ月連続で小幅ながら減少した。詳細は、以下の通り。
(財生産業の内訳)
チャート:業種別、雇用の増減
〇平均時給
平均時給は前月比0.4%上昇の34.27ドル(約4,970円)と、市場予想の0.3%を上回った。前月の0.4%と並び、2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は4.1%と市場予想の3.9%を超え、2021年6月以来の低い伸びとなった前月の4.0%も上回った。一方で、生産労働者・非管理職の前年同月比は4.3%と、前月の4.4%を下回り同じく2021年6月以来の低い伸びだった。
チャート:平均時給は前年比で2021年6月以来の低い伸び
〇週当たり労働時間
週当たりの平均労働時間は34.3時間と、市場予想と前月の34.4時間を下回り、2020年4月以来の水準に再び落ち込んだ。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けたままだ。財生部門(製造業、鉱業、建設)は39.7時間と前月の39.8時間から短縮し、2021年2月以来の低水準。引き続きコロナ禍で最長となった2月の40.4時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは10ヵ月連続で33.3時間と、経済活動が停止した2020年3月(32.9時間)以来の低い水準に並んだ前月の32.3時間を上回った。ただし、2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。
チャート:週当たり平均労働時間は、2020年4月以来の低水準
民間部門の総賃金指数(雇用者数×週平均労働時間×時給)は前月比で0.3%増と前月の0.7%増を下回ったが、2021年3月以降の増加トレンドを維持。前年同月比は11月と変わらず、5.4%増。ただし、3カ月平均は前月の5.3%→5.2%増と鈍化トレンドを保った。
チャート:総賃金は改善も、3カ月平均では鈍化トレンド継続
〇失業率、労働参加率、就業率
失業率は3.7%と前月と変わらず、市場予想の3.8%以下にとどまった。ただ、労働参加率が前月から低下したことが大きく、失業者が前月比0.6万人増と小幅ながら前月の減少からプラスに転じていた。
労働参加率は62.5%と10カ月ぶりの低水準で、20年2月(63.4%)以来の高水準を回復した前月の62.8%を下回った。
就業率は60.1%と前月の60.4%下回り、2022年12月以来の水準に低下。2020年2月(61.1%)以来の高水準。就業者数が前月比68.3万人減と大幅減に転じた。
チャート:労働参加率と就業率、そろって低下
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全雇用率は2022年2月以来の高水準だった前月の7.0%→7.1%と上昇し、2022年2月以来の高水準だった2023年11月の水準近くを維持。2023年8月から続く7%台を保つ。家計調査でパートタイムの増加につれ、上昇に転じた。
チャート:不完全雇用率、2022年2月以来の高水準
〇家計調査の就労者内訳
足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、今回はNFPが21.6万人増に対し、家計調査の就労者数は68.3万人減と再び大幅減に転じた。2023年10月から27万人減→11月に58.6万人減ときて、再び急減した格好だ。下げ幅は、2020年4月以来で最大となる。
チャート:NFPと家計調査の就業者数の結果、家計調査の就業者数は減少に反転
家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、複数の職を持つ者が前月比22.2万人増と過去4カ月間で3回目の増加を迎えた。パートタイムに至っては76.2万人増と5カ月ぶりの大幅な伸びで2カ月連続で増加、一方で、フルタイムはなんと同153万人減と、3カ月ぶりに減少しただけでなく、2020年4月以来の落ち込みを記録した。NFPの増加は、パートタイムと複数の職の者に支えられた可能性がある。
チャート:フルタイムは4カ月ぶりに増加、パートタイムは4カ月ぶりに減少した裏で、複数の職を持つ者が大幅増
チャート:複数の職を持つ者は、1994年のデータ公表以来で最多
〇人種別の労働参加率、失業率
―労働参加率
・白人 62.1%と2023年2月以来の低水準、前月は62.3%、2023年8月は62.5%と2020年3月(62.6%)以来の高水準、2020年2月は63.2%
・黒人 63.4%、前月は63.7%と8カ月ぶりの高水準、2023年3月は64.0%と2008年8月の高水準に並ぶ
・ヒスパニック系 66.7%と7カ月ぶりの低水準、前月は66.9%、2023年7月は67.3%と2020年2月(67.8%)以来の高水準
・アジア系 63.9%と2022年3月以来の低水準に並ぶ、前月は65.0%、2023年9月は65.7%と2012年12月の高水準に並ぶ、2020年2月は64.5%
・全米 62.5%、前月は62.8%と2020年2月(63.3%)以来の高水準に並ぶ
―失業率
・白人 3.5%と2023年10月と同じく2021年11月以来の高水準、前月は3.3%、2022年12月は3.0%と2020年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 5.2%と8カ月ぶりの低水準、前月は5.8%、2023年4月は4.7%と過去最低
・アジア系 3.1%、前月は3.5%と2022年1月(3.6%)以来の高水準、2023年7月は2.3%と2019年6月(2.0%)以来の低水準
・ヒスパニック系 5.0%と2023年2月以来の高水準、前月は4.6%、なお2022年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・全米 3.7%、前月と変わらず、なお2023年1月と4月は3.4%と1969年5月以来の低水準
チャート:人種と男女別の失業率、黒人以外が上昇を回避
〇大卒以上の労働参加率と失業率
大卒以上の労働参加率は72.3%と、2021年10月(71.9%)以来の低水準だった。しかし、失業率率をみると、大卒以上は3カ月連続で2.1%、大学院卒は2カ月連続で1.8%に。通常、労働参加率が低下すれば、職を探す失業者も減少するため、失業率は低下する傾向がある。
チャート:大卒以上の労働参加率は大幅に3カ月連続で低下も、失業率は横ばい続く
一連の結果を受け、FF先物市場での3月利下げ織り込み度は米雇用統計発表直後、一時50%台へ低下、年内の利下げも6回→5回へ減少。しかし、その後はフルタイムの雇用の落ち込みなどが見直されたほか、米12月ISM非製造業景況指数の雇用が43.3と2020年7月以来の水準に落ち込んだため、3月利下げ織り込み度は64%へ上昇し、年内の利下げ回数も6回へ戻した。労働市場の減速を確認しただけに、ドル円の上値を重くさせそうだ。
米12月ISM非製造業景況指数は、ヘッドライン自体、50.6と2022年12月以来の50割れが迫った。過去を振り返ると、ISMの製造業・非製造業景況指数の50割れは、景気後退を伴ってきた点に留意すべきだろう。足元、米12月ISM製造業景況指数は47.4と14カ月連続で50の分岐点割れを迎えるだけに、非製造業景況指数が50割れとなれば、再びFedの利下げ期待が強まりうる。なお、3月19-20日開催前に、米ISM非製造業景況指数は、あと2回公表される予定だ。
チャート:米12月ISM非製造業景況指数、雇用が2020年7月以来の水準へ急低下
チャート:ISM製造業・非製造業景況指数の50割れは、景気後退のサイン、Fedは50割れ前に利下げを開始する傾向あり
ー米12月CPI、コアCPIの鈍化でドル円の戻りを抑えるか
1月11日に発表の米12月消費者物価指数(CPI)は、前年比が3.2%と前月の3.1%を上回る伸び、コアCPIは同3.8%と前月の4.1%以下となる見通しだ。一方で、クリーブランド連銀のナウキャストによれば、米12月CPIは3.3%、コアCPIは3.9%と、市場予想を上回る結果になると推計されている。
ただ、2022年10月以降、CPIの結果がクリーブランド連銀を上回ったことは1回しかなく、コアCPIでは逆にクリーブランド連銀の結果以下となる傾向がある。従って、今回もクリーブランド連銀の以下の結果となれば、特にコアCPIの鈍化に反応し、利下げ期待につながりドル円の戻りを抑える公算が大きい。
チャート:クリーブランド連銀のナウキャストと、CPIの実績
―ドル円は前週末に直近高安値の半値戻し水準を超えられず、レンジ相場か
今週は、11日に米12月CPI、12日に米12月生産者物価指数を予定する。ドル円は1月2日週に前週比3.61円も上昇したとはいえ、テクニカル的な地合いは引き続き軟調だ。前週末に2023年11月高値と同年12月安値の半値戻しにあたる146.08円をブレークできなかった。また、21日移動平均線が200日移動平均線を割り込むなど、複数のデッドクロスを形成。三役逆転も維持している
また、投機筋による円のネット・ショートは1月2日週に5万7,195枚と、前週の5万5,568枚から小幅増にとどまった。しかし、146円台に接近した過程で、さらにショートを増やした可能性があり、Fedの利下げ期待が燻るなか、これ以上の円ショートを積み増すとは考えづらい。今週は、米12月CPIを始め、米指標をにらみながら、1月30日~2月1日のFOMCを控え、レンジ相場を続けるのではないか。
以上の観点から、ドル円の上値は前週高値手前の146.00円、下値は21日移動平均線が控える143.10円を見込む。
チャート:ドル円の2022年11月以降の日足、一目均衡表の転換線は赤線、21日移動平均線は黄色線、200日移動平均線はオレンジ線
(出所:TradingView)
3.主な要人発言
2023年
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