GFIT為替アンバサダー 安田佐和子 がお届けするWeekly動画解説! 1週間のドル円相場の振り返りを踏まえて解説します。
―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は11月20日週に2.84円と、その前の週の2.72円を上回った。週間では続落。米10月消費者物価指数(CPI)の鈍化を受けたポジション調整主体の売りの流れが続き、翌21日に一時147.15円と、10月3日の安値147.17円を割り込んだ。その後は、米新規失業保険申請件数の減少や米11月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値の改善を受け買い戻されるも、一目均衡表の転換線や50日移動平均線、11月高値と11月安値の半値押しに当たる水準など、抵抗線が上値を阻み、150円の回復に至らなかった。
- 今週は、11月29日に米Q3実質GDP成長率・改定値、30日に米10月個人消費支出(PCE)価格指数、12月1日に米11月ISM製造業景況指数などを予定する。米経済指標で一喜一憂しながら、レンジ相場が続くのではないか。
- 10月31日~11月1日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨を振り返ると、タカ派トーンの後退と、中立寄りへの軸足シフトが読み取れる。米金利上昇による引き締め効果に加え、国内総生産(GDP)の7割を占める個人消費への打撃、米銀への悪影響を踏まえれば、Fedはインフレが急加速しない限り、利上げは打ち止めとする公算が大きい。ドル円の上値を限定的とさせそうだ。
- テクニカル的には前週指摘したように、三役好転が消滅したままであるほか、10月31日の151.72円と11月13日の151.91円でダブルトップを形成したようにみえる。11月21日に147.15円から切り返したが、結局前週は50日移動平均線、一目均衡表の転換線、また11月13日の高値と11月21日の安値の半値押しなどが並ぶ149円半ばを下回って週を終え、地合いの弱さを保つ。一方で、11月21日のローソク足が下ヒゲを大きく伸ばした翌22日、大陽線を形成。一目均衡表の雲の上限を再び抜けて引けを迎えるなど、強いサインも点灯。テクニカル的には、強弱が拮抗する状況だ。
- しかし、米商品先物取引委員会(CFTC)が発表する投機筋の円のネット・ショートも、11月21日週時点で12万2,602枚と、前週比でショートが1万3,397枚縮小したとはいえ、引き続きヒストリカルで高水準にある。円ショートが大幅に膨らむ余地は狭く、米11月雇用統計までレンジ相場を迎えるのではないか。
- 以上の観点から、上値は21日移動平均線がある150.20円、下値は前週安値と10月3日の安値付近の147.15円と見込む。
目次
1.前週の為替相場の振り返り=ドル円、2022年10月高値に接近後に149円台へ急落
【11/20-11/24のドル円レンジ:147.15~159.99円】
(前週の総括)
ドル円の変動幅は11月20日週に2.84円と、その前の週の2.72円を上回った。150円台を明確に回復せず、週間では続落。ドル円は11月20日に149.99円でスタートしたが、米10月消費者物価指数(CPI)の鈍化を受けたポジション調整主体の売りの流れが続き、翌21日に一時147.15円と、10月3日の安値147.27円を割り込んだ。
その後は、米新規失業保険申請件数の減少や米11月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値の改善を受け買い戻されるも、一目均衡表の転換線や50日移動平均線、11月高値と11月安値の半値押しに当たる水準など、抵抗線が上値を阻み150円の回復に至らず。感謝祭や24日の米株・米債市場の短縮取引を迎え、米11月総合PMI・速報値で雇用が2020年6月以来の水準に低下したものの、値動きは限られた。
チャート:ドル円の10月以降の日足、米10年債利回り(左軸、緑線)の低下の割りに下げは限定的
(出所:TradingView)
2.為替見通し=ドル円は米経済指標で一喜一憂も、米11月雇用統計前にレンジ相場か
【11月27日~12月1日の為替予想レンジ:147.15~150.20円】
―米年末商戦、ブラック・フライデーは好調な滑り出しだが先細りも
米年末商戦が幕を開けた。アドビ・アナリティクスによれば、感謝祭明けの金曜日にあたるブラック・フライデーのオンライン売上高は前年比7.5%増の98億ドルで、過去最大を記録しただけでなく、前年の2.3%増を大幅に上回る伸びだった。ガソリン価格が11月第3週に前年比10%下落したほか、米消費者物価指数も2022年10~11月の前年同月比7%台から鈍化したため、記録更新につながったと考えられる。アドビは、感謝祭から土曜日までの売上高につき100億ドル、サイバー・マンデーは前年比6.2%増の120億ドルと過去最大の更新を見込む。
しかし、アドビ・デジタル・インサイツのリード・アナリストであるビベク・パンデヤ氏は、年末商戦を楽観視しておらず、「消費者は戦略的となり、割引を最大限活用できる日に照準を合わせた」と説明。感謝祭明けの月曜日、サイバー・マンデーが「年内最後の裁量的支出が拡大する日となりうる」と予想した上で、「年末商戦の後半には、先細りとなる可能性が高い」と慎重な見方を打ち出した。
消費者の財布の紐が前年より固くなったのは、明白だ。アドビ・アナリティクスによれば、感謝祭やブラック・フライデーを挟んだ週をみると、後払い決済(Buy Now Pay Later、BNPL)の売上高は前年比47%増の7,900万ドル、注文数も同72%増となった。
また、マスターカードによれば、ブラック・フライデーの既存店売上高は前年比1%増と、2022年の8%増から大幅に鈍化していた。イスラエルとハマスの衝突を受け、デモが発生した影響が確認される一方で、値引きの比較が容易なオンラインに買い物がシフトしたと言えよう。
全米小売業協会(NRF)は、今年の年末商戦売上高につき前年比3~4%増の9,573億~9,666億ドルと掲げ、過去最大の更新を見込む。ただし、2021年の12.7%増、2022年の5.4%増から鈍化する見通しだ。1人当たりの支出額は、前年比42ドル増の875ドルだが、2019年の886ドル以下にとどまる。
TDカウエンは、ブラック・フライデーの客足が前年比並みにとどまるとの見方から、年末商戦見通しを前年比2~3%増とし、従来の同4~5%増から下方修正した。
チャート:米年末商戦の実績と2023年の予想
前週のレポートでは米消費減速の兆しについて紹介し、デフレ入りの可能性や10月後半の消費急減速などウォルマート幹部による言及を取り上げた。実際、米商務省が発表する週次のクレジットカード支出動向をみると、10月末から11月初めにかけ、コロナ禍以前の標準的な水準を下回っただけでなく、2022年の平均や年初来の平均以下へ急減。特に、11月1日週は、2020年4月以来のマイナス幅を記録していた。ブラック・フライデーやサイバー・マンデーなどのセール期間が終了すれば、年末商戦の売上高ペースが先細りするサインと捉えられよう。
チャート:週次のクレジットカード動向、11月1日週は2020年4月以来のマイナス幅に
―11月FOMC議事要旨は「慎重なタカ派」から、「中立」寄りへ軸足シフトか
10月31~11月1日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、政策見通しについて「物価目標の2%へ回帰させる上で、金融政策の姿勢を十分引き締め寄りとすることが重要と判断した」と明記した。ただし、全ての参加者は「慎重に政策運営を進めるとの見解で一致した」という。その上で「インフレの鈍化ペースにおける進展が不十分なら、一段の利上げもありうる」と位置付けた。これは、前回の「大半があと1回の利上げを見込む」から、タカ派トーンの後退を示唆する。
米金利上昇の影響についての議論も、注目すべきだ。FOMC議事要旨によれば、米金利上昇とそれによる引き締め効果について協議した上で、多くの参加者は「金融情勢の引き締めが今後も続くかどうか、それがどの程度、政策引き締めへの期待やその他の要因を反映しているかは不透明であると指摘した」という。
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、FOMC後の会見で「長期金利の上昇、ドル高、株安による金融情勢の逼迫が将来の金利状況に影響を与える可能性がある」と言及していた。米金利上昇の議論を踏まえれば、米金利が高水準にある限り、追加利上げは控えられそうだ。
FOMC議事要旨においては、米金利上昇に絡む金融安定の議論も特筆すべきだ。参加者は「銀行システムは健全かつ強靭であり、銀行のストレスは沈静化している」との見解を繰り返した。ただし「多くの参加者は、長期金利の上昇に起因する資産の未実現損失(米国債の含み損など)、一部の銀行による無保険の預金への多大なる依存、銀行における資金調達コストの増加について、監視が必要」と指摘。その他「多くの参加者は、一部の銀行や他の金融機関に悪影響を及ぼす可能性のある、商業不動産(CRE)の評価額の急落に関連するリスクについて言及した」という。金融市場における緊張発生に備え、「FRBが銀行に資金供給できる態勢を確保する必要性」についても、強調していた。
これらの表現を踏まえれば、FRBがシリコンバレー銀行(SVB)の破綻の再来を警戒していることは明らかだ。米商業銀行の未実現損失は4~6月(Q2)に約5,580億ドル。当時の米10年債利回りは3.2~3.9%台で推移していたが、Q3に3.6~4.6%台へ上昇、10月には5%を突破した後も4.5%前後で推移するだけに、現時点で未実現損失は減りそうもない。
加えて、米商業銀行のうち中小・地銀の預金が3月の大幅流出から回復途上にあるとはいえ、FOMC議事要旨で指摘された通り、高コストのブローカー預金に依存してきた点は気掛かりだ。ブローカー預金とは、銀行が集めた譲渡性預金(CD)などを仲介業者に販売し、仲介業者が預金保険限度額10万ドル以下に切り分け、中小行・地銀などに販売する仕組みだ。ブローカー預金を通じ、中小行・地銀などが流動性を確保する利点がある一方で、高金利なだけに、高コストで利鞘縮小に繋がり収益を圧迫しかねない。
チャート:米銀の未実現損失、積極的なFedの利上げの影響で大幅拡大
チャート:ブローカー預金、足元で急増
今回のFOMC議事要旨では、上方リスクこそ予想を上回る個人消費と経済活動を上げ前回と変わらなかったが、下方リスクに①金融政策の累積効果、②政府機関の閉鎖(新たなつなぎ予算が成立、2024年1~2月に再協議へ)、③学生ローン返済再開、④弱含みのCRE――を並べた。このうち、④のCREについては、今回初めてリスク要因に挙げているだけに、FRBが金利上昇の影響を注視している様子が伺える。
SVB破綻後に設立された銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP、銀行から担保を時価ではなく簿価で評価し貸し出す仕組み)は、2024年3月11日に終了する予定だ。パウエルFRB議長は、会見で「2024年Q1に(延長について)協議する」と発言するにとどめた。
11月21日週時点で、BTFPの資金供給は1,141億ドルと過去最大を再び更新、流動性確保を目指す銀行が多い状態を示唆する。足元でBTFPをめぐる議論は注目されていないが、米景気減速局面で商業不動産市場を発火点としたリスクが意識されれば、否が応でも大論争を招くだろう。
チャート:BTFPの資金供給動向、直近で再び過去最大に
一方で、早々に利下げに転じるかは不透明だ。FOMC議事要旨では「足元のインフレは許容できないほど高い」、「インフレが目標値の2%へ向かう道筋をたどっていると確信を持つために、さらなる証拠が必要」との認識も明らかになった。インフレの減速については「潜在成長率(2%程度)を継続的に下回る実質GDP成長率や、労働市場のさらなる軟化」が必要だと指摘。米実質GDP成長率や労働市場が明確に下振れしない限り、利下げに転じそうもない。
FOMCは足元、米経済のリスクにおいて、過度な利上げによるリセッション入りのリスクと合わせ、利上げが不十分となりインフレが再燃する「二面性」を警戒する状況。Fedは利下げ転換を明確にしていないものの、少なくとも11月FOMC議事要旨では、FRBが前者を警戒する「慎重なタカ派」姿勢から、少なくとも中立寄りへ軸足を移しつつある姿を確認できたと言えそうだ。
―ドル円はテクニカル的に強弱拮抗、レンジ相場を示唆
今週は、11月29日に米Q3実質GDP成長率・改定値、30日に米10月個人消費支出(PCE)価格指数、12月1日に米11月ISM製造業景況指数などを予定する。
テクニカル的には前週指摘したように、三役好転が消滅したままであるほか、10月31日の151.72円と11月13日の151.91円でダブルトップを形成したようにみえる。11月21日に147.15円から切り返したが、結局前週は50日移動平均線、一目均衡表の転換線、また11月13日の高値と11月21日の安値の半値押しなどが並ぶ149円半ばを下回って週を終え、地合いの弱さを保つ。一方で、11月21日のローソク足が下ヒゲを大きく伸ばした翌22日、大陽線を形成。一目均衡表の雲の上限を再び抜けて引けを迎えるなど、強いサインも点灯。テクニカル的には、強弱が拮抗する状況だ。
しかし、米商品先物取引委員会(CFTC)が発表する投機筋の円のネット・ショートも、11月21日週時点で12万2,602枚と、前週比でショートが1万3,397枚縮小したとはいえ、引き続きヒストリカルで高水準にある。円ショートが大幅に膨らむ余地は狭く、米雇用統計までレンジ相場を迎えるのではないか。
以上の観点から、上値は21日移動平均線がある150.20円、下値は前週安値と10月3日の安値付近の147.15円と見込む。
チャート:CFTC、投機筋の円のショート・ポジションは未だ高水準
チャート:ドル円の9月以降の日足、ボリンジャー・バンドは白枠、一目均衡表の上限は薄緑線
(出所:TradingView)
3.主な要人発言
4.主な経済指標結果
〇米国の経済指標
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