―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は3月31日週に5.94円と、その前の週の1.85円から大幅に拡大し、2024年8月5日週(6.22円)以来で最大を記録した。週足では、4週ぶりに反落。前週比では2.83円の下落となった。年初来リターンは6.5%安と、前週の4.7%安を上回り、年初来で最も大きくなった。トランプ大統領が相互関税を発表した結果、リスク選好度が急低下しドル円の急落につながり、一時は2024年10月以来の145円割れを迎えた。もっとも、パウエルFRB議長が利下げに急がない姿勢を繰り返したため、147円ちょうど付近で週を終えた。
- トランプ大統領が4月2日に発表した相互関税の措置については、2つに分けられる。1つは、①米貿易赤字の規模、②貿易相手国の関税率、③為替を含めた非関税障壁――などを根拠とした、各国・地域毎の個別の関税率。日本や中国、欧州連合(EU)、台湾など、約60カ国が対象で、4月9日から発動となる。もう一つは、これらの特定の国・地域以外に課す一律10%関税である。主に米国が貿易黒字を抱える国、貿易規模の小さな国・地域が対象となり、4月5日から発動された。
- 相互関税の税率を始め、その対応には疑問が膨らむが、トランプ政権の経済チーム、特にベッセント財務長官の言葉を借りれば、関税措置を通じ、トランプ政権は「国際経済関係の再構築プロセスを開始した」という。米国は1940年以降、①ブレトン・ウッズ体制、②新自由主義体制――と、2回のレジーム・チェンジを主導したが、今回は②の新自由主義体制の転換を狙うもの(その他、同盟国の防衛負担増など)。新自由主義体制は、①準備通貨としてのドル需要拡大に伴うドル高、②米国の製造業工場が海外に移転し、製造業の衰退――を招いたが、レジーム・チェンジにより巻き返しを図る。こうしたレジーム・チェンジに対し、トランプ氏自身も「容易ではない」と発言。経済や株安という痛みに加え、ドル安進行をもたらしうる。
- 内田副総裁は4月4日、足元で株安・ドル安・円買い戻しが進行するなかでも、2024年8月5日の日本版ブラック・マンデーから2日後に放った「金融資本市場が不安定な状況で利上げはしない」との見解を繰り返さなかった。日米間での交渉に、為替が含まれる可能性を示唆する。
- 4月7日週は、7日に日本2月実質賃金、8日に2月国際収支、10日に日本3月国内企業物価指数、中国3月消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)、米3月CPIと米新規失業保険申請件数、11日に米11月PPIを予定する。
- その他、4月7日にクルーガーFRB理事、8日にサンフランシスコ連銀総裁、9日にNZ準備銀行(RBNZ)の政策発表、植田総裁の発言、リッチモンド連銀総裁の発言、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨、10日にボウマンFRB理事を始めカンザスシティ連銀総裁、フィラデルフィア連銀総裁、シカゴ連銀総裁の発言、11日にセントルイス連銀総裁、NY連銀総裁の発言を予定する。
- ドル円のテクニカルは、弱い地合いが強まった。一目均衡表で三役逆転が成立したほか、再び21日移動平均線を始め2024年9月安値と1月高値の半値押しに当たる149.23円、そして2024年12月安値の148.64円を下抜けて週を終えた。一時的ながら、3月11日の安値146.54円のを下抜けた。
- 一方で、ドル円が下落する過程でRSIは4月3日に32.58まで低下し、割安の節目30に接近したため、4月4日に下落を経て買い戻されるなど調整する地合いを確かめた。ここから多少の買い戻しが意識されるが、2024年12月の安値148.54円、2024年9月安値と1月高値の半値押し149.23円が再び一旦の抵抗線として意識されよう。
- 以上を踏まえ、今週の上値は2024年9月安値と1月高値の半値押しを小幅に上回る心理的節目の149.50円、下値は2024年10月2日の安値付近の143.40円と見込む。
1.先週の為替相場の振り返り=ドル円は自動車関税懸念から急落
【3月31~4月1日のドル円レンジ: 144.55~150.49円】
ドル円の変動幅は3月31日週に5.94円と、その前の週の1.85円から大幅に拡大し、2024年8月5日週(6.22円)以来で最大を記録した。週足では、4週ぶりに反落。前週比では2.83円の下落となった。年初来リターンは6.5%安と、前週の4.7%安を上回り、年初来で最も大きくなった。トランプ大統領が相互関税を発表した結果、リスク選好度が急低下しドル円の急落につながり、一時は2024年10月以来の145円割れを迎えた。もっとも、パウエルFRB議長が利下げに急がない姿勢を繰り返したため、147円ちょうど付近で週を終えた。
3月31日は、ワシントン・ポスト紙が3月29日に全世界相手に関税をかける「一律関税」の構想をトランプ氏が最近再び議論で持ち出していると報じたほか、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)もトランプ氏が直前になって「より広範囲に高関税」をかける方法を検討するよう側近らに催促していると伝え、リスク回避が先行。ドル円は東京時間に一時148.70円まで本日安値を更新した。もっとも、2024年12月3日の安値148.64円では買い戻され、NY時間には米3月シカゴPMIが市場予想を上回ったため、一時150.27円まで本日高値を更新した。トランプ氏がNY時間午後に、相互関税につき貿易相手国より「相対的に非常に親切になる」可能性に言及したことも、ドル円を下支えした。
4月1日は、東京時間に日本の2月失業率と有効求人倍率が発表されたが、まちまちな結果で反応薄だった。また、3月日銀短観は大企業製造業の景気判断が12ポイントと4期ぶりに低下も、販売価格について上昇と答えた企業から下落を引いた販売価格判断DIは、大企業非製造業で3ポイント上昇してプラス32となり、1983年の調査開始以来、最も高くなったが、こちらの影響も限定的。むしろ、東京時間の午後に一時150.14円まで本日高値をつけた。以降は売りが優勢で、NY時間には一時149.10円台へ下落。米3月ISM製造業景況景気指数と米2月求人件数が市場予想を下回ると、一時148.98円まで本日安値を更新。ワシントン・ポスト紙が、トランプ政権が一律20%の関税を課す方向で検討との報道も重しとなった。もっとも下値は堅く、米株の買い戻しにつれ米指標後の下げ幅を打ち消した。
2日は、トランプ氏が相互関税を米株市場の引け後に発表する予定とあって、東京時間からロンドン時間まで小動き。NY時間に入り、市場予想を上回ったが米3月ADP全国雇用者数への影響は限定的ながら、ドル円は徐々に買いが優勢となった。トランプ氏が相互関税を発表するなか「一律で10%」と発言すると、想定より低い関税率と判断され、安心感からリスクオン相場を迎え、一時150.49円と週の高値を更新。しかし、その後で国別の相互関税率が発表され、中国に34%など高い税率が課されたため、一気にリスクオフへ傾き、ドル円は149円前半へ落ち込んだ。
3日、ドル円はトランプ氏の相互関税を受け下値を探る展開。世界及び米国の景気停滞とインフレが同時に起こる「スタグフレーション」への警戒感が高まるなか、148円、147円と次々に大台を割り込んだ。EUが米サービス企業への報復措置を検討しているとの報道も、貿易戦争の拡大懸念を招き、リスクオフを加速させた。NY時間には米3月チャレンジャー人員予定削減数が市場予想より悪化したため146円も割り込み、市場予想より好結果だった米新規失業保険申請件数には目もくれず、売りの流れが継続。米3月ISM非製造業景気指数が雇用を含め分岐点の50を割り込むと、一時145.19円まで切り下げた。
4日は、東京時間こそ米3月雇用統計とパウエルFRB議長の発言を控え、145―146円台でのもみ合いが続いた。植田和男総裁が午前中の衆院財務金融委員会で、米関税政策は内外経済の下押し要因になるとした上で「外部環境の変化に伴う見通しの修正に合わせて適切に政策対応を行う」との考えを示したが、相場の反応は限られた。ロンドン時間には、中国が相互関税の報復として米国に34%の関税を課すと発表すると、売りが加速。24年10月2日以来の145円割れを迎え、一時144.55円まで週の安値をつけた。しかし、同水準からは下げ渋り、米3月雇用統計で非農業部門就労者数が市場予想を超えると、買い戻しが加速。さらに、パウエルFRB議長がインフレ警戒を示した上で利下げに急がない姿勢を強調した結果、147.44円まで買い戻されつつ、引けにかけてダウが2,000ドル超の下げ幅を記録した動きにつれて上げ幅を小幅に縮小した。
チャート:ドル円の2024年12月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)
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