―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は1月20日週に1.98円と、その前の3.22円から縮小した。週足では、続落。続落は、2024年9月9日週以来となる。トランプ大統領が就任直後に関税を発動せず、ドル円は一時154.78円まで週の安値をつけた。トランプ氏がAIインフラ投資にソフトバンクなど3社が向こう4年間で5,000億ドル投資すると発表するなか、米株高につれ日経平均も上昇すると、リスク選好度の高まりに伴い、156.78円まで週の高値を更新。日銀が金融政策決定会合で予想通り追加利上げを行うと再び155円を割り込んだが、植田総裁の会見が市場の期待ほどタカ派的ではなく、下値は限定的だった。
- 植田総裁の会見が市場予想ほどタカ派的でなかった理由に、今後の日米の政治的日程が考えられる。米国は①関税発動の懸念、②共和党内で減税や米債務上限引き上げなどを含む法案成立へ向けた交渉――などが控える。加えて、日本では7月に少なくとも参議院と東京都議会の選挙を予定し、衆参同日も視野に入り、追加利上げ時期の憶測を誘うような発言を避けたかったのではないか。もっとも、日米の日程を踏まえれば、7月30-31日の日銀金融政策決定会合が次の利上げの時期として視野に入る。
- 1月28-29日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を予定し、1月31日には米12月個人消費支出・所得とPCE価格指数が控える。ただ、どちらもよほどのサプライズがない限り、為替を含め大きく金融市場を動かすとは考えづらい。むしろ、引き続きトランプ大統領の発言に注目が集まるだろう。トランプ氏はカナダとメキシコに不法移民と違法薬物の米国への流入に対応しなければ関税25%、中国には違法薬物の流入阻止につき解決策を講じなければ追加で10%の関税を課す方針に言及していた。関税は交渉のカードと位置付けられるだけに、カナダやメキシコに25%、中国に追加で10%の関税を一気に課すより、交渉を促すべく段階的な手段を選ぶのではないか。
- 今週は1月27 日に中国1月製造業PMI、独1月IFO企業景況感指数、米12月新築住宅販売件数、28日に日本12月企業向けサービス価格指数、米12月耐久財受注、米11月住宅価格指数、米1月消費者信頼感指数、米1月リッチモンド連銀製造業景況指数、29日は日銀・金融政策決定会合議事要旨、米連邦公開市場委員会(FOMC)政策発表とパウエルFRB議長の記者会見を予定する。30日にはユーロ圏と独のQ4実質GDP成長率・速報値、欧州中央銀行(ECB)の政策金利発表とラガルドECB総裁の会見、米Q4実質GDP成長率・速報値、米新規失業保険申請件数、米12月中古住宅販売保留件数指数、31日は日本12月失業率と有効求人倍率、日本1月東京都区部消費者物価指数、日本12月鉱工業生産・速報値、米12月個人消費・所得、PCE価格指数などが控える。
- ドル円のテクニカルは、強い地合いが一段と後退。2024年12月10日からサポートとして機能してきた一目均衡表の転換線が今度は抵抗線に変化しつつあり、基準線も24日のローソク足の実体部の上限を走り、抵抗線にシフトしつつある。下値は50日移動平均線がサポートとなっているが、ここを抜けると2024年12月安値と1月高値の半値押しがあたる153.76円、一目均衡表の雲の上限付近の153.80円が視野に入る。
- CFTCが発表した投機筋による円のネット・ポジション動向は、1月21日週時点で1万4,673枚のショートと、前週の2万9,411枚から縮小した。もっとも、これで4週連続のショートとなる。ドル円が155円台へ下落する過程で、ショートが縮小した格好だ。
- 以上を踏まえ、今週の上値は21日移動平均線が近い157.10円、下値は2024年12月安値と1月10日の半値押しと一目均衡表の雲の上限付近の153.80円と見込む。
1.為替相場の振り返り=ドル円、トランプ就任と日銀追加利上げで155円割れも下値の堅さも
【1月20~24日のドル円レンジ: 154.76~156.76円】
ドル円の変動幅は1月20日週に1.98円と、その前の3.22円から縮小した。週足では、続落。続落は、2024年9月9日週以来となる。
20日、週末の日銀金融政策決定会合を控え追加利上げ観測が高まるなか、東京時間に一時155.71円まで本日安値を更新。トランプ大統領の就任式を控え買い戻されつつ、NY時間に入りウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ紙)がトランプ氏は大統領就任早々に関税を発動しないと報じ、155.70円台へ下落した。なお、この日はキング牧師生誕記念日で米国市場は休場だった。
21日には、大統領に就任したトランプ氏が、現地時間の夜(日本時間の午前中)にカナダとメキシコに対し、就任前に言及していた関税措置を2月1日に講じる可能性に言及し、ドル円は一時156.24円まで本日高値を更新した。もっとも、あくまで検討段階との観測もあって、すぐに売りに押され154.78円まで週の安値をつけた。
22日には、トランプ大統領が21日夜(東京時間午前中)中国の輸入品に2月1日から10%の追加関税を課す可能性に言及したほか、トランプ大統領がソフトバンク、オープンAI、オラクルによる今後4年間のAI投資5,000億ドルを発表し、ドル円は上昇したが、買いの流れは東京時間で長続きせず。しかし、NY時間には、米株高を受けて米金利が上昇し、ドル円もつれ高を迎え一時156.72円まで切り上げた。
23日は、東京時間に前日の米株高の流れを受け日経平均が上昇するなか、一時156.76円まで週の高値を更新した。もっとも、NY時間には米新規失業保険申請件数が市場予想を上回ったため、ドル円は下落。また、トランプ大統領がダボス会議講演で、米連邦準備制度理事会(FRB)に即時利下げ、石油輸出国機構(OPEC)に原油の価格引き下げを求めたことなどを受け、155.74円まで下落した。
24日、日銀が市場予想通り追加利上げを決定すると、バイ・ザ・ファクト(事実の買い)が入り一時156.40円台へ上昇した。ただし、声明文や展望レポートでのタカ派姿勢を確認し、すぐに上昇幅を帳消しして155円割れをトライした。植田総裁会見開始後すぐに155.70円台へ上振れする場面もあったが、概ね155円前半から半ばでの推移を維持。ロンドン時間からは買いが優勢となり、一時156.58円と日銀の追加利上げ後の下げを帳消しとした。しかし、NY時間に米1月サービス業PMI速報値や米1月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値などが市場予想以下に終わり、ドル円は156円割れまで戻し、上値は重かった。
チャート:ドル円の2024年12月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)
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