―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は1月6日週に2.64円と、その前の週の2.05円から拡大した。週足では、反発。1月6日は、トランプ陣営は一律輸入関税を重要セクターのみに適用すると報じたため、選挙公約のような全面的な輸入関税導入からフェーズダウンしたと判断され、ドル円は一時156.24円まで週の安値をつけた。もっとも、8日には、トランプ氏が新たな関税プログラム導入に向け国家経済緊急事態宣言を検討とCNNが報じた結果、上値を拡大。10日は、ブルームバーグが1月23-24日の日銀金融政策決定会合で公表される展望見通しをめぐり、日銀が生鮮食品とエネルギーを除くコアコア消費者物価指数(CPI)見通しを引き上げると報じ下落する場面もみられた。NY時間に米12月雇用統計が市場予想を上回る好結果となり、ドル円は一時158.88円まで週の高値を更新も、日銀報道が重石となり上げ幅を打ち消した。
- 米12月雇用統計は予想外の好結果となり、ウォール街の一部のエコノミストは年内の利下げ予想を修正した。ゴールドマン・サックスとJ.P.モルガン・チェースは年内3回から2回へ修正し、3月を見送り、6月と12月の利下げを予想。バンク・オブ・アメリカに至っては利下げサイクルの終了を見込み、据え置き継続が最有力ながら、次の動きは利下げよりも利上げの公算が大きいと予想する。しかし、①来月発表の米1月雇用統計で年次基準改定の確報値を予定、②米東部などを直撃した積雪と寒波、インフルエンザとコロナの感染拡大、③カリフォルニア州の山火事――の影響が懸念され、年内利下げへ向けた予想は今決め打ちするのは時期尚早だ。
- 今週は米12月消費者物価指数(CPI)に加え、ベッセント次期財務長官の指名公聴会を予定する。米12月CPIは総合が前月から加速が見込まれるが、コアCPIは前月通りとなる見通しだ。市場予想通りならば、前月通りドル円への影響は限定的か。むしろ、16日に予定するベッセント氏の公聴会が重要視されよう。ベッセント氏はかつて、米経済が好調ならトランプ氏はドル高を容認する可能性に言及していた。また。トランプ2.0での関税につき交渉材料と述べつつ、米連邦政府債務の縮小などに有用とも発言しており、これらが繰り返されるか確認する必要がある。
- ブルームバーグは、日銀が1月23-24日の日銀金融政策決定会合で公表される展望レポートで、変動が大きい生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(コアコアCPI)について、2024年度と25年度の見通しを引き上げる方針と報じた。上方修正すれば、物価目標2%に到達するだけに、1月に据え置きを決定すれば、説明責任が課せられよう。
- 1月の日銀金融政策決定会合を占う上で、1月14日に予定する氷見野副総裁の講演に注目。日銀支店長会議の報告の際、日銀大阪支店長は「輸入物価は落ち着いている」と発言した。これは、植田総裁による2024年12月会合後の会見内容を踏襲したものだ。氷見野副総裁が、植田総裁の発言内容、すなわち①春闘モメンタム、②トランプ次期政権の経済政策などの不確実性、「輸入物価の上昇率は落ち着いている」――などを繰り返すか否か繰り返せば、日銀が一枚岩となって1月追加利上げに慎重と受け止められそうだ。
- 今週は1月13日に中国12月中国貿易収支、14日に日本11月国際収支、米12月生産者物価指数、15日に米12月消費者物価指数(CPI)、米1月NY連銀製造業景気指数、米地区連銀報告(ベージュブック)を予定する。16日に日本12月国内企業物価指数、欧州中央銀行(ECB)理事会議事要旨、米12月小売売上高、米新規失業保険申請件数、米1月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が控える。17日に中国Q4国内総生産(GDP)、中国12月小売売上高と鉱工業生産、ユーロ圏12月消費者物価指数・改定値、米12月住宅着工件数、米12月鉱工業生産、11月対米証券投資などが発表される。加えて、1月14日にカンザスシティ連銀総裁、とウィリアムズNY連銀総裁、15日にリッチモンド連銀総裁、NY連銀総裁、シカゴ連銀総裁の発言、16日にベッセント次期財務長官の米上院での指名公聴会を予定する。
- ドル円は、強気地合いがやや後退。21日移動平均線、50日移動平均線、90日移動平均線、200日移動平均線が上向きを続け、一目均衡表の三役好転を保つ。さらには、一目均衡表の転換線を割り込んでもローソク足の実体部がサポートされるほか、上向きとなったままだ。ただし、ドル円が一時158.88円と24年7月半ば以来の高値をつけたにもかかわらず、MACDがシグナルを下回りつつありデッドクロスの形成が近い。加えて、RSIも14日移動平均線を下回りデッドクロスが成立するなか、割高の節目となる70に届かないうちに失速しており、ドル円は頭打ちとなってきた印象もぬぐえない。
- 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の159.50円、下値は心理的節目の156.40円と見込む。
1.為替相場の振り返り=ドル円、米12月雇用統計で159円試すも日銀報道が重石となり失速
【1月6~10日のドル円レンジ: 156.24~158.88円】
ドル円の変動幅は1月6日週に2.64円と、その前の週の2.05円から拡大した。週足では、反発。
1月6日は、植田総裁の発言が2024年12月日銀金融政策決定会合後の見解を維持し1月追加利上げを示唆せず、ドル円は高値圏で推移。ただ、ワシントン・ポスト紙がトランプ陣営は一律輸入関税を重要セクターのみに適用すると報じたため、選挙公約のような全面的な輸入関税導入からフェーズダウンしたと判断され、米金利先高観が後退しドル円は一時156.24円まで週の安値をつけた。まもなく、トランプ氏が報道を否定したため157円台へ切り返した。
7日には、東京時間から新NISA関連のフローで押し上げられたようで買いが優勢となり158.40円台へ上昇した。加藤財務相や赤沢経済再生相が「行き過ぎた動きに適切に対応」と口先介入を行い、上値を抑えられたが、NY時間には米11月雇用動態調査(JOLTS)のうち求人件数が市場予想を上回ったため、一時158.43円まで上昇。もっとも、トランプ次期大統領が行った会見で「金利は高過ぎる」と発言したため、157円後半へ押し返される場面も。
8日には、トランプ氏が新たな関税プログラム導入に向け国家経済緊急事態宣言を検討とCNNが報じた結果、インフレ加速見通しと米金利先高観から一時158.55円まで上値を拡大。その後、米12月ADP全国雇用者数が市場予想を下回り、上げ渋った。
9日は、世界的な金利上昇が広がるなかで、英国の財政赤字拡大懸念からポンド売りが広がり、ポンドなどクロス円が下落し、ドル円も157円半ばへ押し下げた。なお、米株相場はカーター元大統領の国葬を受け休場、米債市場は短縮取引となった。
10日は、日銀報道を受けてロンドン時間入りに下落。1月23-24日の日銀金融政策決定会合で公表される展望見通しをめぐり、日銀が生鮮食品とエネルギーを除くコアコア消費者物価指数(CPI)見通しを引き上げると、ブルームバーグが報じ157.62円台へ下落した。しかし、米12月雇用統計が市場予想を上回る好結果となり、年内の利下げ期待が後退。米金利の上昇もあって、ドル円は一時158.88円まで週の高値を更新した。もっとも、日銀のコアコアCPI見通し引き上げをめぐる不確実性もあって、一気に上げ幅を打ち消し、157円後半で週を終えた。
チャート:ドル円の2024年12月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)
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