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  • Weekly Report(9/9):「ドル円は8/5の安値を狙うか、米大統領候補TV討論会などを挟み米株安も重石に」
    安田 佐和子
    この記事の著者
    トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

    世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

    マーケット分析
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    ―Executive Summary―

    • ドル円の変動幅は9月2日週に5.44円と、前週の2.80円から拡大した。週足では、反落。ドル円は週初こそ買い戻しが優勢で、3日の東京時間に一時147.21円と約2週間半ぶりの水準を回復。ただし、以降の米指標が市場予想より弱く売りで反応した。4日の米7月JOLTS(雇用動態指数、求人件数などを含む)、5日の米8月ADP全国雇用者数を受けて143円割れ。6日の米8月雇用統計発表直後は失業率が市場予想と一致し前月から改善し、平均時給も市場予想を上回り一時144.09円へ急伸したが、非農業部門就労者数(NFP)が市場予想以下で売りへ反転。タカ派のウォラーFRB理事が9月利下げ支持を表明すると、一時141.77円と8月5日の安値(141.69円)に迫った。
    • 米8月雇用統計を振り返ると、全体的に強弱まちまちに見えるが、以下の4点から労働市場の減速を裏付けた。①NFPは市場予想を上回るも伸びは鈍化、②失業率は低下も1年以内の景気後退入りを示唆するサーム・ルールは発動変わらず、③労働力人口に占める完全解雇は高水準、④白人とヒスパニック系の失業率が2021年10月以来の高水準。これらを判断すると、米労働市場は「変曲点」に近づきつつある。FF先物市場では、9月FOMCの0.25%利下げ織り込み度は9月6日時点で70%だが、その一方で、11月FOMCの0.5%利下げ織り込み度は53.5%へ上昇、12月FOMCに至っては、0.5%利下げ織り込み度が42.7%と0.25%利下げ予想を逆転した。
    • 米8月雇用統計の結果を受けて、マーケットでの米景気後退懸念も強まりつつある。米10年債利回りと米2年債利回りの差は8月にマイナスからゼロへ戻し逆イールドが解消されたが、9月6日には0.06ポイントの上昇に転じた。過去、逆イールド(米10年債利回りと米2年債利回りの差がマイナスの状態)からプラスに転換するに合わせ、米国はリセッション入りしてきた事実は留意すべきだろう。米景気後退懸念が強まるなか、米大統領候補TV討論会の内容次第で米株安が進行すれば、ドル円を押し下げうる。
    • 今週は、9月9日に日本Q2実質GDP成長率改定値と7月国際収支、中国8月CPIと生産者物価指数、10日に中国8月貿易収支と米大統領候補TV討論会(日本時間の〈11日〉午前10時開始)、11日に米8月CPI、12日に日本8月国内企業物価指数と欧州中央銀行(ECB)政策金利発表、米8月生産者物価指数、12日に米8月輸入物価指数を予定する。
    • ドル円のテクニカル的な地合いは、再び弱含みに転じた。一目均衡表の「三役逆転」や下向きの移動平均線に加え、ボリンジャー・バンドのー2σを下回るなど弱気のバンドウォークが形成された。前週後半の下落局面では、2023年1月安値と2024年7月高値の半値押しにあたる144.60円も回復できなかった点も気掛かり。
    • 投機筋の円のネット・ポジションの動向は9月3日週に4万1,116枚と、前週の2万5,868枚を上回り、4週連続でロングとなった。2021年2月5日週以来の高水準となる。円キャリーの再開を指摘する声が聞かれる場面もあったが、極めて短期か限定的と言えよう。
    • 以上を踏まえ、今週の上値は21日移動平均線が近い145.60円、下値は2023年12月28日安値の140.25円と見込む。

    1.為替相場の振り返り=ドル円、米8月雇用統計を受け約1カ月ぶりの142円割れ

    【9月2 日~6日のドル円レンジ:141.77~147.21円】

    ドル円の変動幅は9月2日週に5.44円と、前週の2.80円から拡大した。週足では、反落。ドル円はレーバーデーを受け米国市場が休場となった2日と3日にかけ、米8月PCE価格指数などが前月と変わらず、米8月個人消費支出も堅調だったことから米景気後退懸念が低下した流れを受け継ぎ、買いが入った。3日の東京時間には、一時147.21円と約2週間半ぶりの水準を回復。ただし、同日のNY時間に発表された米8月ISM製造業景気指数が5カ月連続で製造業の活動の拡大・縮小の分岐点となる50を割り込んだため、売りに転じた。4日には、米7月JOLTS(雇用動態指数、求人件数などを含む)が予想より弱く、売りの流れが加速。5日には米8月ADP全国雇用者数の伸びが2021年1月以来の低い伸びにとどまったため、一時143円台を割り込んだ。ただ、米新規失業保険申請件数や米8月ISM非製造業景気指数が市場予想を上回り、買い戻された。

    6日は、東京時間からWSJ紙のFed番記者、ニック・ティミラオス氏が米8月雇用統計の悪化次第で、9月17~18日開催のFOMCで0.5%利下げもありうると報じたため、142円割れを試した。ロンドン時間では持ち直しつつ、米8月雇用統計発表直後は失業率が市場予想通り前月から改善したほか、平均時給が市場予想を上回ったため、一時144.09円へ急伸。ただ、非農業部門就労者数(NFP)が市場予想以下だったほか、フルタイム雇用の減少が意識され、142.30円台へ急速に戻した。タカ派のウォラーFRB理事が講演で9月利下げが適切と発言したほか、データ次第で継続的な利下げや大幅利下げを支持すると発言し、下げ幅を拡大。一時141.77円と8月5日の安値(141.69円)に迫った後は買い戻されつつ、142円前半で取引を終えた。

    チャート:ドル円の7月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)

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    (出所:TradingView)

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