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  • Weekly Report(9/2):「ドル円は米8月雇用統計を控え、年内の利下げ幅をにらみ神経質な展開か」
    安田 佐和子
    この記事の著者
    トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

    世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

    マーケット分析
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    ―Executive Summary―

    • ドル円の変動幅は8月26日週に2.80円と、前週の4.01円から縮小した。週足では、反発。ドル円は週初に一時143.45円まで週の安値をつけたが、週後半に買い戻される展開。29日発表の米Q2実質GDP成長率・改定値と米新規失業保険申請件数を受け、0.5%利下げ観測の巻き戻しを誘発し、ドル買いを後押しした。30日発表の米7月PCE価格指数はコアと合わせ前年同月比で市場予想以下だったものの、スーパーコア(住宅を除くコアサービス)が3カ月ぶりの強い伸びとなったことが意識され、買いが加速。NY時間引け前には、一時146.25円まで週の高値をつけた。
    • 9月2日週は、3日予定の米8月ISM製造業景況指数から6日公表の米8月雇用統計まで、米重要指標が目白押しだ。米8月ISM製造業景況指数については、前哨戦となる米8月S&PグローバルPMI速報値の他、米7月耐久財受注のコア資本財(非防衛財から航空機を除く)が弱含んでおり、製造業活動の拡大・縮小の分岐点50割れが続く公算が大きい。
    • 4日発表の米7月雇用動態調査(JOLTS、求人件数などを含む)は、オンライン求人動向指数をみる限り横ばいとなりうる。ただし、6月時点で既に採用者数の落ち込みを確認し、採用率も2020年4月以来の水準へ落ち込むなか、採用者の動向に注目がシフトすればドル円を押し下げるのではないか。
    • 米8月雇用統計では、8月21日に米労働統計局が発表したように、非農業部門就労者数(NFP)は年次基準改定を受け、2024年3月までの1年間で81.8万人の下方修正となった。これに加え、7月に失業率が4.3%へ上昇しサーム・ルール(後述)しただけに、失業率に重点が移ってもおかしくない。米新規失業保険申請件数のうち、継続受給者数は高止まりしていることも、失業率の低下を妨げそうだ。
    • なお、米新規失業保険申請件数がそれほど増加していない割に失業率が上昇した一因として、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のFed担当記者、ニック・ティミラオス氏がゴールドマン・サックスの分析を基に伝えたように、不法移民の存在が考えられよう。NFPは給与明細ベースでカウントされるため、不法移民の雇用が反映されるが、不法移民は概して失業保険の給付対象外(カリフォルニアは支給可能)とあって、新規失業保険申請件数に反映されない傾向がある。
    • 今週は、9月2日に中国8月財新製造業PMI、3日に米8月ISM製造業景況指数、4日に中国8月財新サービス業PMI、米7月JOLTSや米地区連銀経済報告(ベージュブック)、カナダ銀行の政策決定会合、5日に日本7月毎月勤労統計調査、米8月ADP全国雇用者数と米8月ISM非製造業景況指数、6日に米8月雇用統計を控える。
    • ドル円のテクニカル的な地合いは、改善した。一目均衡表の転換線に加え、21日移動平均線を上抜けて週を終えた結果、戻りを試す余地を残す。その反面、「三役逆転」を形成したままであるほか、一目均衡表の雲が下がっており、ドル円の上値も重そうだ。
    • 投機筋の円のネット・ポジションの動向は8月27日週に2万5,868枚のロングと、前週の2万3,585枚をわずかに上回り、3週連続でロングとなった。8月30日に146円台を回復しており、円ロングは縮小に転じたと想定され、上下どちらにも振れやすくなったと言えそうだ。
    • 以上を踏まえ、今週の上値は2023年1月と2024年7月の38.2%押しにあたる148.70円、下値は8月26日週安値付近の143.50円と見込む。

    1.為替相場の振り返り=ドル円、米GDPや米PCEを受け146円台まで買い戻し

    【8月26 日~30日のドル円レンジ:143.45~146.25円】

    ドル円の変動幅は8月26日週に2.80円と、前週の4.01円から縮小した。週足では、反発。ドル円は週初、8月23日のパウエルFRB議長のジャクソンホール会合での利下げ開始宣言を受けて、8月6日の安値143.63円を抜け、一時143.45円まで週の安値をつけた。同水準では下値を拾われつつ、戻りも鈍い。27日発表の米8月消費者信頼感指数が6カ月ぶりの高水準だったが、ドル買いの反応は乏しい。28日に氷見野副総裁の講演も内容は新味に乏しく、影響は限定的だった。半導体大手エヌビディアの決算が注目されたが、高い期待に届かぬ結果で、こちらもリスク選好度の改善をサポートせず、ドル円への影響は限られた。

    むしろ、29日発表の米Q2実質GDP成長率・改定値が市場予想を上回り3.0%増に改定されると、買い戻しの動きが活発化した。米新規失業保険申請件数が市場予想以下にとどまったことで、0.5%利下げ観測の巻き戻しを誘発し、ドル買いを後押しした。30日発表の米7月PCE価格指数はコアと合わせ前年同月比で市場予想以下だったものの、前月と一致したほか、スーパーコア(住宅を除くコアサービス)が3カ月ぶりの強い伸びとなったことが意識され、買いが加速。NY時間引け前に買いの勢いが強まり、一時146.25円まで週の高値をつけた。

    チャート:ドル円の6月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)

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    (出所:TradingView)

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