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  • Weekly Report(10/7):「ドル円は乱高下継続へ、150円手前では本邦当局筋から円安けん制か」
    安田 佐和子
    この記事の著者
    トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

    世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

    マーケット分析
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    ―Executive Summary―

    • ドル円変動幅は9月23日週からの2週間で、変動幅は11.79円に及んだ。自民党総裁選で「金利ある世界」に言及し追加利上げ肯定派とされた石破氏が勝利した結果、ボラティリティが急伸。その後、首相就任後に石破氏が追加利上げの環境にないとの発言を受け、ドル円を押し上げた。パウエルFRB議長が利上げに急がない姿勢を示したことも、ドル円の上昇に寄与。10月4日の米9月雇用統計発表後には、一時149.01円と8月2日以来の高値をつけた。
    • 10月27日の衆院解散総選挙を控え、石破首相は追加利上げ姿勢を180度転換させた。しかし、ドル円150円超えでは、インフレ再燃を招きかねない。家計の負担増も予想されるだけに、すでに林官房長官や自身を含め、火消しに動いている。植田日銀総裁は米国を始めとする海外要因などを理由に、追加利上げを慎重に検討する姿勢を強調したが、ドル円の動向次第では日銀副総裁や審議委員からタカ派的な発言が飛び出してもおかしくない(16日にハト派の安達審議委員の公演を予定)。何より、三村財務官による口先介入なども想定されよう。
    • 米9月雇用統計で堅調な米労働市場を確認したため、11月6~7日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.5%利下げ観測が消滅した。ただし、米雇用統計は今後、米港湾ストライキなどの影響や、引き続き消極的な企業の採用活動などを受け、流動的となりうる。米港湾ストライキは3日目にて中断で合意したが、正常化に時間が掛かる見通し。また、米9月失業率は改善したが、家計調査で政府の就業者数が過去2番目に大きかったことが一因。このまま失業率が低位安定するかは不透明だ。米9月消費者物価指数(CPI)などが物価上昇ペースの鈍化トレンドを確認すれば、再びFedの利下げペースに市場の関心が集まりうる。
    • 今週は、10月7日にユーロ圏8月小売売上高、8日に8月毎月勤労統計調査と8月全世帯家計調査、8月国際収支、9日にNZ準備銀行の政策金利発表、9月FOMC議事要旨、10日に9月国内企業物価指数、米9月CPI、11日に米9月生産者物価指数を予定する。
    • ドル円のテクニカル的な地合いは、一段と改善した。ボリンジャー・バンドの+2σを上回るほか、2023年1月安値と2024年7月安値の38.2%押しの148.68円を抜けてNY時間を終えた。7月高値と9月安値を結んだ短期のフィボナッチでも38.2%戻しがある148.24円も超えており、底堅さを確認する時間帯に入るか。また、移動平均線も、200日移動平均線や21日移動平均線が上向きつつある。中東情勢の悪化でWTI原油先物が一段高となれば、ドル円もつれ高となりそうだ。
    • ただ、RSIが10月4日に64.6と、割高を示す70に接近している。年初に入り、70超えでは調整が入る局面があり、このまま上値トライに突入するとは想定しづらい。
    • 投機筋の円のネット・ポジションの動向は10月1日週に5万6,772枚と、8週連続のロングとなった。ただし、円ロングの過去最高となる2016年4月19日の7万1,870枚に接近した前週の6万6,011枚を下回った。10月4日に米9月雇用統計を受けてドル円は一時149円回復しており、円ロングはさらに整理されていそうだ。
    • 以上を踏まえ、今週の上値は7月高値と9月安値の半値戻しが近い150.80円、下値は21日移動平均線が近い143.50円と見込む。前週の変動幅が7円を超えたため、通常を上回るレンジを想定する。

    1.為替相場の振り返り=ドル円、日銀の追加利上げが後退と米9月雇用統計を受け149円台へ急伸

    【9月23日~9月30日のドル円レンジ:142.07~146.49円】
    【9月30日~10月4日のドル円レンジ:141.54~149.01円】

    ドル円の変動幅は9月23~27日週に4.43円と、その前の週の4.92円から縮小した。週足では、反落。ドル円は日銀金融政策決定会合で植田総裁が追加利上げに慎重姿勢を示した9月20日の流れを受け継ぎ、買いが優勢となった。高市早苗経済安全保障担当相が23日に「金利を今、上げるのはあほやと思う」と追加利上げをけん制したことも、材料視。米9月総合PMI速報値が市場予想を上回り、上昇につながった。24日には、植田日銀総裁が「物価上振れリスクの減少で政策判断にあたり時間的な余裕がある」と、会合後の会見に続き追加利上げに急がない姿勢を示し、買いを後押し。中国が大規模な景気刺激策を発表したことも、リスク選好度を強め、ドル円を押し上げた。

    27日の自民党総裁選を控え、産経新聞が26日に「麻生副総裁が高市支持、麻生派議員にも指示 1日目から」との報道も、ドル円の上昇を誘うなか、ロンドン時間には日銀追加利上げ観測後退と財政出動への期待感から、約3週間ぶりに145円台を回復。米新規失業保険申請件数が市場予想を上回ったこともあり、NY時間で145.22円まで上昇した。27日は、自民党総裁選・第1回目の投票で高市氏が1位となったため、ドル円は一時146.49円まで上値を拡大。ただし、決戦投票で石破氏が逆転勝利すると、143円割れへ急落。NY時間には米8月個人消費支出や個人所得、PCE価格指数の前月比で市場予想以下となったため、11月の0.5%利下げ期待が強まったため、一時142.06円まで沈み、同週の上昇分をすべて吐き出した。

    ドル円の変動幅は、9月30日~10月4日週に7.36円と、その前の週の4.43円から拡大した。変動幅としては、年初来で2番目の大きさとなる。週足では、大幅反発。前週比での上昇率は6.5%と、年初来で最大を記録した。ドル円は9月30日、パウエルFRB議長が「委員会は利下げを急いでいない」と発言したため、143円台を回復した。自民党総裁選に勝利した石破氏が首相に就任した10月1日には、石破首相の側近とされる赤澤経財相が「完全に日本がデフレから抜けたということを実現するまでは、(日銀の利上げは)慎重に判断していただきたい」と言及し、ドル円の買いをサポート。2日には、石破首相が植田日銀総裁との会談終了後、記者団に「現在、追加利上げをするような環境にあるとは考えていない」と明言、植田日銀総裁も、「日本経済と物価をめぐる不確実性は高い」と追加利上げに慎重姿勢をにじませ、ドル円を押し上げた。NY時間に、米9月ADP全国雇用者数が市場予想を上回ったため、一時は146円半ばへ上昇した。

    3日に、林官房長官が石破首相の「追加利上げ環境にない」発言に対し、石破首相は「日銀総裁に具体的な要請していない」と説明。石破首相自身も「植田総裁と同様の発言を述べたもの」と語り、「追加利上げの環境にない」発言の火消しに動いた。しかし、ドル円の上昇はとまらず。米9月ISM非製造業景気指数が2023年1月以来の高水準だったため、ドル円は上値を広げ147円前半へ切り上げた。イランがイスラエルを攻撃した10月1日以降、中東情勢悪化の懸念からWTI原油先物が上昇を続けるなか、バイデン大統領が「イスラエルはイラクへの報復として石油施設への攻撃を検討中」発言したことも、輸入物価高による貿易赤字拡大観測から、ドル円の買い(円の売り)を支えた。4日には、米9月雇用統計が予想外に堅調な米労働市場の実態を示し、ドル円は一時149.01円と約2カ月ぶりの高値をつけた。

    チャート:ドル円の7月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)

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    (出所:TradingView)

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