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  • Weekly Report(3/25):「ドル円は介入警戒高まるが、日経平均次第では152円超えも」
    安田 佐和子
    この記事の著者
    トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

    世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

    マーケット分析
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    ―Executive Summary―

    • ドル円の変動幅は3月18日週に2.96円と、その前の週の2.68円から縮小した。週間ベースでは、続伸。日銀のマイナス金利解除を受けて円の「セル・ザ・ファクト(事実で売る)」の展開を迎え、米連邦公開市場委員会(FOMC)がハト派寄りでもドル円は右肩上がりをたどった。米新規失業保険申請件数など米指標が好結果だったこともあり、3月22日には一時151.86円と2022年10月高値にあと8銭と迫った。
    • 3月19ー20日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、四半期に一度公表される経済・金利見通しで成長見通しを軸に楽観的な見通しへ修正された。一方で、注目のFF金利予想(ドット・プロット)は、1、2月に米物価指標が市場予想を上回ったものの、年内3回利下げの予想を維持。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が「特に、労働市場が大幅に減速すれば利下げ開始で対応する」などと発言したように、ソフトランディングを確実にすべくFedは物価より労働市場に重点を置いたと言えよう。米大統領選前の失業率上昇は現職の大統領の再選を阻むだけに、政治的な環境も配慮したのではないか。
    • 日銀はマイナス金利など大規模緩和の解除に踏み切るなか、「当面、金融緩和的な環境を維持する」と強調した。ただし、翌日に日経新聞が円安是正を狙い10月か7月の利上げを検討する可能性を報じており、政府・日銀が円の一段安回避を狙い対応するシナリオが視野に入る。
    • これ以上の円安を断固として阻止するならば、日銀の長期国債買入手控えのほか、介入が意識されよう。伝家の宝刀を抜くにあたって負け戦となってはならず、①投機筋の円のネット・ショート、②米金利動向、③日本株高と外国人の円のヘッジ売りーーを見定めてくるのではないか。特に③については、外国人は日本株を約3割保有するだけに、2月末時点の日本株の時価総額が977兆円とあって、単純計算すれば、外国人が保有する日本株の時価総額は300兆円。従って、日本株高の局面で数兆円の円のヘッジ売りが被さると想定されるだけに、株高で介入は難しくなりそうだ。
    • 今週は米住宅指標のほか、3月26日に米2月耐久財受注や米3月消費者信頼感指数、29日に3月東京都区部消費者物価指数や日本2月失業率と有効求人倍率、米2月個人消費支出(PCE)やPCE価格指数などを予定する。
    • 本邦当局による介入が警戒されるなか、ドル円は米金利と日本株高次第で152円を抜けるリスクがありそうだ。その一方で、ロシアのモスクワ郊外でテロ事件が発生、133人が死亡した。リスク選好度の低下による金利低下・株安の局面を迎えれば、円キャリー巻き戻しによるドル円の下落が想定される。中国人民銀行が3月22日に元の中心レートを引き下げた影響を見極める必要もありそうだ。以上を踏まえ、今週のドル円の上値は心理的節目の152.50円、下値は21移動平均線が近い149.60円と見込む。

    1.前週の為替相場の振り返り=ドル円、日銀のマイナス金利解除後に上値拡大し年初来高値を更新

    【3月18日~22日のドル円レンジ:148.91~151.86円】

    (前週の総括)

     ドル円の変動幅は3月18日週に2.96円と、その前の週の2.68円から拡大した。週間ベースでは、続伸。ドル円は3月18日に148.91円の週安値をつけた後は、右肩上がりの展開に入った。19日には、日銀が金融政策決定会合でマイナス金利や上場投資信託(ETF)の買い入れなど、大規模緩和の解除を決定。ただし、声明で「当面、緩和的な金融環境が継続する」と文言が追加されたほか、記者会見でも植田総裁がこの文言を3回繰り返すなど強調するなか、円の「セル・ザ・ファクト(事実で売る)」の展開となった。日経平均が上昇するなどリスク選好度の高まりも、ドル円の押し上げ要因に。日銀金融政策決定会合後、岸田首相が植田総裁と会談し「緩和的な金融環境の維持は適切」と明言したことも、材料視された。鈴木財務相が日銀金融政策決定会合後に「経済、金融市場、あるいは為替市場について、よく注視していく必要がある」と述べたが、特に反応しなかった。

     20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場予想通りFF金利誘導目標のレンジを5.25-5.5%にて5回連続で据え置いた。四半期に一度公表する経済・金利見通し(SEP)では、成長率を中心に上方修正が目立った半面、ドット・プロットと呼ばれるFF金利見通しについては、年内3回利下げ予想を維持。さらに、パウエルFRB議長の記者会見で「特に労働市場が大幅に減速した場合は、利下げを開始する見通し」と発言したため、ドル円は151円を割り込んだ。パウエルFRB議長の記者会見開始に合わせ、日経新聞の英字版が「日銀追加利上げ『10月』、『7月』観測 円安進行が左右」と報じたことも、ドル円の下落につながったとみられる。

     21日には、3月FOMCと日経報道を受けて150.26円まで下落したが、スイス国立銀行(中銀)の利下げを受けてドルが対スイスフランで上昇するなか、対円でもドル高に振れた。米新規失業保険申請件数や米3月総合PMI・速報値などが市場予想を上回り、リスク選好度の高まりからドル円を押し上げ。22日には、東京時間に一時151.86円まで年初来高値を更新し、2022年10月の高値151.94円に、あと8銭まで迫った。以降は、米重要指標を予定しなかったこともあり、高値圏でもみ合いながら取引を終えた。なお、鈴木財務相が21日と22日に「為替相場はファンダメンタルズを反映し安定推移が重要」、「高い緊張感をもって注視していきたい」と発言したが、影響は限定的だった。

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