
米国の「トリプル安」
今週はいったん落ち着いているが、先週の金融市場ではトランプ大統領の過激な関税政策を嫌気した米国の株式と債券、ドルがそろって下げる「トリプル安」となりました。特にリスクオフの局面で逃避資産としてよく買われていた米債の売りが目立ち、市場に大きな不安を与えました。
イエレン前米財務長官はこの米国債売りについて、市場で流動性が完全に枯渇するという意味での機能不全ではなく、米経済政策に対する信頼の喪失を示唆しており、「非常に憂慮すべきだ」と述べました。
「米債売り」が示すドル離れの懸念
先週の米10年国債利回りの上昇幅は、過去20年余りで最大を記録しました。海外投資家が大挙して資金を引き揚げていることの表れだと断言するのは時期尚早だが、この米債売りはトランプ米政権にとって恐ろしいことであり、想定外のことでした。一部のデータによると、海外投資家が保有するドル建て資産(株式と債券)が5%少なくなれば、7000億ドル前後のドル売り圧力が生み出されると言われています。
一部では、トランプ米大統領の二転三転する関税政策と言動が、世界経済におけるドルの優位性に過去半世紀で最大のリスクを突きつけているとの指摘があります。トランプ氏はご自身の政策により貿易不均衡が是正され、国内製造業が活性化し、連邦政府の歳入が増え、違法薬物の流入阻止につながると主張しているが、同氏の政策に世界は混乱しています。世界の景気減速への懸念が高まり、米国の信認が低下しています。
もっとも、最近は米国と敵対する国々では、国際決済での決済通貨をドル以外の通貨に変えて、国際銀行間通信協会(SWIFT)以外の国際決済システムの利用を模索する動きが広がり、RICS諸国は共通通貨の創設や国際決済でのドル離れ志向が高まっているなか、トランプ氏の関税戦争はドル離れの加速につながる可能性があります。
米国売り、トランプ氏の正念場
依然として関税をめぐる市場の不安は大きく、ドルの重い動きやリスクオフの円買いに傾きやすいです。中国が見せた徹底抗戦や、金融市場での米信認低下などで、トランプ米大統領の関税方針も選択に迫られています。トランプ氏は自身の政治方針でもある関税を全うしたいところですが、市場の抵抗は想定以上のものになっています。また、国別の交渉で成果をアピールしたいが、中国という強敵と戦うため仲間を増やしたい気持ちもあり、関税で厳しく相手国をねじ込むのも避けたいのもあって、関税の先行きは全く読めません。関税が米国売りにつながったのはトランプ氏の想定外で、今後の関税方針は正念場を迎えています。
もし、トランプ氏がドル離れを防ぐために追加関税に踏み切ったりしたら、まったく逆効果になるでしょう。政治的に中立でなければならない国際通貨システムの管理者として、米政府が信用できないことを世界に知らしめることになります。米政府の政治的な怒りを買うことを恐れる諸国は、ドル支配体制からの脱却を今以上に真剣に考えるようになります。
【免責事項・注意事項】
本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。
※本記事は2024年4月19日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。
ようこそ、トレーダムコミュニティへ!