• 為替の方向性の鍵!実質金利差を見よう!【後編】
    この記事の著者
    金融市場アナリスト

    上智大学外国学部卒業、City, University of London(MBA)卒業
    複数の金融機関で為替ディーラーやファンドマネージャーを歴任。
    15年間かけてニューヨーク、ロンドン、シンガポールを転戦。市場分析や顧客対応に加え金融・投資教育等も行う。

    為替の仕組み
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    本記事では、トレーダムのキャラクター「カワセ博士」とカワセミの「カワセアイ」が日常のやり取りから為替について理解を深めていきます。

    【カワセ博士】
    じゃあ次の質問にいくよ。さっきの質問にインフレの要素を加えます。A国は6%の金利があります。インフレ率は5%です。B国は3%の金利でインフレ率は1%です。カワセミ君ならどちらの国へ投資する?

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    【カワセアイ】
    えっと、B国です。

    【カワセ博士】
    そのこころは?

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    【カワセアイ】
    えっと、A国は、金利は6%と高いけど、インフレ率が5%もあるので、年間6%の利息がもらえたとしても、インフレで5%も通貨が減価してしまうので、実質の稼ぎは1%しかない。それに比べてB国は3%でしか運用できないけれど、インフレで目減りする分が1%しかないので、実質的には2%で運用できる。B国のほうがお得だと思います。だからB国の通貨で資産を運用します。

    【カワセ博士】
    素晴らしい、正解だ。

    それにカワセミ君は、今とても大切な言葉を使ってくれたよ。

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    【カワセアイ】
    ????

    【カワセ博士】

    「実質」という言葉さ。今例に挙げた6%とかいう、国債の利回りや、預金の利率を名目金利といいます。まあ、国債の利回りなどの見た目の金利というところかな。一方、その名目金利から、インフレ率(年率)を引いた金利を「実質金利」といいます。この二つはれっきとした経済用語でちょっと聞きなれないかもしれないけれど、必ず覚えておいて。

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    つまり、

    「名目金利-インフレ率=実質金利」

    という簡単な等式は、為替ではとても重要なのだよ。長々としゃべってきたけど、この実質金利の高い国方へ、お金は流れる傾向がある。つまり実質金利の高い国の通貨は買われて高くなり、低い国の通貨は売られて安くなる。この実質金利差は、中長期にわたって、傾向としてのそこだまりのような資金の大きな流れを作るのだよ。インフレ率というのは昨日今日で急にプラスからマイナス(デフレーション)に転換したりしないよね。

    できれば覚えておいて欲しいのだけど、この「実質○○」という言葉はいろんなところで使われている。例えば賃金もそうだ。「名目賃金」と「実質賃金」とかね。「Inflation」の動詞である「inflate」という単語は「膨らます」、という意味があって、インフレによって実態より膨らんで見える、という意味なのだよ。だから、名目の賃金が上がってもインフレで膨らんだ部分が多ければ意味がない。インフレ分を差っ引いたものが実質賃金だからね。これが上がらないと個人の消費は増えていかない。「実質」、ときたらインフレ分を取り除く、という習慣が大事だね。

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    【カワセアイ】

    なるほど。よくわかりました。

    ところで、博士、名目金利とかは、10年国債とかの利回りをしらべればすぐわかると思うのですけど、インフレ率というのは何で測るのですか?

    【カワセ博士】

    うん、大事なポイントだ。それは日本や米国など主要国で、通常月に一回発表される、「消費者物価指数(Consumer Price Index、CPI)」の年率をみればよいよ。その中でも変動の大きい、食料品価格とエネルギー価格を除いた、コアCPIがいいかな。傾向がわかればいいわけだから、総合、コアどちらでもいいのだけど、各国の中央銀行は、コアCPIをとても気にしているのだよ。

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    【カワセ博士】

    だからカワセミ君のおじさんに教えてあげてほしいのは、消費者物価指数の発表がある月一回でいいから、その時の名目金利とインフレ率を調べて、気になる2国間の実質金利の差を計算して、その差の伸び縮みがわかるグラフでも作っておくことがとても役立つということ。もちろん、メモに書き残しておくだけでもいい。いくら忙しくてもそれくらいはチェックできると思うよ。なんならカワセミ君がドル円などの為替の動きと合わせて関心のある2国間の金利差推移のグラフを作ってあげたらよいと思う。

    そしてここで重要なのは、2国間の実質金利の絶対差だけではなくて、その金利差が縮小する方向か拡大する方向か、その傾向を見るのも大切だということだね。つまり、例でいえば、「A国-B国」の実質金利差が、大きくプラスでもそのプラスがどんどん縮小する傾向が明らかになれば、たとえ、A国の実質金利がB国のそれよりも高くても徐々にA国通貨売り、B国通貨買いになっていく傾向になるだろうと想定できるということだ。

    例えば、現実世界でざっと計算すると、米国の10年米国債利回り=名目金利4.5%からインフレ率3.0%を引くと実質金利+1.5%。それに比べて日本は1.0%-2.5%で実質金利はマイナス1.5%となる。つまり日本円を持っていると、その価値は目減りする一方ということだ。そんな通貨を世界の賢い投資家が選好するはずないよね。他方、米ドルの実質金利はプラスの1.5%。米国はインフレ率の高止まりで困った、困ったと騒いでいるけど、しっかりプラスの利回りが確保されている。2国間の実質金利差は合計で3.0%もある。やはり現状、米ドルの方がより人気があってドル高円安が進んでいるのは道理なのだよ。為替市場は通貨の人気投票みたいなものだからね。

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    【カワセアイ】

    なるほど、そうなのですねえ。

    【カワセ博士】

    今年の年末にかけて米国の景気が減速して米国の名目金利(例えば10年米国債の利回り)が低下に転じれば、インフレ率はそんな急激に下がるものではないから、米国の実質金利は低下傾向になるよね。そうするとようやくドル円の上昇も終わるかな、という予想が成り立つってわけだ。

    もちろん、カワセミ君が最初に言った通り、為替は様々な要因で変動する。

    だからこの目安はもちろん、絶対ではないのだけれど、私の経験上、中長期的に見ればその傾向は極めて強い。いつも為替市場をじっと見ていられない忙しいひとや中長期的に為替取引をする必要がある人が大きな流れをつかむには、「2国間の実質金利差とその伸縮の傾向」は最高の指標だと思うよ。

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    【カワセアイ】

    なるほど、ありがとうございます。

    おじさんに教えてみます。僕も興味があるから実質金利差のグラフでも作ってみようかな。

    こちらの記事には前編があります。
    下記のURLからご覧ください。

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