「第2次プラザ合意はあるか?・・・万が一のリスクを考慮せずにやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み


FXに手を出している方の多くは、プラザ合意を経験している人は、あまりいないかと思います。

言葉として聞いたことはあるけれど、という方のために簡単にプラザ合意について説明をしますと

1985年9月に米・日・英・西独・仏のG5各国(このころはG7でもG20でもなかった)が主に日本の対米貿易黒字の削減を合意。

その削減のために円高・ドル安を誘導することになったわけです。

余談ですが、このプラザ合意で利益を得ることができた日本のディーラーは、とにかくドル売り・円買いが大好きになりました。

どのような状況でも、ドル円の姿勢は、ベア!ベア!ベア!

たとえ、ドル買いを促すニュースが出ても、売り場を探すという偏った傾向に。

フレックスな考えができず、プラザ合意からしばらくすると、時代の流れについていけずにFX界から去っていった方々もたくさんいます。



1985年当時は、日本の対米黒字(米国にとっては対日赤字)は相当なものでした。

現時点でも日本と米国の通商関係は日本の黒字・米国の赤字、ということに変化はありません。

2024年も8兆6417億円の黒字を計上しています。

ただ、日本が突出して対米黒字(米国にとっての赤字)が多いわけではありません。

米国にとっての赤字は中国、メキシコ、ベトナム、アイルランド、ドイツ、台湾に続き日本が7番目となっています。

韓国やカナダも日本と変わらない程度の順位となっています。

中国の黒字額が2704億ドル、メキシコが1572億ドル、日本が626億ドルとなるなど、日本の黒字額は上位国ほど突出していません。

(注・日米で比較期間等で誤差があることで、日本の発表した円での黒字額とは異なります)

1985年と違い、日本だけが黒字が多くなっているわけではないことで、プラザ合意のようなことは起こらないとの声もあります。

更に、1月29日に実施した加藤勝信財務相とベッセント米財務長官のオンライン会談では「日本は利上げをしている」と説明。

これは、低金利に抑えることで、円安を誘導しているわけではないと説明をし、「プラザ合意封じの布石」(日経報道)ともされています。



確かに、当時と比較すると日本に対する赤字額は他国ほどではなくなっています。

ただ、それだからと言って、日米間でドル高是正に関する合意がないとは言えないでしょう。

トランプ米大統領こと「Tariff Man(関税男)」が様々な関税を課すことを決めています。

それに対して上述の国で、中国、アイルランドやドイツ(EU)、カナダなどは、米国に対して対抗関税を示唆しています。

ベトナムもBRICSの準加盟国になっていることで、今後はBRICSに対する通商政策を重要視するかもしれません。

一方で、難しいのは台湾、韓国、そして日本のように、地政学で中国や北朝鮮、ロシアなどと近い国です。

要は防衛面でも米国依存から抜け出せない国々です。

現時点では石破首相は「日本の防衛費は日本が決める」などと強気な発言をしていますが、誰もそのようなことを信じている人はいないでしょう。

「少なくともGDP(国内総生産)比3%を可及的速やかに支出すべきだ」と、トランプ政権の国防次官指名に濃厚なコルビー氏は兼ねてから発言しています。

要するに、防衛費を上げるから、関税を免除してほしいなどと取引に使おうとするかもしれません。

ただ「Tariff Man」は、防衛費と関税は別と捉えることもあるでしょう。

その場合は、やはりドル高是正の案が出てきても不思議ではありません。

先週31日に加藤財務相は「為替レートは市場において決定、無秩序な動きが経済に悪影響を与え得るとの認識を日米財務相で共有」と発言しています。

3月はアップダウンがあったものの、それほど大きくドル高・円安に傾いたわけでもないときの発言だけに気になります。

全世界対象の10%の関税賦課は4月5日からですが、各国ごとの上乗せ分の関税は9日からになっています。

日本が対抗関税を課すことができない状況であれば、防衛費増額でも足りない場合は、第2プラザ合意(日米合意だけ)が決まるリスクもあるでしょう。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2024年4月7日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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