「反トランプが支持率回復・・・各国の政治状況を知らずにやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み

4月2日、大風呂敷を広げたトランプ米大統領はどうするか?


いよいよ、今週4月2日にトランプ政権による相互関税が発表されます。

(日程的に、金融機関からすると前日に新年度が始まったばかり、事業法人も人事異動などでバタつく中で、このようなビッグイベントが行われるのはたまったものではありません。)

当初は自動車への関税についても同日に発表予定とされていましたが、先週の報道によると自動車等は発表されないと報じられています。

ところが先週26日には米国外で生産された自動車には25%の課税をかけると発表。

ただし、ブラフばかりを繰り返すトランプ米大統領ですので、二転三転する可能性も否定できません。

一部が発表されないとの憶測を生んでいるのは、トランプ大統領にとっては、思ったよりも脅しという名のディールを多くの国で通じなくなっていること。

本人は気にしていないそぶりを見せているものの、株式市場が軟調なことで、作戦を練り直しているのかもしれません。

いずれにしろ、トランプ米大統領は「我々は、敵味方問わず、世界中のあらゆる国から金をむしり取られてきた」と述べ、「4月2日はアメリカにとって解放の日になる」と大風呂敷を広げてしまっています。

2日に市場が想定していたよりも関税対象が小幅なものになれば、リスク選好の動きになる可能性もあり得そうです



日本は地政学上、中国、ロシア、北朝鮮などに囲まれていることもあり、通商面だけではなく国防面でも米国には逆らえない国のままです。

ただし、他国では第1次トランプ政権でトランプ大統領が国際協調などを考えて行動することはないと判断し、脱米国路線に舵を切り始めています。

しかも、反トランプを主張すると政治家にとって最も重要な支持率が上昇する傾向にもあるから、なおさらです。

隣国のカナダでは、人気が凋落していたトルドー前首相が米国に対抗する措置を発表すると支持率が回復し始めました。

そして、トルドー氏から引き継いだカーニー首相が率いる自由党は23日時点で支持率が37.5%となり、保守党の37.1%を上回りました。

トランプ氏が大統領に就任する前の年始は、自由党の支持率が20.1%だったのに対し、保守党は44.2%とダブルスコアで負けていたものが、大逆転しています。

NBAやNHLなど米国とカナダをまたいでプロリーグがあるスポーツで、カナダで開催される試合では、米国国歌が流れるとブーイングが流れるほど、嫌米感情が増えています。

それもこれも、カナダを米国の「51番目の州」にすべきなどとトランプ大統領が発言をしたり、関税の負荷を高めようとしたわけですので、当然と言えば当然な話です。

中国の国家主席が日本に対して同様の発言をした場合に、日本人がどう反応するか考えるとカナダ人も黙ってはいられないのも頷けます。

また、カナダ以外でも反トランプが賞賛されている事象が出ています。

南アフリカでは、ラスール駐米大使が米国から国外追放され、先週23日に南アに帰国しましたが、多くの国民に帰国後に歓迎を受けました。

そもそもの発端は、南アに対してトランプ政権が、南ア政府が白人農家の土地没収を幇助しているという根拠のない主張に基づき、対南アの援助を停止しました。

これに対して、ラスール駐米大使が「世界的な白人至上主義運動を主導し、外交に関しては確立された規範や慣行を破壊している」と非難。

そして、ルビオ米国務長官はXで「南アフリカの駐米大使はもはや偉大なわが国では歓迎されない」とし、逆にラスール氏のことを「人種差別をする政治家だ」という見解を示しました。

南ア政府からすると、時計の針をアパルトヘイト時代まで戻そうとしているトランプ政権に対して、真実を語った駐米大使が帰国後歓迎されるの当たり前のことだったでしょう。



このように、カナダや南アだけでなく、徐々に反トランプ政権を主張する政治家が、米国以外では支持率を高める傾向にあります。

トランプ政権にとって、このような国に対しては、おそらく関税を課する可能性が高くなるでしょう。

よって、短期的にはカナダドルや南アランドは売られやすいと思われます。

ただ、中長期的には通貨安が進むかの判断は難しいでしょう。

理由としては、反トランプの政治家は国民の支持が高いことで、政治基盤は安定していること。

インフレに対しても、米国の圧力によるインフレ高進の場合は理解を得やすいと思われます。

更に、代替国を探すことも、これまでよりも容易になりつつあります。

カーニー首相は最初の外遊を米国ではなく欧州にしました。

もともと、カーニー首相はカナダ中銀(BOC)総裁の後にイングランド銀行(英中銀=BOE)総裁に就任していたことで、欧州では知名度が高く、多くの要人との親交があります。

欧州との通商は活発化し、トランプ政権は欧州を敵視しているので利害関係も一致します。

一方南アも、BRICSという強い基盤があることで、これまで以上に中国に接近し、ロシアや新たに加入したBRICS国との通商も活発化する可能性もありそうです。

また、すでに3月13日にフォンデアライエン欧州委員長が南アを訪問し、南アに対して47億ユーロの援助(南アへの投資)が決定しています。

このように、代替国が増えているのが現状で、短期的にカナダドルや南アランドが売られたとしても、中長期はどの程度影響が出るかはわからないでしょう。

よって、これまでのように米国に睨まれたら終わり、すなわちその通貨は売られ続けるということではない、ということも考慮しないのいけないでしょう。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2024年3月31日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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