―Executive Summary― 1.前週の為替相場の振り返り=ドル円、FOMCと日銀を消化し148.46円まで上昇 【9/18-9/ […]
「アメリカ経済ソフトランディング期待」金利観格差がリスク
「アメリカ経済ソフトランディング期待」が足もとのドル円上昇の一因となっています。ドル円は8月15日、昨年11月以来のドル高・円安水準145円台を回復しました。米株も底堅く推移していますが、米当局とマーケットの金利観のギャップが今後のリスク要因になる可能性には留意が必要です。
「ソフトランディング」とは、政府や中央銀行の経済・金融政策の舵取りにより、経済が持続可能な成長速度にうまく落ち着く状態を指します。この局面では主に米連邦準備理事会(FRB)が経済にショックを与えることなくインフレを目標レンジに収めることができるかどうかを意味する言葉と受け止めておいてよいでしょう。
しかし「アメリカ経済ソフトランディング」のネックになりそうなのが依然として連邦公開市場委員会(FOMC)とマーケットが想定している金利水準にギャップがある点です。FOMCメンバーがインフレ抑制のために年内あと1回の0.25%追加利上げが必要と予想している一方、マーケット参加者の売買で価格形成されるFF金利先物の水準は利上げを織り込んでいません。
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループがFF金利先物の動向に基づき算出するフェドウォッチ(FedWatch)でみると、9月会合における8月15日時点の0.25%利上げの織り込み度は10%で、9割方据え置きを見込んだ状態です。11月会合の織り込み度でさえ3割強。据え置き予想は60%ほどと高いままです(図表参照)。
「ソフトランディング期待」裏切られてドル下落・米株失速か
もちろん10日にサンフランシスコ連銀のデイリー総裁が語ったように「データ次第」であり、「金利を引き上げる必要があるのか、あるいは金利を長期間据え置く必要があるのか、予測するのは時期尚早」としたように、インフレ動向次第でFOMCメンバーの見方がマーケットの織り込み状況に近づいていく可能性もあります。
しかし、今年のFOMC政策決定の投票メンバーであるミネアポリス連銀のカシュカリ総裁からは15日、「アメリカのインフレ率は依然として高すぎる」との声も聞かれました。「利上げが終了したと宣言する準備は私にはない」とも述べています。
「データ次第」であり先行きに不透明感があるなか、市場も利上げ・据え置き、どちらかを前提に身動きがとれないまま時間が過ぎるなか現状維持の取引に終始しやすいだけとも考えられます。FOMCが予想するように追加利上げありへ寄るかたちでギャップが埋まるなら、事前の想定より金利が高まることの悪影響でマーケットが抱く「ソフトランディング」期待は裏切られることになるでしょう。
利下げへの転換も想定されている2024年を控え、来年のFOMC投票メンバーであるアトランタ連銀のボスティック総裁からは10日「高すぎるインフレを抑制するために仕事に励む」、同じく同年投票メンバーである前出のデイリー・サンフランシスコ連銀総裁から「FRBはインフレに関してまだやるべきことがある」とタカ派な見解も示されていました。
これらは利下げへ向かう前の一仕事として追加利上げが必要と受け取ることもできる言葉です。マーケットが追加利上げを織り込む過程で一波乱あれば「アメリカ経済ソフトランディング」を楽観することはできません。
アメリカ経済が激しめな失速となるなら「ソフトランディング」期待を背景とした足もとのドル円上昇も継続は難しくなります。経済動向に連動してマーケットの金利水準が下がるなかでも、株価は景況を懸念して底堅さを損なうことになりそうです。
本記事は2023年8月16日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。
関連記事
ようこそ、トレーダムコミュニティへ!