本記事では、トレーダムのキャラクター「カワセ博士」とカワセミの「カワセアイ」が日常のやり取りから為替について理解を深めていきます。
【カワセアイ】
博士、最近、為替も株も乱高下がとても激しいのだけれど、市場関連の記事を読んでいると、「円キャリートレード」の巻き戻しがなんちゃら、などとたくさん出てくるのですが、これは何なのですか?
【カワセ博士】
うん、これは為替の変動要因としてとても重要だからちゃんと説明しておこう。この間、為替の方向を見定めるのに2国間の実質金利差とその変化の方向が重要だっていう話をしたよね。
【カワセアイ】
はい、今回、8月初旬に急激にドル安円高が進みましたけれど、その前すでに6月後半あたりから、顕著に日米の実質金利差が縮小している一方、ドル円は160円を超える水準で高止まりしていました。おもちゃ屋さんのおじさんと、そろそろドル円も下落するのかなあ、なんていう話をしていました。金利差が縮小し始めてから結構時間がたった後だったけれど、博士の言う通り、実質金利差の動きにドル円が追随したかたちになりましたね。
【カワセ博士】
うん、そうだね。実質金利差の動きと為替の動きの時間差はその時々によって長かったり、すぐ反応したり、いろいろその他の条件によって変わってくるけれど、大まかな方向性は間違わない。僕から言わせれば、今回は比較的早いほうだったかなと思うよ。
【カワセアイ】
ところでその話と、円キャリートレードと何か関係があるのですか?
【カワセ博士】
うん、その時の話をちょっと思い出して欲しいのだよ。円についていえば、例えば10年で、名目金利が1%程度でインフレ率が2%程度だから、円の実質金利はマイナスだ、という話をしたのだけど覚えている?
【カワセアイ】
はい、覚えていますよ。
【カワセ博士】
円キャリートレードというのは、ダジャレ的に漢字を当てはめて、「円借りトレード」と考えるとわかりやすい。
一言でいうと、2国間の金利差を利用した投資手法なのだよ。世界の異なる国々の中央銀行がそれぞれ異なる金融政策を実施しているときに行われるんだ。具体的には、例えば、金利の安い円を調達してきて(借りてきて)、それをより高利回りで運用できる別の通貨に転換して運用するという手法だ。これは世界中の投資家が実際に行っている。円を調達して、その借りてきた円を売ってドルを買い(ドル転して)、米国債券に投資する、などだね。
ここで重要になるのが、この間説明した実質金利だ。円の実質金利はマイナスだから持っているだけでその価値が目減りするという話をしたよね。借りた円の価値がどんどん下がるということだから調達側にしたらこんないいことはないよね。借金(負債)の価値が減るわけだから返済も楽ということだ。反対側の資産となる米国債券は、高利回りで回るし、インフレ分を差し引いた実質金利もプラスだから、資産側のドルはどんどん価値が増加する。
【カワセアイ】
そんなおいしそうな取引、世界中の賢い投資家が放っておくはずがありませんよね。だからこれまで160円を超えてしまうほど、円安が進んだわけなんですね。
【カワセ博士】
もちろん、円安の理由はそれだけじゃないけど、大きな要因だね。でもね、この円キャリートレードが成立するには、重要な条件があるんだ。なんだと思う?
【カワセアイ】
それはだから、円の実質金利がマイナスであることですよね。まあ、マイナスでなくても投資先通貨より低い、ということですかね。
【カワセ博士】
もちろんそれは大前提として必要だよね。でもそれを所与の前提とするならば、必要な条件というのは、ずばり、「市場が平穏で落ち着いている」ということなんだ。
【カワセアイ】
落ち着いている?
【カワセ博士】
そう。為替レートは、8月初旬のように、予測不可能ともいえる変動が起こりやすくて、その場合、この取引は逆に多額の損失が発生する恐れもある。
例えば、為替市場が乱高下している状況だったらどう?投資家が円キャリートレードを手仕舞いしようと思ったとき、彼らはどういう行動をすると思う?
【カワセアイ】
えっと、まず運用していた先の例えば、米国債券を売却して、手元に入って来たドルを売って、円を買い戻して、借りていた円を返済する、ですね。
【カワセ博士】
その通り、ということは手仕舞いするときに大きくドル安円高が進んでいたらどうなる?
【カワセアイ】
そ円の価値が高くなっているからドルを売った時に手元に返ってくる円が減るということか...
【カワセ博士】
そうなんだよ。手仕舞いの際に、ドル転した時より、為替レートが円高に進んでいると、せっかく高利回りで運用できていたとしても、円の価値が大きく目減りしてしまうリスクがある。だから為替市場が平穏で為替レートが横ばいか、じりじりとドル高傾向にあるときには安心してその取引をキャリーできるから、そういう場合は大きな収益が期待できる。
【カワセアイ】
なるほど、だから8月の初旬に大きくドル安円高が進んだ時に、円キャリートレードをしていた投資家たちの手仕舞い取引、つまり円買いが集中したってことなのですね。
そして逆に言えば、これまで何年も1ドル=160円を超えるほどドル高円安がずううっと進んでいましたから、その間円キャリートレードをキャリーしてきた人々は大儲けだったってことか...博士、もっと早く教えてくださいよ!
【カワセ博士】
ははは。そうだね。株などの資産価格の下落が先か、ドル円の下落が先かは定かではないものの、もちろん両方だとは思うけれど、とにかく、背景には日米実質金利差の縮小傾向があって、その流れの中、単純にドル売りが入ったことに加えて、裏には円キャリートレードのいわゆる、巻き戻し、手仕舞いの円買いが大量に出ていたということも、8月初旬のドル円の下落の大きな要因になっていたといえると思うよ。
重要なのは、キャリートレードを取り巻く環境の変化は、今回の日銀の利上げのように資金の調達側である、低金利通貨の国で金融引き締めが行われたり、投資対象国のファンダメンタルズが大きく変化して魅力が低下したりした時などに起こるのだよ。
そしていま市場では、これまで円キャリートレードを使って、エヌビディアなどの大型ハイテク株が大きく買われていたとの見方が出ている。円キャリートレードの手仕舞いと、これらのハイテク大型株の急落が呼応しているという観測だね。だから今後も大きく米株が下落するような場面ではドル円も急落する可能性がありそうだね。
【カワセアイ】
なるほど~博士、納得です。今日はありがとうございました。
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