
米中関税合戦がエスカレード
トランプ米政権は全世界を対象に10%の一律関税を実施し、貿易が不均衡だと見なす約60カ国・地域に税率を上乗せしました。中国に対しては政権スタートしてすぐに20%の関税が決定され、相互関税34%が追加される予定でしたが、中国が報復関税を打ち出したことへの制裁としてさらに50%の関税が上乗せされ、合計で104%となります。
中国は当初、米国産石炭や天然ガスなどに最大15%の追加関税を発動し応戦するも、市場に控えめな対応との印象を与えました。中国政府は国内の景気回復に力を入れており、米国との対立の激化は避けたいということもあり、対話を模索していたが、相互関税の公表を受けて中国は同水準となる34%の報復関税を決定しました。これに怒ったトランプ氏は追加関税を決定し、対中関税を145%引き上げました。中国も対米関税84%を発動させ、米中関税合戦はエスカレードしています。
トランプ氏の大きな賭け
トランプ氏は随分前から「関税は米経済を活性化させるうえでの有効手段」という信念を持っており、大統領の座を賭けてそれが正しいと示そうとしています。米国を中心とした新たな通商政策ビジョンを実現しようとしていますが、これはリスクも大きく大きな賭けです。
この大規模な関税はやがてアメリカの消費者に転嫁され、物価を上昇させ、世界的な不況を招く可能性があります。また、トランプ関税は、他国との貿易戦争をエスカレートさせ、関係強化を図ってきた同盟国を遠ざけてしまうリスクもあります。
中国は決して屈しない
トランプ米政権は相互関税の発表後に70カ国が交渉を申し出ていると誇らしげに明らかにしています。多くの国がトランプ米政権に屈服していること、関税策が正しいことの表れであることを世界にアピールしているが、トランプ氏の暴走に反発している国が少ないのが可笑しな話です。中国に同調して反発する国が増えれば、やりたい放題のトランプ氏も相当慌てるはずですが、立ち向かう勇気を持つ国は少ないですね。
トランプ米大統領の暴威に中国は決して屈することはありません。経済回復を目指す中国政府も関税合戦を回避したい気持ちは山々ですが、上から目線の交渉に応じる気はありません。中国は「最後まで戦う」とし、戦闘モードに入っています。
トランプ米大統領は対中関税を強化すれば、中国が軟化すると思ったら大きな間違いです。対中関税を100%ではなく200%、300%に引き上げても中国は引くことはないでしょう。例え、米中貿易戦争が激化し、中国経済が10年後退する悪影響が出るとしても米国の「対等」ではないディールには応じないでしょう。中国の国民性から多くの国民も、米国に屈して経済への悪影響を避けるより、痛みを伴った戦いを応援することに違いありません。
「米国が勝者、中国が敗者」になるとは限らない
2大経済大国の戦いに世界は固唾を呑んで見守っています。経済の規模や世界的な影響力から米国有利との見方は圧倒的ですが、決して「米国が勝者、中国が敗者」になるとは限りません。トランプ米政権の高圧的な政策を受けて、米国を見限り中国へシフトする国も増えています。
また、BRICSもこれまでのブラジル・インド・南アと中国だけでなく、イラン、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア、インドネシアが正式加盟、タイやマレーシアを含め9カ国もパートナーとして認められていることも中国の支えになるでしょう。
トランプ米大統領は常識を超える関税政策で「米国を再び偉大にする」と意気込んでいますが、ひょっとしたら「中国を再び偉大にする」ことになるかも知れません。国際貿易関係における中国の米国に対するリードは、2018-19年の米中貿易戦争以来拡大する一方です。
ローウィ国際政策研究所のデータによると、現在、世界の約70%つまり145カ国が米国よりも中国との貿易額が多く、112カ国が米国との貿易額の2倍以上を中国と貿易しており、2018年の92カ国から増加しています。トランプ関税で中国は米国以外の国との貿易が拡大する一方で、米国は孤立する可能性もあります。
人民元、対ドルでは底堅いか
米中貿易戦争の激化懸念の高まりが人民元の重しとなるも、米国は「トリプル安(株安・債券安・通貨安)」が進むなど、トランプ関税は「米国売り」になっているが支えとなります、オフショア市場でドル/人民元(CNH)は一時7.42元台までCNH安が進んだが、あっさりと7.3元割れまで戻りました。
中国人民銀行(中央銀行)は10日に人民元基準値を1ドル=7.2092元と、6日連続の人民元安と2023年9月以来の人民元安水準に設定しましたが、人民元は対ドルで年初から0.2%程度の下落にとどまっており、当局の「人民元の安定的水準を維持する」方針はまだ変わってないと思われます。市場では関税対策で中国当局人民元安を容認するのではないかとの思惑が浮上していますが、今後ある程度人民元安を容認するとしても「緩やかで制御された人民元安」にとどまるでしょう。
もっとも、中国は人民元の国際化に向けて、長期的に安定した強い人民元を望んでいます。また、中国はアジア近隣諸国との貿易ネットワーク構築の強化を目指しており、人民元安が近隣諸国に及ぼす影響を抑えたいと考えていることや、人民元安による大規模な資本流出のリスクを回避したいこともあり、急速な人民元安は認めないでしょう。
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※本記事は2024年4月12日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。
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