テクニカル分析判断 サマリー: ●日足/ 週足/ 月足 全ての時間軸で注目していた「強力な上値抵抗帯の上限」を “終値で明確に上回った”。 […]
目次
Executive Summary
- ドル円の変動幅は6月5日週に1円69銭となり、その前の週の2円51銭から一段と縮小しただけでなく、年初来で2番目に小さな値動きとなった。翌週の米5月消費者物価指数(CPI)や6月13~14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)、15日の欧州中央銀行(ECB)理事会、米中の5月小売売上高と鉱工業生産、15~16日の日銀金融政策決定会合を控え、小動きに終始。米5月ISM非製造業景況指数など米指標を受け週間では続落したが、日銀金融政策決定会合での大規模緩和維持の報道を受け、下値は138.76円まで限られた。
- 今週のドル円は、重要イベント目白押しで急変動に注意したい。米5月CPIは、クリーブランド連銀のナウキャストによれば、市場予想通り大幅鈍化する見通し。6月FOMCではこれを受け、四半期に一度公表される経済・金利見通しで、物価見通しが下方修正される余地を残す。また、米5月失業率が3.7%と前月比で0.3%上昇したこともあり、失業率見通しも弱い方向へ修正されかねない。
- 仮にFOMCで経済見通しが下方修正されるならば、FOMC参加者のFF金利予想・中央値が3月時点の5.0-5.25%から上方修正されても、あと1回の利上げと判断され、ドル円が上振れしても一時的となりうる。あるいは、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見でタカ派姿勢を維持しつつ、FF金利予想・中央値を前回で据え置く可能性も考えられよう。5月FOMC議事要旨によれば、「一部(several)」の参加者は、経済見通し通りに進展するなら追加利上げが必要ない可能性を指摘。インフレ高止まりを受け、追加利上げが必要と主張した「複数(some)」の参加者より多かった。
- 日銀の金融政策決定会合では、大規模緩和維持との見方が強い。また、万が一、岸田首相が7月の衆院解散・総選挙を発表した場合は、日銀が7月の金融政策決定会合でイールド・カーブ・コントロール(YCC)を修正する可能性が極めて低下するため、ドル円に上値圧力を加えそうだ。しかし、介入警戒もあって上滑りした場面では、利益確定が入ってもおかしくない。
- テクニカル的には、上値余地を残しつつも、ボリンジャー・バンドは縮小しつつあり、トレンド転換の可能性を示唆し始めたようにも見える。上方向にも下方向にも振れやすい地合いとなっており、重要イベントを数多く控えることもあって、急変動が意識されよう。ドル円の上値は、22年10月高値と1月安値の61.8%戻しにあたる142.50円、下値は200日移動平均線がある137.30円と見込む。なお、年初来で最も変動が大きかったのは1月2日週の5.27円で、5円超の変動幅は稀に発生することがある。
1.先週の為替相場の振り返り=ドル円、米指標に反応し下落も総じて小動き
【6/5-6/9のドル円レンジ:138.76~140.45円】
・(先週の総括)ドル円の変動幅は6月5日週に1円69銭となり、その前の週の2円51銭から一段と縮小した。4月17日週以来、年初来では2番目に小さな変動となる。また、週ベースでは続落した。米5月ISM非製造業景況指数や米新規失業保険申請件数など、弱い米指標を受けて下落したものの、重要指標やイベントに乏しく、下値は138.76円と限られた。また、6月16日に結果発表となる日銀金融政策決定会合で、大規模緩和を維持する見通しとの報道も、ドル円の売り圧力を抑えた。
・6月5日、東京時間夕方に一時140.45円へ上昇した。しかし、米5月ISM非製造業景況指数が50.3と5カ月ぶりに景気拡大・縮小の分岐点となる50割れが迫っただけでなく、インフレ圧力を示す仕入れ価格が2020年3月以来、約3年ぶりの低水準となり、ドル円は一時139.25円へ下落した。
チャート:米5月非製造業景況指数
・6月6日は、材料不足のなか139円台で小動きに終始した。
・6月7日は、カナダ中銀が市場予想に反し3会合ぶりの利上げを発表した結果、米10年債利回りが一時3.8%を付けた動きにつれドルが買われ、ドル円は一時140.23円まで上昇した。
・6月8日は、一転してドル円が下落。日本のQ1実質GDP成長率・改定値が上方修正された。また、米新規失業保険申請件数が2021年10月以来の26万件台に乗せ、労働市場が鈍化した可能性を示唆。ドル円は139円を割り込み、138.80円まで下落した。
チャート:日本の実質GDP成長率・改定値では前期比年率2.7%増と、速報値の1.6%増から上方修正
チャート:米新規失業保険申請件数、2021年10月以来の水準へ増加、約1カ月前に同水準へ増加した当時はマサチューセッツ州での不正申請での水増しが発覚したが、今回はどうなるか。
・6月9日、東京時間に日銀が6月18~19日の金融政策決定会合で大規模緩和を維持すると報じられ、ドル円の買いを誘った。しかし、一時139.72円までの上昇にとどまり140円台を回復できず、NY時間には一時138.76円まで下落。ただし、NY引けには139円前半へ戻した。なお、13日夕に岸田首相が記者会見と報じられ、衆院の解散・総選挙を発表するとの思惑が流れたが、事前に少子化問題に関する内容とも伝わり、影響は限定的だった。
チャート:ドル円の日足チャート(白い枠が今週のレンジ、緑線・左軸は米10年債利回りを表す)
(出所:TradingView)
2.主な要人発言
・6月5~6月9日は、6月FOMCを控え、Fed高官は同3日からブラックアウト期間に入ったため、金融政策に関する発言が控えられた。欧州中央銀行(ECB)当局からは、ラガルド総裁やシュナーベルECB理事、独連銀総裁、オランダ中銀総裁、アイルランド中銀総裁、クロアチア中銀総裁などから利上げ継続を示唆する発言を行った。日本からは、少子化対策に関する発言などが飛び出したが、市場への影響は限定的。植田日銀総裁は引き続き緩和維持の方向性を示した。中国の人民銀総裁は、足元の景気鈍化懸念を払しょくする見解を表明。豪中銀総裁は、利上げ再開につきインフレ上昇を挙げた。
3.主な経済指標結果
〇米国の経済指標⇒米5月ISM非製造業景況指数が5カ月ぶりの水準に低下したほか、米新規失業保険申請件数が2021年10月以来の水準へ増加するなど、弱い数字が目立った。
〇欧州の経済指標⇒ユーロ圏Q1実質成長率は前期比にて2期連続でマイナスとなり、独に続きテクニカル・リセッション(2四半期連続でマイナス)に陥った。その他、ユーロ圏と独のサービス部門PMI改定値を始め独4月製造業受注やユーロ圏4月小売売上高なども、市場予想以下にとどまった。対して、英5月サービス業PMI改定値は市場予想を小幅に上回った。
〇日本と中国の経済指標⇒日本のQ1実質GDP成長率・改定値は、企業の設備投資などに支えられ上方修正となった。4月国際黒字は貿易赤字幅が縮小したため、改善した。中国は5月財新サービス業PMIが市場予想を上回ったが、中国5月貿易収支で輸出と輸入が共に減少。中国5月消費者物価指数は市場予想を下回り、同生産者物価指数(PPI)はマイナス幅を広げ景気減速懸念を強めた。
〇オセアニアの経済指標⇒豪Q1経常収支は市場予想以下の黒字にとどまったほか、豪Q1GDPも市場予想以下に終わり、利上げを再開したものの景気鈍化を示唆した。NZはQ1製造業売上高が前期より弱い結果となった。
4.今週の経済指標予定
・赤字が最重要、青字がある程度重要な経済指標 orイベントとなる。
5.為替見通し:ドル円は重要イベント目白押しで、急変動に注意
【6月12日~16日週の為替予想レンジ:137.30~142.50円】
今週は、13日の米5月消費者物価指数(CPI)を皮切りに14日に結果発表を予定する6月FOMC、15日に発表の米中の小売売上高、鉱工業生産、同日結果発表の欧州中央銀行(ECB)理事会、そして16日に結果が発表される日銀金融政策決定会合など、重要イベントが目白押しだ。先週こそ、ドル円の変動幅は1円69銭と小幅だったが、今週はボラティリティが高まる公算が大きい。
まず、米5月CPIだが、6月11日時点での市場予想は前年同月比4.1%上昇(4月:4.9%)、コアCPIは同5.2%上昇(4月:5.5%)。CPI自体の市場予想は前月から0.8%ポイントの大幅鈍化が見込まれるだけに、市場予想に届かないリスクが高そうだが、クリーブランド連銀のナウキャストによれば、CPIは前年同月比4.13%と、市場予想と一致する可能性がある。しかも、クリーブランド連銀のナウキャストとCPI結果を比較すると、インフレのピークアウトを確認した2022年10月以降、CPI結果はナウキャストを下回る傾向が見て取れる。例えば、CPIは2022年10月以降、ナウキャストを平均0.2%ポイント下回り、コアCPIも同様に平均0.1%ポイント下回ってきた。また、2022年10月以降、CPIがナウキャストを上回ったことは一度もなく、コアCPIが3月に同結果となった程度である点にも留意したい。こうした実績が今回も当てはまるならば、CPIコアは前年同月比で5%超えと高止まりをしつつ、CPI自体は大幅鈍化しそうだ。
チャート:CPI結果、2022年10月以降はクリーブランド連銀の予測値(以下、チャートではCPI予測値、コアCPI予測値)を下回る傾向あり
6月FOMCをめぐっては、利上げを「見送り(skip)」する見通しだ。ただ、会合後の会見でパウエルFRB議長は利上げ再開の余地を確保しうる。
何より、注目は四半期に一度発表される経済・金利見通しで、FOMC参加者のFF金利予想・中央値の最新版が発表される。5月FOMC議事要旨では、「一部(several)の参加者は、経済が現在の見通しの通りに進展するならば、この会合後のさらなる政策引き締めは必要ない可能性がある」と指摘。一方で、高止まりするインフレを受け、追加利上げが必要との参加者は「複数(some)」にとどまった。英語表現ではseveral>someなだけに、FF金利予想・中央値が5.0‐5.25%で据え置かれてもおかしくない。逆に、FF金利予想・中央値が5.25-5.5%へ上方修正されたとしても、FF先物市場での7月FOMCでの0.25%利上げ確率は6月9日時点で52.8%と、織り込み済みと言える。こうした状況を踏まえれば、FF金利予想・中央値が引き上げられたとしても、むしろあと1回で利上げ終了と判断されそうだ。
さらに、経済見通しでは米5月CPIの結果次第で、物価見通しが下方修正される可能性がある。失業率も、弱い方向へ修正される余地がありそうだ。米5月失業率は3.7%と、前月比で0.3%ポイントと、コロナ禍を除き2009年4月以来となる急伸を示したが、2000年以降、0.3%ポイント以上も上昇した月は景気後退入りしていた。このように、物価と失業率が弱い方向へ修正されれば、FF金利見通しが上方修正されたとしても、そのインパクトを軽減させうる。
チャート:5月の失業率は前月比0.3%ポイント上昇、これはコロナ禍を除き2009年4月以来の上昇幅
欧州中央銀行(ECB)は0.25%の追加利上げが織り込まれると同時に、7月での打ち止め観測も根強い。独に引っ張られ、ユーロ圏が1~3月期にテクニカル・リセッション(2四半期連続でのマイナス成長)に入ったことも意識されよう。タカ派のオランダ中銀総裁は、物価が高止まりする状況では7月以降も利上げが必要との見方を示すが、仏中銀総裁や伊中銀総裁など、今後の利上げに慎重なスタンスを示すメンバーも存在する。まずは6月でのECBスタッフ見通しを含め、7月で打ち止めとなるか見極めが必要だ。
日銀金融政策決定会合は、植田総裁が念押しするように大規模緩和を維持する公算が大きい。問題は、展望レポートの公表を予定する次回7月27~28日開催の金融政策決定会合で、イールド・カーブ・コントロール(YCC)を調整するか、植田総裁の会見内容が注目される。
岸田首相は13日、記者会見を予定する。少子化対策の拡充に向けた「こども未来戦略方針」についての説明とされるが、万が一、衆院の解散・総選挙を7月に予定すると発表するならば、政策修正の可能性は小さい。元日本銀行審議委員の桜井真氏がブルームバーグに対し5月30日付けのインタビューでそのように発言するほか、解散・総選挙が実施される月に日銀が政策を修正したケースが確認されないためだ。最もニアミスだったのは2014年10月31日で、黒田総裁率いる日銀は量的・質的緩和の拡大を決定したが、衆院が解散した同年11月21日の約3週間前だった。
チャート:日銀の政策変更、衆院解散・総選挙時と重ならず
もし、7月に衆院解散・総選挙となれば、7月のYCC修正見通しが遠ざかり、ドル円を押し上げる場合が想定される。ただ、政府・日銀による介入懸念もあって、上昇局面では神田財務官による口先介入が入り、上値が抑えられてもおかしくない。
テクニカル的に、ドル円は悩ましい展開に入ってきた。三役逆転はもちろん、先週お伝えしたように20日移動平均線が200日移動平均線を上抜けゴールデン・クロスが形成され、上昇トレンドが続くように見える。その一方でボリンジャー・バンドは縮小の兆しが見られ、トレンド転換の可能性を示唆する。さらに、足元で三角持ち合いにあるほか、RSIは57.5と割高水準の70を下回っており、上方向か下方向どちらかに振れやすい状況だ。ただ、前述したように政府・日銀による介入警戒が控えるほか、Fedがタカ派を示唆したとしても、利上げ打ち止めと受け止められれば、ドル円の上昇余地は引き続き限られよう。従って、ドル円の上値の目途は引き続き22年10月高値と1月安値の61.8%戻しに当たる142.50円と見込む。逆に下方向へ進むならば、200日移動平均線がある137.30円が意識される。なお、年初来で最も変動が大きかったのは1月2日週の5.27円で、5円超の変動幅は稀に発生することがある。
チャート:ドル円の22年10月以降の日足、ボリンジャー・バンドの±2σは白い枠、5月安値からの61.8%戻しは緑線、200日移動平均線は青線、下のチャートはRSI。
(出所:TradingView)
6.今週のトピック:米債務上限法案成立で、浮上する2つのリスク
米債務上限問題は、超党派法案「財政責任法案」の成立で幕を閉じ、ひと安心・・・と言いたいところです が、一難去ってまた一難、ここからは別の2つのリスクが浮上してきます。
1つは、前回のウィークリー・レポートでお伝えした米財務省短期証券(Tビル)大量発行による米金利上昇懸念。米財務省は米債務が31.4兆ドルの上限に達した1月以降、新規の債券を発行できず、特別措置を講じ資金繰りを行ってきました。その間、米財務省が保有するキャッシュは減少を続け、5月30日時点で374億ドルと2017年以来の水準に落ち込んだのです。
チャート:米財務省の現金保有高は、5月30日時点で374億ドル(注:チャートの単位は10億ドルで、縦軸のゼロの次は200ですが2,000億ドルを意味するため、5月の数値がゼロに近いように見えます)
だからこそ、米財務省は米デフォルト回避後に大規模な資金調達を行う必要があります。その米財務省は6月7日、米債務上限停止を受けて6月末までに約3,500億ドル(約49兆円)の調達を目指すと発表。また、6月12日週には、12日と13日のわずか2日間で2,969億ドルのTビルを発行する予定です。
問題は、Tビルの大量発行で①のリスク資産下落、②米金利と米ドルの上昇――といったリスクの顕在化がどちらに傾くか。ここを考える上では、米経済の減速が影響しそうです。
米債務上限停止法案の成立で浮上するもうひとつのリスクこそ、この米経済減速に関わるポイントなのですよ。ズバリ、財政責任法の成立と共に弾かれた学生ローン債務免除の延長終了で、法案には債務免除の延長阻止を盛り込んだ条項が存在します。99ページにわたる同法に基づけば、6月末から30日以降に終了するため、8月29日という日付が浮かび上がります。
タイミングとしては、最悪と言わざるを得ません。足元で、貯蓄率は可処分所得比で4.1%と2019年平均から半減したままで、米5月雇用統計で明らかになったように、ゆるやかながら平均賃金は鈍化トレンドにあります。何より、若い世代を中心に自動車ローンやクレジットカードなどの延滞率も上昇中です。アポロ・アカデミーの調査では、クレジットカードの延滞率はリーマン・ショックが直撃した2008年以来の高水準だったとか。
チャート:90日以上の新規延滞率、学生ローンはコロナ禍での債務免除を受けて急低下していましたが・・。
チャート:年齢別、自動車ローンの延滞率
さらに、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のクレジットカード調査では、学生ローン債務免除の終了を控え、若い世代で支出を減らす傾向がみられています。5月のクレジットカード利用額は世代毎で明暗が分かれ、ジェネレーション Z(1997~2012年生まれ)やミレニアル(1981~1996年生まれ)は前年比の2%近いマイナスだった半面、彼らより上の世代は3~6%増加していました。BofAは、理由として①クレジットカード以外の支出で住宅関連が多い(家賃高騰、住宅ローン金利上昇の影響)、②学生ローン債務支払いへの備えーの2つと説明します。
では、学生ローンの気になる1カ月当たりの返済額はというと・・・大卒で621ドル(約8.6万円)!日本と同じく実質賃金がマイナスな状況下、債務者に重く圧し掛かります。
チャート:博士なら、月々のお支払いは12万円超え也
中間選挙前に学生ローン債務免除を決定したバイデン政権に、投票した若者は何を思うのでしょうか。むしろ「共和党のせいだ!」と解釈するのか、答えはバイデン氏の支持率に現れることでしょう。
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