テクニカル分析判断 サマリー: ●週後半の速度調整的な反発圧力の高まり目立つも強力な上値抵抗に再度直面(日足) ●再度短期的反発局面に遭遇も […]
目次
Executive Summary
- ドル円の変動幅は5月15日週に3円12銭となり、その前の週の2円2銭から拡大した。米連邦準備制度理事会(FRB、Fed)の高官が相次いで6月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利上げを示唆したため、ドル円を押し上げたほか、海外勢による日本株買い・ヘッジの円売りも、上昇に寄与したとみられる。
- 海外勢による日本株買い・円売りと言えば、思い出されるのがアベノミクス前期(2012年11月~2015年12月)だ。当時は、海外勢による積極的な日本株買い・円売りのトレード(通称:ダブルデッカー)が広く普及し、日経平均は2.4倍、ドル円は56.8%上昇した。今回も海外勢の大規模な日本株買い・円売りを通じ、ドル円が一段高を迎えるとの見方が広がっている。
- しかし、米国の金融政策はタカ派による追加利上げ示唆に反し、パウエルFRB議長は信用状況の引き締まりや2022年3月以降の5%もの利上げが米経済に与える遅延効果を鑑み、追加利上げに慎重だ。また、植田総裁率いる日銀は拙速な緩和修正に消極的だが、解散選挙が意識される岸田政権を含め、ドル円の上昇を容認するか不透明である。
- 何より、米債務上限引き上げ交渉が未だ膠着し、銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)を通じた貸出が高止まりし、預金流出が続くように、引き続き米金融不安もくすぶる。
- 今後1週間は、米債務問題や26日の米4月PCE価格指数などをにらみ、引き続き上下に振れやすくなりそうだ。米債務問題で妥結が図られたとしても、造反議員が出ないとも限らず、可決するまで不透明感がつきまとう。ドル円の上値の目途は2022年10月高値と2023年1月の安値の半値戻しに当たる139.60円、下値は20日移動平均線がある135.70円と見込む。
1. 先週の為替相場の振り返り=ドル円、138.75円まで年初来高値を更新
【5/15-19のドル円レンジ:135.63~138.75円】
・(先週の総括)ドル円の変動幅は5月15日週に3円12銭となり、その前の週の2円2銭から拡大した。米連邦準備制度理事会(FRB、Fed)の高官が相次いで6月13~14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ示唆を与え、ドル円を押し上げたほか、日本株が7連騰しバブル後の最高値更新に伴う外国人の日本株買いに対するヘッジの円売りが火を噴いたとみられる。ドル円は一時138.75円と年初来高値を更新、2022年11月以来の高値をつけた。ただ、米債務上限問題の共和党交渉担当が交渉を一時的に停止すると述べ、金融市場でリスク選好度が低下し、ドル円は上げ幅を縮小。イエレン財務長官が18日に開催した銀行トップとの会合で「さらなる合併が必要になるかもしれない」と発言したと報道されたことも、ドル円を押し下げ137円後半で週を終えた。
・5月15日は、バイデン大統領率いる民主党指導部と共和党指導部の米債務上限をめぐる協議を16日に控え、ミネポリス連銀総裁やアトランタ連銀総裁が追加利上げ支持を示唆する発言を受けてドル円は上昇、約1週間ぶりに136円台を回復した。
・5月16日は、米債務上限をめぐる協議後にマッカーシー下院議長が「週末までの合意が可能」と発言したほか、バイデン大統領も前向きな見解を示し、ドル円の上昇を支えた。また、クリーブランド連銀総裁が「金利変更を保留する段階にない」と発言、ダラス連銀総裁も「小幅利上げなら金融安定を損なわない」と発言するなど、追加利上げ支持を示唆する発言を行い、ドル円を押し上げた。さらに、米4月小売売上高や米4月鉱工業生産が米景気の底型を示し、ドル円の買いにつながった。
チャート:米4月小売売上高は前月比0.4%増と市場予想の0.8%増を下回ったが、ガソリンが押し下げ、ガソリンと自動車・部品を除けば0.6%増と市場予想の0.2%増超え
チャート:米4月鉱工業生産は前月比0.5%上昇と市場予想の横ばいを超え、製造業が前月比1.0%と寄与
・5月17日、ドル円は137円台を回復。日経平均が5日続伸し3万円台を回復、1年8カ月ぶりの高値をつけるなか、日本株高による外国人による円売り需要が意識され始めた。さらに、アトランタ連銀総裁が失業率の上昇局面でも「インフレ抑制を保つ決意が必要」と述べことも重なり、ドル円は137.71円まで上値を広げた。
・5月18日には、ドル円は一時138.75円と2021年11月以来の水準へ上昇。バイデン大統領が17日夜、米連邦債務上限問題を巡り共和党と民主党のトップ議員との間で合意が成立すると確信していると述べた上で、米国は債務不履行(デフォルト)に陥ることはないと言及し、リスク選好度を強めた。マッカーシー下院議長も18日、連邦債務上限を巡る交渉が今週末にも原則合意に達する可能性があるとした上で、下院が来週に合意を審議・採決することを見込んでいると述べ、ドル円を押し上げ。さらに、ダラス連銀総裁が6月利上げ停止「まだその状況に達していない」と述べたほか、セントルイス連銀総裁がインフレへの「保険」として追加利上げの必要性を唱えたこともあって、ドル円は大幅高となった。米新規失業保険申請件数が前週比減少したことも、ドル円を支えた。
チャート:米新規失業保険申請件数、前週の急増はマサチューセッツ州の不正申請によるもので、24万件台に戻す
・5月19日は、一転してドル円が上げ幅を縮小。米債務上限問題をめぐる協議について、共和党交渉担当のギャレット・グレイブス下院議員(ルイジアナ州)が週末に「生産的ではなく、交渉を一時的に中断する」と発言し、週末での原則合意期待に冷や水を浴びせた。さらに、イエレン財務長官が銀行トップとの会談でさらなる米銀合併の可能性に言及したと報じられ、一時は137.42円まで下落しつつ137円後半で週を終えた。
チャート:ドル円の日足チャート(白い枠が今週のレンジ、右軸は米10年債利回りで緑線)
2.主な要人発言
・5月15~19日は、米国から引き続き米債務上限問題に絡む発言が多く飛び出したが、期待された進展はみられなかった。Feⅾ高官からは、ダラス連銀総裁やクリーブランド連銀総裁、セントルイス連銀総裁などタカ派だけでなく、中立寄りとされるアトランタ連銀総裁からも追加利上げ示唆を与える発言が相次いだ。ただし、バイデン大統領に近いとされ、オバマ政権で米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたシカゴ連銀総裁を始め、バイデン氏にFRB副議長に指名されたジェファーソンFRB理事、そしてパウエルFRB議長は、ハト派と足並みをそろえる発言を行わず、信用動向を注視する姿勢を表明した。
欧州中央銀行(ECB)当局者からは、引き続きタカ派とハト派で意見が分かれた。日本からは、植田総裁が拙速な政策転換に慎重な姿勢を改めて打ち出した。
3.主な経済指標結果
〇米国の経済指標⇒米4月小売売上高や米4月鉱工業生産、米4月住宅着工件数、米新規失業保険申請件数など、堅調な指標が優勢だった。ただし、米4月中古住宅販売件数はやや軟調、米4月景気先行指数は13カ月連続でマイナスと、景気減速の兆しを示し続けた。
〇欧州の経済指標⇒ユーロ圏3月鉱工業生産の前月比が予想以上に悪化したほか、ユーロ圏と独の5月ZEW景況感指数は弱含んだ。一方で、ユーロ圏のQ1実質GDP成長率の改定値と4月消費者物価指数(HICP)は、市場予想通りだった。英国は4月失業率が上昇した。
〇日本と中国の経済指標⇒日本のQ1実質GDP成長率は予想以上となったほか、4月鉱工業生産も底堅さを見せた。また、4月貿易統計は赤字幅が縮小。4月全国消費者物価指数は市場予想を上回った。中国は4月小売売上高と鉱工業生産が市場予想に届かず、経済正常化による景気回復期待が低下した。ただ、ウォール街のエコノミストは、それでも中国の2023年成長見通しを引き上げた。
〇オセアニアの経済指標⇒豪とNZの指標は、そろって弱含みが優勢だった。
4.今週の経済指標予定
・赤字が最重要、青字がある程度重要な経済指標 orイベントとなる。
5.為替見通し:ドル円、140円が視野に入るも不透明感も根強い
【5月22日~5月26日週の為替予想レンジ:135.70~139.60円】
ドル円は5月18日に一時138.75円を付けた後、140円超えを予想する見方が広がりつつある。海外投資家による日本株買いの動向と個人投資家のポジション動向を踏まえれば、一段高となる可能性を示す。東京証券取引所によると、海外投資家は5月第2週までに7週連続で日本株を買い越し、累計額は2.9兆円近くに及んだ。海外勢による買いの勢いは止まらないようで、5月19日までに日経平均は7連騰、2021年9月に付けたバブル崩壊後の戻り高値を上回り、1990年8月以来、約33年ぶりの高値で引けた。アベノミクス相場を彷彿させるような買いが買いを呼ぶ展開となっており、同時に海外投資家による日本株買いに絡むヘッジの円売りが取り沙汰され始めた。
チャート:年初から5月第2週までの海外勢の日本株売買動向
2012年11月以降に幕開けしたアベノミクス相場と言えば、海外投資家による大規模な日本株買いが思い出される。海外勢はヘッジファンドを中心に“日本株ロングとヘッジの円売り”、通称ダブルデッカーと呼ばれるの組み合わせで投資を行い、これがドル円を押し上げた。当時、ロイターは「全盛期は2013年ごろだったが、その後も円安・株高のパターンは続き、2015年6月までに、日経平均を8,660円から2万950円(2.4倍)に、ドル円を80円から125円(56%上昇)まで押し上げた」と伝えていたものだ。
今後のドル円の上昇余地を考える上で、米商品先物取引委員会(CFTC)が公表する円のネット・ポジション(買い持ちマイナス売り持ち)をみてみよう。5月16日週時点で6万4,791枚の売り持ちで、売り持ちが10万枚を突破した2022年10月や春頃と比較すると、まだ下げ余地がありそうだ。
チャート:投機筋の円のネット・ポジション
問題は日本株高が継続するか否かだが、①日銀の金融緩和継続、②円安効果による企業業績の押し上げ、③米国株などの低迷――などで、足元は堅調な展開が維持されよう。また、5月19日までにS&P500が9.2%高に対し、日経平均は18.1%高と明らかにアウトパフォームしており、ナスダックの20.9%高に遜色ないことも、米国人を始め海外投資家が日本株買いを続ける呼び水となりうる。折しも、東証は「PBR1倍割れ」の企業に改善を求め、上場企業は自社株買いラッシュを迎えつつある。暫く、日経平均は3万円台を足固めする展開を迎えそうだ。
また、個人投資家のポジション動向をみても、円ロング(買い持ち)に傾いており、ドル円が一段高となれば彼らの投げ売りが入り、さらなる上昇につながりうる。
チャート:個人投資家の各通貨別ポジション
一方で、米国で金融不安が再燃するなど、リスク選好度が低下した折には、大幅安に転じるシナリオも想定しておくべきだろう。直近では、ドル円が2022年10月に付けた高値151.94円から、22年1月までのわずか3カ月間で127.22円と16%も急落した。株式市場で言うなら、ナスダックが2019年から3年連続で2桁の上昇率を遂げた後、2022年に33%安で年を終えた。「山高ければ、谷深とし」という投資格言もある。
ドル円をめぐり好材料が並ぶように見える半面、不透明感も根強い。パウエルFRB議長は、5月19日に「政策姿勢は景気に抑制的」と発言、時間差を伴う金融政策の効果や、信用引き締まりをめぐる不透明性を指摘した上で「慎重に分析する余裕がある」と述べ、6月の利上げ一時停止へのシグナルを送った。米債務上限問題は22日に協議が再開する予定だが、採決にあたって造反議員が出ないとも限らず、不安定な状況が続く。
チャート:足元のドル円の買い材料の整理
何より、イエレン財務長官が5月19日に「さらなる銀行の合併はありうる」との発言が報じられたように、米国の金融不安もくすぶる。実際、FRBの資金供給動向をみると、銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)は871億ドルと3月15日までの週以降で最大だ。預金流出も続き、5月10日までの週に570億ドル減少、過去9週間で6回目の流出となる。
チャート:FRBの資金供給動向、BTFPが拡大傾向に
チャート:預金流出は3月15日までの週以降、9回のうち6回減少
日銀の金融緩和政策といえば、当時はマイナス金利の採用や国債やETFの買い入れ枠拡大、イールド・カーブ・コントロール(YCC)導入にわたって投下されたが、植田総裁の下で緩和策が拡充される可能性は極めて低い。YCCを始め、緩和策の巻き戻しが意識される。4月の金融政策決定会合では、“過去25年間の金融緩和策の“レビュー(検討)”を「今後1年~1年半かけて実施」する方針を示しており、短期的な緩和修正期待は後退した。しかし、ドル円が一段高となる局面では、足元の物価高に加え、電力料金の値上げなども重なり、家計の負担が重く圧し掛かること必至で、不満の矛先が政府・日銀へ向かいうる。解散総選挙が取り沙汰されるなか、岸田政権がこれを容認するかは不透明で、日銀に対応を迫らないとも言い切れない。
また、広島G7サミットで、経済安全保障に関わる枠組みが立ち上がったことは注目に値する。共同声明において、中国やロシアを念頭に「経済的威圧」に対応するため新たな枠組を創設し、抑止していくことで合意。そこに繋がる部分で、個別声明にて「経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」を追加した。
個別声明では中国こそ名指しなかったものの、「経済的脆弱性及び経済的依存関係を悪用し、G7メンバーや世界中のパートナーの外交政策及び国内政策並びにその立場を損なうことを企図する経済的威圧の事案の憂慮すべき増加に直面している」と指摘。また「重要・新興技術に関するG7パートナー間の研究開発を深めるに当たり、我々が開発する最先端技術が、国際の平和及び安全を脅かす軍事力の増強のために利用されることを防止するために連携する共通の責任及び決意を確認する」と明確化しているだけに、中国を念頭にサプライチェーンを含めG7で関係を強化する姿勢が打ち出された格好だ。
日本による英国への3兆円投資は、こうした経済安全保障への取り組みに向けた一歩と捉えられよう。また、日経新聞によれば、2021年以降で半導体関連企業が表明した日本への投資額は計2兆円超えであり、今後もこうした流れが続いてもおかしくない。直近でも理研とインテルが量子コンピューターやスパコン共同研究を発表、マイクロン・テクノロジーが広島の工場など最大5000億円投資する方針を表明した。また、エマニュエル駐日大使が5月19日にマイクロンによる日本投資について中国による「威圧」に対処する上で先例になると言及したが、広島サミットで種が撒かれたG7間での経済安全保障の枠組みが、日本で花開く期待が高まる。海外企業による日本への工場建設が進めば、円買いフローを連想させうる。
本邦の経常収支を振り返っても、足元で燃料価格の低迷を受け輸入額が減少を通じ貿易赤字が縮小しつつある。同時に、サービス収支では旅行収支の黒字化が目立つ。コロナ禍での経常黒字縮小トレンドが修正される兆しが見て取れ、ドル円の上昇ペースを抑えるか注目したい。
チャート:サービス収支、その他業務サービス(コンサル等)が押し下げも、旅行収支の改善が赤字幅縮小に寄与も
テクニカル的には、一目均衡表で三役好転、ダウ理論の上昇トレンドなどの形成を受け、上昇のサインが点灯したままだ。一方で、ボリンジャー・バンドの2σを上回っており、2022年10月以降、ここを抜けた後に調整が入る傾向が見て取れる。また、RSIも5月19日に70に到達し、一段高に歯止めが掛かるシグナルも点灯中。このような環境下、米債務上限問題や26日の米4月PCE価格指数を受けて神経質に推移しつつ、ドル円は2022年10月高値と2023年1月安値の半値戻しに当たる139.60円が今週の上値の目途として意識されよう。下値は、20日移動平均線がある137.70円と見込む。
チャート:ドル円の3月以降の日足、ボリンジャー・バンドの±2σは白い枠、20日移動平均線は黄色線、半値戻しは緑線、下のチャートはRSI
6.今週のトピック:米Q1家計債務は初の17兆ドル乗せ、返済遅延の兆しも出現
ニューヨーク地区連銀が5月15日に発表した調査によると、1~3月(Q1)期の全米家計債務残高は17兆470億ドルでした。前期比2,070億ドル増加(0.9%増)。2020年Q3以来、11期連続で過去最大を更新しています。ただし米国の名目GDP比では64.4%と、前期の64.7%から低下しました。なお、2020年Q2は72.6%へ上昇、金融危機直後の2009年Q1は86.8%でした。
チャート:家計債務は、学生ローンや自動車ローン、住宅ローンが牽引し過去最大を更新
チャート:名目GDP比では、低水準を維持
〇住宅部門と非住宅部門の内訳は、以下の通り。
・住宅ローン→12兆440億ドル(前期比1,210億ドル増、17期連続で増加で過去最大、前年比8,640億ドル増)
・ホームエクイティ→3,390億ドル(前期比30億ドル増と増加に反転、前年比220億ドル増)
・非住宅関連債務→4兆6,640億ドル(前期比240億ドル増と8期連続で増加し過去最大、前年比3,190億ドル増)
住宅ローン債務残高は12兆440億ドルと、17期連続で過去最大を更新しました。しかし、借換を含む新規住宅ローン組成額は3,235億ドルと、2020年Q3~2021年Q4までの1兆ドルのペースを大きく下回り、2014年Q2以来で最小です。
チャート:住宅ローンの新規組成額は2014年Q2以来の低水準
住宅ローンの新規組成額のうち優良プライム(スーパープライム)層である720点以上は78.4%と2019年Q3以来の低水準だった前期の78.1%から上昇しました。信用スコア620点以下のディープ・サブプライム層(低信用で返済能力が乏しいサブプライム層)は逆に3.6%と2019年Q4以来の水準へ上昇、過去最低をつけた2021年Q1の1.6%の2倍以上です。
住宅ローンの信用スコア中央値は765点と2019年Q3以来の低水準で、過去最高をつけた202年Q1の788点から遠ざかりました。720点以上の比率が低下した背景として、インフレ加速による支払い額減少や遅延に伴う信用力の低下に加え、高信用の消費者が景気後退懸念と高価格を受け、住宅を買い控えした可能性が考えられます。
チャート:住宅ローン組成額の信用スコア別シェア、720点以上が低下
非住宅関連債務、主な内訳は以下の通り。
〇自動車ローン
・自動車ローン→1兆5,620億ドル(前期比100億ドル増、前年比930億ドル増)
→ローン残高は11期連続で増加し過去最大を更新。自動車ローン組成額は1,617億ドルと、2021年Q1以来の低水準
チャート:組成額は2021年Q1以来の水準に減少
新規の自動車ローン組成のうち信用スコア720点以上の高信用層は53.8%と、前期の49.7%を上回り過去最高でした。逆に信用スコア620点以下の割合は14.5%と過去最低です。
信用スコア中央値は今回、720.5点と、過去最高でした。金融不安や融資基準の厳格化を受け、高信用力をもつ消費者への融資に傾いた可能性を示唆します。
チャート:自動車ローン組成額のシェア、720点以上は過去最高
チャート:米銀の融資担当者調査では、消費者向けローンの融資基準は厳格化が進む
〇クレジットカード
クレジットカード→9,860億ドル(前期比横ばい、前年比1,450億ドル増)
→ローン残高は、年末商戦明けの季節的要因もあって横ばいとなり増加トレンドは3期でストップ
〇学生ローン
学生ローン→1兆6,040億ドル(前期比90億ドル増、前年比140億ドル増)
→ローン残高は、2期連続で過去最高
―住宅ローンと自動車ローンの延滞率が上昇、約1年間で5%の利上げが影響
〇延滞率
全体の延滞率は2.6%と、過去最低だった前期の2.5%を小幅に上回る2.6%でした。しかし、それぞれのローン別でみると、Fedによる約1年間で5%の利上げを受け、返済遅延が広がりつつあります。新規の延滞率はクレジットカードと学生ローンを除き上昇しました。クレジットカードは、年末商戦明けのQ1にローン残高が減少し延滞率が低下する傾向が強い季節性に従い、低下しました。
・住宅ローン→6.88%、2019年Q4以来高水準
・ホームエクイティローン→6.51%、2020年Q1以来の高水準
・自動車ローン→2.43%、2020年Q3以来の高水準
・クレジットカードローン→1.94%、1年ぶりの低水準
・学生ローン→1.06%と、1年ぶりの低水準(政府機関が保有する学生ローンに支払い猶予が与えられた結果(民間保有の学生ローンは対象外)、延滞率が2020年3月以降、劇的に改善傾向)
チャート:新規の延滞率、クレジットカードと学生ローン以外は軒並み上昇
Fedは2022年3月以降、FF金利誘導目標を5%引き上げてきました。足元では、Fedの狙い通りゆるやかながらインフレ上昇ペースがゆるみ、需要も落ち着き始めています。さらに足元はシリコンバレー銀行など3行が破綻し、融資基準は厳格化しました。その結果、住宅ローンや自動車ローンの組成額はそれぞれ2014年Q2以来、2021年Q1以来の水準に減少(住宅は在庫不足による価格高止まりも一因)する状況です。
一方で、インフレ高止まりを背景に新規の延滞率も上昇しています。米4月小売売上高は堅調でしたが、貯蓄率は直近で改善しつつも長期的にみると低水準で裁量的支出の余地は狭まっており、労働市場次第で個人消費の減速ペースが速まるリスクをはらみます。
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