Weekly Report(4/14)「ドル円、トランプ関税が火種の乱高下は継続へ」
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トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は4日週に6.23円と、その前の週の5.94円を超え、2024年7月29日週(8.80円)以来で最大を記録した。週足では、大幅続落。前週比では3.54円の下落となった。年初来リターンは8.8%安と、前週の6.5%安を上回り、年初来で最も大きくなった。トランプ大統領の相互関税が発動した4月9日に90日間の一時停止が決定した一方で、米中が全面的な貿易戦争に突入する中、大荒れの展開となった。
  • トランプ大統領は4月9日、相互関税を90日間にわたり一時停止すると発表した。続いて、4月11日の遅くには、米税関・国境警備局(CBP)を通じ、半導体やスマートフォンなど一部電子機器がトランプ政権の相互関税から除外するとの通達を公表。トランプ政権が関税政策で譲歩したとの観測が強まったが、その楽観はあっさり崩れ去ることになる。ラトニック商務長官が4月13日、米大手放送局ABCの『ジス・ウィーク』に出演し、半導体など電子機器の関税免除について「一時的な猶予に過ぎない」と説明。数カ月以内に、半導体の他、医薬品への個別の関税措置を講じると明言したためだ。そもそも、トランプ政権が相互関税の一時停止を決定したのは、中国包囲網を構築する上での戦略と捉えられる。既にトランプ政権は、中国の迂回輸出先として知られるベトナムと二国間協議を開始。日本とは、中国など敵対国で行う民間企業の投資審査を巡る連携を盛り込む方針で、新自由主義からの体制転換とともに、中国を封じ込める狙いがありそうだ。
  • 日本との二国間協議では、その他に為替が議題に上がる公算が大きい。トランプ氏に交渉担当に任命されたベッセント財務長官は、Xにて「日本は引き続き緊密な同盟国であり、関税、非関税障壁、通貨問題、政府補助金における生産的な取り組みを楽しみにしている」との見解を表明。小野寺政調会長も4月13日、「国力、強い経済、強い財政、そして円の信用を高める。これで初めて王道として、もう少し円高のほうに振れる」と明言した。両者の交渉が進展するにつれ、為替に関し日銀の金融政策正常化が含まれるのかが明らかになりそうだ。 
  • 4月14日週は、14日に中国3月貿易収支、日本2月鉱工業生産、15日に英3月失業率、米4月NY連銀製造業景気指数と米3月輸入物価指数、16日は日本2月機械受注、中国Q1GDPと中国3月小売売上高並びに鉱工業生産、英3月CPI、ユーロ圏3月HICP改定値、米3月小売売上高と鉱工業生産を予定する。17日は日本3月貿易統計、豪3月失業率、米新規失業保険申請件数や米4月フィラデルフィア連銀製造業景気指数、米3月住宅着工件数、18日は日本3月全国CPIが控える。
  • その他、4月14日にフィラデルフィア連銀総裁とアトランタ連銀総裁の発言、16日にパウエルFRB議長を始め、クリーブランド連銀総裁の発言、17日に欧州中央銀行の政策金利発表(市場予想は0.25%の利下げ)、18日にサンフランシスコ連銀総裁の発言を予定する。
  • ドル円のテクニカルは、売り地合いを継続。一目均衡表では引き続き三役逆転を形成し、21日線を始め移動平均線は全て下向きで、4月7日週のドル円の戻りも2024年12月の安値148.64円に届かなかった。加えて、期間21日のボリンジャー・バンドの-2σも下抜け、売り圧力の強まりを示す。
  • CFTCが発表した投機筋による円のネット・ポジション動向は、4月8日週時点で14万7,067枚と、前週の12万1,174枚を超え10週連続でロングなだけでなく、過去最大を更新。トランプ政権の相互関税発表と、今後想定される個別の関税を含めた混乱を踏まえれば、円ロング記録更新は続きうる。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は3月11日安値と一目均衡表の基準線が近い146.70円、下値は2024年9月17日の安値付近の140.30円と見込む。

ドル円の変動幅は4日週に6.23円と、その前の週の5.94円を超え、2024年7月29日週(8.80円)以来で最大を記録した。週足では、大幅続落。前週比では3.54円の下落となった。年初来リターンは8.8%安と、前週の6.5%安を上回り、年初来で最も大きくなった。トランプ大統領の相互関税が発動した4月9日に90日間の一時停止が決定した一方で、米中が全面的な貿易戦争に突入する中、大荒れの展開となった。

7日、ドル円は売り先行を経て買い戻し。ドル円は大きく窓を開けて下落し週明けを迎え、一時144.82円まで本日安値をつけた。トランプ政権の相互関税発表を受けた世界景気後退と、中国による報復措置発表を受けた貿易戦争激化への懸念から、リスク選好度が高まった格好だ。もっとも、NY時間には買い戻された。石破首相とトランプ大統領の電話会談を予定するなか、一時148.15円まで本日高値を更新した。トランプ大統領が、中国は4月4日に米国の相互関税へ報復措置として、相互関税の税率と合わせ34%の追加関税を課す方針と発表したことを受け、相互関税の税率を34%から50%上乗せし84%へ引き上げる可能性に言及も、影響は限定的だった。

8日、ドル円は堅調な推移を経て売りへ反転。東京時間の早朝にあたる米国東部時間の7日夜にトランプ米大統領は7日、ベッセント財務長官とグリア通商代表部(USTR)代表を日本との通商交渉の責任者に任命した。ベッセント財務長官が為替も議題になると発言したものの、影響は限定的。もっとも、NY時間にホワイトハウス報道官が中国へ関税措置をめぐり、中国が相互関税へ対抗措置を撤回しなければさらに50%上乗せすると方針を打ち出したため売りへ急旋回し、一時145.97円まで本日安値を更新した。

9日、ドル円は下落を経て買い戻し。トランプ政権の相互関税が東京時間の午後1時過ぎに発動し、報復措置を発表した中国に対しては関税率が引き上げられており、累計で104%(フェンタニル関連での20%+相互関税の34%+報復に対する上乗せ50%=104%)となった。ドル円は世界経済後退や貿易戦争激化への懸念から、145円台を割り込んで下落。米10年債利回りが東京昼頃にNY時間引けの4.3%付近→4.51%へ急伸、米30年債利回りも節目の5%台に乗せるなど米国売りの流れがドル円の下落につながった。ロンドン市場でも売りの流れは止まらず、中国が米国製品に対して84%の追加関税を発表したことも、売り材料に。NY時間では一転してドル買い戻し。トランプ大統領が、米国に対して報復措置を講じていない国・地域に対して、90日間の関税一時停止を承認しため、株急騰とともにドルも買い戻しが強まりドル円は一時148.28円と週の高値をつけた。

10日、ドル円は乱高下が継続。東京時間は前日の急上昇の反動から利益確定の売りに押され、146円台へ下落した。NY時間も売りが続き、前日安値の144円ちょうどに迫る144.01円まで下落し前日の上げ幅を打ち消した。米3月消費者物価指数(CPI)が市場予想以下だったことも、米経済減速への不安につながった。

11日、ドル円は下落を経て買い戻し。東京時間は143円台を中心に軟調に推移し、ロンドン時間に中国が米国製品への報復関税を84%から125%に引き上げると発表すると、米中が全面的な貿易戦争に突入する懸念から、ドル円は一時142.05円と2024年10月以来の安値をつけた。もっとも、以降は買い戻される展開。米4月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値の一段の弱含みや1年先インフレ期待の急伸も反応薄で、一時は144円台を回復しつつ143円半ば付近で週を終えた。

チャート:ドル円の2024年12月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)

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