―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は1月13日週に3.22円と、その前の週の2.64円から拡大した。週足では、反落。氷見野副総裁が1月23-24日の日銀金融政策決定会合での焦点は「利上げをするかどうか」と発言、翌日の植田総裁も同様の発言を行い、にわかに1月追加利上げ期待が高まった。ブルームバーグの日銀観測報道も、1月追加利上げ観測を強め、ドル円の下落要因に。また、ウォラーFRB理事が3月の利下げや年内3-4回の利下げに言及したことも、ドル円を押し下げ、1月17日の東京時間には一時154.98円と2024年12月19日以来の安値をつけた。
- 氷見野副総裁の講演を皮切りに、植田総裁の発言もあって、1月17日に1月日銀追加利上げ確率は一時99%に達した。ブルームバーグを始め各メディアも相次ぎ、トランプ氏の大統領就任で波乱がなければ、1月利上げを決定すると伝え、日経新聞に至っては「政策委員の過半」が利上げを支持すると報道。1月の追加利上げが織り込まれるなか、逆に植田総裁が今後の追加利上げに慎重姿勢を示す「ハト派的利上げ」となれば、円買いより円安加速につながりうる。
- トランプ氏は、大統領就任式に合わせ100本もの大統領令に署名する見通しだ。不法移民の大量強制送還やエネルギー生産拡大に加え、関税が含まれる可能性がある。関税については、ベッセント次期財務長官が指名公聴会で、インフレ再燃につながらない見通しを表明。仮に関税を10%引き上げても、ドルが4%上昇し、消費者に10%転嫁されるわけではないという。また、関税は交渉のカードとも付言。足元、一律関税を支持するのはトランプ陣営で10-20%の一律関税を推進するのは、MAGA派のスティーブン・ミラー大統領次席補佐官の名前が挙がる程度で、ベッセント次期財務長官を始めケビン・ハセット国家経済会議(NEC)委員長など、経済チームは慎重とされる。従って、関税が強化されてもゆるやかな引き上げなら、インフレはそれほど加速せず、その分、ドル高が想定より進みづらくなってもおかしくない。
- 今週は1月20日に日本11月機械受注や鉱工業生産・確報値。21日にユーロ圏や独の1月ZEW景況感指数、22日にNZ10-12月消費者物価指数、米12月景気先行指数、23日に日本12月貿易統計、米新規失業保険申請件数、24日には日本12月全国消費者物価指数、日銀金融政策決定会合での政策金利発表や展望レポート、植田総裁の会見、ユーロ圏1月製造業・サービス業PMI速報値、米1月総合(製造業・サービス含む)PMI速報値、米1月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値、米12月中古住宅販売件数を予定する。
- ドル円のテクニカルは、強い地合いから後退。前週指摘したようにMACDはデッドクロスが成立するほか、これまでサポートとして機能してきた一目均衡表の転換線だけでなく、21日移動平均線も割り込んだ。ただ、一目均衡表の基準線と50日移動平均線が新たなサポートとなり、ここを維持できるかが試金石となりそうだ。
- CFTCが発表した投機筋による円のネット・ポジション動向は、1月14日週時点で2万9,411枚のショートと、前週の2万189枚からショートが拡大した。これで3週連続のショートとなる。
- 以上を踏まえ、今週の上値は前週高値付近の158.20円、下値は前回日銀金融政策決定会合が開催された2024年12月19日の安値付近の154.40円と見込む。
1.為替相場の振り返り=ドル円、日銀観測報道とウォラーFRB理事発言で一時155円割れ
【1月13~17日のドル円レンジ: 154.98~158.20円】
ドル円の変動幅は1月13日週に3.22円と、その前の週の2.64円から拡大した。週足では、反落。
1月13日は、日本が成人の日で休場を迎えるなか、アジア株安でドル円は一時156.91円まで本日安値を更新。ただ、前週末の米12月雇用統計が堅調な労働市場を示し、NY時間では持ち直した。NY連銀が発表した12月消費者調査でインフレ期待が1年先は前月横ばい、3年先は上昇、5年先は低下するなどまちまちで、 影響は限定的だった。
14日には、東京時間に氷見野副総裁の講演を受け乱高下した。氷見野氏は、日銀支店長会議の報告やアンケート調査結果など、賃金動向について「前向きな結果が多い」と発言。1月23-24日開催の金融政策決定会合での焦点は「利上げをするかどうか」と述べるなか、157.17-158.02円台に振れる場面もみられたが、質疑応答を経て一時158.20円まで本日高値を更新。NY時間に発表された米12月生産者物価指数(PPI)が市場予想より弱く157.30円台へ下落する場面もあったが、その後は概ね158円を上下する展開となった。
15日には、植田日銀総裁が全国地方銀行協会の会合で挨拶し、賃上げに前向きな企業が多くなっているとして「来週の金融政策決定会合で利上げを行うかどうか議論し、判断したい」と発言。日銀発表の予定になかった他、前日の氷見野副総裁のタカ派発言もあって売りで反応した。NY時間に米12月消費者物価指数(CPI)が発表され、コアCPIが市場予想以下となると、ドル円の売りが加速。ドル円は一時155.94円まで下げ幅を広げた。
16日は、東京時間午前にブルームバーグが日銀観測報道として、トランプ次期米大統領の就任演説などにより金融市場で大きな混乱がなければ次回会合で追加利上げを決定する公算が大きいと報じ、ドル円は一時155.20円台へ下落。植田日銀総裁が第二地方銀行協会の会合で挨拶し、前日に続き賃上げに向け前向きな話が多いとした上で「利上げを行うか議論し、判断したいと思う」と述べたが、反応は限定的だった。しかし、NY時間にウォラー米連邦準備理事会(FRB)理事がインフレ減速次第で、3月利下げや今年最大3−4回の利下げを否定しなかったため、米10年債利回りが4.58%台まで低下するにつれ、ドル円は一時155.10円まで下落した。
17日、東京時間の早々に2024年12月19日以来の155円を割り込み、一時154.98円まで下落。もっとも、中国Q4国内総生産(GDP)の結果が市場予想を上回り、リスク先行度が改善しクロス円が上昇、ドル円もつれて買い戻された。ロイターや共同通信、日経新聞相次いで来週の日銀金融政策決定会合で追加利上げの公算と報じたが、影響は限定的。むしろ、国際通貨基金(IMF)が今年の米成長率を上方修正したことが好感されて、米株が大幅高を迎える流れを受けリスク選好度が強まり、ドル円は156円前半へ戻しNY時間を終えた。
チャート:ドル円の2024年12月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)
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