トレーダム為替ソリューション 【AI為替リスク管理システム】

  • Weekly Report(8/13):想定通り当面の底打ちを確認。下落トレンドの中「戻りのメドを模索」する展開続く
    吉岡 豪麿
    この記事の著者
    トレーダム 取締役CAO

    国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

    マーケット分析

    <テクニカル分析判断>   

    ●短期:当面の底打ち・自律反発局面入りは確認も、上昇トレンドへの回帰までは見通せず

    ●中期:当面の底打ち・自律反発は確認も、中期的下落トレンドの売り圧力の払拭はならず

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    8/5週は「寄付146.52:141.69~147.90:終値146.67(前週比+0.12円とほぼ横バイ)」の展開となり、5週ぶりに僅かながらも陽線に復帰。なお、前週8.79円と大幅に拡大した週間レンジは先週も6.21円と高水準を維持し、変動率の高い波乱の展開が継続しています。以下は、振り返りのポイントです。

    ◎異例とも言える「下落の過熱」により先週は想定通り当面の「底打ち」的な展開が示現(上図ご参照)

    =>>>異常に長い下ヒゲを持つ先週の足型は「下落圧力の疲弊」を象徴

    =>>>過去15ヶ月では1度も達していない「21週MA▲7.41%」を大幅に下抜け後、急反発に転換

    前4週の急落によって確認された「下落トレンド」が“終息・反転したとのエビデンス”は未確認

    =>>>ストキャスティクスは反転可能な水準まで低下も上昇サイン(3段目の図中赤〇)は未点灯

    =>>>相対力指数(RSI)が(一般的に)売られ過ぎを示す「30を未だに下回っていない」

    << ⇔ >>ただし、過去5年超にわたりRSIは「35台では反発/上昇」(後掲週足チャートで説明)

    <今週のテクニカル分析の結論>は以下の通りです。

    ●前4週の急落は「短期時間軸からの下落圧力の急速な高まりが中長期に波及」を示唆

    >>>「下値模索中心で上値の重い“下落トレンド”へ移行」した可能性が高まっていた

    一方、下落進展速度が急激であったがゆえに、想定通り自律的な「急反発」も見られた

    >>>(過去との相対比較では水準的に充分下落)「当面の“底打ち”が示現」の可能性高い

    >>>(今般の)「下落圧力の疲弊」と「根強い押し目買い圧力の存続」を確認

    上記より「中期的下落トレンドの終息 ⇒ 中長期上昇トレンドへの回帰」の可能性も僅かに台頭

    <⇔>ただし、7/29~8/5の暴落のダメージ払拭には相応の時間を要するものと考えられる

    これらの要因を総合的に考慮し、今週は下落トレンド(?)において「戻りのメドの模索」が先行する展開を想定します。ただし、引き続き「過度に予断を持つことなく」変化の兆しを見落とさぬ姿勢を継続した上で、以下の水準以上を終値で突破できるか 及び 維持できるかどうかに注目しています。

    <週足:21週MAから ① ▲4.32%の水準=148.20円、②▲7.41%の水準=143.40円

    >>> ここ数週の反動から、今週以降は「市場変動率が徐々に落ち着きを取り戻す」と想定

    ~以下では『短期・中期・長期の方向性』についての分析ポイント及び各時間軸での想定レンジをご案内します。(今号の分析は既述部分を含めて2024/08/09のNY市場終値をベースに実施) ~

    以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数

    ➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド、52MA & 200MA」、RSI等  

    短期(1週間~1か月)の方向性:暴落から自律調整的に急反発も上昇トレンド回帰までは確認できず

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    上は直近6ヶ月間の日足チャート。ここ4週間(特に➊「前週後半から先週初」)の下落速度がいかに“異例”であったかを示唆

    1)8/5までの4週間で20円超の急落(➊の期間だけで約12円の暴落)

    2)➊の期間には、➋終値ベースでは極めて稀な「21週MA▲4.32%未満」を記録。異常とも言える“下落の過熱(=売られ過ぎ)”が際立つ状況を観測

    3)「8/5にはRSIが終値で15.0を割れる」などオシレータ系指標には更なる下落余地が枯渇

    >>>「RSI20割れ」は過去4年間未経験の水準 < 2)3)については後掲の2チャートご参照>

    以下2つは直近1年間と4年間の日足チャート。ここ4週間(特に➊「前週後半から先週初」)の下落速度がいかに“異例”であったかを補足するデータ

    既述2) について:➋の状態は「過去1年間で未経験」であるだけでなく「過去4年に遡っても今回を含めて出来したのは僅か2回」だけの極めて稀な“下落の過熱(売られ過ぎ)”が際立った事象

    >>>過去4年間は「殆ど上昇トレンド(上値の模索)が中心だった」ことが改めて判る

    既述3) について:「RSI20割れ」はもとより「RSI30割れ」を検証してみても「過去4年に遡っても今回を含めて出来したのは僅か2回」しか具現化していない『極めて稀な“下落の過熱(売られ過ぎ)”が際立った事象』

     >>>この状況下、想定通りの底打ち/自律的急反発が見られるも、依然として「RSI30超を回復できていない」点が上昇トレンド回帰に向けての懸念要因

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    ◎既述の要因から、下値模索の展開が過度に進行したことによって(想定した)「売られ過ぎの修正=急反発」局面に移行し、少なくとも当面の底打ちを確認

    ⇒>>>今次暴落局面の収束/反発局面入りは明白なるも「上昇トレンドへの回帰」の確認までには到らず

    ⇒>>>それでも、先週末にかけて下値の切上りが継続しており、当面は「戻りのメドの模索」が先行する展開を想定

    >>> 想定レンジ=今週:145.05~149.55 、今後1ヶ月:143.55~151.20 =

    ➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSI等 

    中期(1か月~半年程度)の方向性:当面の底打ち/反発は確認も上昇トレンド回帰は依然不透明

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    上の2チャートは過去2.5年と同5年間の推移(冒頭チャートの期間拡張版)

    ◆7/30~8/5に約12円もの暴落を経たこと・52週MAを大きく下回ったことにより、水準的には➊に匹敵する下落を示現。冒頭の“異例の売られ過ぎ”から「当面の底打ち」は確認されたものの、一気に「上昇トレンドへの回帰」まで展望できる状況にはまだ到っていないと思われる

    □一方、過去5年の相対比較ではRSIはボトムアウトのメドとなる35台まで低下してきており、仮に上値模索が先行するようなら、今週はストキャスティクスの上昇サイン点灯と共に上昇トレンドへの回帰の可能性が高まる局面も見られよう

    ■ただし、「7/30~8/5:約12円もの暴落」が市場に与えたダメージは甚大であり簡単には収束しない可能性は依然残る。現在はようやく6週を経過したばかりであり、ダメージの払拭までには相応の時間を要すということなのかもしれない

    ■また、反発が加速し首尾よく52週MAを突破できたとしても、➋に見られるように21週MAが上値抵抗線として機能する可能性もある。相場が依然として中期下落トレンドにあるとすれば「上値の重い」展開を何度か経なければ「上昇トレンドへの回帰」は覚束ないということか

    ◎<週足:21週MAから ① ▲4.32%の水準=148.20円近辺、②▲7.41%の水準=143.40円近辺

    ⇒「①の水準を終値で突破できるか」及び「②以上の水準を終値で維持できるか」に注目しています。

    >>> 今後6か月間の想定レンジ 137.25~153.15 ⇒ 139.65~155.10 =

    <スペース>

    ➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記  

    長期(半年超~1年程度)の方向性:短期の下落圧力が明確に波及しトレンドは下落へ反転の模様

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    ■38年ぶりの高値を示現した上で60MA+30%に再接近した反動が露わとなり、7月は6月の陽線を包み込むような長大陰線となった。短期時間軸で示現した「ピークアウト(⇒反落)」が長期にも波及した格好であり、8月も下落の勢いは加速して先週20ヶ月MA(145.90円)を一時下抜けた

    ◇とりあえず8月は上値の重い展開に引き続き警戒しつつ、(上記の)145.90円以上の水準を終値ベースで維持できるかどうかに注目している

    >>> 今後1年間の想定レンジ = 137.25~158.10 ⇒ 139.65~160.50 =

    <ファンダメンタルズ分析判断>

    □先週の日米金融市場の変化(下表右端)

    ◇米国:予想比良好な経済指標に前週の米景気後退懸念が緩和⇒金利は反発⇒株式は急落後回復

    ◇日本:日銀副総裁が前週のタカ派姿勢を抑制する発言⇒金利は急低下⇒株式は暴落後回復基調

    ◇USD円:前週の米景気後退懸念が緩和に向かい金利は反発⇒USD円は暴落後回復し前週比横バイ

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    ◇米債利回り:前週の米景気後退懸念が緩和し、長短共に上昇

    > 2年債利回り:8/2  3.874% ⇒ 8/9  4.057%(前週比+0.183%上昇

    >10年債利回り:8/2  3.801% ⇒ 8/9  3.940%(前週比+0.139%上昇

    =>10年-2年の逆イールドは「▲0.117%と前週(▲0.073%)比小幅に拡大(下図)

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    <<< 最後に、株式相場・USD円相場に対する現状認識を改めて以下に纏めます。

    ●直近の展開から「一方的な“株高や円安(USD高)”相場は中期的に終息した」ものと思料。

     一方で、直近の下落ペースもまた明らかに「極端な過熱を呈している」と思われ、この「極端な下落の過熱」はテクニカルな観点では(少なくとも短期的な)『自律調整的反発は不可避』の状態に到っています。

    ◇したがって、相応の値幅を伴う反発のタイミングは急接近していると考えられます。

     しかしながら、もちろんこの短期的な反発を持って、現在本格化している下落トレンドから「株高やUSD高円安トレンドへ復帰」とは言い切れません。

    「一定の反発(戻り)」が示現した後は、少なくとも現在の下落トレンドの特徴である「上値が重い展開」がしばらく続く可能性が高いのではないかと考えています。 >>>

    週初、日本株・USD円の暴落からスタートした先週のweekly reportは、以上の締め括りとしました。日本株の下げ幅は我々の想定を大幅に超えていましたが、『暴落=極端な下落の過熱 ⇒底打ち ⇒反発』と展開としては概ね想定通りとなりました。そして、今週はまだ<上記の「一定の反発(戻り)」を模索するステージにある>と考えています。

    この想定は、大半が前半のテクニカル分析から導かれています。一方、ファンダメンタルズに目を向けると、ここ数か月指摘しているように「(経済指標や主要イベントの)データ次第」で景気や金融市場動向に対する認識や想定が変化してくるため『過度に予断を持つことなく、冷静な分析を心掛けることが肝要』だとの考え方に変化はありません。

    その点では、今週は「8/13に日本7月企業物価指数や米7月生産者物価指数(PPI)」、「8/14に米7月消費者物価指数(CPI)」「8/15に日本Q2実質GDP成長率・速報値、米7月小売売上高と米7月輸入物価指数、米7月鉱工業生産、「8/16に米8月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値」などの重要な経済指標の発表が予定されています。

    特に注目されるのは、米7月消費者物価指数(CPI)と米7月小売売上高だと考えています。足元では、引き続き年内3回の利下げ期待が根強いだけに、これらが強含めば2週前まで極端に強まっていた利下げ期待の巻き戻し/修正が入りやすいと思われます。特に米7月小売売上高は、シカゴ連銀の予測によれば市場予想と前月を上回る見通しとなっているようですし、アトランタ連銀のGDPナウは8/8時点で、米第3四半期実質GDP成長率につき前期比年率2.9%増と、前期の2.8%増超えを予想するだけに、米景気後退懸念の緩和によるUSD円の買い戻しも想定されるところです。

    ただし、これを前提に今週の予想を組み立てるわけではありません(笑)。繰り返しになりますが、ここ数か月指摘してきたように(テクニカル/ファンダメンタルズの両面において)「過度に予断を持つことなく、冷静な分析を心掛けること」がこれからもますます重要になってくるからです。

    さて、今週は読者のお一人から頂戴した以下のご質問にお答えして、締めたいと思います。『7/30~8/5に起こったような“日本株やUSD円の暴落”の主因は何だったのか?それに対して今後も強く警戒を続けるべきか?』 ザックリこんな内容でした。

    7月最終週から2週間が経過し、世界の金融市場が大混乱に陥った要因の解説が多数見られましたが、そんな中、我々の分析で「主因」としたのが『円キャリートレードの巻き戻し』です。

    今年に入り、2国間の金利差によって収益を狙う本来のキャリー取引だけでなく、「円で資金調達し、高い成長が期待される株式などに投資する広義の円キャリー取引が大規模に行われていた」ことがデータによって明らかになっています。そして「そのポジション(持ち高)の巻き戻しが急激なUSD安円高と株安につながった」との論評が市場参加者のコンセンサスになりつつあるようです。

    確かに『AI関連株の下落と円相場の反転が7月10日前後を起点に同時進行している』ため、説得力があります。また『引き金は7/11・12の本邦通貨当局による市場介入』であり、そして『月末の日銀による想定外の追加利上げで巻き戻しが一気に加速した』と指摘されています。

    一方、シカゴ先物市場の非商業部門のネット円売り建玉を見ると、7/9時点の約19万枚から8/6には1.2万枚と約94%も縮小していました。仮に、これが円キャリー取引の大宗を反映しているとすれば、巻き戻しは明らかに一巡したことになるでしょう。もちろん、円キャリー取引の動静には引き続き注視する必要はありますが、7/30~8/5に見られた「(劇的ともいえる)大混乱局面は少なくとも一旦は峠を越した」と考えられます。

    そして、金融市場参加者の注目の焦点は『米国景気の行方』に移ってゆくでしょう。当面、各金融市場は発表される米経済指標に一喜一憂し、(さすがにここ数週よりは低下するものの)高水準の市場変動率が維持される展開が予想されます。

    <<ここ数か月指摘しているように「(経済指標や主要イベントの)データ次第」で景気や金融市場動向に対する認識や想定が変化してくるため『過度に予断を持つことなく、冷静な分析を心掛けることが肝要』だとの考え方に変化はありません。>> 

    やはり、今週もこの結論に収斂することになってしまいました。

    お知らせ:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに短期を中心としたUSD円相場見通しについては、ジーフィット為替アンバサダーでもある安田佐和子氏のレポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。TRADOM会員の方々はサイト内で是非ご参照下さい。

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