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  • Weekly Report(6/3):「ドル円の命運を分ける米5月雇用統計、9月米利下げ観測期待を支えるか否か」
    安田 佐和子
    この記事の著者
    トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

    世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

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    ―Executive Summary―

    • ドル円の変動幅は5月27日週に1.34円と、その前の週の1.70円から縮小した。週間ベースでは、小幅続伸。5月27日と29日、内田総裁と安達審議委員がタカ派的な見解を示したものの、反応は限定的だった。むしろ、5月29日のNY時間には、米7年債入札が低調に終わったことから米金利が上昇した流れを受け、一時157.71円と5月1日以来の高値をつけた。30日には、米Q1実質GDP成長率・改定値やコアPCE価格指数の下方修正を受け、逆に一時156.37円と週の安値へ下落。翌31日は、日銀が国債買いオペを減額せず再びドル円は上昇。米4月PCE価格指数が加速せず下落する場面もあったが、157円台へ切り返して週を終えた。
    • 米Q1実質GDP成長率・改定値の下方修正や、米4月個人消費支出と個人所得の伸び鈍化は、米経済の約7割を担う個人消費の息切れを感じさせる。また、米4月コアPCE価格指数(食品とエネルギーを除く)やスーパーコア(住宅を除くコアサービス)も前月比で伸び率が鈍化し、FF先物市場では年1回利下げ予想が引き続き優勢ながら、9月利下げ観測が再燃しつつある。
    • 今週は、6月3日に米5月ISM製造業景況指数月消費者信頼感指数、4日に米4月雇用動態調査(JOLTS、求人件数含む)、5日に中国5月財新サービス業PMI、米5月ADP全国雇用者数、米5月ISM非製造業景況指数、6日に欧州中央銀行(ECB)理事会、7日に米5月雇用統計を控える。
    • 特に米5月雇用統計は、今後の米利下げ予想に影響を与えるだけに注目。米新規失業保険申請件数、4月までの米ISM製造業・非製造業景況指数に含まれる雇用、さらにオンライン求人広告が提供するリアルタイム求人広告指数は弱含んでおり、これらは米5月雇用統計が4月と同じく減速する兆しをみせる。
    • 日銀は、5月31日の国債買いオペの金額、さらに6月分の金額と実施回数を据え置いた。ただ、日銀の内田副総裁のタカ派発言を踏まえれば、6月の国債買い入れ減額の地均しを行ったと捉えられ、油断は禁物だ。なお、内田副総裁は2月に金融緩和の修正に言及した後、日銀が3月会合でマイナス金利の解除に踏み切ったことが思い出される。
    • テクニカル的に、ドル円は強い地合いを維持する。一方で、ドル円の158円は介入があったとされる5月1日(日本時間では5月2日)の高値が意識され、上値は重くなりそうだ。また、RSIが割高水準の70に接近した局面で上げ渋りとなっていた。
    • 以上を踏まえ、今週の上値は158.50円、下値は50日移動平均線がある154.60円と見込む。

    1.為替相場の振り返り=ドル円は日銀タカ派発言に反応せず、5月1日以来の高値をつける

    【5月27日~31日のドル円レンジ:156.37~157.71円】

    (前週の総括)

    ドル円の変動幅は5月27 日週に1.34円と、その前の週の1.70円から縮小した。週間ベースでは、小幅続伸。ドル円は5月27日、内田総裁が講演で「デフレとゼロ金利制約との闘いの終焉は視野に入った」、「今回こそはこれまでと違う」とタカ派的な見解を示したものの、反応は限定的だった。28日には、日銀が公表する基調的インフレ率を補足するための3指標がそろって2022年8月以来の2%割れとなったほか、米5月消費者信頼感指数が市場予想を上回ったため、157円台での定着を試す展開。29日には、ハト派とされる日銀の安達審議委員が「拙速な利上げは避けなければならない」と述べつつ、「過度な円安の状況が長期化し物価安定の目標の実現に影響を与えると予想される場合には、金融政策による対応も選択肢の1つになる」と発言、追加利上げに前向きな姿勢を残したが、ドル円は反応薄だった。むしろ、NY時間には、米入札が低調に終わったことから米金利が上昇した流れを受け、一時157.71円と5月1日以来の高値をつけた。 

    30日には、米Q1実質GDP成長率・改定値やコアPCE価格指数の下方修正を受け、逆に一時156.37円と週の安値を付けた。31日は日銀が国債買いオペを減額せず、6月の国債買い入れ予定も回数と金額を据え置き、且つ4月25日から5月29日までの介入規模が9兆7,885億円だったことが判明するなか、一時157.30円台へ上昇。米4月PCE価格指数が市場予想通りで加速せず、個人消費支出が市場予想以下で、米5月シカゴ購買部協会景気指数が2020年4月以来の下振れを迎えると、一旦は156.60円台まで下落した。もっとも、ダウ平均が引けにかけ買い戻されるタイミングでドル円も押し上げられ、157前半へ切り返し週を終えた。

    チャート:ドル円の4月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)

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    (出所:TradingView)

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