目次Executive Summary1.先週の為替相場の振り返り=ドル円は金融不安が広がり2.主な要人発言3. 主な経済指標結果4. 今週 […]
<テクニカル分析判断>
●短期:想定以上の「急反落」が示現。上昇の過熱は完全に解消し上昇再開が徐々に進展へ
●中期:前週の急反落により過熱状態が大きく緩和。21MAの上昇と共に上昇トレンドも再開へ
4/29週は「寄付157.86:151.86~160.23:終値152.88(前週比▲5.31円の大幅な円高)」となり、週足では5週ぶりの長大陰線を形成。4/29と5/1には「共に一日で約6円の変動幅と大陰線を記録」するなど乱高下したため、先週の週間レンジは8.37円と2022年11/7週(9.10円)以来の変動率を記録した。
これは、先週も指摘の通り<日足ではRSIが一時90を超え2022年10月を上回る「異常な買われ過ぎ状態」を呈するなど上昇の過熱が際立ったため、その速度だけでなく“反落”も含めた「自律調整」の顕現化は不可避。また、当面は上下に大きく振幅(変動率が急上昇)する可能性が高い>という想定に沿ったものであった。しかしながら、2022年秋にも見られた本邦通貨当局による(覆面)市場介入が実施されたことも手伝い、(実際の調整下落幅は既述の通りとなり)我々の予想<週間想定レンジ:155.10~160.35>を大幅に上回る急落となった。
ただし、この急落に伴って今週のテクニカル分析の結論<短期を中心に“上昇の過熱”は大幅に緩和/解消。上昇トレンド再開に向けた環境は整いつつある>は、以下の要因から相当その蓋然性が高まっていると思われる。
- 重要なサポートライン(151円台後半:かつての上値抵抗帯が下値支持帯に転化)を全時間軸の終値で下回っておらず「中長期上昇トレンド」は崩れていないこと
- 中期(21MA:約0.5円)・長期(20MA:約1.0円)を中心に今後上昇の加速が想定されること
>>> これらMAと市場レートの乖離が縮小し「過熱⇒中立」の状態に収束してゆこう
なお、(市場介入の有無にもよるが)過去2週間で急激に高まった市場変動率は、徐々に落ち着きを取り戻してゆくものと想定している。
以下ではいつも通り『短期・中期・長期の方向性』について各時間軸チャートによるテクニカルな視点を中心にご案内。(今号の分析は2024/05/03のNY市場終値をベースに実施)
<以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数>
➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド」、「52MA & 200MA」、RSIを付記
短期(1週間~1か月弱)の方向性:大幅な調整は終了。今週の反発が上昇トレンド再開に繋がるか
□前週指摘した「調整不可避の過熱」はほぼ解消。今週は反発蓋然性が極めて高い(上図参照)
◇ただし、ここ2週間で急激に高まった変動率は沈静化に向かうと思われ、折に触れて図中の保合いなどを交えつつ、今後上昇ペースが鈍るとみられる21MAの傾きに沿った上昇へ移行か
>>> 想定レンジ=今週:151.80~156.30 、今後1ヶ月:151.05~160.35 =
➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSIを付記
中期(1か月~半年程度)の方向性:過熱が大幅に緩和進展中。徐々に上昇トレンド本格化の再開へ
□想定を大幅に上回る下落調整が示現も、同時に上昇の過熱の緩和/解消も進展。今後の21MAの上昇加速と相まって、今後の上昇余地も拡大して行く見込み
◇今後も「(秩序ある)長期的USD高円安トレンド(目標値=165円超)」の本格化を見据えた上昇経路の模索が見込まれる>>> 今後6か月間の想定レンジ = 151.50~165.00 ⇒ 151.05~163.50 =
➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記
長期(半年超~1年程度)の方向性:20MAの顕著な上昇に支えられ長期上昇トレンドが徐々に本格化
◇<2021年以降は「3連続陽線の後には例外なく陰線が出来」しており今回もそのパターンが見られる可能性>があったが、想定通り「4月も陽線」が顕現化
>>>4カ月連続の陽線は2014年7-12月の6ヶ月連続以来(上図➊を含む部分)
>>>「(数年単位の)超長期上昇トレンドが本格化」してゆく可能性高まる>>> 今後1年間の想定レンジ = 151.50~168.00 ⇒ 151.05~165.60 =
<ファンダメンタルズ分析判断>
□先週の日米金融市場は「日米共に株価続伸・米金利低下・USD円一時160円台」(下表右端)
◆米国:「利下げ観測再燃で金利は大幅に低下」⇒「大型成長株主導で株式市場は2週続伸」
◇日本:「市場金利はほぼ横ばい」も米国株の2週続伸を受け「本邦株価も続伸」
◇日銀の追加利上げ見送りに甚大な日米実質金利差は縮小せず「USD円は34年ぶりに一時160円台」
【米国】週間の変化
■経済指標:主要な経済指標は事前予想比「圧倒的に軟弱」の評価
◆米4月シカゴ購買部協会景気指数: 結果 97(市場予想 104)
◆米4月コンファレンスボード消費者信頼感指数: 結果 37.9(市場予想 45.0)
◆米4月ISM製造業景況指数: 結果 49.2(市場予想 50.1)
◆米4月非農業部門雇用者数: 結果 +17.5万人(市場予想 +24.0万人)
◆米4月失業率: 結果 3.9%(市場予想 3.8%)も、27ヶ月連続の4.0%割れ
◆米4月平均時給: 結果 +0.2%(市場予想 +0.3%)
>>>これら軟弱な経済指標に加え、総じてハト派的と受け止められたFOMCの結果(下掲)を受けて米国債利回りは週を通じて大きく低下
>>>「FRBが利下げを急ぐ必要はない」との前週まで拡大していた認識が大きく巻き戻されることに
>>>実際、FF金利先物市場では「年内に0.25%の利下げが1~2回行われる」、「9月か11月の利下げ開始の可能性が高い」とみられている
<<⇔>>直近の数週間は、インフレ率の高止まりから「利下げは1回だけ」との見方が優勢となっていた
■FOMCの結果:以下はサマリー
◎政策金利 : 6会合連続で据え置き。 利下げ開始時期は遠のくも「再利上げ観測」は否定
>>全会一致で政策金利の据え置きを決定。 声明文では『インフレ率が持続的に2%目標に向かって低下していくとの確信が高まらない限り、利下げは適切ではないと考える』との文言を据え置き。
>>パウエル議長の記者会見では、これまで冒頭で述べられていた「年内どこかで利下げが適切」の言葉はなく、利下げ時期後ずれの可能性を示唆。
>>一方で、現在の政策は引き締め的であり「次の一手が利上げの可能性は低い」と発言。昨今FRBのタカ派メンバーや市場参加者に拡がりつつあった「再利上げ観測」を明確に否定。
◎インフレに対する評価 : インフレ減速の確信得るためには「より長い時間が必要」
>>声明文には『ここ数か月、インフレ率が2%へ低下するとの確信は高まらず』との文言を追加
>>パウエル議長は記者会見で「足元のインフレ指標は想定を上振れた」、「インフレ減速への確信を得るには想定以上に時間がかかる」と慎重な見方を示唆。
◎資産圧縮(QT): 6月から国債の圧縮ペースは半分以下に減速
>>6月1日からの資産圧縮ペースの減速が決定。 国債(の売却)は最大▲250億ドル/月となり、現行の最大▲600億ドル/月のペースから半分以下と大幅に減速。
>>MBSの圧縮ペースは最大▲350億ドル/月で据え置きとなるも、6月からは「償還額が現行のペースを超える場合には、MBSではなく国債で再投資する」との変更を追加。
◇債券利回り:「年内複数回の利下げ実施」観測が復活、長短金利は大幅に低下
> 2年債利回り:4/26 4.998% ⇒ 5/3 4.827%(前週比▲0.171%低下)
>10年債利回り:4/26 4.671% ⇒ 5/3 4.512%(前週比▲0.159%低下)
=>10年-2年の逆イールドは「▲0.315%へ前週比でやや縮小」(下図)
◎株式市場:米4月雇用統計で非農業部門雇用者数の伸びが予想を下回り、FRBによる利下げ観測が再び強まった。過去最大規模の自社株買いを発表したアップルの株価上昇が支援となり、ハイテク株比率の高いナスダックが主導する格好で「週間では主要3株価指数全てが2週連続の上昇」
◎USD指数:前週の流れを引き継ぎ対円では一時34年ぶりの160円台へ上昇。しかし、直後に本邦通貨当局による大規模な市場介入が実施され、一転急落。週末には一時152.00を割れる局面もあった
●介入もさることながら、既述の通り米金利が低下したことでUSD指数自体が軟調となったことで、USD円の下落にも弾みがついたと考えられる
【日本】週間の変化
◇債券利回り:大きく動いたのは為替のみ。長短共に金利はほぼ横ばい
> 2年債利回り:4/26 0.291% ⇒ 5/2 0.289%(前週比▲0.002%低下)
>10年債利回り:4/26 0.893% ⇒ 5/2 0.900%(前週比+0.007%上昇)
◇主要株価指数:米株の2週続伸などを好感し「続伸」
>TOPIX:前週末比 +1.6%高
>日経平均株価:前週末比 +0.8%高
4/29週のレヴューとして、週間で8円超のレンジをもたらす主因となった「本邦通貨当局の市場介入」に触れないわけにはいきません。(数名の友人からも「今号で取り上げて欲しい」との要望あり)ただ、この話題に関連するここ数年の「円安の要因(≒円の弱点)やそれに対する根本的な処方箋」などについては、これまでも当レポートのこの欄で過去何度かご案内(Weekly Report:4/1,4/8分など) しています。よって、この点の詳細説明は割愛させて頂きますが、今号では4/29(昭和の日)の介入を目の当たりにして強く感じたことをご案内します。
<2022年秋との類似点>
◎「日銀政策決定会合」直後の円急落とそれへの対抗措置
前週4/26の日銀政策決定会合では、事前観測が高まっていた「国債の買い入れ額変更(減額)」が見送られました。更に、植田総裁の記者会見においても「円安をけん制する発言」がほとんど無かったことから、円売りに弾みがつき(休場だった日本の)4/29午前の外為市場では“1990年4月以来”となる160円台前半を記録しました。正に、本邦通貨当局の市場介入がその直後に行われた模様であり、USD円はあっという間に155円台に急落。その後も「戻り売り」での継続的な介入が実施され、この日は一時154円台半ばまで下落しました。翌4/30はさすがに実需を中心とした「押し目買い」が入り158円近くまで戻しましたが、5月入りとなった5/1には「押下げ」の姿勢を全面に出した介入によって一時153円まで下落しました。週末にかけては、既述のFOMCや事前予想比弱目となった米4月雇用統計の結果を受けて「年内複数回の利下げ」に対する思惑が再び出来し、日足の21MAを終値で下回るなどトレンド転換の兆しが見えてきたと言えなくもありません。ただし、上昇トレンドの根幹に著変はないと考えています(テクニカル分析をご参照)。
>>>タイトルに示した通り、「日銀政策決定会合」直後に市場介入が実施されるのは前回2022年9月と全く同じパターンとなりました。当時も「将来の利上げ(=金融正常化)」に向けた地ならしのために「フォワードガイダンスから緩和バイアスを削除する」等、日銀が円安への対抗措置を取るとの事前観測があったと記憶しています。しかし、今回と同様に2022年9月の決定会合では「現状維持」となり、この「日銀の円安対応策としてはゼロ回答」が呼び水となって円安が進行。通貨当局は同日に24年ぶりとなるUSD売り/円買い介入に踏み切りました。
>>>その後も10月に2回(合計3回:総額約9兆円規模とされる)の市場介入が実施されましたが、この時はまだ円が反騰に向かう決め手とはなりませんでした。これも繰り返し指摘してきましたが、この後3ヶ月で24.7円ものUSD円の急反落の主因となったのは「本邦通貨当局の介入」ではなく「米FRBの金融政策スタンスの(ハト派への)変化」でした。
>>>同年11/2のFOMC声明文では(かつてないハイペースで推進されていた)「これまでの金融引き締めの累積効果とタイムラグを考慮する」との文言が新たに加えられました。これによって、市場に「今後の利上げ幅は縮小される」との認識が広がったため「米長期金利が明確に低下」して「USD安円高トレンド」に転じたのです。>>>そして、繰り返し指摘しているように「今回もUSD高/円安基調に歯止めをかけ、更には反転させるほどのインパクトを持つのは『FRBの政策スタンス』となる」でしょう。
さて、それではここで先週のメインイベントであったFOMCの内容にもう一度注目してみます。
<<<日米の金融市場が最終的に落ち着きを取り戻すためには、米長期金利のピークアウトが焦点となることに疑問の余地はありません。更には、当然ながら『FRBによる利下げ期待が復活すること』が前提となります。
USD強気派の一部には「最近の労働市場の強さやインフレ指標の粘着さを踏まえれば、パウエルFRB議長の発言は極めてタカ派的となる」、「状況次第ではNY連銀のウィリアムズ総裁やアトランタ連銀のボスティック総裁と同様に『追加利上げの可能性』に言及も」との意見もあるとのこと。
ただ、先週の当欄でもご案内した通り「(開始時期は後ズレしても)今のところFRBの次の一手は“利下げ”」で揺るがないと考えていますし『早期利下げ期待の修正』は相当程度進んだと分析しています。(以上、Weekly Report:4/22分より抜粋)>>>
「今回のFOMCはハト派的だった」との評価が圧倒的だったことに加え、週末の雇用統計を含む経済指標が総じて弱めだったことで「利下げ観測再燃 ⇒ 市場金利は大きく低下」したものの、FOMC(FRB)の「政策スタンスは本当にハト派的に変わった」と言えるのでしょうか?
2024年に入って以降、米国のインフレ指標は上振れが続いています。最も一般的な前年比で見ると確かに「ピークアウト⇒鈍化」の推移を辿っていますが、時間軸を「3か月前比や6か月前比」のペースで見てみると今年に入ってからは明らかに再加速の推移となっています。市場でも、つい先週まで利下げ時期後ずれ観測が強まっており(上述の通り)「利上げ再開」のリスクも意識されていたほどです。
確かに今回のFOMCで、パウエル議長が「利上げの可能性は低い」と明確に発言(否定)したことで、市場はひとまず安堵したとみられます。ただし、今回の会合では、利下げ時期が後ずれし高水準の政策金利がより長期間維持される(昨夏頻繁に議論の俎上にのぼった“High For Longer”)可能性も示唆されていました。
インフレ見通しは前回3月の会合から悪化しており、パウエル議長は「インフレ減速への確信を得るには想定よりも時間がかかる」と発言。 記者会見冒頭では、前回まで述べられていた「年内どこかで利下げ」のくだりは除外されました。
パウエル議長は「現在の政策は引き締め的」と評価。 景気は充分に堅調で利下げを急ぐ必要がない中、FRBの現在の焦点はどれだけ長く引き締め的な政策を維持するかであると発言しました。
他方、パウエル議長は「政策が引き締め的でないと判断される場合は、追加利上げが必要になる」とも発言しています。
このように、記者会見を通してパウエル議長は再利上げの懸念を否定する姿勢を示しましたが、仮にインフレ指標の上振れが続く場合は、FOMC内で再利上げが必要との意見が強まる可能性も念頭に置く必要があるでしょう。
まさに『今後のデータ次第』。振れ続ける利下げ織り込み度合いに過度に迎合せず、パウエル議長が予想する通り「引き締め的な金融政策がインフレ鈍化につながるかどうか」を見極めるため、引き続き物価関連指標の点検を入念に続ける必要があると思います。
最後になりましたが、USD円についていえば「日米の実質金利差が最大の決定要因であり、USD指数に沿ってトレンドは決まる」との認識に全く変化はありません。従って、今後も市場介入(円買い)があったとしても、USD指数が下落トレンドに変わらない限り円安トレンドの反転は望めないでしょう。
当然のことですが、USD指数が反落に転じるとすれば、上述の米金利低下がより顕現化し始めてからということになると考えています。
お知らせ:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに短期を中心とした見通しについては、ジーフィット為替アンバサダーでもある安田佐和子氏のレポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。TRADOM会員の方々はサイト内で是非ご参照下さい。
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